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第六十五話 ネコマタ
アドゥンタリ神は召喚の状況がよほど気に行ったのか、気前よく質問に応じると言ってくれた。
大抵、こういった気性の激しい神は捧げ物を求めるものだが、無償で質問に答えてくれるのだという。これは師匠の召喚法が良かったためと思われるが、同時に媒体の一つとなったリリアンとヴァイオレットの霊的価値の高さもあってのことだろう。
俺は感心しながら事の成り行きを見守るのだった。
「恐れ多くもアドゥンタリ様にお伺い申し上げます。
現在、魔王様配下の軍勢は、今勇者様がかつておられた異界の禁呪『蟲毒』の法を用いて強化されております。
私どもはそれについて知りたく思います。
すなわち、魔王様はいつ、どうやって蟲毒の法を知ったのか。よろしくお聞かせくださいませ。」
師匠は恭しく頭を下げて尋ねた。
「ウルティア。お前は我が弟と戦って両目を失った。
それ故に心の目も失ったのか? 魔術のことが知りたいのならば尋ねるべきは私と共に地下世界に住む魔術の神カムルセパではないか?」
「恐れ入りますが仮にカムルセパ様が他の神々への配慮から、その回答を拒否なされました場合、我らには確かめようがないことでございます。
しかしアドゥンタリ様ならば、直接お答えいただけなくても、それを知る手立てを教えてくださることに何の支障もござりません。ですから占いの神アドゥンタリ様にお願い奉りたいと、かように思った次第でございます。」
う、うまいっ!
俺は唸った。つまり師匠は神々同士の政治的トラブルを考えて、多くの神が揉め事を嫌って真実を話さない場合がある可能性を知っていて占いの神アドゥンタリ神を召喚したのだ。
占いの神ならば直接その回答をしなくても、回答を得るための占いの秘術を授けることに支障はない。何故ならアドゥンタリ神が教えた占いで人間が真実を知ったとしても「教えた占いで何を調べようと私の預かり知るところではない。」と答えればいいだけなのだから・・・・。
師匠の思惑を察したアドゥンタリ神は「ふふ・・・・悪い男。」と口元を緩めると両手を広げて快諾した。
「よろしい。お前の願い聞き届けてやろう。
確かにそれが私にとっても都合が良い解決策であるしな。」
アドゥンタリ神はそう言うと一本の真鍮製の筒と拳くらいの大きさの水晶玉を師匠に手渡した。
「私が去ってから、この筒の中の水薬を飲んで「トゥベリコス ハッティ アマゴロス」と三遍唱えなさい。
そうすればこの世に異界の呪法をもたらせた者の姿を知ることが出来るでしょう。その者はお前が予想する通りとある神が魔王のために教えた召喚呪法によりこの世界に来たもの。ただし、その呪法は今勇者と同じ一度きりの物。故にどの神がもたらせたかは問題ではありません。
だからお前たちはそれについて知る必要はない。まぁ、私と同じ地下世界の神だという事は教えておいてあげよう。」
アドゥンタリ神はヒントを一つ与えると、師匠はハッとしたように顔を上げた。アドゥンタリ神は「察しの良い男。ですが、それは他人に言ってはいけませんよ。」と念を押す。
それから俺の方を見て忠告した。
「その者はお前とお前の伴侶がこの世に遣わされたことによって、この世界に連れ来られた。
お前にはわかるまいが過去と未来は繋がっている。霊的バランスを取るためには反対の時間軸からも欠損させねばならない。それがこの呪法。
レルワニの言う通りにしておけばいいものを初代召喚者ティーティスが16500年近くの時をかけて付与した小賢しい秘術の代償だ。お前に罪はないが、お前に罪がある。
とばっちりの上にとんでもない矛盾だが・・・・・まぁ、精々あがくがよい。128人目の勇者よ。」
それだけ告げるとパンに宿っていてアドゥンタリ神の神霊は(正確には神霊の一部だが)、雷光を発しながら乳白色の煙と共に地下の世界へと帰っていった。
師匠は、アドゥンタリ神が去ったことを知ると力尽きたようにバタリと倒れ、同時に依り代に使われていたパンの体も力なく椅子に寝そべるように倒れてしまうのだった。
ウィリアムと俺は、呆気に取られてその様子を見ていたが、我に返った後も神の威光に晒された影響かしばらくの間は動き出せずにいた。
それから2時間は失神した者たちの全てが身動き一つできなかったが、やがてどうにか体を起こすことが出来た。
そして口々に神の召喚に成功したことを驚きあって喜びあって泣いた。
ただ、依り代となったパンの体には神霊を宿した影響が残り、尻尾が二股に別れてしまっていた。さらにリリアンとヴァイオレットは体の色素が抜けてしまったかのように髪も瞳も白色になってしまっていた。
「う、うな~~~っ!! ぼ、ぼくの凛々しい尻尾が二股になっちゃったにゃんっ!!
こんなの聞いてないにゃんっ!!」
失神から目覚めたパンは自分の体の異変に気が付くと、あわてに慌てた後、地団太踏んで怒って抗議する。
しかし、それはリリアンとヴァイオレットによって窘められてしまう。
「これほどの大魔術。仕方がありません。
これまでに神霊召喚した者の中には命を失ってしまった者もいるのですから、むしろこの程度の代償で済ませてくださったアドゥンタリ様の深いお慈悲に感謝しなくてはいけませんわ。パン様。」
かなり年下でパンよりも遥かに害を受けている美少女二人にそう言われてしまったら、さすがにパンも何も言えなくなってしまう。
「・・・・・わかったにゃん。我慢するにゃん。」そう言いながらも耳を伏せて不満たらたらの様子だ。俺は笑って励ます。
「まぁ、そんな悪いことでもないぜ。
俺のいた世界じゃ、二股のネコはネコマタって言って強い魔力を有したネコとして恐れられていたんだぜ?」
「お、恐れられてた? にゃんこが?」
それを聞いたパンは「うにゃ~~~んっ!」と声を上げて喜ぶのだった。
その様子にリリアンとヴァイオレットはキャーキャー言って喜ぶ。元気だなぁ。
ただ、師匠の方はかなり魔力を消費したらしく、しばらくの間は体も起こせずベッドに寝た切りで、それでも何か考え込んでいるようで、時折なにかブツブツ口にしておられた。目隠しをされた顔からは何を考えておられるのか読めないが、かなり悩んでおられる様子だった。
やがて深夜になると体力が回復したのか、やおら起き出してリリアンとヴァイオレットに命じてアドゥンタリ神に授かった秘術を試すと言いだし、俺とウィリアムとパンを神殿の祭祀場に呼び出すのだった。
「・・・・・こんな深夜にすみませんが、御存知の通り私達には時間がありません。
遅れれば遅れるほど前線基地の被害が広がります。アドゥンタリ様に授かった秘術で秘密を調べなければいけないのです。」
俺達に異論はない。ただ、師匠の体の負担が気になったが、どうせ止めてもやるだろうから敢えて口にせずただ黙って頷いた。
師匠はリリアンとヴァイオレットの介添えを受けながら祭壇の上に授かった水晶玉を乗せると、水薬の入った筒を呷る。水薬を飲みこんでから授かった呪文「トゥベリコス ハッティ アマゴロス」を言われた通りに三遍唱えるとその場にいる者たちを取り囲むように青い炎の柱が何本も「ゴオォッ」っと大きな音を立てて立ち上がる。
「なぉ~~~ん。」
何が起きているのかわからないパンが怯えて鳴き声を上げたとき、水晶玉に何やら映像が浮かび上がって来た。
その映像はどうやら前線基地を映しているようだ。
「ああっ!! へ、兵士が何人も死んでいるっ!」
俺が悲鳴じみた声を上げると、ウィリアムは俺の肩に手を置き「落ち着け、未だ突破されていない。みんな頑張っている!」と励ましてくれた。
ウィリアムの言う通りだった。城壁は未だ突破されていないようだ。しかし、オースティンや皆の無事を確認する前に映像は映す場所をどんどん魔物の軍勢側に移動していき、やがて魔王軍の本陣らしき場所まで移動した。
そして、一人の武将と一人の人物をクローズアップするように映し出すのだった。
その人物の風貌を見て俺は目をむくのだった。
「立烏帽子、狩衣、馬乗り袴に扇・・・・・最悪だ。
こいつ、陰陽師だっ!! こんな星見のエキスパートが戦場にいたら、前線基地は崩壊しかねないっ!」
大抵、こういった気性の激しい神は捧げ物を求めるものだが、無償で質問に答えてくれるのだという。これは師匠の召喚法が良かったためと思われるが、同時に媒体の一つとなったリリアンとヴァイオレットの霊的価値の高さもあってのことだろう。
俺は感心しながら事の成り行きを見守るのだった。
「恐れ多くもアドゥンタリ様にお伺い申し上げます。
現在、魔王様配下の軍勢は、今勇者様がかつておられた異界の禁呪『蟲毒』の法を用いて強化されております。
私どもはそれについて知りたく思います。
すなわち、魔王様はいつ、どうやって蟲毒の法を知ったのか。よろしくお聞かせくださいませ。」
師匠は恭しく頭を下げて尋ねた。
「ウルティア。お前は我が弟と戦って両目を失った。
それ故に心の目も失ったのか? 魔術のことが知りたいのならば尋ねるべきは私と共に地下世界に住む魔術の神カムルセパではないか?」
「恐れ入りますが仮にカムルセパ様が他の神々への配慮から、その回答を拒否なされました場合、我らには確かめようがないことでございます。
しかしアドゥンタリ様ならば、直接お答えいただけなくても、それを知る手立てを教えてくださることに何の支障もござりません。ですから占いの神アドゥンタリ様にお願い奉りたいと、かように思った次第でございます。」
う、うまいっ!
俺は唸った。つまり師匠は神々同士の政治的トラブルを考えて、多くの神が揉め事を嫌って真実を話さない場合がある可能性を知っていて占いの神アドゥンタリ神を召喚したのだ。
占いの神ならば直接その回答をしなくても、回答を得るための占いの秘術を授けることに支障はない。何故ならアドゥンタリ神が教えた占いで人間が真実を知ったとしても「教えた占いで何を調べようと私の預かり知るところではない。」と答えればいいだけなのだから・・・・。
師匠の思惑を察したアドゥンタリ神は「ふふ・・・・悪い男。」と口元を緩めると両手を広げて快諾した。
「よろしい。お前の願い聞き届けてやろう。
確かにそれが私にとっても都合が良い解決策であるしな。」
アドゥンタリ神はそう言うと一本の真鍮製の筒と拳くらいの大きさの水晶玉を師匠に手渡した。
「私が去ってから、この筒の中の水薬を飲んで「トゥベリコス ハッティ アマゴロス」と三遍唱えなさい。
そうすればこの世に異界の呪法をもたらせた者の姿を知ることが出来るでしょう。その者はお前が予想する通りとある神が魔王のために教えた召喚呪法によりこの世界に来たもの。ただし、その呪法は今勇者と同じ一度きりの物。故にどの神がもたらせたかは問題ではありません。
だからお前たちはそれについて知る必要はない。まぁ、私と同じ地下世界の神だという事は教えておいてあげよう。」
アドゥンタリ神はヒントを一つ与えると、師匠はハッとしたように顔を上げた。アドゥンタリ神は「察しの良い男。ですが、それは他人に言ってはいけませんよ。」と念を押す。
それから俺の方を見て忠告した。
「その者はお前とお前の伴侶がこの世に遣わされたことによって、この世界に連れ来られた。
お前にはわかるまいが過去と未来は繋がっている。霊的バランスを取るためには反対の時間軸からも欠損させねばならない。それがこの呪法。
レルワニの言う通りにしておけばいいものを初代召喚者ティーティスが16500年近くの時をかけて付与した小賢しい秘術の代償だ。お前に罪はないが、お前に罪がある。
とばっちりの上にとんでもない矛盾だが・・・・・まぁ、精々あがくがよい。128人目の勇者よ。」
それだけ告げるとパンに宿っていてアドゥンタリ神の神霊は(正確には神霊の一部だが)、雷光を発しながら乳白色の煙と共に地下の世界へと帰っていった。
師匠は、アドゥンタリ神が去ったことを知ると力尽きたようにバタリと倒れ、同時に依り代に使われていたパンの体も力なく椅子に寝そべるように倒れてしまうのだった。
ウィリアムと俺は、呆気に取られてその様子を見ていたが、我に返った後も神の威光に晒された影響かしばらくの間は動き出せずにいた。
それから2時間は失神した者たちの全てが身動き一つできなかったが、やがてどうにか体を起こすことが出来た。
そして口々に神の召喚に成功したことを驚きあって喜びあって泣いた。
ただ、依り代となったパンの体には神霊を宿した影響が残り、尻尾が二股に別れてしまっていた。さらにリリアンとヴァイオレットは体の色素が抜けてしまったかのように髪も瞳も白色になってしまっていた。
「う、うな~~~っ!! ぼ、ぼくの凛々しい尻尾が二股になっちゃったにゃんっ!!
こんなの聞いてないにゃんっ!!」
失神から目覚めたパンは自分の体の異変に気が付くと、あわてに慌てた後、地団太踏んで怒って抗議する。
しかし、それはリリアンとヴァイオレットによって窘められてしまう。
「これほどの大魔術。仕方がありません。
これまでに神霊召喚した者の中には命を失ってしまった者もいるのですから、むしろこの程度の代償で済ませてくださったアドゥンタリ様の深いお慈悲に感謝しなくてはいけませんわ。パン様。」
かなり年下でパンよりも遥かに害を受けている美少女二人にそう言われてしまったら、さすがにパンも何も言えなくなってしまう。
「・・・・・わかったにゃん。我慢するにゃん。」そう言いながらも耳を伏せて不満たらたらの様子だ。俺は笑って励ます。
「まぁ、そんな悪いことでもないぜ。
俺のいた世界じゃ、二股のネコはネコマタって言って強い魔力を有したネコとして恐れられていたんだぜ?」
「お、恐れられてた? にゃんこが?」
それを聞いたパンは「うにゃ~~~んっ!」と声を上げて喜ぶのだった。
その様子にリリアンとヴァイオレットはキャーキャー言って喜ぶ。元気だなぁ。
ただ、師匠の方はかなり魔力を消費したらしく、しばらくの間は体も起こせずベッドに寝た切りで、それでも何か考え込んでいるようで、時折なにかブツブツ口にしておられた。目隠しをされた顔からは何を考えておられるのか読めないが、かなり悩んでおられる様子だった。
やがて深夜になると体力が回復したのか、やおら起き出してリリアンとヴァイオレットに命じてアドゥンタリ神に授かった秘術を試すと言いだし、俺とウィリアムとパンを神殿の祭祀場に呼び出すのだった。
「・・・・・こんな深夜にすみませんが、御存知の通り私達には時間がありません。
遅れれば遅れるほど前線基地の被害が広がります。アドゥンタリ様に授かった秘術で秘密を調べなければいけないのです。」
俺達に異論はない。ただ、師匠の体の負担が気になったが、どうせ止めてもやるだろうから敢えて口にせずただ黙って頷いた。
師匠はリリアンとヴァイオレットの介添えを受けながら祭壇の上に授かった水晶玉を乗せると、水薬の入った筒を呷る。水薬を飲みこんでから授かった呪文「トゥベリコス ハッティ アマゴロス」を言われた通りに三遍唱えるとその場にいる者たちを取り囲むように青い炎の柱が何本も「ゴオォッ」っと大きな音を立てて立ち上がる。
「なぉ~~~ん。」
何が起きているのかわからないパンが怯えて鳴き声を上げたとき、水晶玉に何やら映像が浮かび上がって来た。
その映像はどうやら前線基地を映しているようだ。
「ああっ!! へ、兵士が何人も死んでいるっ!」
俺が悲鳴じみた声を上げると、ウィリアムは俺の肩に手を置き「落ち着け、未だ突破されていない。みんな頑張っている!」と励ましてくれた。
ウィリアムの言う通りだった。城壁は未だ突破されていないようだ。しかし、オースティンや皆の無事を確認する前に映像は映す場所をどんどん魔物の軍勢側に移動していき、やがて魔王軍の本陣らしき場所まで移動した。
そして、一人の武将と一人の人物をクローズアップするように映し出すのだった。
その人物の風貌を見て俺は目をむくのだった。
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