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第六十八話 高崎播磨
高崎播磨。
それは江戸時代に実在した役者集団にして陰陽師であった。(※本当に実在した集団です。)
陰陽師の大家「安倍晴明」を祖に持ち、日本の歴史において長く陰陽道の元締めであった土御門家より免許皆伝を与えられた存在であった。
現在の兵庫県河西を中心に活躍した彼らは陰陽師として特別異色な存在である。
役者集団でありながら陰陽師の免許皆伝を長年授かっていたからである。
しかし、そもそも役者とは神楽などの霊的儀式を司る集団を祖に持つ者である。古くは。恐らくは大和朝廷が始まる以前から日本に存在したであろうシャーマンによる降霊の儀式に神楽舞が使われていたことは、天岩戸伝説に出てくるアマノウズメの存在を見ても明らかである。
人前で全裸で踊り、民衆の笑いを誘って失われた太陽神を復活させるという儀式の伝説は日本だけのものではなく、広くアジア地方全体に類似伝説が存在し、神楽が日本を超えた域で古代宗教の神霊儀式の一部として存在していた証左となっている。
そんな儀式を祖に持つ役者であり陰陽師でもあるのが高崎播磨だ。
しかし、こうして名乗られてから高崎播磨の姿を見ると妖しげな色気をまとった所作や美しい顔立ち、そして俺を縛り付けた声色と言い、この高崎播磨を名乗る人物が役者であり陰陽師であることはなるほど真実なのであろうと納得せざるを得ない。
だが、播磨だと? 何とも厄介なことだ。
何故なら播磨とは日本陰陽道発祥の地であるからだ。
日本陰陽道の祖が「吉備真備」であることは安倍晴明が著したと伝わる「三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集」にも認められているところであるが(※1)、その吉備真備が陰陽道の神「牛頭天王」を現在の姫路市にある廣峯神社(※2)に祀ったことが陰陽道の始まりである。
(※1 現在は晴明死後の作として否定されている。『天文司即安部博士吉備後胤晴明朝臣撰』の一文アリ。)
(※2 牛頭天王の本社として有名な京都の「祇園さん」も歴史的に見れば明らかに廣峯神社の分祀であり、江戸時代の廣峯神社は牛頭天王の本拠として有名でお伊勢参りほど参拝者が集まったという。)
そんな陰陽道発祥の地である播磨には安倍晴明さえ知らぬ陰陽道の奥義が秘匿されて伝わっていると実しやかに囁かれるているのである。
その秘術の正体がこの「音色」なのか、神楽なのか、天体魔法のことなのか俺にはわからない。わからないが、敵が高崎播磨であることが分かった以上、この敵は俺の知りえぬ秘術を持っていることは間違いないことだ。
だが、名乗られた以上は、こちらも名乗り返さねばならない。
「高崎播磨。その雷名は聞き及んでいます。
俺の名は鬼谷 剣一。話とは何か?」
俺が名乗り返すと高崎播磨は「ははは」と笑った。
「なるほど、その姿形を見たときは我が目を疑ったが、その頭の角を見ればその名も合点がいくと言う物。
鬼谷とは含みのある名。まさか本当に鬼の血を引くものとはな。」
高崎播磨は自分の頭を指差しながら俺の額の角について、そして俺の苗字について指摘した。
加えて高崎播磨は言葉を続ける。
「しかし、剣一よ。お前はこの世界を何と見る?
おかしなものよ。まるで我らが世界とは異なるというのに、その世界の理は。神の成り立ちは我らが世界とあまりにも似ている。
我らは何のためにこの世界に呼ばれた? これがただの偶然とは思えぬ。
それにお前は魔王のまるで龍蛇神のごとき姿を見たか? 魔王イルルヤンカシュ。あれはまるでヤマタノオロチだ。否、それどころかもっと古代の龍蛇神の鏡写しではないかと思う。
その証左としてお前は邪神アスモデウスの加護を受けたと言うが、そのアスモデウス神も我が世界にいた古代の神の和魂であると魔王イルルヤンカシュは言っていた。
その話を聞いて悟るに我が芸道とアスモデウス神もまた深く絡み合っている。その祖になる伝説の始まりは恐らくはアスモデウスではない。
わかるか? 剣一。鬼の血を引くお前がこの世界に呼ばれたのもアスモデウス神と縁深く、イルルヤンカシュによって私が呼ばれたことも偶然ではないのだ。
私が思うにこの世界はまだ物語の途中だ。そして我らはその神話を終わらせる役を与えられた役者にすぎぬ。
わかるか? これは舞台なのだ。」
高崎播磨のいう事は俺には全く理解できなかった。もしかしたら彼には俺には見えぬものが見えているのかもしれない。だが、そうだとしても俺には彼の話を聞く気はない。
この男の口上もこの男の芸術の一つに過ぎないかもしれないからだ。
「そのよくわからない下らない話、長くなるのか?
俺よりも昔の時代に生きた人という事もあって敬意を表したが、俺を篭絡するために時間をかけているのだとしたら、己のうつけを恥じるがいい。」
「・・・・なに?」
「俺にとってこの世の成り立ちや終わり方など今はどうでもいい話だ。
俺には惚れた女がいて、大切な友人がいる。大切な人たちがいる。大事なことはその一点だけだ。それを害するというのなら、相手が魔王だろうが鬼神だろうが戦うまでだ。
いいか、よく覚えておけ天文学者。
星の導きを見ただけでこの世の全てを見通せたと過信しているのなら、中島敦の『山月記』を一度読んだ方が良いぜ。
俺たち人間は何かわからないまま理不尽を押し付けられる運命なんだ。この世の理の全てなんざどうせ死ぬまで、いや、死んだところでも分からないのさ。
だったら、今やれることをやるだけやって、その結果を見て判断するのみだ。」
俺の口上は高崎播磨になぜか刺さったようで「ははははははっ! あははははっ!」と高笑いされることになった。
そして、さんざん高笑いした後、高崎播磨は「たわけがっ!」と一喝する。
「この世界の理を求めずして知性ある生き物と言えようかっ!
日ノ本の国に生まれた者として恥を知れっ!」
高崎播磨はそう言うと剣を上段に構えた。
問答これまでという事らしい。
だが、俺には確かめねばならないことがあった。
「その構え、その太刀捌き。あんたも俺と同じ神道流の流れを汲む剣術らしいが・・・・なぜ、イルルヤンカシュに味方し、人類を滅ぼそうとする?」
「言っただろう? それが我らに与えられた役で、この世界は舞台であると。
役者として生まれ、役者として異世界に呼ばれたのならば、私は、たとい道化役であっても役者として誇り高く生き抜くまでよ。
さぁ、構えよっ! 共に神道流ならば手の内は知れたもの。これ以上の駆け引きは御免無用っ!」
高崎播磨の殺気が漲った時、それを見越したかのように鳥を倒したウィリアムが闇に紛れて襲い掛かった。
「天誅っ!!」
俺に集中していたので意表を突かれた形になった高崎播磨はウィリアムの鋭い横なぎを剣一本では防ぎきれずに吹き飛ばされ、無様に地面に転がった。
さすが百年に一度の天才。さしもの高崎播磨でもウィリアム相手ではさすがに一段劣るかっ!
「行くぞっ! 剣一っ! 俺に続けっ!!」
ウィリアムがそう叫びながら間合いを詰め、剣を振り上げた瞬間だった。
「とまれ、ウィリアム。美しい少年よ。」
高崎播磨の怪しげな声が闇夜に響く。瞬間、攻撃態勢に入っていたウィリアムの体が金縛りにあったように身動きが止まった。
至近距離で達人相手に一瞬の硬直を起こすというのは命取りである。
「ウィリアムっ!!」
助けに入ろうと飛刀術で剣を投げようとしても間に合わぬ高崎播磨の一刀が無防備なウィリアムの胴を一閃する。
「殺さずに一晩中愛でていたいほどの美少年だが、悪く思うな。
お前は強すぎるのだ。」
高崎播磨は妖艶に笑った。
それは江戸時代に実在した役者集団にして陰陽師であった。(※本当に実在した集団です。)
陰陽師の大家「安倍晴明」を祖に持ち、日本の歴史において長く陰陽道の元締めであった土御門家より免許皆伝を与えられた存在であった。
現在の兵庫県河西を中心に活躍した彼らは陰陽師として特別異色な存在である。
役者集団でありながら陰陽師の免許皆伝を長年授かっていたからである。
しかし、そもそも役者とは神楽などの霊的儀式を司る集団を祖に持つ者である。古くは。恐らくは大和朝廷が始まる以前から日本に存在したであろうシャーマンによる降霊の儀式に神楽舞が使われていたことは、天岩戸伝説に出てくるアマノウズメの存在を見ても明らかである。
人前で全裸で踊り、民衆の笑いを誘って失われた太陽神を復活させるという儀式の伝説は日本だけのものではなく、広くアジア地方全体に類似伝説が存在し、神楽が日本を超えた域で古代宗教の神霊儀式の一部として存在していた証左となっている。
そんな儀式を祖に持つ役者であり陰陽師でもあるのが高崎播磨だ。
しかし、こうして名乗られてから高崎播磨の姿を見ると妖しげな色気をまとった所作や美しい顔立ち、そして俺を縛り付けた声色と言い、この高崎播磨を名乗る人物が役者であり陰陽師であることはなるほど真実なのであろうと納得せざるを得ない。
だが、播磨だと? 何とも厄介なことだ。
何故なら播磨とは日本陰陽道発祥の地であるからだ。
日本陰陽道の祖が「吉備真備」であることは安倍晴明が著したと伝わる「三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集」にも認められているところであるが(※1)、その吉備真備が陰陽道の神「牛頭天王」を現在の姫路市にある廣峯神社(※2)に祀ったことが陰陽道の始まりである。
(※1 現在は晴明死後の作として否定されている。『天文司即安部博士吉備後胤晴明朝臣撰』の一文アリ。)
(※2 牛頭天王の本社として有名な京都の「祇園さん」も歴史的に見れば明らかに廣峯神社の分祀であり、江戸時代の廣峯神社は牛頭天王の本拠として有名でお伊勢参りほど参拝者が集まったという。)
そんな陰陽道発祥の地である播磨には安倍晴明さえ知らぬ陰陽道の奥義が秘匿されて伝わっていると実しやかに囁かれるているのである。
その秘術の正体がこの「音色」なのか、神楽なのか、天体魔法のことなのか俺にはわからない。わからないが、敵が高崎播磨であることが分かった以上、この敵は俺の知りえぬ秘術を持っていることは間違いないことだ。
だが、名乗られた以上は、こちらも名乗り返さねばならない。
「高崎播磨。その雷名は聞き及んでいます。
俺の名は鬼谷 剣一。話とは何か?」
俺が名乗り返すと高崎播磨は「ははは」と笑った。
「なるほど、その姿形を見たときは我が目を疑ったが、その頭の角を見ればその名も合点がいくと言う物。
鬼谷とは含みのある名。まさか本当に鬼の血を引くものとはな。」
高崎播磨は自分の頭を指差しながら俺の額の角について、そして俺の苗字について指摘した。
加えて高崎播磨は言葉を続ける。
「しかし、剣一よ。お前はこの世界を何と見る?
おかしなものよ。まるで我らが世界とは異なるというのに、その世界の理は。神の成り立ちは我らが世界とあまりにも似ている。
我らは何のためにこの世界に呼ばれた? これがただの偶然とは思えぬ。
それにお前は魔王のまるで龍蛇神のごとき姿を見たか? 魔王イルルヤンカシュ。あれはまるでヤマタノオロチだ。否、それどころかもっと古代の龍蛇神の鏡写しではないかと思う。
その証左としてお前は邪神アスモデウスの加護を受けたと言うが、そのアスモデウス神も我が世界にいた古代の神の和魂であると魔王イルルヤンカシュは言っていた。
その話を聞いて悟るに我が芸道とアスモデウス神もまた深く絡み合っている。その祖になる伝説の始まりは恐らくはアスモデウスではない。
わかるか? 剣一。鬼の血を引くお前がこの世界に呼ばれたのもアスモデウス神と縁深く、イルルヤンカシュによって私が呼ばれたことも偶然ではないのだ。
私が思うにこの世界はまだ物語の途中だ。そして我らはその神話を終わらせる役を与えられた役者にすぎぬ。
わかるか? これは舞台なのだ。」
高崎播磨のいう事は俺には全く理解できなかった。もしかしたら彼には俺には見えぬものが見えているのかもしれない。だが、そうだとしても俺には彼の話を聞く気はない。
この男の口上もこの男の芸術の一つに過ぎないかもしれないからだ。
「そのよくわからない下らない話、長くなるのか?
俺よりも昔の時代に生きた人という事もあって敬意を表したが、俺を篭絡するために時間をかけているのだとしたら、己のうつけを恥じるがいい。」
「・・・・なに?」
「俺にとってこの世の成り立ちや終わり方など今はどうでもいい話だ。
俺には惚れた女がいて、大切な友人がいる。大切な人たちがいる。大事なことはその一点だけだ。それを害するというのなら、相手が魔王だろうが鬼神だろうが戦うまでだ。
いいか、よく覚えておけ天文学者。
星の導きを見ただけでこの世の全てを見通せたと過信しているのなら、中島敦の『山月記』を一度読んだ方が良いぜ。
俺たち人間は何かわからないまま理不尽を押し付けられる運命なんだ。この世の理の全てなんざどうせ死ぬまで、いや、死んだところでも分からないのさ。
だったら、今やれることをやるだけやって、その結果を見て判断するのみだ。」
俺の口上は高崎播磨になぜか刺さったようで「ははははははっ! あははははっ!」と高笑いされることになった。
そして、さんざん高笑いした後、高崎播磨は「たわけがっ!」と一喝する。
「この世界の理を求めずして知性ある生き物と言えようかっ!
日ノ本の国に生まれた者として恥を知れっ!」
高崎播磨はそう言うと剣を上段に構えた。
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だが、俺には確かめねばならないことがあった。
「その構え、その太刀捌き。あんたも俺と同じ神道流の流れを汲む剣術らしいが・・・・なぜ、イルルヤンカシュに味方し、人類を滅ぼそうとする?」
「言っただろう? それが我らに与えられた役で、この世界は舞台であると。
役者として生まれ、役者として異世界に呼ばれたのならば、私は、たとい道化役であっても役者として誇り高く生き抜くまでよ。
さぁ、構えよっ! 共に神道流ならば手の内は知れたもの。これ以上の駆け引きは御免無用っ!」
高崎播磨の殺気が漲った時、それを見越したかのように鳥を倒したウィリアムが闇に紛れて襲い掛かった。
「天誅っ!!」
俺に集中していたので意表を突かれた形になった高崎播磨はウィリアムの鋭い横なぎを剣一本では防ぎきれずに吹き飛ばされ、無様に地面に転がった。
さすが百年に一度の天才。さしもの高崎播磨でもウィリアム相手ではさすがに一段劣るかっ!
「行くぞっ! 剣一っ! 俺に続けっ!!」
ウィリアムがそう叫びながら間合いを詰め、剣を振り上げた瞬間だった。
「とまれ、ウィリアム。美しい少年よ。」
高崎播磨の怪しげな声が闇夜に響く。瞬間、攻撃態勢に入っていたウィリアムの体が金縛りにあったように身動きが止まった。
至近距離で達人相手に一瞬の硬直を起こすというのは命取りである。
「ウィリアムっ!!」
助けに入ろうと飛刀術で剣を投げようとしても間に合わぬ高崎播磨の一刀が無防備なウィリアムの胴を一閃する。
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