128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第七十五話 魔将軍ウルリクムミ

 高崎播磨が考えた陣組は見事なものだった。
 特定の色の足場を選ぶ魔物たちは特定の色に集まり、それが陣形を構成する一つのまとまりを完成させ、後続の部隊はまた違う色を選んで集まる。それが波のように連なれば、完全な陣形が出来上がる。

 俺はその様子から、まるでモザイク画を見ているようにさえ思える。
 
「くそっ! 頭の良い野郎だっ!!」

 高崎播磨の合理的な軍組みに感心すら覚えてしまう。
 しかも、こいつの作り上げた陣形は、平地ではなく九十度の壁を登る形で形成されている。こんな形状の天体魔法による陣形は誰も経験したことがなかった。

「勇者様っ!! どうしますかっ!?
 どうすれば、こいつらを止められますかっ!?」

 精鋭部隊、赤騎士団の隊長のデイビッドでさえ経験したことがない戦いだった。
 否、誰も経験したことがないし、誰が予想できただろう?
 城壁を登る連中が天体魔法の陣形を駆使するなど。
 
 精鋭のはずの騎士達の間に不安が生まれる。事情を完全に把握していなくても、多くの騎士がただ負け始めた自軍の不利を自覚して焦り始める。

 そんなときに、高崎播磨と敵将が突撃を仕掛けて来たのだ。その行動力にエイデン侯爵が感服する。

「ううぬっ! こ、こんな玉砕戦に大将と副将が先陣切って突撃してくるだとっ!
 こんな滅茶苦茶なっ! 一見すれば愚策としか言いようがないくらいの作戦だが、今、この場。この状況ならば英断だっ!
 今でしか、今でしか勇者様を打ち取れる可能性はないのだからっ!
 こいつらは全員、ここで死んでも構わないと思っている。大量に兵士を失っても今世最強の勇者様を殺せるのなら痛くない損耗だ。こんな作戦を取れるなんて、なんて勇敢な連中だっ!!」

 エイデン侯爵は、そう言いながら弓矢を放つが、それで魔物の進撃は止められず、とうとう多くの魔物を城壁の上にあげることを許してしまうのだった。
 そして、その中には高崎播磨と敵の大将がいた。

「さぁッ! 再びまみえたなっ! 盲目の魔術師っ!
 あの日は双方の手札不足で水入りとなったが、今回は御覧の通り。お前を殺す手札を私は存分に用意してきたぞっ!
 いざ、尋常に勝負っ! 勝負~~~っ!!」

 高崎播磨は城壁を登り切ると、手下の魔物を数十騎従えて師匠の下へと突撃する。師匠の言う通り、奴にとって宿命のライバルは師匠なのだろう。
 そして、高崎播磨が師匠に狙いを付けたことがわかっているのに、俺達には助けに行く余裕がなかった。
 何故なら、俺の目の前には巨大なクマのような姿をした魔物が立ちはだかっていたからだ。

「ユウシャっ!! ワレハ マオウグン ノ ショーグン ウルリクムミッ!
 イザ、ジンジョウ ニ ショーブ セヨッ!!」

 巨大なクマを思わせる敵将の名はどうやらウルリクムミというらしい。
 身の丈4メートル近く。鬼王よりも、さらに一回りは大きい体をしている。
 口からは瘴気を噴き、禍々しい殺気を身にまとっている。まさに魔将軍という感じだ。

「そうかい、ウルリクムミ。自己紹介どうもっ!
 だが、お前なんかに興味がないから、早々にお戻りをっ!!」

 俺がそんな軽口をたたくと、ウルリクムミは嬉しそうに笑って答えた。

「ワルイガ オマエノ ジジョウ ナド シラヌッ! 
 オマエヲ コロセバ、ワガグン ノ ショーリ ハ ユルガナイッ!!
 オーガロード ノ カタキッ!!
 イマコソ ウタセテ モラウゾッ!!」

 ウルリクムミはそう怒鳴りつけると、その覚悟の言葉にふさわしい圧で俺に向かって迫って来た。
 刃渡り1メートルはありそうな巨大な斧を振り回しながら部下を従えて俺に突撃してくる。
 その攻撃には味方が巻き込まれてしまう危険があるのに全く気に留める様子もない。しかも率いられる部下の魔物たちも一切の迷いがなく、自分たちの王に従って突撃してくるのだった。

「シネイッ!!」

 凄まじい風切り音を立てながらウルリクムミの大斧が俺の命を狙ってくる。
 だが、その大斧は俺の命には届かない。何故なら・・・・

 俺の命を狙ったウルリクムミの大斧はギャリンっ!! と凄まじい金属音と共に火花を散らしながら、ウィリアムの剣に受け流されて、あらぬ方向へと向かってしまうからだ。
 ウィリアムに受け流された大斧は、受け流されて威力が落ちたというのにウルリクムミの周囲にいた魔物の胴体を一瞬で真っ二つにした。

「・・・・・呆れたな。お前、あんな攻撃をそんな涼し気に受け流すのかよ。」

 味方ながらに恐ろしい男だ。いや、もうここまで来たら呆れるしかない。それほどウィリアムの剣術は精度を増していた。ウルリクムミの大斧は、決して生易しいものではない。並の者が受け流すことなど不可能だし、超一流の騎士であっても数撃受け流せば、その剣はウルリクムミの大斧とぶつけあう衝撃に耐えきれずに折れてしまうだろう。
 にもかかわらず、ウィリアムの剣はあっというまに十数ごうもの剣戟けんげきを捌き切り、それでいて手にした長剣には刃こぼれ一つ負っていない。
 かわりにウルリクムミの大斧の巻き添えを食らった魔物の死体だけが次々と増えて行ってしまうのだった。

「やれっ! 剣一っ!!
 焼き払えっ!!」

 ウルリクムミの猛攻をしのぎながら、ウィリアムは俺の能力を最大限に生かす作戦を指示する。
 さすが親友。俺という魔法戦士の有効活用法をよく理解している。
 魔法使いには戦士と言う相棒が必要だ。ウィリアムはその相棒としてこれ以上の存在はない。
 何よりも強く。そして俺のことを良く把握し、俺の魔法を最大限に生かせるように動いてくれる。

「もちろん。ぬかりはねぇよっと!!」

 俺はウィリアムがウルリクムミを惹きつける様子を横目に見ながらも敵の陣形を冷静に観察していた。
 そして最大の攻撃方法を思いつく。
 まず風魔法で見えない壁を作ってウルリクムミの部下たちの前進を止める。そしてその風の壁を利用し被せるように火魔法を発動させる。火は風に煽られて極端に威力が上がり、ウルリクムミ配下の魔物たちの体を焼くのだった。

 風魔法は火魔法と相性がいい。順次、火に酸素を供給し続けることが出来るからだ。
 そして俺はアスモデウス神の祝福のおかげで無詠唱で魔法を発動させることが出来る。だから目視で火の威力、燃焼対象の位置を観測し、燃焼効率の良いタイミングで風魔法を発生させ火力を上げることが出来るのだ。

 俺の魔法属性は闇と雷。火と風が得手という訳でもないのに、火はどんどん燃え広がりって敵を焼き尽くす力を見せた。
 その様子に先ほどまで狂ったように攻撃していたウルリクムミも思わず驚愕した。その驚きは自分の精鋭部隊が焼き尽くされる姿を見て、わずかに正気を取り戻してしまったという証拠である。

「オオオオッ! オレノ セイエイ ブタイガッ!!
 オノレ、オノレ、ユーシャ キサマ~~~っ!!」

 恨みの言葉を吐きながら部下の燃え上がる様子に身を震わせると、攻撃の手を緩めて部下を救うために魔法で大量の水を発生させて鎮火した。
 そうして、焼かれた部下に後続する部下の無事を確かめると、殺された部下の死を思って怒りに心を染めて再び狂気を身にまとうウルリクムミ。
 だが、そうなってしまったウルリクムミはもはや俺達の敵ではない。

「一度、正気に戻ったな、ウルリクムミ。
 お前の最大の強みは、その狂気だった。相手に息継ぎの間を与えぬように部下と一丸になって狂ったように襲い掛かる、その姿はまるで狼の群れだった。大荒れの海に起こる波の様に絶え間なく俺達を襲っていた。
 だが、一度正気に戻った時。もはやその最大の強みであったはずの攻撃がわずかに止まった。それは俺達に考える余裕を与えたという事を知るがいい。」

 その俺の考えと全く同じ考えを同時に思い描いた者がいる。
 ウィリアムだ。ウルリクムミの猛攻を俺と共に防ぎながら叫んだっ!!

「うろたえるな赤騎士団っ! 俺と剣一が引き付けている間に陣形を整えよっ!
 見るがいいっ! すでに城壁を登り切ったこいつらの陣形は、もはや平地に作られたシャウシュカ様の防御陣形に過ぎないっ!
 破り方があるだろうっ!?」

 垂直に張られた天体魔法の陣形の破り方など、誰にも想像できはしなかったが、平地に上がってしまえば破り方も思いつく。
 混乱した頭ではそんな当たり前のことも思いつかなかったが、ウルリクムミが正気に戻った時。俺達にも冷静に考える余裕が出来たという訳だ。

「エエイッ! ジンケイ ハ ステヨッ!
 タダ イッシン ニ ユウシャ ヲ コロセッ!」

 すでに一度狂気が消えたウルリクムミは、あっさりと陣形を捨てた。
 これでこちらの陣形の不利は覆った。問題は、蟲毒の外法で強化された魔物の強さは全く変わらないという事だけだ。
 そして、その強さには破り方がない。ただ、より強い力で破るしか道はないのだった。
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