128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第七十六話 プニプニ

 魔将軍ウルリクムミは人語のままで命令を発する。それはこちらの軍勢を自分の戦い方に引きずり込むのが目的なのは明らかだ。
 敵が陣形を捨てた以上、こちらが今の陣形にこだわる理由もなく、そして狙いが勇者一人だと告げられれば、赤騎士団は慌てて守りに入る。そんな感じに皆が考えなしに突っ込めば、双方に陣形も作戦も無くなる。そうなれば本当にただの乱戦になる。
 それがウルリクムミの作戦だった。

 蟲毒の術で強化された魔物の攻撃力は尋常ではない。こうしてウルリクムミの配下にこちらが集中している間にも後続するほかの魔物が隙をついて城壁を登って来る。戦場は混乱を極めた。

 状況を危険と察したデイビッドは長剣を天に掲げて大声を上げる。 
 
「赤騎士団諸君っ! 集結せよっ!
 我らの標的は魔将軍とその精鋭部隊のみっ! 後続部隊への対応は無視せよっ! 
 赤騎士団以外の兵士は前進せよっ! 後続部隊を押し返せっ!
 ここを抜かれたら、我らは全滅するっ!!」

 すぐに兵士たちはその通りに行動を開始する。
 その行動には問題がない。ただ、危険だ。
 赤騎士団の指揮官は自分だと敵に知らせているようなものだ。

 案の定、魔将軍は自分の精鋭部隊何名かに命令を送り、デイビッド討伐させようとする。たちまちのうちに玉砕覚悟の魔物の群れがデイビッドに向かって突撃していった。

「赤騎士団っ! こっちは俺とウィリアムで十分だっ!
 それよりもそっちはそっちで自分たちを守り切れっ!!」

 緊急事態ゆえに俺の命令に不満がある者もいただろうが反論する者はおらず、俺達は戦力を三つに分散させて防衛する。
 それはウルリクムミの狙い通りのことであったが致し方ない。

「剣一っ! ウルリクムミは俺に任せて、お前は壁を作って敵を焼けっ!!」

 頼もしい一言を発するウィリアムのおかげで俺はウルリクムミに集中せずに、ウルリクムミの精鋭部隊のせん滅に集中できる。
 4メートル近くあるウルリクムミの巨体による攻撃は、脅威である反面。隙が大きくなる。的が小さい俺達はウルリクムミの攻撃をかわしつつ、戦う。

 魔法の壁で敵を止め、魔法でそれ焼く。単純な作戦だが、それだけに互いの技量の差だけが勝負を制するカギになる。
 なによりも俺は魔法を無詠唱で、連続で発動できる。
 そんな常識外れの攻撃にさしものウルリクムミの精鋭部隊も混乱を極めて前進が止まる。
 とうとう精鋭部隊は接近するのが困難となり、ウルリクムミは将軍であるにもかかわらず戦場で孤立してしまった。

(これで勝てるっ!!)

 そう確信した俺は師匠の事が気になってチラと横目で高崎播磨と戦う師匠の様子を見た。
 すると高崎播磨率いる軍勢が師匠の腐食魔法の餌食になっている姿が見えた。
 アビゲイル先生率いる神官、巫女が鉄壁の魔法の壁を張り巡らせて敵を師匠に近づけさせない。そうして、壁に釘付けになった魔物を師匠が闇魔法で腐食させていくという固い作戦だった。

 これならば、大丈夫。
 高崎播磨を殺せずとも、殺されることにはならないはず。ならば、こちらがはやくウルリクムミさえ倒してしまえば合流できるはずだ。

 そう思った矢先。俺は何か違和感に気が付いて、振り返って高崎播磨の方を見やる。
 高崎播磨は配下の魔物を失っているというのに、どこか涼しげで余裕を感じさせる。
 その姿は、まるで師匠の奮戦ぶりを楽しんでいるようでさえあった。

(・・・・・あの余裕はなんだ? 
 高崎播磨は何を企んでいる?)

 高崎播磨は師匠に魔物を殺されて攻めあぐねている。
 いや。それどころか、このまま消耗すれば負けは確定だ。なのに仲間が減っているというのに、あの余裕は何だ?

 仲間っ!? いや、まて。何だ? この違和感は。
 高崎播磨は確かに配下の魔物を失っている。なのにどうしてか、俺はその魔物を高崎播磨の仲間と思ったことにどうしようもない違和感を覚えたのだ。
 そうして、すぐにその違和感の正体に気が付く。

「・・・・・式鬼神しきがみっ!!
 そうだっ! 奴の式鬼神はどうしたんだっ!?」

 と、戦闘中だというのに心を高崎播磨に奪われた時だった。

「バカ野郎っ!! よそ見すんなっ!!」

 突然。俺は後ろからウィリアムに突き飛ばされた。
 その力は驚くほど強く、俺は思わず前のめりに転がった。

 次の瞬間、俺の頭部をかすめるようにしてウルリクムミの大斧が通りすぎてた。

「おおっ! あ、あぶねーっ!?
 よそ見して敵が付かなかった。サンキュー、ウィリアム・・・・・っ。」

 素早く体を起こしながらウィリアムを見ると、俺を庇って左手一本でウルリクムミの大斧を捌いたために、衝撃に耐えられず、その腕があらぬ方向に曲がっていた。

「おいっ! 大丈夫かっ!?」

「大丈夫なわけあるかっ!! くそ、いてぇよっ!!」
 
 ウィリアムの怪我に気が付いた俺は一先ず魔法の壁を自分の周囲に五重張ってウルリクムミからウィリアムを守りつつ、その傷の手当てをする。

「大丈夫かっ!? すぐに治癒魔法で治してやるからなっ!」

「ちっ! お前、戦闘中に何よそ見してんだよっ!
 死にたいのかっ!!」

 ウィリアムの怒りは相当なものだった。無理もないが・・・・。
 俺は頭を下げて謝る。

「悪かったって! 今夜、『兄貴』してやるから、機嫌直せ。」

 そういうとウィリアムは顔を真っ赤にしながら、うつむきないて「ちょ、調子いいんだから・・・・」とボソボソ呟いてから、意を決したように「絶対だからなっ!」と力強く言う。

「お、おう。」

 俺はその勢いにちょっと驚きながら治癒魔法をかけるも。傷は思いの外に治りが悪い。

「くそ、あの大斧。なにか呪いかかっているな。腕の骨折ぐらいすぐに直せるはずなのに・・・・」

 そうこうしているうちにウルリクムミはすでに魔法の壁を3つ破壊して近づいて来ていた。

「無理するな、剣一。魔法の壁と火魔法を連続使用している。いくらお前でも魔力切れを起こすぞ。
 あとは俺一人で十分だ、お前は戦いに余力を残しておけ。」

「バカ言うな。完全に治してからじゃないとウルリクムミとは戦えるわけがないだろうっ!!」

 しかし、ウィリアムの指摘は正しい。俺は魔法連発のせいで治癒魔法を完遂できるかどうかも怪しかった。
 ウルリクムミはすぐにでも壁を壊しきって近づいてくる。
 どうする?

 と、思った時。誰かが俺の手に触れて魔力を流してくれた。
「おお、サンキュー」と、言う言葉と同時に俺の頭の中に手を触れた人物の名前が頭の中に走った。

「美野里っ!? 
 お、お前。どうやってここにっ!?」

 美野里は俺の言葉には答えずにウィリアムを治そうとする俺の治癒魔法に同調させて、あっという間にウィリアムの傷を癒す。いや、それどころかこれまでの戦闘で周囲に倒れていた瀕死の兵士の傷まで美野里の治癒によって息を吹き返してきた。

「どうやってって、いや。なんか兵士たちが戦闘に熱中しすぎて私の警戒が薄くなったの。
 だから、ここに来たのよ。ウィリアム君、大変そうだったし。」

 美野里は何事もないかのように答えた。
 ウィリアムは呆れたように尋ねる。

「け、警戒が薄くなったって・・・・それはそうでしょうけれども・・・・い、いえ。美野里様。
 それよりもどうやって周囲を固めるように張り巡らされた剣一の魔法の壁を乗り越えてこられたのですかっ!?」

「どうって・・・・剣一君の魔力に同調したら、魔法の壁ってすり抜けられるものじゃないの?
 ・・・・・私、何か変な事言ってるかしら?」

 キョトンとした表情で、すっかり女言葉で返事をする美野里だが、そんなことができるのはお前だけだ。
 俺は呆れながら周囲を見回して、治癒された兵士たちの様子を見た。

「・・・・・これだけ魔力を使ってお前・・・・・大丈夫なのか?」

 俺が尋ねると美野里は可愛い胸を張って答えた。

「ふふふ。私だってちゃんと修行してたんだからっ!!
 まだほんの少し・・・・・力の調整が出来てないけど、気絶しない程度には魔力をコントロールできるようには、なっているのっ!」

 ・・・・・・ほんの少し・・・・ね。

「よしよし、偉いぞ。美野里。」

 呆れながら俺は美野里の頭を撫でながら言おうと思ったが、やたらと自己主張する薄い胸に欲情してしまい。つい、頭ではなくプニ乳をプニプニ揉みながら言うのだった。

「・・・・・こんなときに・・・・・
 なんてことするのよっ!! このスケベっ!!」

 戦場にパァ~~~ンッ!! とビンタの破裂音が鳴り響いた。
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