128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第七十七話 星の導き

 美野里が放ったビンタの破裂音と共に魔将軍ウルリクムミは俺が作った魔法の壁を全て砕き切った。

「ユウシャ キサマッ!!
 コノ センジョウ デ チチクリ アウナド フザケルナッ!!」

 ウルリクムミは怒りの咆哮を上げる。
 
「そうだ、そうだっ!! このスケベにもっと言ってやれっ!」
「本当だよ! 剣一君、恥ずかしくないのっ!? 」

 何故かウィリアムも美野里もウルリクムミの意見に乗っかって俺を攻める。
 孤立無援とは・・・・無念。

 などと冗談を言っている暇はない。怒り狂っているウルリクムミは、すぐに大斧を振り上げて襲い掛かって来る。

「出るぞ、ウィリアムっ!!
 美野里を頼むっ!!」

「応っ!!」

 俺はウルリクムミが切り込んでくる大斧をかいくぐってやり過ごすと、空振りしたウルリクムミの手首に切りかかる。
 長剣はウルリクムミの籠手こての隙間を正確にとらえて肉を切り裂いたが、その腕を切り落とすには至らない。

「くそっ! 硬い野郎だっ!!」

 さすがに鬼王オーガロードの時のようにはいかない。ウルリクムミの手首は動脈を切られはしたが、手首と前腕骨を繋いでいる頑強な靭帯は、その手首が切断されることを許さなかった。
 しかし、出血はしている。
 攻め続ければ勝機もあろう。

 だが、ウルリクムミは俺とウィリアムの剣技を見て己の不利をすぐに悟って、大声で自分の虎の子である精鋭部隊を呼び寄せて自分を守らせる。
 そして俺達がウルリクムミを守りに入った精鋭部隊と戦っているうちに自分の傷を治癒するのだった。

「・・・・こいつ。玉砕戦に来たのに冷静だな・・・・・」

 ウィリアムも異変に気が付いた。
 その異変は俺が高崎播磨に感じたことと同種の疑問だった。

「ウィリアムっ! 気を付けろっ! 絶対に無闇に自分から手を出すなっ!!
 こいつ等はまだ何か隠しているぞっ!
 高崎播磨も師匠に攻め込まれていたのに余裕を感じさせた。しかも奴は今のところ使えば数の不利を覆せるはずなのに式鬼神を使用していない。
 何か企んでいるんだっ!!」
 
 ウィリアムに肩を並べながら小声で忠告すると、ウィリアムの事態のヤバさに気が付いて長剣を握り直しながら表情を強張こわばらせる。
 得体のしれぬ敵の隠し手が何かわかるまで自分から手を出すなと言う俺の意図は通じたようだ。

 こうして警戒を強めた俺達が美野里を守りながらジリジリと後退を始めたとき、城壁を登った人数の多さから、いくら広めに造られた外廓がいかくといえども既に一杯になっていたことに気が付いた。(※この場合は、壁を上がり切った場所で城壁を登ってくる敵を迎え撃つための兵士が待機するところの意。広間。)

「くそっ! 何時の間にこんな大人数になっていたんだ。ここで陣形を固めて迎え撃つしかないか。
 持久戦になるな。」

「攻城戦なんだ。持久戦になるのは当り前さ。」

 俺達が戦いが長引くことを覚悟した。だが、すぐに急に人数が増えた理由が美野里が兵士を復活させたことが原因であることに気が付いた。
 つまり城壁の上は数の上でさらにこちらが有利になったという事だ。

「兵士が増えたというか、復活したから場所が詰まったってことか。
 いずれにしても、これならば数の有利はこちらにある。
 魔将軍をここで打てば俺達の勝利は揺るがない。敵が何を企んでいようが、多少の犠牲も覚悟の上で噛み潰すか・・・・・。」

 ボソリ。と俺が呟いた時、城壁の兵士たちが全員、武器を高々と掲げて「おお~~~っ!!」と、雄たけびを上げた。どうやら俺の独り言は周りに伝わっていたらしい。誰もが死を覚悟したうえで魔将軍を打ち取るために突撃するつもりらしい。

 ウィリアムも無言で手を伸ばして俺の胸を拳でドンっと叩く。覚悟は決まっているらしい。
 そして、兵士たちの雄たけびを聞いた魔物たちには動揺が走っていた。
 魔物も数の上での不利は承知の上で飛び込んできたはずだが、こうも旗色が悪くなったのならば、作戦続行は難しいと感じているらしい。

 作戦失敗、一時撤退か。
 それともあえてこの場で玉砕するか。

 魔物たちがその判断に困っていることが俺たち人間の目で見てもアリアリとわかるほどだ。
 だが、ウルリクムミは何の指示も出さない。

(敵は将軍の指示がなく戸惑っている。突撃するのならば今しかないか・・・・っ!)

 と、俺が覚悟を決めたとき、指示待ちの戦場に高崎播磨の甲高い笑い声が響く。

「ははははっ!
 見事、いや、お見事っ!
 計画ではここで勇者かそこの美少年を殺せていたはずだが、よもや、ここまで粘るとはなっ!」

 高崎播磨の声に城壁にいた全員が視線を向ける。高崎播磨は高揚して紅くなった頬を扇子せんすで隠しながら、師匠に語り掛けた。

「ウルティア・ケイオスっ!
 見事な魔法、見事な作戦。いや、感服仕った。
 だが、ここまでならば先の戦いと同じ。我らの戦いは手札不足にて水入りしたのだ。
 まさか、これ以上の手札がないとは思うまいね?」

 不吉な予感のする言葉に俺達が思わず身構えた。だというのに、師匠は嬉しそうに笑うのだった。

「・・・・・ふふふ。まさかな・・・・。」

 師匠の笑い声を聞いた高崎播磨は「ひぃっ」っと嬉しそうに笑うと懐から呪符を取り出して空に向けて投げ放つ。
 いくつかな図形に急々如律令と書かれた呪符が舞うのと同じに、高崎播磨は懐から土人形を取り出して、その土人形に独鈷とっこという明王が持つ術具を突き立てるのだった。

「オン シュチリ キャラロハ ウンケン ソワカ
 オン シュチリ キャラロハ ウンケン ソワカ」

 独鈷を突き立てるその真言を聞いて俺は身の毛がよだった。

「気を付けろっ! 大威徳明王の真言だっ!!
 式鬼神だけではなく、呪殺も行うつもりだっ!!
 全員、ウルリクムミは捨てて今すぐ高崎播磨を打てっ!! 今すぐだっ!!」

 俺の慌てようから、危険を察した兵士たちは一斉に高崎播磨に向かって襲い掛かる。
 だが、高崎播磨には余裕があった。

「バカめっ! いくら数で押そうとも、この数の式鬼神と蟲毒の術で強化された魔物の壁を超えられるモノかっ!
 さらばだ、鬼谷きずみ 剣一っ!! 異世界の壁を超える明王の怒りを受けるがいいっ!!」

 狙いは俺かっ!!
 というか、この異世界でも使えるのかっ!? いや、式鬼神が仕えるのならば当然か・・・・
 いや、今はそれどころじゃないっ!!
 マズいっ! 大威徳明王は、その前身はインドの死神だっ! 
 戦国の遥か昔から使われた暗殺呪法っ! その大威徳明王の呪いならばチンケな魔法の壁などで防げるわけがないっ!!
 マズいぞっ! これはっ!!

 焦った頭では考えもまとまらない。ひらすら「突撃っ! 突撃~~~っ!!」と叫ぶだけになった俺をあざ笑うかのように高崎播磨の真言呪法は続けられた。

「オン シュチリ キャラロハ ウンケン ソワカ
 オン シュチリ キャラロハ ウンケン ソワカ・・・・?」

 だが、不思議な事が起こった・・・・・。
 そう言いながら再び真言を唱える高崎播磨の動きが止まる。

「ぐふっ・・・・・」

 呪文に集中していた高崎播磨の胸にウィリアムの長剣が深々と刺さったのだ。
 驚愕して周りを見渡す高崎播磨。その目にはあっという間に蹴散らされた魔物の群れの死骸と切り刻まれてしまった呪符の残骸が映る。

「・・・・・ばかな・・・・これほどの数の魔物と式鬼神が・・・・
 なぜ・・・・」

 高崎播磨は遠のく意識の中で「なぜ」と言った。
 その言葉はウィリアムさえも感じていたことだった。これほどの強敵の群れを一瞬で蹴散らした自分が信じられない様子だ。勿論、俺も驚きを隠せなかった。
 その答えを師匠が言う。

「猫だよ。高崎播磨。」

「・・・ねこ・・・・」

 師匠にそう言われてハッとなった高崎播磨は死力を振り絞って、城壁の外の小高い丘を見た。
 そこにはパンがいた。
 丘の上に魔法陣を建てて「にゃあああ~~~~っ!!」と雄たけびを上げていた。

「あの位置は、死を告げる星。
 そうか、きさま・・・・あの位置に黄泉の住民の末裔すえである猫人を据えることで、我らに滅びの呪法を仕掛けていたのか・・・・おのれ・・・・」

 全てを悟った高崎播磨に師匠が勝利宣言をする。

「さらばだ。異世界の天体魔法使い。
 いかに貴様が優れた天文学者であろうが、この世界にはこの世界の理がある。
 これがこの世界の魔法使いの意地ぞ。」
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