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第七十八話 追悼式
いつの間にかパンは城壁を降りて、城の外に魔法陣を張っていた。
それは破滅の星イスタヌ神の恩恵を受ける天体魔法。
審判の女神イスタヌは、悪に天罰を与える。俺達とパンの陣地の間に挟まれる形になっていた魔物の群れは、誰も知らぬ間にその呪法にかかっていて、それでウィリアム率いる赤騎士団の猛攻に耐えきれず、高崎播磨の首元まで易々と侵攻を許してしまった。
呪法に集中していた高崎播磨もなにがあったのかわからぬまま、ウィリアムの長剣を胸に刺されてしまっていた。
パンは敵に罠と知られぬ布石として最高の効果を発揮した。
「ごふっ・・・・」
堂々と敵の布陣の近くに魔法陣を置いたパンの姿を見やった高崎播磨は血反吐を吐きながら、それでもどこか満足気に言った。
「・・・・やられたよ。
あの猫。いつの間にこの場から逃げ出していたんだ?
さっぱりと気が付かなかったよ。
しかも、城壁の外。敵布陣の後ろの危険な場所に堂々と魔法陣を作るとは・・・・流石に読めん。
お前の差し金か? ウルティア・・・・・」
霞む目で師匠の方を見ながら尋ねる。
強い意志を感じるが、ウィリアムが剣で刺した場所は急所。すでに致命傷を負った高崎播磨の声はか細くなり始めていた。
終わりの時が来ているのだ。
師匠は見えない目でそれを悟った。
「私の差し金と言われれば、その通りだと答えよう。
しかし、あの場にたどり着けたのはあの子の力。
あの快速、あの気配の消し方。あれは他人が教えられるものではない。あの子が天から授かったものゆえ。
しかし、天の才だけでは、魔物の監視を逃れて城壁を降りて行くこともできんし、戦いの最中にその都度都度に様変わりする陣形を破る運命を持つ星座の位置を取ることなど不可能だ。
だから私はあの子には星の導きを感じられるように修行を貸した。あの子は星の運命を感じながら、あそこまで行ったんだ。
従ってあの子が何処にたどり着くかなど私には予想も出来ない事。私が予想できたのはあの子にはやり遂げる力があるという事だ。」
師匠はそういってパンの手柄を褒めた。
もちろん、これは占いの神アドゥンタリ様の依り代となって霊力が増した今だから、より高度な隠密行動がとれるようになったわけだが。
「あのネコマタ。・・・・・つまりはそういうことか。
さすがの私も未来の先の先の展開は読めぬ。それこそあの猫が受けた神の神託でもない限り・・・・。」
高崎播磨は観念したかのように頭を下げた。
「ふふふ・・・・・まぁ、この世界にこの役で呼ばれたのだから、こうなるのは必然か。
しかし、結末を知らぬ役者ほど自然な演技をするもの。その演技は真実に近いが、それだけに完成度は低いものよ。
・・・・ああ・・・・これが、私の最後の舞台か。
しかし、悔いはない。鬼谷剣一、ウィリアム。それからウルティア・ケイオス。
私は全てにおいて全力を尽くした。例え最初から避けられぬ死の運命であってもな。
だから、頼む。
お前たちもこの舞台・・・・・どのような結末になろうとも最後まで・・・・全力で・・・演じ切ってくれ。」
そこまで言い終わると、高崎播磨は朦朧とした目でウィリアムを見つめながら、自分の右手で自分の首をトントンと叩く。
『首を刎ねろ。』と言う意味だ。
「見事だ。高崎播磨っ!!」
高崎播磨の見事な死に様に感動しながらウィリアムは、風のように速い横薙ぎで高崎播磨の首を刎ねるのだった。
一瞬のことだった。刎ねられた首は宙を舞ってゴトリと落ちた。痛みも苦しみも高崎播磨は感じなかったに違いない。
「あああああ~~~~っ!!」
高崎播磨が打ち取られた様子を見て魔将軍ウルリクムミは悔しそうに叫ぶと、部下に向かって大きく手を振って退却を命じた。
ウルリクムミの号令一下。魔物の群れはすぐさま城壁を降りて、遠くに引き上げていく。
その様子は水が高いところから低いところに降りるようであった。
全ての魔物は留まることなく一斉に引き下がっていく。その動きには淀みがなく、規律を感じさせた。
そして、退却することを主眼に置いた魔物の群れは、すぐそばに魔法陣を張っていたパンに見向きもしない。ただ、一心に帰っていくのだった。
その退却する姿に俺は叫ぶ。
「ウルリクムミっ! 分かるか?
今歩いている道は滅びの道だっ! お前たちは唯一勝利するタイミングを失ったのだっ!!
今度はこちらがお前たちを狩る番だっ! 精々、しっかり準備をして待つんだなっ!!」
ウルリクムミは俺の声が聞こえたのか、悔しそうな声を上げながら立ち去っていった・・・・・。
そして、防衛基地には勝利の雄たけびが上がる。
抱き合って勝利を喜ぶもの。死んだものを思って泣くもの。様々な声と涙がそこにあった。
「・・・・お、おわったんだよね? 剣一君。」
美野里がそう言って不安そうに俺に尋ねた。
俺は肯定の為に一度頷いてから、否定した。
「この場は終わりだ。だが、まだ終わってはいない。
この地は瘴気に満たされている。十年以内の汚染なら自然が浄化してくれるだろうが、本来、それはお前の役目だ。
だから、美野里。お前はもっと成長しなくてはいけない。
もちろん、俺達もな。魔王の配下のウルリクムミ程度に勝てないようでは、イルルヤンカシュには勝てないだろう。
その為にも、俺達はやはりシャウシュカ様の試練を乗り越えなくてはいけないんだ。」
「・・・・・うん。」
美野里は強い意志を感じさせる瞳で俺を見つめるのだった。
10日後。防衛線に勝利した知らせを受けた他の軍も駆けつけ、防衛に当たった兵士たちをねぎらうとともに死んでいった仲間たちを弔うセレモニーが開かれた。
そこにはシリウス学問所の教授たちや同級生たちの姿もあった。全員がオースティンの勇敢な最期を知って泣いた。
そして、勇敢に死んだ彼を誇りに思って彼の墓の前に集まって花を手向けた。
オースティンの遺体は魔物が去った後に見つかった。腐敗も進んでいたし、城壁の下に落ちた遺体は多かったが、彼の体に刺さった高崎播磨の長剣が目印になってすぐに見つかったんだ。
魔法団体戦の時に共に戦ったチャールズ、ケレイブ、アクセルも彼の墓前に花を添えて、復讐を誓った。
悲観的なことしか言わないアクセルさえ、絶対の勝利を誓った。
そして俺達の同級生全てが今後行われる、魔物領への討伐戦に参加すると言った。止める理由はなかった。
ただ、学問所のコリンズ所長の計らいによって学生は全員、支援部隊に回されていった。チャールズ、ケレイブ、アクセルともここでお別れになった。
それからウィリアムは、彼の祖国キンメリアから派遣されて来た軍勢を指揮している兄弟たちと再会を果たした。
ウィリアムは兄弟から国に帰るように説得されていたが、これを固辞。俺と共に戦うと言ってくれた。
天才といえども若い身空で戦場に残るウィリアムを心配した兄弟たちは、彼を心配して彼のために精鋭1000名の部隊を貸し与えてくれた。
この一件を見ても兄弟からの溺愛ぶりがわかるだろう。司令官で再会した時の、まるで恋人同士のような熱烈な抱擁とキスに俺は、どうしてウィリアムが俺が『兄貴』してやるときにあんなに甘えん坊になるのかわかった気がする。
同級生の前では決して見せない弟気質のウィリアムの姿がそこにあった。
追悼セレモニーの3日後。俺達は今後の予定について話し合った。
そこで俺は大敗した魔物の軍勢を討伐する、それ以上を申告した。
ここまでの勇者と聖女が揃う事はまれだ。今でなければ魔王を倒すことなど不可能だろうと。
魔王討伐のためには美野里も俺も完全になる必要がある。だからシャウシュカ様の試練を受けなくてはいけないと言ったのだ。
各国の王侯貴族は最初のうちは完全に汚染された土地を唯一浄化できる聖女を危険にさらすことに反対したが、それでも美野里の圧倒的な魔力があれば無限回復も不可能ではないことを知ると、渋々合意した。
しかし、シャウシュカ様の試練を受けるのならば、その試練に参加するメンバー10名。それを決定しなくてはいけなかった。
それは破滅の星イスタヌ神の恩恵を受ける天体魔法。
審判の女神イスタヌは、悪に天罰を与える。俺達とパンの陣地の間に挟まれる形になっていた魔物の群れは、誰も知らぬ間にその呪法にかかっていて、それでウィリアム率いる赤騎士団の猛攻に耐えきれず、高崎播磨の首元まで易々と侵攻を許してしまった。
呪法に集中していた高崎播磨もなにがあったのかわからぬまま、ウィリアムの長剣を胸に刺されてしまっていた。
パンは敵に罠と知られぬ布石として最高の効果を発揮した。
「ごふっ・・・・」
堂々と敵の布陣の近くに魔法陣を置いたパンの姿を見やった高崎播磨は血反吐を吐きながら、それでもどこか満足気に言った。
「・・・・やられたよ。
あの猫。いつの間にこの場から逃げ出していたんだ?
さっぱりと気が付かなかったよ。
しかも、城壁の外。敵布陣の後ろの危険な場所に堂々と魔法陣を作るとは・・・・流石に読めん。
お前の差し金か? ウルティア・・・・・」
霞む目で師匠の方を見ながら尋ねる。
強い意志を感じるが、ウィリアムが剣で刺した場所は急所。すでに致命傷を負った高崎播磨の声はか細くなり始めていた。
終わりの時が来ているのだ。
師匠は見えない目でそれを悟った。
「私の差し金と言われれば、その通りだと答えよう。
しかし、あの場にたどり着けたのはあの子の力。
あの快速、あの気配の消し方。あれは他人が教えられるものではない。あの子が天から授かったものゆえ。
しかし、天の才だけでは、魔物の監視を逃れて城壁を降りて行くこともできんし、戦いの最中にその都度都度に様変わりする陣形を破る運命を持つ星座の位置を取ることなど不可能だ。
だから私はあの子には星の導きを感じられるように修行を貸した。あの子は星の運命を感じながら、あそこまで行ったんだ。
従ってあの子が何処にたどり着くかなど私には予想も出来ない事。私が予想できたのはあの子にはやり遂げる力があるという事だ。」
師匠はそういってパンの手柄を褒めた。
もちろん、これは占いの神アドゥンタリ様の依り代となって霊力が増した今だから、より高度な隠密行動がとれるようになったわけだが。
「あのネコマタ。・・・・・つまりはそういうことか。
さすがの私も未来の先の先の展開は読めぬ。それこそあの猫が受けた神の神託でもない限り・・・・。」
高崎播磨は観念したかのように頭を下げた。
「ふふふ・・・・・まぁ、この世界にこの役で呼ばれたのだから、こうなるのは必然か。
しかし、結末を知らぬ役者ほど自然な演技をするもの。その演技は真実に近いが、それだけに完成度は低いものよ。
・・・・ああ・・・・これが、私の最後の舞台か。
しかし、悔いはない。鬼谷剣一、ウィリアム。それからウルティア・ケイオス。
私は全てにおいて全力を尽くした。例え最初から避けられぬ死の運命であってもな。
だから、頼む。
お前たちもこの舞台・・・・・どのような結末になろうとも最後まで・・・・全力で・・・演じ切ってくれ。」
そこまで言い終わると、高崎播磨は朦朧とした目でウィリアムを見つめながら、自分の右手で自分の首をトントンと叩く。
『首を刎ねろ。』と言う意味だ。
「見事だ。高崎播磨っ!!」
高崎播磨の見事な死に様に感動しながらウィリアムは、風のように速い横薙ぎで高崎播磨の首を刎ねるのだった。
一瞬のことだった。刎ねられた首は宙を舞ってゴトリと落ちた。痛みも苦しみも高崎播磨は感じなかったに違いない。
「あああああ~~~~っ!!」
高崎播磨が打ち取られた様子を見て魔将軍ウルリクムミは悔しそうに叫ぶと、部下に向かって大きく手を振って退却を命じた。
ウルリクムミの号令一下。魔物の群れはすぐさま城壁を降りて、遠くに引き上げていく。
その様子は水が高いところから低いところに降りるようであった。
全ての魔物は留まることなく一斉に引き下がっていく。その動きには淀みがなく、規律を感じさせた。
そして、退却することを主眼に置いた魔物の群れは、すぐそばに魔法陣を張っていたパンに見向きもしない。ただ、一心に帰っていくのだった。
その退却する姿に俺は叫ぶ。
「ウルリクムミっ! 分かるか?
今歩いている道は滅びの道だっ! お前たちは唯一勝利するタイミングを失ったのだっ!!
今度はこちらがお前たちを狩る番だっ! 精々、しっかり準備をして待つんだなっ!!」
ウルリクムミは俺の声が聞こえたのか、悔しそうな声を上げながら立ち去っていった・・・・・。
そして、防衛基地には勝利の雄たけびが上がる。
抱き合って勝利を喜ぶもの。死んだものを思って泣くもの。様々な声と涙がそこにあった。
「・・・・お、おわったんだよね? 剣一君。」
美野里がそう言って不安そうに俺に尋ねた。
俺は肯定の為に一度頷いてから、否定した。
「この場は終わりだ。だが、まだ終わってはいない。
この地は瘴気に満たされている。十年以内の汚染なら自然が浄化してくれるだろうが、本来、それはお前の役目だ。
だから、美野里。お前はもっと成長しなくてはいけない。
もちろん、俺達もな。魔王の配下のウルリクムミ程度に勝てないようでは、イルルヤンカシュには勝てないだろう。
その為にも、俺達はやはりシャウシュカ様の試練を乗り越えなくてはいけないんだ。」
「・・・・・うん。」
美野里は強い意志を感じさせる瞳で俺を見つめるのだった。
10日後。防衛線に勝利した知らせを受けた他の軍も駆けつけ、防衛に当たった兵士たちをねぎらうとともに死んでいった仲間たちを弔うセレモニーが開かれた。
そこにはシリウス学問所の教授たちや同級生たちの姿もあった。全員がオースティンの勇敢な最期を知って泣いた。
そして、勇敢に死んだ彼を誇りに思って彼の墓の前に集まって花を手向けた。
オースティンの遺体は魔物が去った後に見つかった。腐敗も進んでいたし、城壁の下に落ちた遺体は多かったが、彼の体に刺さった高崎播磨の長剣が目印になってすぐに見つかったんだ。
魔法団体戦の時に共に戦ったチャールズ、ケレイブ、アクセルも彼の墓前に花を添えて、復讐を誓った。
悲観的なことしか言わないアクセルさえ、絶対の勝利を誓った。
そして俺達の同級生全てが今後行われる、魔物領への討伐戦に参加すると言った。止める理由はなかった。
ただ、学問所のコリンズ所長の計らいによって学生は全員、支援部隊に回されていった。チャールズ、ケレイブ、アクセルともここでお別れになった。
それからウィリアムは、彼の祖国キンメリアから派遣されて来た軍勢を指揮している兄弟たちと再会を果たした。
ウィリアムは兄弟から国に帰るように説得されていたが、これを固辞。俺と共に戦うと言ってくれた。
天才といえども若い身空で戦場に残るウィリアムを心配した兄弟たちは、彼を心配して彼のために精鋭1000名の部隊を貸し与えてくれた。
この一件を見ても兄弟からの溺愛ぶりがわかるだろう。司令官で再会した時の、まるで恋人同士のような熱烈な抱擁とキスに俺は、どうしてウィリアムが俺が『兄貴』してやるときにあんなに甘えん坊になるのかわかった気がする。
同級生の前では決して見せない弟気質のウィリアムの姿がそこにあった。
追悼セレモニーの3日後。俺達は今後の予定について話し合った。
そこで俺は大敗した魔物の軍勢を討伐する、それ以上を申告した。
ここまでの勇者と聖女が揃う事はまれだ。今でなければ魔王を倒すことなど不可能だろうと。
魔王討伐のためには美野里も俺も完全になる必要がある。だからシャウシュカ様の試練を受けなくてはいけないと言ったのだ。
各国の王侯貴族は最初のうちは完全に汚染された土地を唯一浄化できる聖女を危険にさらすことに反対したが、それでも美野里の圧倒的な魔力があれば無限回復も不可能ではないことを知ると、渋々合意した。
しかし、シャウシュカ様の試練を受けるのならば、その試練に参加するメンバー10名。それを決定しなくてはいけなかった。
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