128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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第七十九話 第二夜

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 俺がシャウシュカ様の試練を受けるという事は、それに参加する仲間も最強でなくてはならない。
 しかし、俺達に剣技を指導してくれたヘンリー師範は最強の剣士であったが、防衛戦で皆と一緒に死んでしまった。
 残された剣士はヘンリー師範には及ばない。だが、俺達はヘンリー師範と同等の剣士を欲した。

「シャウシュカ様の試練を乗り越えるには、最強の兵が必要だ。
 少なくともヘンリー・マクドネル師範と同等の兵士がいる。それから魔法使い。あと槍使いがいるし、俺とウィリアムにも槍を持たせてくれ。」

 俺はさらに具体的に欲しい人員の数を言う。

「剣士は俺とウィリアム。それからあと4名欲しい。回復役にはアビゲイル先生と美野里がいるが、もう一人欲しい。それから土魔法の壁で防御できる奴が欲しい。その筋の精鋭を1名くれ。」

 パーティの構成を聞いて各国の有力者はグッドチョイスだと褒めてくれたが、その人選にはかなりの時間を要した。
 なにせ、この作戦に参加できることは相当に栄誉なことだし、誰もが自分たちが抱える兵士に自信を持っていた。
 だから誰もが「我が手の者が・・・・」「いや、我が手の者が・・・・」と、自慢の戦士を推薦する。そして、困ったことに彼らが推薦する戦士は確かにどれも甲乙つけがたいほど優秀な者ばかりだった。

 各国の有力者同士による喧々囂々けんけんごうごうの言い合いは混乱を極めたが、それもやがて意見がまとまり、4名の戦士に1名の回復役、防御壁を張れる者1名が無事に選出された。
 どれもトップクラスの選りすぐりであり、その高い実力は一目でわかった。

 こうして10名の挑戦者が選び出され、事に臨むことになった。
 3日3晩の試練の壁は高い。失敗すれば死ぬというとんでもないリスクを抱えている。
 だが、俺には密かに成功する自信があった。

 その自信の根拠は他でもない美野里の存在だ。
 この魔力タンクがいる限り、俺達が敗れることはないだろう。
 どれだけ傷ついても片っ端から回復させてくれる。

 だから後は美野里をどれだけ休ませながら3日間をやり過ごすかに勝負の行方は決まるのだ。
 そのために俺は防御壁を張る魔法使いを注文したのだ。
 美野里を中心に円陣防御を作り、土魔法で彼女を覆い隠す。そして、できるだけ美野里とアビゲイル先生にはそのなかで休息を取ってもらい、3日3晩をやり過ごす。
 同様の方法で交替交替で戦士も休ませる。持久戦には休息をいかにしてとるかにかかっている。俺達は念入りに陣形のローテーションを話し合い、一月の訓練を経て、シャウシュカ様の試練に挑戦することになった。

 そうして、準備万端にして試練に挑む。その前夜。
 こんな夢を見た。


 俺はシャウシュカ様の試練の間にいた。
 そこに来たのはもちろん初めてのことだったが、俺はそこがシャウシュカ様の試練の間であることは一目でわかった。

 何故なら以前から話を聞いていたし、なによりもそこには我が神と全裸の美しい女神がいたからだ。
 一糸まとわぬ姿の女神は、全てをさらけ出していてもなお恥じらう姿など見せない。いや、むしろ神に取って俺達は愛玩動物くらいの存在だ。ペットの犬猫に全裸を見られて恥じらうものが何処にいようか?

 その堂々とした姿に俺は、その女神がシャウシュカ様であることを何となく察していた。
 だから、跪いて頭を下げて「シャウシュカ様。いかなる御用でございますか?」と尋ねた。

 俺の態度を見てアスモデウス神わがかみは「仕方のない奴だ」と苦笑いをする。

「聞け、剣一。シャウシュカはお前と取引をするためにお前の夢枕に立ったのだ。
 俺はまぁ、その仲介役だな。」

 取引?
 
 想像もしていなかった言葉を聞いて俺はキョトンとした顔でアスモデウス神とシャウシュカ様を交互に見た。
 その様子が面白かったのかシャウシュカ様は楽しそうに笑った。

「ふふふ。面白い子ね。
 どうやらお前は自分が手にした女がどれほどの切り札カードか。その価値をわかっていないようですね。」

 俺が手にした女とは美野里のことに決まっている。
 だが、俺は美野里の価値には十分気が付いているつもりだ。しかし、神々の態度を見れば、美野里の力はそれ以上らしい。

 アスモデウス神とシャウシュカ様は交互に補足を加えて事情を説明してくださった。

「剣一、お前もだ。
 お前は薄いとはいえ鬼神の血が流れている。そして、その血はこの世界に来て覚醒している。
 それはお前の頭の角が証明する通りだ。」

「そして、美野里もお前が予想した通り異世界の地母神の血を引く者。
 レルワニが人類に異世界召喚の呪法を授けたとき、初代召喚者ティーティスがそれにある呪いを付与したのです。
 それは召喚された者たちが死の瞬間に放つ魂の輝きの力を蓄えて異世界から魔神を二組よびだす呪いです。
 16500年近くの時をかけて蓄積させた力によって異世界からお前たちは召喚され、その呪いを受けてお前たちは先祖がえりを果たしたのです。」

 ・・・・そうか。占いの神アドゥンタリ神もそんなことを言っていたな。

「つまり。俺と美野里は無選別にこの世界に召喚されたのではなくて、パノティアを救うために16500年の時をかけてこの世界に召喚された。
 それは、そもそも運命であった・・・・・と?」

「・・・・」

 俺の問いかけにシャウシュカ様は沈黙なされた。
 その沈黙に応えるようにアスモデウス神が説明の続きを成される。

「パノティアを救うため・・・・か。
 それは半分正しくて、半分間違っている。」

 ・・・・半分間違っている?

 アスモデウス神は俺の心の疑問を見透かして説明を続けた。

「お前たちの勝利が必ずしもこの世界に住む者たちにとっての正義ではないという事だ。
 お前は見ただろう?
 鬼たちが自分達の王を殺されて泣いて悲しむ姿を。
 狂気に染まっていたはずの魔将軍が部下の死を見て我に返る姿を。
 あの者たちにも心があり、正義があるという事だ。つまり・・・・・」

 つまり。つまり、俺達が勝つことが必ずしもこの世界の正義とは言えないとは、そう言う意味か・・・・。

「聞きなさい、剣一。
 私はアアスにもウルにも偏って味方をするつもりはありません。
 だって、どちらも私の大切なお友達なのですもの。
 だから私はアアスとアアスの子供たちが死んでいくのを見てはいられません。
 ですが、このままではお前と美野里が私の試練を受ければ、その過程の中で完全に覚醒します。
 魔王イルルヤンカシュは神に等しい存在ですが、お前達二人がその体に流れる神の血に完全に目覚めてしまえば、勝ち目はないのです。」

 そこまで説明を聞いて俺は「取引」の意味を理解した。

「つまり、大勝してはならないと?
 ですが、ここで完全に勝っておかないと魔王軍が巻き返して来たら人類は滅びます。
 高崎播磨のもたらした異世界の呪法をご覧になられたでしょう?
 蟲毒の術で強化された魔王軍をこのまま見過ごせば、100年後、200年後には、とんでもない数に増えて襲い掛かってきます。
 そうなれば、結局、人類は魔物に滅ぼされてしまいます。
 どちらに味方しても半分の正義が生き残り、半分の正義が滅びるのです。」

 俺がそう反論すると、シャウシュカ様は「だからこその取引なのです。」と言って笑った。
 アスモデウス神も笑った。

「だからこそだ。だからこそ、お前に頼むのだよ。
 蟲毒の術が強力だったようにお前の信仰の在り方も又、強力だ。
 なぜなら邪神アスモデウスと恐れられた私をお前は変えてしまったのだから。
 ここまで言えば、何の話か分かるだろう?
 双方を救うために、全ての原因である地母神アアス。我が母に、お前が何をしてやるのがいいか・・・・・。
 否。お前に何ができるのか?」


 そう言われて俺はハッとなった。

「・・・・まさか、そんなことを?
 そんな大それたことを俺に出来るわけがないっ!」

 アスモデウス神の仰っておられる意味を悟った俺は、何を言われているのか悟って慌てた。
 だが、アスモデウス神はそんな俺をお許しには、なられなかった。

「これはお前にしかできないのだ。」

 そんな夢を見た・・・・・。
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