128人目の勇者と聖女になった男の子の話

黒神譚

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最終話 ウェディングドレス

 朝、目が覚めると俺はシャウシュカ様の神殿近くの宿のベッドの上だった。
 本日。俺は10名の仲間と共にシャウシュカ様の試練を受けることになっている。

 ベッドの隣を見ると昨夜一晩、『兄貴』をしてやったウィリアムは俺の部屋に泊まったことを皆に見られたくないらしく既に部屋を立っていた。俺はベッドから体を起こすと昨日見た夢を思い出していた。

 そして我が神アスモデウスとシャウシュカ様の仰ったことの意味を考える。
 シャウシュカ様の試練を受ける中で俺と美野里は更なる覚醒を果たし、魔王イルルヤンカシュを討ち倒し勝利を確定するだろうと。

 これは、神が言うのだから疑いようがなく確定事項なのだろう。
 破軍星の宿星であるシャウシュカ様の仰ることだから、避けがたい運命なのだろう。
 だから俺は試練に立ち向かう事に何の恐れも疑いも感じてはいない。
 問題はそれ以降のことなのだ。

 神々は人間側が圧勝し、魔王軍を滅ぼすことを望まれていない。
 また逆に魔王軍が巻き返して勝利することも望まれていない。

 望まれていることは一つ。それは俺の在り方だ。
 神道の信仰の在り方が荒魂あらみたまであった我が神を和魂にぎみたまへと変えた。その俺にしかできぬ事を神々は望まれている。
 昨日の神夢の内容を思い起こせば、それは疑いようのないことだ。

 しかし、そんなことが果たして俺に出来る事なのだろうか?

 この世界を形成している地母神アアスの怒りを鎮め、和魂に戻すなんて・・・・。
 これは大役だ。神主の家に生まれたとはいえ、俺はまだまだ半人前。
 そんなことが俺に出来るのだろうか?

 俺は自分の肩に背負わされた重荷プレッシャーに気分が落ち込んでしまった。
 しかし、本日は試練に向かう決戦の日。
 大将の俺が凹んでいては、仲間の士気に係わるというもの。いかに運命的に決まっている事とはいえ、陰気は悪い運勢を生み出してしまうものだ。運命を変えかねない。

 俺は相撲取りのように両平手で自分の顔をパチンパチンと叩き鳴らすと「よしっ!」と、気合を入れて部屋を出る。
 気分を入れ替えよう。試練のことだけに集中しなくてはいけない。全員の命が俺の采配一つで狂うのだから。
 そう思って部屋の扉を開けると、ちょうどウィリアムも自分の部屋のドアを開けて廊下に出て来ていた時だった。

「おっ! おはよう。お前もこれから顔を洗いに行くのか?」

「おはよう、剣一。一緒に行くか?」

 ウィリアムは嬉しそうに俺のそばに走って来た。
 思えば、こいつはずっと俺に仲良くしてくれていたな・・・・。

「・・・・・ありがとうな。ウィリアム。」

「何だよ、急にあらたまって。」

 つい出た何気ない感謝の言葉だったが、ウィリアムは気味悪がって問いただす。

「いや。思えばお前は最初から俺に偏見を持たずに接してくれていたなって。
 おかげでお前は俺の生涯最良の友になった。
 本当に感謝しているよ。」

 俺がそう言うとウィリアムは照れたのか、真っ赤な顔で「バカ言いやがって」と茶化すと、一瞬、真顔になって答えた。

「そうでもないさ。最初は俺もお前のことを色眼鏡で見てた。
 ただ、立場上。ちゃんとしてないといけないと思って接しただけだ。」

「・・・・!!
 そうだったのか?」

 意外な言葉に俺はショックを受けた。だが、ウィリアムは俺のショックが大きくなる前にすぐに言葉を続けた。

「だけど。剣術勝負が決まって、木剣持ったお前が一歩一歩、俺に向かって近づいてくる姿を見て、俺はお前に脅威を感じた。歩く姿から、お前が只者ではないと感じたからだ。
 『今日、俺は初めて同世代の男に負けるかもしれない。』そんな恐怖も覚えた。
 同時に生まれて初めて対等な存在に出会えたかもしれない感動に喜びを感じていた。
 そして、その予想通り。お前は最強だった。俺はそれが堪らなくうれしかった。楽しかった。
 それまで俺は孤独だった。孤高の存在だった。
 否、孤高の存在として生きていかないといけない運命を背負っていた。だから模範生徒であり続けた。皆の目標であり続けた。
 でも本当は俺も皆と一緒に生きていたかった。普通に対等の友達が欲しかったんだよ。
 だが、あの日。あの時。お前に敗れて俺は解き放たれたんだ。
 きっと、お前にもわかるだろう? 俺のこの気持ち。
 あの日の一戦は俺にとって生涯忘れられない思い出となったんだ。
 覚えているか? あの時、共に切磋琢磨を誓い合って抱き締めあったことを。
 あの時ほど同級生に感謝したことはなかった。
 だから、礼を言うのはこっちも同じさ。
 剣一。友達になってくれてありがとう。」

 ウィリアムは珍しく一方的にしゃべり倒した。その様子からウィリアムが本心で喜んでいることが分かった。
 俺はウィリアムによって解放されたけれども、ウィリアムもまた、俺と言う存在を得て解放されたというのだ。
 
 俺達はお互いの気持ちを確かめ合うと、無言で抱き締めあった。
 この気持ちは誰にもわからない。
 孤高の世界にいた者同士でなければ、この感動は誰にもわからない。

 ・・・・・・だというのに・・・・・。

「わぁっ! 朝から男同士で全力で抱き合って、いやらしいんだぁ~~~。」

 などと、美野里が茶化してきた。どうやら、こいつも何用かあって廊下に出て来ていたらしい。
 俺とウィリアムの美しい友情の姿を「いやらしい」とは、不心得ふこころえ千万せんばんなっ!
 俺達を興味深そうな目で見ながら美野里は通り過ぎていく。
 その背中に文句の一つも言ってやろうかと思ったけれど、いつまで俺を抱きしめて離さないウィリアムのせいでそんなことを言える空気ではなかったのだ。

 くそう。覚えていろ。あとで泣くほどプニ乳揉んでやるんだからなっ!!


 などとバカなことをやりながらも、俺達は朝の支度を終えてシャウシュカ様の神殿へと向かう。
 険しい山道なので馬車は使えずに、それぞれが騎乗しての移動となる。
 
「剣一。お前は馬の扱いもうまいな。
 不思議だ。科学とやらが発達している異世界でも馬に乗る習慣が残っているのか?」

 山道だというのに美野里と相乗りしながら、難なく馬を乗りこなす俺を見てウィリアムが不思議そうに聞いた。

「別に・・・・。俺の家は神官の家だからな。実家には神に捧げる馬がいた。毎年、春になったらその馬に乗って弓を打つ神事もあってな。そのおかげで馬の扱いには慣れているのさ。」

「へぇ~~~。剣一君、流鏑馬やぶさめもやるんだ。凄いね。」

 相乗りする美野里も感心したように口を挟んできた。

「きっと、高崎播磨も馬の扱いは上手かっただろうな・・・・・。」

 俺がポツリとそう言うと、美野里は小声で「私達二人を見守ってくれているかな?」と聞く。

「勿論さ。墓を建てて弔ってやった俺達をあの高潔な男が恨むわけがない。」

 と答えてやると美野里は嬉しそうに「そうだね。」と言って笑った。
 
 
 実は・・・・。皆には内緒だけれども、あの決戦の後に俺と美野里だけで高崎播磨を基地から外れた丘の上に墓を建てて弔っていた。
 その場所は皆にバレにくい場所を選んだ。バレたら墓が壊されるからな。しかしそこはしくもパンが魔法陣を作った丘でとても見晴らしがよく、天体観測には最高の場所で陰陽師の高崎播磨にとって最高の墓地になっただろう。

 高崎播磨。江戸時代の人。何の因果か俺達が異世界に来たあおりで異世界に飛ばされたという悲運の人だった。
 それでも彼は最後まで見事にその役を演じきった。
 日本人の俺達にとってその死に様は共感できるもので、例え数多くの人を殺した敵とはいえ野ざらしにすることが出来なかったんだ。
 その高崎播磨の墓を前に二人で手を合わせて冥福を祈ったんだ。

 これは俺達だけの秘密。秘密の思い出だ。





「・・・・・ねぇ、この戦いが終わったらどうするの?」
 
 神殿に向かう美野里が唐突に。それでいて小声で俺にそう尋ねた。
 美野里が尋ねているのは、シャウシュカ様の試練の話だけではない。魔物との戦いの話だ。
 俺は気軽にプランを話してやる。
 不思議だ。朝一人でいたときのプレッシャーなんか美野里といると感じていない。

「シャウシュカ様の試練を終えたら、俺達は無敵になるだろうな。」

「うん、そうだね。」

「だからさ、皆には内緒だぜ。俺は魔物を許してやろうと思う。」

「・・・・・うん?」

 美野里は俺の言葉に首を傾げつつも了承する。

「俺はさ。神社の息子としての責務を果たさないといけない。
 魔王も魔王を産んだ地母神アアスもきちんとお祀りしてお鎮めしないといけない。
 だって、ただ殺し殺すだけなら地母神アアスは未来永劫、瘴気を発して魔物を産み続けるだろう?
 だからさ。俺が神官としてお鎮めする。そして、神も魔物も人間も幸せにしてやりたいのさ。最高だろ?」

「おお~~~・・・・。」

 俺の説明を受けた美野里は感動したかのようにため息をついた。
 ただ、それはどうやら美野里の聞きたい話じゃないらしい。

「凄いけど・・・・・そういうことじゃなくってさぁ・・・・」

「うん? そういうことじゃない?」

 唇と尖らせてそういう美野里に俺はオウム返しに尋ねる。

「私と剣一君の今後のは・な・しっ!」

 なんだ・・・・・そんなことか。
 俺はそれについても話して聞かせる。

「決まってる。全てが終わったら結婚式さ。」

 簡潔に俺がそう言うと、美野里はしばらくうつむいて肩を震わせた。
 それからしばらくすると真っ赤になった顔を起こして、そして今にも涙がこぼれそうなほど潤んだ瞳で聞き返す。

「・・・・え、えへへ・・・
 でも、私。まだプロポーズしてもらってないけれど?」

 悪戯っぽく聞く美野里。
 俺はその期待に応えてやる。

「任せろ。あとでとっておきのプロポーズの言葉を聞かせてやる。
 その代わり、美野里。お前わかっていると思うけど、ウェディングドレスの下には・・・・・」

 俺がそういうと美野里も心得たもので

「ガーターベルトでしょ? もう。本当にエッチなんだから・・・・・」

 そう言って、恥ずかしそうに。でもそれでいてどこか嬉しそうに笑うのだった。
 その笑顔は、あの日。あの時。初めて俺にガーターベルト姿を披露してくれたあの時と同じように魅力的だった。

 そんな幸せな俺達を乗せた馬は山を登る。
 山道のだけの話じゃない。俺達の未来への道の話だ。

 でも、どんな困難が待ち構える未来だろうと乗り越えて見せるさ。
 ガーターベルトのお前がいてくれるのなら・・・・・



~128人目の勇者と聖女になった男の子の話~
 Fin
 
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