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バードストライク
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その悪夢のような事件が始まったのはちょうど小鳥 遊一(ことり ゆういち)が8歳の頃だった。
「キーン、キーン、着陸しまーす」
小鳥 遊一(ことり ゆういち)は夏休みの北海道旅行の為に両親に連れられて関西国際空港の旅客機に乗り込んでいた。売店で飛行機の模型を買ってもらえたのでとても上機嫌である。
彼は元空軍パイロットだった大好きな祖父の影響もあってか、物心ついたころから飛行機が好きだった。模型作りや図鑑鑑賞に明け暮れて、子供でありながら飛行機の種類や名前を大人に語って聞かせられるほどのオタクっぷりである。その中でも一番の宝物は彼が額に付けている、かつて亡くなった祖父の形見のでっかいゴーグルだった。
「ホラ、遊ちゃん。じっとして席に座ってベルトを締めなさい。もうすぐ発進するわよ」
初めて本物の飛行機に乗り込む事に興奮しているのを母親になだめられながら一番窓際の席につく。やがてフライト開始のアナウンスとともに機体は加速して離陸していった。
「わーっ、飛んだ!! すごい、すごい!!」
離陸時のあの独特の浮遊感に緊張しながらも、みるみるうちに地上から遠ざかっていく景色に小鳥遊一は興奮した。
地上とは比べものにならないくらいの広大な空間である青い空。いつもは遥か上空にしかいない雲がすぐ傍に見える光景はまるで夢のようだった。
「おれ、大きくなったら絶対にパイロットになるんだ!! こんな広い空を飛び回ってみたい!」
小鳥 遊一は窓の外の景色にいつまでも釘付けにになりながら両親に将来の夢を語る。
「うふふ、じゃあこれからはたくさんお勉強しないといけませんね」
離陸後もずっと窓から顔を離そうとはしない小鳥遊一を横目になだめながら本やら新聞やらを読みはじめる両親。
「ん? なんだあれ…………?」
その時だった。なにやら謎の飛行物のような影が一瞬、窓の外を横切ったように見えた。
しかし、周りを見渡しても両親や乗客の誰も気付いた様子は無い。なにかの見間違いではないかと思い、再び窓の外を確認しようとしたその時だった。
「わああっっ!?」
突然、機体への衝撃と揺れとともに、窓ガラス外側に血のような液体の雨が降り注いだ。
「なんだ!? 何が起こった!?」
異変に気付いた乗客たちが騒ぎ出す。
「落ち着いてください、お客様。バードストライクが発生いたしました! これより当機は不時着体勢に入ります!!」
血しぶきで赤く染まった窓の合間から外を見ると、どこからともなく現れた鳥たちが機体の翼やエンジンに群がっているのが見えた。
その鳥たちは翼を齧り、気でも狂ったかのように次々とエンジンに自身の身を投じてギチギチに詰まらせてゆく。中からはどす黒い血と肉塊が溢れ出している。
やがて、機体はものすごい数の謎の鳥たちに覆い尽くされて窓の外は真っ黒になり、コントロールを失っていった。
「あ……あ…………!」
次の瞬間にはもう翼がバラバラになった機体が落下を始めて、体は宙に浮いていた。停電で視界が真っ暗になって上も下もわからない。
この世のものとは思えない光景に理解が追い付かず、うすぼんやりと鳥たちに覆い尽くされてゆく窓の隙間から見える青い空の最後の光を眺めていた………………………………
「ゲボッ……ガハッ…………」
異臭に目を覚まし、気がつくと周りは瓦礫だらけになっていた。身体は半分埋もれていて、必死に這いずって起き上がる。
どうやら小鳥遊一の乗っていた飛行機は墜落してしまったようだった。奇跡的に彼だけが生き残ったようで、辺りには他の乗客たちの遺体がバラバラに散乱していてその肉にさっきの鳥たちが群がって貪っている。どうやらコイツらは信じられないことに人間の肉が目当てだったらしい。
「お母さん……お父さん…………どこ行ったの……? ぐるじい……返事して…………!」
焼け付くような悪夢の光景を目の当たりにして、小鳥遊一はフラフラと歩き出す。
その時、彼の目の前に一羽の青い鳥が舞い降りた。その鳥はさっきまでの飛行機を襲った灰色の地味な鳥たちとはうって変わっていて、幻覚と見紛うくらいの美しい羽根を持った青い鳥だった。だが、その美しさとは裏腹に残酷な現実が突きつけられる。
「…………何やってんだよ……、そこどけよ………………」
その青い鳥が舞い降りて喰っていたのは小鳥遊一の両親が折り重なって死んでいる遺体だった。青い鳥はとぼけた顔でピィと鳴きながら旨そうに喰っている。
「なんで……なんでなんだよ…………、鳥なんかがなんで人間を喰ってるんだよ……! ふざけんなよ!!」
両親の死体を目の前にして、絶望と怒りのあまりに彼の中の何かが壊れる音がした。
「全部……全部おまえらのせいなんだな…………こうなったのも何もかも………………」
ヨロヨロとした足取りで青い鳥に近づく小鳥遊一。そして、ゆっくりと手をのばした。
「………………だから……、今度はおれが…………! おまえら鳥どもを全員、喰いつくしてやるッ!!」
彼は一瞬で青い鳥を鷲掴みにして捕まえると、今度はそれを一心不乱に凄まじい形相で生のまま喰らいつく。
首を喰い千切って血まみれになりながら、骨をバリバリと噛み砕く。異様な生臭さ、羽根ごとむしり取るブチブチとした音。それでも彼は一向に喰うのをやめようとはしない。むしろ美味しいと感じる自分がどこかに芽生えてきているのが恐ろしかった。まるで手を止められない。
やがて彼は喰い散らかしきった後に意識を失って倒れたのであった………………………………。
「キーン、キーン、着陸しまーす」
小鳥 遊一(ことり ゆういち)は夏休みの北海道旅行の為に両親に連れられて関西国際空港の旅客機に乗り込んでいた。売店で飛行機の模型を買ってもらえたのでとても上機嫌である。
彼は元空軍パイロットだった大好きな祖父の影響もあってか、物心ついたころから飛行機が好きだった。模型作りや図鑑鑑賞に明け暮れて、子供でありながら飛行機の種類や名前を大人に語って聞かせられるほどのオタクっぷりである。その中でも一番の宝物は彼が額に付けている、かつて亡くなった祖父の形見のでっかいゴーグルだった。
「ホラ、遊ちゃん。じっとして席に座ってベルトを締めなさい。もうすぐ発進するわよ」
初めて本物の飛行機に乗り込む事に興奮しているのを母親になだめられながら一番窓際の席につく。やがてフライト開始のアナウンスとともに機体は加速して離陸していった。
「わーっ、飛んだ!! すごい、すごい!!」
離陸時のあの独特の浮遊感に緊張しながらも、みるみるうちに地上から遠ざかっていく景色に小鳥遊一は興奮した。
地上とは比べものにならないくらいの広大な空間である青い空。いつもは遥か上空にしかいない雲がすぐ傍に見える光景はまるで夢のようだった。
「おれ、大きくなったら絶対にパイロットになるんだ!! こんな広い空を飛び回ってみたい!」
小鳥 遊一は窓の外の景色にいつまでも釘付けにになりながら両親に将来の夢を語る。
「うふふ、じゃあこれからはたくさんお勉強しないといけませんね」
離陸後もずっと窓から顔を離そうとはしない小鳥遊一を横目になだめながら本やら新聞やらを読みはじめる両親。
「ん? なんだあれ…………?」
その時だった。なにやら謎の飛行物のような影が一瞬、窓の外を横切ったように見えた。
しかし、周りを見渡しても両親や乗客の誰も気付いた様子は無い。なにかの見間違いではないかと思い、再び窓の外を確認しようとしたその時だった。
「わああっっ!?」
突然、機体への衝撃と揺れとともに、窓ガラス外側に血のような液体の雨が降り注いだ。
「なんだ!? 何が起こった!?」
異変に気付いた乗客たちが騒ぎ出す。
「落ち着いてください、お客様。バードストライクが発生いたしました! これより当機は不時着体勢に入ります!!」
血しぶきで赤く染まった窓の合間から外を見ると、どこからともなく現れた鳥たちが機体の翼やエンジンに群がっているのが見えた。
その鳥たちは翼を齧り、気でも狂ったかのように次々とエンジンに自身の身を投じてギチギチに詰まらせてゆく。中からはどす黒い血と肉塊が溢れ出している。
やがて、機体はものすごい数の謎の鳥たちに覆い尽くされて窓の外は真っ黒になり、コントロールを失っていった。
「あ……あ…………!」
次の瞬間にはもう翼がバラバラになった機体が落下を始めて、体は宙に浮いていた。停電で視界が真っ暗になって上も下もわからない。
この世のものとは思えない光景に理解が追い付かず、うすぼんやりと鳥たちに覆い尽くされてゆく窓の隙間から見える青い空の最後の光を眺めていた………………………………
「ゲボッ……ガハッ…………」
異臭に目を覚まし、気がつくと周りは瓦礫だらけになっていた。身体は半分埋もれていて、必死に這いずって起き上がる。
どうやら小鳥遊一の乗っていた飛行機は墜落してしまったようだった。奇跡的に彼だけが生き残ったようで、辺りには他の乗客たちの遺体がバラバラに散乱していてその肉にさっきの鳥たちが群がって貪っている。どうやらコイツらは信じられないことに人間の肉が目当てだったらしい。
「お母さん……お父さん…………どこ行ったの……? ぐるじい……返事して…………!」
焼け付くような悪夢の光景を目の当たりにして、小鳥遊一はフラフラと歩き出す。
その時、彼の目の前に一羽の青い鳥が舞い降りた。その鳥はさっきまでの飛行機を襲った灰色の地味な鳥たちとはうって変わっていて、幻覚と見紛うくらいの美しい羽根を持った青い鳥だった。だが、その美しさとは裏腹に残酷な現実が突きつけられる。
「…………何やってんだよ……、そこどけよ………………」
その青い鳥が舞い降りて喰っていたのは小鳥遊一の両親が折り重なって死んでいる遺体だった。青い鳥はとぼけた顔でピィと鳴きながら旨そうに喰っている。
「なんで……なんでなんだよ…………、鳥なんかがなんで人間を喰ってるんだよ……! ふざけんなよ!!」
両親の死体を目の前にして、絶望と怒りのあまりに彼の中の何かが壊れる音がした。
「全部……全部おまえらのせいなんだな…………こうなったのも何もかも………………」
ヨロヨロとした足取りで青い鳥に近づく小鳥遊一。そして、ゆっくりと手をのばした。
「………………だから……、今度はおれが…………! おまえら鳥どもを全員、喰いつくしてやるッ!!」
彼は一瞬で青い鳥を鷲掴みにして捕まえると、今度はそれを一心不乱に凄まじい形相で生のまま喰らいつく。
首を喰い千切って血まみれになりながら、骨をバリバリと噛み砕く。異様な生臭さ、羽根ごとむしり取るブチブチとした音。それでも彼は一向に喰うのをやめようとはしない。むしろ美味しいと感じる自分がどこかに芽生えてきているのが恐ろしかった。まるで手を止められない。
やがて彼は喰い散らかしきった後に意識を失って倒れたのであった………………………………。
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