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炉心融解<メルトダウン>
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「ほう、これはこれは……」
リーゼルはまだなんとか生きていた。斬撃を喰らう瞬間に右側の背中からナブラの羽を出現させて、そこから斬撃を受けたのである。それをクッション替わりに、後方へ吹き飛ぶ事でどうにか致命的な斬撃は受けずに済んだのである。しかし、壁がめり込む程に叩きつけられた彼女は頭から血を流し、アバラも何本か折れてしまっているようだった。おまけに、脳震盪で視界がクラクラしてしまっている。
「右肩の羽でなんとか防いだか……。だがもう、その羽では翔べはしまい……」
リーゼルの羽はもう、斬り裂かれた痕がドロドロに溶けてしまっていて使い物にならなくなってしまっていた。こうなると、コイツはもう切り離して新たな羽を生成するしかないのだが、今はそんな時間は無い。
「何よソレ……、ウソでしょ? ガード不能のプルトニウム燃料棒だなんて……、そんな臨界炉心を武器として振り回すなんてどうかしてるっ……!」
「……ご名答、臨界針―――『炉心融解(メルトダウン)』。これが私の所有する演算子の正体だよ。何物をも熔かすこの高温の槍先は、ありとあらゆる防御を貫通する。どんな小細工もこの槍には通用しないのさ」
「流石は、世界で初めて原子炉を発明した男ね……。イカれてるわ」
「フン、褒め言葉と受け取っておくよ。お嬢さん(シニョリーナ)」
フェルミは槍をリーゼルの頭へと振り降ろす。凄まじい熱気を放つその穂先は、熔けた金属そのものだった。
「さらばだ、名も無き量子力学(クオンタム)の寵児よ――――」
あわや、脳ミソまで熔かされるかと思ったその瞬間、岩平は横から飛び出して、フェルミの横っ面を殴りつけ、不意打ちを喰らわせる。
「なにっ!?」
「うおおおおおおッ!!!」
「エンリコっ!?」
衝撃でフェルミは数メートル吹っ飛んだ。彼は受け身を取った後、及川を護衛する為に慌てて岩平たちから一旦距離を取る。
「無事か!? リーゼル!」
「ばっ、馬鹿! なんで出て来たがんぺー!? 奴は核の力を使うんだぞ! あんなの普通の人間じゃ、一発でも喰らえばお終いだ!」
「フン、知るかよ。どんな攻撃も、喰らいさえしなければ一緒だろ」
岩平はリーゼルの忠告を無視してフェルミへと、鎖を巻いた拳を構える。
「勇敢な少年だな。この私にそんな丸腰同然で立ち向かうとは……」
「約束したんでね。リーゼルの前にあの父親を引きずり出してきっと謝らせると……。だから俺は死なせもしねぇし、逃げもしない!」
後ろでリーゼルが必死に、岩平だけでも逃げろだとか、自分の事はもう見捨てろとか叫んでいたが、もう岩平には聞こえなかった。岩平の眼に映るのは目の前の敵だけである。それどころか、指をクイクイして相手を挑発する。
「さっさと来いよ、原発野郎」
「生き急ぐ若者とは愚かだな……」
挑発に乗ったフェルミは、次々と槍を振り回して岩平を攻撃しようとする。岩平は持ち前の身の軽さでそれらをなんとか躱すが、次第に追い詰められていってるのも確かだった。
「ホラホラどうしました? 避けるばかりでは勝てませんよ?」
「くっ……」
かなりの危機的状況だったが、それでも岩平の中ではある考えが、頭から離れなかった。それは、さっきからリーゼルが力を使って、岩平の中の計算資源(リソース)が消費される時に感じた感覚についての事である。
―さっき、気付いた事がある……。
―リーゼルが物質波(マター・ウェーブ)の技を使ったあの時だ。その時、俺の左手の数式を介して俺の中の生命力、『ネゲントロピー』とやらが消費された。以前と違ったのはそれだ。本を介してでは無い、直接俺の身体から計算資源(リソース)を取り出して、物理演算(シミュレート)に使われるあの感覚……。
―もし、俺の勘が正しければ……、俺はあの感覚を前からよく知っている! 毎日ジジイに鍛えさせられた、あの感覚を!
「もし、あれが使えれば……」
それは、岩平が電気屋のバイトで毎日やっていた事だった。電化製品をある一定の角度で叩いて放電現象を出し、修理してしまう謎の作業。だが岩平にとって、その時の感覚は、リーゼルが物理演算(シミュレート)を使う時の感覚と明らかに酷似していた。そう、岩平はあの時の作業と、物理演算(シミュレート)は実は同じものだという事に気付いたのである。
「こざかしいっ!」
ちょこまかと躱す岩平に、イラつき始めてきたフェルミはここぞという時に槍が大振りになってしまう。それをギリギリで避けた岩平は、その隙に間髪入れずフェルミの左側頭部へ蹴りを入れた。
「フッ、引っかかったな」
しかし、当たったかに思われたその蹴りは、直前に右手によってガードされていた。今の隙はわざとだったのだ。まずい事に、そのままフェルミに足を弾かれ、岩平は体勢を崩してしまう。
「そうら! これなら避けられまい!」
岩平の眼前に、燃料棒の突きが迫る。倒れたこの姿勢ではもはや、身体をひねって躱すのは不可能だった。
「そんな、そんなっ……、がんぺぇぇーいいいっ!!」
激しい土煙と蒸気が辺りを舞って、一時的に視界を遮る。
その直前、岩平ごと地面にコンパスが突き立てられ、貫かれる光景を見たリーゼルは、絶望で膝から崩れ落ちた。
「……簡単な話だ。お前の刃がガードを全て貫通すると言うならば―――――」
しかし、貫かれたハズの岩平からは声がしている。よく見ると、岩平は実は貫かれてなどいなかったのだ。突き立てられたコンパスは、軌道を曲げられて、岩平の顔面横の地面に突き刺さっている。
そう、岩平は右手から何らかの物理演算(シミュレート)を発動させ、攻撃の軌道をズラしたのだ。
「――――触れずにガードすればいい!!!」
フェルミは驚愕の眼でそれを見つめていた。
何故なら、軌道を変えた岩平の右手の甲には、ある数式が浮かび上がっていたからである。
その数式は、『磁力』を表す数式だった―――――
リーゼルはまだなんとか生きていた。斬撃を喰らう瞬間に右側の背中からナブラの羽を出現させて、そこから斬撃を受けたのである。それをクッション替わりに、後方へ吹き飛ぶ事でどうにか致命的な斬撃は受けずに済んだのである。しかし、壁がめり込む程に叩きつけられた彼女は頭から血を流し、アバラも何本か折れてしまっているようだった。おまけに、脳震盪で視界がクラクラしてしまっている。
「右肩の羽でなんとか防いだか……。だがもう、その羽では翔べはしまい……」
リーゼルの羽はもう、斬り裂かれた痕がドロドロに溶けてしまっていて使い物にならなくなってしまっていた。こうなると、コイツはもう切り離して新たな羽を生成するしかないのだが、今はそんな時間は無い。
「何よソレ……、ウソでしょ? ガード不能のプルトニウム燃料棒だなんて……、そんな臨界炉心を武器として振り回すなんてどうかしてるっ……!」
「……ご名答、臨界針―――『炉心融解(メルトダウン)』。これが私の所有する演算子の正体だよ。何物をも熔かすこの高温の槍先は、ありとあらゆる防御を貫通する。どんな小細工もこの槍には通用しないのさ」
「流石は、世界で初めて原子炉を発明した男ね……。イカれてるわ」
「フン、褒め言葉と受け取っておくよ。お嬢さん(シニョリーナ)」
フェルミは槍をリーゼルの頭へと振り降ろす。凄まじい熱気を放つその穂先は、熔けた金属そのものだった。
「さらばだ、名も無き量子力学(クオンタム)の寵児よ――――」
あわや、脳ミソまで熔かされるかと思ったその瞬間、岩平は横から飛び出して、フェルミの横っ面を殴りつけ、不意打ちを喰らわせる。
「なにっ!?」
「うおおおおおおッ!!!」
「エンリコっ!?」
衝撃でフェルミは数メートル吹っ飛んだ。彼は受け身を取った後、及川を護衛する為に慌てて岩平たちから一旦距離を取る。
「無事か!? リーゼル!」
「ばっ、馬鹿! なんで出て来たがんぺー!? 奴は核の力を使うんだぞ! あんなの普通の人間じゃ、一発でも喰らえばお終いだ!」
「フン、知るかよ。どんな攻撃も、喰らいさえしなければ一緒だろ」
岩平はリーゼルの忠告を無視してフェルミへと、鎖を巻いた拳を構える。
「勇敢な少年だな。この私にそんな丸腰同然で立ち向かうとは……」
「約束したんでね。リーゼルの前にあの父親を引きずり出してきっと謝らせると……。だから俺は死なせもしねぇし、逃げもしない!」
後ろでリーゼルが必死に、岩平だけでも逃げろだとか、自分の事はもう見捨てろとか叫んでいたが、もう岩平には聞こえなかった。岩平の眼に映るのは目の前の敵だけである。それどころか、指をクイクイして相手を挑発する。
「さっさと来いよ、原発野郎」
「生き急ぐ若者とは愚かだな……」
挑発に乗ったフェルミは、次々と槍を振り回して岩平を攻撃しようとする。岩平は持ち前の身の軽さでそれらをなんとか躱すが、次第に追い詰められていってるのも確かだった。
「ホラホラどうしました? 避けるばかりでは勝てませんよ?」
「くっ……」
かなりの危機的状況だったが、それでも岩平の中ではある考えが、頭から離れなかった。それは、さっきからリーゼルが力を使って、岩平の中の計算資源(リソース)が消費される時に感じた感覚についての事である。
―さっき、気付いた事がある……。
―リーゼルが物質波(マター・ウェーブ)の技を使ったあの時だ。その時、俺の左手の数式を介して俺の中の生命力、『ネゲントロピー』とやらが消費された。以前と違ったのはそれだ。本を介してでは無い、直接俺の身体から計算資源(リソース)を取り出して、物理演算(シミュレート)に使われるあの感覚……。
―もし、俺の勘が正しければ……、俺はあの感覚を前からよく知っている! 毎日ジジイに鍛えさせられた、あの感覚を!
「もし、あれが使えれば……」
それは、岩平が電気屋のバイトで毎日やっていた事だった。電化製品をある一定の角度で叩いて放電現象を出し、修理してしまう謎の作業。だが岩平にとって、その時の感覚は、リーゼルが物理演算(シミュレート)を使う時の感覚と明らかに酷似していた。そう、岩平はあの時の作業と、物理演算(シミュレート)は実は同じものだという事に気付いたのである。
「こざかしいっ!」
ちょこまかと躱す岩平に、イラつき始めてきたフェルミはここぞという時に槍が大振りになってしまう。それをギリギリで避けた岩平は、その隙に間髪入れずフェルミの左側頭部へ蹴りを入れた。
「フッ、引っかかったな」
しかし、当たったかに思われたその蹴りは、直前に右手によってガードされていた。今の隙はわざとだったのだ。まずい事に、そのままフェルミに足を弾かれ、岩平は体勢を崩してしまう。
「そうら! これなら避けられまい!」
岩平の眼前に、燃料棒の突きが迫る。倒れたこの姿勢ではもはや、身体をひねって躱すのは不可能だった。
「そんな、そんなっ……、がんぺぇぇーいいいっ!!」
激しい土煙と蒸気が辺りを舞って、一時的に視界を遮る。
その直前、岩平ごと地面にコンパスが突き立てられ、貫かれる光景を見たリーゼルは、絶望で膝から崩れ落ちた。
「……簡単な話だ。お前の刃がガードを全て貫通すると言うならば―――――」
しかし、貫かれたハズの岩平からは声がしている。よく見ると、岩平は実は貫かれてなどいなかったのだ。突き立てられたコンパスは、軌道を曲げられて、岩平の顔面横の地面に突き刺さっている。
そう、岩平は右手から何らかの物理演算(シミュレート)を発動させ、攻撃の軌道をズラしたのだ。
「――――触れずにガードすればいい!!!」
フェルミは驚愕の眼でそれを見つめていた。
何故なら、軌道を変えた岩平の右手の甲には、ある数式が浮かび上がっていたからである。
その数式は、『磁力』を表す数式だった―――――
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