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悪魔の頭脳、フォン・ノイマン。
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ショッピングモール屋上はヒビ割れ、放電が四方八方へと飛び散った。破砕されたコンクリートの土煙が舞う。その上に姿を現したのは、岩平が右の拳を突き出して立っている姿だった。
「くっ、なんでだ……。なんでまた止められる!?」
岩平は信じられないといった顔でその先を見つめていた。何故ならば、思いっきり不意打ちをかました筈なのに、涼しい顔をしたフォノンが眉一つ動かさずにその場に立っていたからである。それどころかまた素手で、岩平の拳が受け止められてしまっていた。
「フン……。この程度でワタクシを倒す気なら、片腹痛いわよ。こんな磁力、電気エネルギーに変換してしまって受け流す事くらい訳ないわ……」
フォノンが実行したのは電磁誘導の物理演算(シミュレート)だった。岩平の拳を喰らう直前に、磁力エネルギーを放電現象へと変換して、周囲へと受け流したのである。
「こんな瞬間的に磁力を出すだけの初等電磁気学、分野外のワタクシでも真似できるさ!」
次に、フォノンは信じられない行動をした。なんと、右手に磁力を纏って岩平の技をコピーで再現してみせたのだ。
「極磁拳――――!!」
「なぁあッ!?」
急いで左手でガードする岩平だったが、いきなりの事だったので、フォノンみたいに磁力までは受け流せない。そのまま岩平は衝撃で後方へと吹っ飛んでしまう。
「がんぺーっ!」
リーゼルは飛んで来る岩平を受け止めようと動く。だが、思うように体の動かないリーゼルは、体全体を使って受け止める事になってしまった。衝突した二人は床の上を転がりながら揉みくちゃになる。
「このおバカ! なんで来ちゃったのよ!? せっかくアタシが敵を引きつけたのに台無しじゃない! このバカバカ!」
「バカはそっちだ! 見捨てられるワケないだろう!?」
この期に及んで罵り合う二人を見て、フォノンはクスクスと笑い出す。
「うふふ、微笑ましいのね。なんだか妬けちゃうわ~❤ せっかくならその男、ワタクシが殺(もら)っちゃってもいーい?」
フォノンはまたサイコな笑顔で、ゆっくりと無数の行列計算式(マトリックス)を展開させる。もはや逃げ場は無かった。リーゼルは岩平を庇おうとするが、疲弊しきった彼女はもう立ち上がる事さえ出来ない。
「がんぺー! アンタだけでも……っ!」
「……逃げねェよ。お前がいなくなったら、皆が悲しむだろうが……」
岩平は逃げるどころか立ち上がって、リーゼルの前へと歩み出る。不思議な事にこの場がどんな絶望的状況でも、岩平の頭の中には逃げるなんて選択肢は一つも出てこなかった。
「リーゼルはもう、技術部の大事な仲間だ!! 絶対に見捨てやしねぇッ!!!」
フォノンとの戦力差は歴然だった。磁力は全て変換され、受け流される。リーゼルはもう動けないし、岩平を飛ばした辺理爺さんだって、まだ車の中だろう。ここでミサイルを撃ち込まれれば、確実に死ぬ。
だが、岩平には不思議と恐れは無かった。この状況に、どこか既視感を感じていたからだ。その既視感の正体は、この前アルベルトと戦った時と同じものだった。
―そうだ……。アイツと戦ったあの時……、あの時の感覚……。
岩平はフェルミ戦の前から、無意識にも極磁拳を使った事があった事を思い出していた。それは、あのアルベルト・アインシュタインと対峙した時の事である。あの時、アルベルトはフォノンと同じ初等電磁気学を使って、岩平の拳を止めていたのだ。しかし、あの時には一つだけ例外的に通った攻撃の拳があったのである。
―思い出せ、思い出せッ……、あの時の感覚を!
―あの瞬間は、怒りで頭がいっぱいで……。今の極磁拳みたいな、こんな表面上の鎖コイルだけの力だけじゃなかった……。
―思い出せ……ッ! 肚(はら)の底から湧き出る―――――――――――あの衝動をッ!!!!
気付いた時にはもう、岩平は飛んできたミサイルの一本を拳で弾き飛ばしていた。ミサイルの軌道は、岩平の直前で逸らされるように曲げられていた。そのまま、ミサイルは横側の床へと当たって爆炎を上げる。屋上の一部が大破したが、岩平とリーゼルの二人は無傷だった。
その時、初めてフォノンの口から薄ら笑いが消えた。初めて想定外の事態が起きたからである。
「馬鹿なっ! 磁力変換の術式はかけてあるハズなのにっ……!?」
「やっと、理解ってきたぜ……。お前の言うところの、『高等』電磁気学ってヤツがな……ッ! 簡単な話だ。『初等』ってのが駄目なんなら、より『高等』なヤツを使えばいい!」
そう言って、岩平は再び拳を構える。その拳の周囲は、まるで空間が曲げられたかのように、歪んた背景が写りこんでいた。それを見たフォノンが驚愕の表情で見つめている。
「なっ……! まさかそれは、『ベクトル・ポテンシャル』っ!?
空間の位相ごと曲げただと……っ!? そんな馬鹿な!」
それは、電磁場の渦だった。全ての磁力の源(もと)となるベクトル力というものである。それは磁場未満の存在であるが故に、磁場の存在しない場所であろうが、ありとあらゆる全ての物を貫通してしまうという代物だった。
「やってくれるじゃない……、この脳筋男!」
焦ったフォノンは、ミサイルを連発する。だが、もう岩平はそんなものでは止まらなかった。襲い来るミサイルたちを次次と拳で弾いては、その軌道を逸らしてゆく。
「おおおおおおおおおおぉぉぉッッ!!!!」
フォノンのミサイルの全ては、上空のあらぬ方向へと曲げられていく。軌道を曲げられたミサイルは山側の彼方へと飛んでゆき、すでに岩平はフォノンの目前へと迫って来ていた。
―くっ、まずい……。こうなったら『奥の手』を使うしか……。
「やめんか、ノイマン氏―――――」
「くっ、なんでだ……。なんでまた止められる!?」
岩平は信じられないといった顔でその先を見つめていた。何故ならば、思いっきり不意打ちをかました筈なのに、涼しい顔をしたフォノンが眉一つ動かさずにその場に立っていたからである。それどころかまた素手で、岩平の拳が受け止められてしまっていた。
「フン……。この程度でワタクシを倒す気なら、片腹痛いわよ。こんな磁力、電気エネルギーに変換してしまって受け流す事くらい訳ないわ……」
フォノンが実行したのは電磁誘導の物理演算(シミュレート)だった。岩平の拳を喰らう直前に、磁力エネルギーを放電現象へと変換して、周囲へと受け流したのである。
「こんな瞬間的に磁力を出すだけの初等電磁気学、分野外のワタクシでも真似できるさ!」
次に、フォノンは信じられない行動をした。なんと、右手に磁力を纏って岩平の技をコピーで再現してみせたのだ。
「極磁拳――――!!」
「なぁあッ!?」
急いで左手でガードする岩平だったが、いきなりの事だったので、フォノンみたいに磁力までは受け流せない。そのまま岩平は衝撃で後方へと吹っ飛んでしまう。
「がんぺーっ!」
リーゼルは飛んで来る岩平を受け止めようと動く。だが、思うように体の動かないリーゼルは、体全体を使って受け止める事になってしまった。衝突した二人は床の上を転がりながら揉みくちゃになる。
「このおバカ! なんで来ちゃったのよ!? せっかくアタシが敵を引きつけたのに台無しじゃない! このバカバカ!」
「バカはそっちだ! 見捨てられるワケないだろう!?」
この期に及んで罵り合う二人を見て、フォノンはクスクスと笑い出す。
「うふふ、微笑ましいのね。なんだか妬けちゃうわ~❤ せっかくならその男、ワタクシが殺(もら)っちゃってもいーい?」
フォノンはまたサイコな笑顔で、ゆっくりと無数の行列計算式(マトリックス)を展開させる。もはや逃げ場は無かった。リーゼルは岩平を庇おうとするが、疲弊しきった彼女はもう立ち上がる事さえ出来ない。
「がんぺー! アンタだけでも……っ!」
「……逃げねェよ。お前がいなくなったら、皆が悲しむだろうが……」
岩平は逃げるどころか立ち上がって、リーゼルの前へと歩み出る。不思議な事にこの場がどんな絶望的状況でも、岩平の頭の中には逃げるなんて選択肢は一つも出てこなかった。
「リーゼルはもう、技術部の大事な仲間だ!! 絶対に見捨てやしねぇッ!!!」
フォノンとの戦力差は歴然だった。磁力は全て変換され、受け流される。リーゼルはもう動けないし、岩平を飛ばした辺理爺さんだって、まだ車の中だろう。ここでミサイルを撃ち込まれれば、確実に死ぬ。
だが、岩平には不思議と恐れは無かった。この状況に、どこか既視感を感じていたからだ。その既視感の正体は、この前アルベルトと戦った時と同じものだった。
―そうだ……。アイツと戦ったあの時……、あの時の感覚……。
岩平はフェルミ戦の前から、無意識にも極磁拳を使った事があった事を思い出していた。それは、あのアルベルト・アインシュタインと対峙した時の事である。あの時、アルベルトはフォノンと同じ初等電磁気学を使って、岩平の拳を止めていたのだ。しかし、あの時には一つだけ例外的に通った攻撃の拳があったのである。
―思い出せ、思い出せッ……、あの時の感覚を!
―あの瞬間は、怒りで頭がいっぱいで……。今の極磁拳みたいな、こんな表面上の鎖コイルだけの力だけじゃなかった……。
―思い出せ……ッ! 肚(はら)の底から湧き出る―――――――――――あの衝動をッ!!!!
気付いた時にはもう、岩平は飛んできたミサイルの一本を拳で弾き飛ばしていた。ミサイルの軌道は、岩平の直前で逸らされるように曲げられていた。そのまま、ミサイルは横側の床へと当たって爆炎を上げる。屋上の一部が大破したが、岩平とリーゼルの二人は無傷だった。
その時、初めてフォノンの口から薄ら笑いが消えた。初めて想定外の事態が起きたからである。
「馬鹿なっ! 磁力変換の術式はかけてあるハズなのにっ……!?」
「やっと、理解ってきたぜ……。お前の言うところの、『高等』電磁気学ってヤツがな……ッ! 簡単な話だ。『初等』ってのが駄目なんなら、より『高等』なヤツを使えばいい!」
そう言って、岩平は再び拳を構える。その拳の周囲は、まるで空間が曲げられたかのように、歪んた背景が写りこんでいた。それを見たフォノンが驚愕の表情で見つめている。
「なっ……! まさかそれは、『ベクトル・ポテンシャル』っ!?
空間の位相ごと曲げただと……っ!? そんな馬鹿な!」
それは、電磁場の渦だった。全ての磁力の源(もと)となるベクトル力というものである。それは磁場未満の存在であるが故に、磁場の存在しない場所であろうが、ありとあらゆる全ての物を貫通してしまうという代物だった。
「やってくれるじゃない……、この脳筋男!」
焦ったフォノンは、ミサイルを連発する。だが、もう岩平はそんなものでは止まらなかった。襲い来るミサイルたちを次次と拳で弾いては、その軌道を逸らしてゆく。
「おおおおおおおおおおぉぉぉッッ!!!!」
フォノンのミサイルの全ては、上空のあらぬ方向へと曲げられていく。軌道を曲げられたミサイルは山側の彼方へと飛んでゆき、すでに岩平はフォノンの目前へと迫って来ていた。
―くっ、まずい……。こうなったら『奥の手』を使うしか……。
「やめんか、ノイマン氏―――――」
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