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事後!? 事後なのですか!?

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 リーゼルはむっくりと起き上がる。それは爽やかな目覚めだった。窓のカーテンからは木漏れ日が差し、スズメがさえずっている。額の冷えピタを剥がしてみると、熱はもう完全に下がっていた。

 隣を見ると、岩平はまだそこでグースカと寝ていた。連日の戦いで岩平も相当疲れていたのだろう。それを考えると、リーゼルの岩平への思いが急に溢れ出して来る。

 ―……治ったんなら、もう伝染(うつ)す事も無いよね……。

 そう考えたリーゼルはマスクを外すと、ゆっくり岩平へと顔を近づける。次第にリーゼルの唇は、岩平の口もとへと引き寄せられていった。

 ―ちょっと……、ほんのちょっとだけなら……っ。

 その時、リーゼルは初めてファースト・キスというものを知ろうとしていた。だが、もう少しのところで、その瞬間は何者かの視線によって邪魔される事となってしまう。

 唇が触れる寸前、リーゼルがふと横に視線を逸らすと、そこには何者かがいた。座敷童だった。いや訂正、座敷童のように佇んでいる何者かだった。その顔は真理華(まりか)のような顔をしていた。宝石の如くキラキラした憧れの眼を向けて、頬を火照らせながらこちらを見てニンマリとしている。その人物は、どっからどう見ても紛れのない真理華本人そのものだった。

「キャアアアアアッ!? あ、アンタ一体、いつからそこにぃいいいいいいいいっ!?」

 そこにいたのは真理華だった。いつからこの部屋に忍び込んだのかは分からない。いつ間にか入って来たコイツは、ずっと傍の床の上で体育座りしながら、リーセルのさっきの行動の一部始終を観察していたのである。

「リーゼルちゃん、リーゼルちゃん! それはもしかして、『お目覚めのチュー』ってやつなのですか!? 事後ですか!? 事後なのですかぁーっ!?」

 真理華はスックと立ち上がると、リーゼルに興味本位丸出しの質問を浴びせかけてくる。その眼は輝きに満ちていて、リーゼルですら一瞬キレイだと思ってしまうくらい、乙女な少女の目をしていた。

「ち、違う! 今のはただ熱を測ろうとしただけでぇ……っ。―って! アンタ一体どうやってここに入って来たのよ!?」

 あまりの突然の出来事に、リーゼルは真っ赤になってしまい、しどろもどろになる。下手な言い訳をしてみるが、思い込みの激しい真理華は全く聞いてくれない。

「姉御~、真理華の姉御ぉ~っ……」

 よく見るとさらに、真理華の後ろには数吉がいた。この一連の事態を見てショックを受けたらしく、さめざめと泣いている。どうやらこの覗き見行為は、二人してやっていたこといたらしい。

「あっしはどうすればいいんですかぁ~っ? 姉御ぉ~……。不幸な生い立ちがあるとはいえ、こんなポッと出の女に、3年間仕えてきた兄貴をNTR(ネトラ)れるなんてぇ~っ……!」    

 完全に勘違いをした様子の数吉が、真理華に泣きつく。

「ん~、そうねぇ~っ……。そうだ! じゃあワタシ達も実力行使で、岩平くんの唇を奪い返しちゃえばいいんじゃないかな!? それーっ❤」

 数吉の訴えを聞いた真理華は、冗談とも本気とも取れる発言をして、寝ている岩平に抱きつこうとする。それを見たリーゼルは必死で止めに入った。

「それは絶対ダメーっ!!!」

「……あれ? お前らどうしてここに……」

 この騒がしい状況に、流石の岩平も目を覚ましたのか、むっくりと起き上がって真理華たちを見渡す。

「え~、何ってそりゃ、リーゼルちゃんが風邪引いたって聞いたからお見舞いだよ~❤ 学校もなくてヒマだったしね~」

「そんなの、もうとっくに治ったわよっ!」

「で? どうだったの? 初夜の感想は? 夜はお楽しみでしたかぁ~っ❤」

「もうやめいっ!」

 興奮気味の真理華は、岩平にまで野次馬根性丸出しの質問を繰り返してしまう。

 結局この後、恋愛スイーツ脳の真理華をなだめるのには、小一時間もかかる事になってしまった。

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