【元素娘】~元素118種、擬人化してみた。聖メンデレーエフ女学院の元素化学魔法教室~

我破破

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【1. 水素ちゃん】明るく元気いっぱいで、誰とでもすぐに打ち解けるムードメーカー。好奇心旺盛で新しいことが大好き。ちょっぴりドジ

水素ちゃんVSネオンちゃん! 学院一の「カワイイ」は誰だ!? 炭素先輩マジ審判!

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 初夏の心地よい風が、学院の中庭を吹き抜ける。
新緑が目に鮮やかで、空気は澄んでいて気持ちが良い。
聖メンデーレフ魔法女学院の生徒たちは、それぞれの元素の性質を活かした訓練や、座学に励んでいた。


 中庭のベンチで、水素ちゃんは水滴を指先で弄びながら、ぼうっと空を眺めていた。
雲の形が、わたあめみたいだな、と考えている。
そこに、まばゆい光と共にネオンちゃんがやってきた。


「ねえねえ、水素ちゃん!」

 ネオンちゃんは、いつにも増してキラキラとしたオーラを放っている。
彼女の今日の衣装は、特に電飾が多く、歩くたびにチカチカと様々な色に光った。


「アタシとどっちがカワイイか勝負しない?」

 ネオンちゃんは、いきなりとんでもないことを言い出した。
水素ちゃんは目を丸くする。


「えー、カワイイかどうかって… どうやって勝負するの?」

「ふっふーん、いいことを思いついたのよ! おめかし対決! 一番カワイイ格好をした方が勝ち!」ネオンちゃんは自信満々に胸を張った。
「負けた方は、一週間アタシの言うこと何でも聞くの! どう? 乗る?」

 水素ちゃんは、特に勝ち負けにこだわるタイプではない。
しかし、ネオンちゃんの自信満々な態度を見ていると、ちょっぴり面白そうだと思った。
それに、「負ける気もしないし」という根拠のない自信もあった。


「えー、別に興味ないけど… 負ける気もしないし、いっか! やろうやろう!」

 水素ちゃんは、ネオンちゃんの挑発に安易に乗ってしまった。
二人の「カワイイ」の価値観は、おそらく全く違うだろうに。


 対決の舞台は、学院の講堂の控え室となった。
審査員として呼ばれたのは、あらゆる有機物を生み出す、多才な炭素ちゃん(C)だった。
彼女は落ち着いた雰囲気で、少し困ったような笑顔を浮かべている。
炭素ちゃんは、物事を様々な角度から見ることができるため、こういう時の仲介役にはうってつけだった。


「うーん… カワイイ、かぁ。難しいテーマだねぇ」

 炭素ちゃんは二人の話を聞きながら、顎に手を当てた。
彼女にとって「カワイイ」とは、単なる見た目の美しさだけでなく、そのものの構造の複雑さや安定性、他のものとの結合によって生まれる多様性など、様々な要素が絡み合うものだった。


「よし、準備スタート!」

 ネオンちゃんの掛け声で、おめかし対決が始まった。


 水素ちゃんは、得意の水の魔法を使った。
彼女の「カワイイ」は、軽やかで、透き通っていて、自然な美しさだ。


「しゅわーっとキラキラに!」

 彼女の周りに、空中の水分が集まり始めた。
それは次第に形を成し、透明で、光を反射して虹色に輝く、水のドレスになった。
水滴がいくつも連なり、風に揺れるたびにキラキラと瞬く。
シンプルなのに涼しげで、着ている本人と同じように純粋な輝きを放つドレスだ。
水素ちゃんは満足そうに微笑んだ。


 一方、ネオンちゃんは、まさに「自分らしさ全開」のおめかしを始めた。
彼女にとって「カワイイ」とは、目立つこと、輝くこと、人々の視線を集めることだ。


「さあ、アタシの輝き、見せてあげるわ! パーティータイム! 始めよっか!」

 彼女は自身のネオン光を最大限に放出させながら、準備しておいた派手な布や電飾を身にまとっていく。
布はネオンカラーで、その上には無数の小さな電飾が取り付けられている。
ネオンちゃんの体から放たれる光と、電飾の光が融合し、全身が光り輝く巨大な電飾ドレスが完成した。
それは、もはやドレスというよりは、動くネオンサインといった趣だ。


「どう? アタシの方が絶対カワイイでしょ! この輝き、誰にも真似できないんだから!」

 ネオンちゃんは得意げにポーズを決めた。
その派手さは圧巻だが、少しやりすぎな印象も否めない。
電飾がチカチカしすぎて、目が痛いほどだ。


 二人の準備が終わり、審査員の炭素ちゃんに披露する番だ。


 最初に水素ちゃんが登場した。
水のドレスは、講堂の光を受けてキラキラと輝き、清涼感に溢れている。
まるで水辺の妖精のようだ。


 次にネオンちゃんが登場した。
全身から放たれるネオン光は、会場を一瞬で明るく照らし出し、目を奪われる。
まるで夜の街の女王のようだ。


 炭素ちゃんは、二人の全く異なる「カワイイ」を見て、本当に困ってしまった。


「うーん… どちらも個性的で、選ぶのが難しいなぁ…」

 水素ちゃんのドレスは、素材の純粋さや透明感を活かした、繊細で美しいデザインだ。
ネオンちゃんのドレスは、エネルギーと情熱に満ちた、見ていて楽しい、強烈なインパクトがある。
どちらにもそれぞれの良さがある。


 炭素ちゃんはしばらく考え込んだ。
彼女は、様々な元素と結びつき、無限とも言える多様な物質を作り出す元素だ。
一つ一つの元素の性質を理解し、それを組み合わせることで、全く新しい価値を生み出すのが得意だった。


「ねぇ、二人のドレスを組み合わせたら、もっと素敵なものができるんじゃないかな?」

 炭素ちゃんは、一つのアイデアを提案した。
水素ちゃんの水のドレスの繊細さと、ネオンちゃんのネオン光の華やかさ。
全く違う性質だが、もしそれを一つにできたら…?

 最初は「えー?」と乗り気ではなかった二人だが、炭素ちゃんの「もしかしたら、今まで見たこともない『カワイイ』が生まれるかもよ?」という言葉に、少しだけ興味を持った。
特にネオンちゃんは、「今まで見たこともない」という言葉に反応した。


 試しに、水素ちゃんの水のドレスの一部に、ネオンちゃんのネオン光をそっと当ててみる。
するとどうだろう。
透明な水の滴が、ネオン光の色を受けて、淡く、幻想的な光を放ち始めたのだ。
まるで、星屑が水に溶け込んだような、言葉にできないほど美しい輝きだ。


「わー、すごく綺麗! 私一人じゃ、こんなの作れなかった!」

 水素ちゃんは、自分のドレスが予想外の輝きを放つのを見て、目を輝かせた。
純粋な感動が、彼女の顔に浮かんでいる。


 ネオンちゃんも、自分の光が単独で輝く時とは違う、柔らかな、それでいて神秘的な輝きを生み出しているのを見て、驚きと、そして少しの感動を覚えた。


「アタシの輝きも、アンタのドレスと一緒なら、もっと活かせるんだ!」

 彼女は、自分の不活性ゆえに他の元素と「反応」できないという寂しさを感じていたが、こうして「協力」することで、新しい「表現」ができるのだと気づいたのだ。
それは、単に目立つこととは違う種類の喜びだった。


 二人は、炭素ちゃんの提案を受けて、協力してドレスを完成させることにした。
水素ちゃんが水の形を自在に操り、ネオンちゃんが光の強さや色を調整する。
炭素ちゃんは、二人の魔法が上手く融合するように、微細なエネルギーのバランスを整える手助けをした。


 完成したドレスは、驚くほど美しかった。
透明な水のドレスは、ネオンの淡い光を内側に取り込み、揺れるたびに色を変え、きらめきを放つ。
それは、まるでオーロラが水面に映り込んだような、あるいは深海の神秘的な生き物のような、幻想的な輝きを放っていた。


「ふふ、やっぱり協力って素晴らしいね!」

 炭素ちゃんは、満足そうに微笑んだ。
勝ち負けを決める必要はもうなかった。
二人は、全く違う自分たちの「カワイイ」が、組み合わさることで、より大きな、より美しい「カワイイ」を生み出すことができることを知ったのだ。


 水素ちゃんとネオンちゃんは、完成したドレスを眺めながら、お互いの顔を見合わせた。
そこには、いがみ合いや競争心だけでなく、ほんの少しの尊敬と、新しい発見への喜びがあった。
この日を境に、二人の関係性は、単なる衝突から、お互いの存在を認め合い、時には協力し合う、奇妙な、それでいて確かなものへと変わっていく兆しを見せたのだった。

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