【元素娘】~元素118種、擬人化してみた。聖メンデレーエフ女学院の元素化学魔法教室~

我破破

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【1. 水素ちゃん】明るく元気いっぱいで、誰とでもすぐに打ち解けるムードメーカー。好奇心旺盛で新しいことが大好き。ちょっぴりドジ

「私と合体(くっつこ)!」無邪気な水素ちゃんが、カリウムちゃんの水遊び願望に火をつけた結果…

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 聖メンデーレフ魔法女学院の敷地内にある広大な菜園は、カリウムちゃんにとって聖域だった。
太陽の光をいっぱいに浴びた作物がすくすく育つ様子を見ていると、彼女の心は満たされるのだ。
肥料の三要素の一つであるカリウムは、植物の根を強くし、成長を助ける。
だから、カリウムちゃんは誰よりも菜園を愛し、丹精込めて手入れをしていた。


「さあ、みんな!今日も愛情たっぷりの水をあげるわよ!もっともっと、大きく育つんだぞー!」

 ライラック色のポニーテールを揺らしながら、カリウムちゃんは大きなジョウロを手に、意気揚々と水を撒き散らした。
ジョウロから零れる水滴一つ一つに、彼女の植物活性化(フローラブースト)の魔法が込められているかのようだ。
水やりは彼女にとって、植物たちとの対話であり、自身の情熱を分かち合う儀式だった。


 その時、軽やかな足音が聞こえ、アクアブルーのショートヘアが視界の端をかすめた。


「カリウムちゃん、すごいね!お野菜、元気いっぱいに見えるよ!」

 ぴょんぴょんと跳ねながら駆け寄ってきたのは、水素ちゃんだった。
彼女の周りには、目に見えないほど小さな水滴がキラキラと輝いている。


「おっ、水素ちゃん!ありがとね!カリウムパワーで、根っこがぐんぐん伸びてるんだ!」

 カリウムちゃんは得意げに胸を張った。
水素ちゃんは目を丸くして、興味津々といった様子で菜園を見回している。


「わーい!じゃあ、私もお手伝いする!」

 水素ちゃんはそう言うと、ふっと息を吸い込み、得意げに小さな両手を前に突き出した。
彼女の特技の一つ、水を生成する魔法だ。
宇宙に遍在する水素の力を集め、酸素と「合体(くっつこ)」させることで、彼女はどこにでも水を呼び出すことができる。


「見て見て!これでバッチリだよ!」

 そう言って、水素ちゃんはカリウムちゃんのすぐ近くに、突如として大量の水を生成した。
空気中の水蒸気を集めたわけでも、どこかから運び込んだわけでもない。
まるで何もない空間から、透き通った水が一気に湧き出したかのようだ。
その量はジョウロ一本どころか、小さな池ができるほど。


 カリウムちゃんの瞳が、生成された水を見た途端、一瞬にして輝きを増した。
彼女の表情は、菜園への愛情から、まるで子供がおもちゃを見つけた時のように変わった。


「わーい!水遊びだー!」

 次の瞬間、カリウムちゃんはジョウロを放り出し、水素ちゃんが作り出した水たまりに、勢いよく飛び込んだ!

「どっかーん!水遊び、楽しいー!」

 彼女が水に触れた瞬間、状況は一変した。
アルカリ金属であるカリウムは、水と触れると非常に激しく反応する。
水素ちゃんの無邪気な水生成と、カリウムちゃんの情熱的な飛び込みが、学院の菜園に未曽有の事態を引き起こしたのだ。


 ボゴボゴ、という不気味な音と共に、水たまりの表面から紫色の炎が噴き上がった。
それはカリウムちゃんの炎色反応、バイオレットフレイムだ!炎はみるみるうちに勢いを増し、水たまり全体を覆い尽くす。
そして、水とカリウムの反応で生成された水素ガスに引火し、次の瞬間――

 ドォオオオオン!!!

 凄まじい爆発音が菜園に響き渡った。
地面が揺れ、土煙と紫色の炎が空高く舞い上がった。
近くで育てていたトマトの苗が吹き飛ばされ、キュウリの蔓が焦げ付く。
畑は一瞬にして、見るも無残な状態へと変貌した。


 爆心地で、煙の中から立ち上がったのは、全身すすだらけになったカリウムちゃんだった。
ライラック色の髪はチリチリになり、顔には炭が付いている。


「あちゃー、やりすぎちゃった…」

 彼女は苦笑いしながら、小さく反省の言葉を漏らした。
水遊びが楽しいという意外な一面は、確かに楽しそうだったが、その結果は壊滅的だった。


 一方、爆発から少し離れた場所にいた水素ちゃんは、その光景をキラキラとしたスカイブルーの瞳で見つめていた。
彼女の髪は乱れ一つなく、煤もついていない。
ただ、驚きと感動が入り混じった表情を浮かべていた。


「すごい!カリウムちゃんと合体(くっつこ)すると、こんなに大きなエネルギーが出るんだね!」

 無邪気にそう言う水素ちゃんの言葉に、カリウムちゃんは思わず固まった。


「水素ちゃん…それはちょっと…合体(くっつこ)っていうか、ただの危険な反応っていうか…」

 カリウムちゃんは、この壊滅的な状況で目を輝かせる水素ちゃんの純粋さに、どう突っ込めばいいのか分からなかった。
彼女にとってこれは大失敗だったのに、水素ちゃんにとっては新たな発見だったらしい。


 その時、遠くから叫び声が聞こえた。


「カリウム!またか!一体何をしたらこうなるんだ!!」

 特殊元素材料学担当、ヘンリー・モーズリー先生の声だ。
彼はいつも通り、生徒たちの起こす騒動に巻き込まれている。
菜園の入り口で立ち尽くし、爆発で荒れ果てた畑を見て頭を抱えていた。


 水素ちゃんは、先生の声にも気づかず、まだ興奮冷めやらぬ様子でカリウムちゃんを見上げている。


「ねぇねぇ、カリウムちゃん!今度はもっと広いところで『合体(くっつこ)』してみようよ!宇宙みたいに広いところで!そしたらもっとすごいエネルギーが出るのかな?わくわくするね!」

「えぇ!?いやいやいや!あれは危ないからダメ!絶対ダメだからね、水素ちゃん!」

 カリウムちゃんは顔色を変えて水素ちゃんを止めようとする。
彼女の情熱と行動力、そして水への衝動的な反応が、水素ちゃんの無邪気な好奇心と触媒能力(無意識の「合体」)と結びついた時、聖メンデーレフ魔法女学院の日常は、文字通り「どっかーん!」と予測不能な方向へ爆発するのだ。


 すすだらけのカリウムちゃんと、ケロリとした水素ちゃんの傍らで、モーズリー先生の溜息だけが、荒れ果てた菜園に虚しく響いていた。
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