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【1. 水素ちゃん】明るく元気いっぱいで、誰とでもすぐに打ち解けるムードメーカー。好奇心旺盛で新しいことが大好き。ちょっぴりドジ
「マジ卍!」な電飾ヘアにパリピ銅ちゃんが挑戦!水素ちゃんとの友情はショート寸前!?
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聖メンデーレフ魔法女学院の教室は、いつも元素娘たちの活気で満ち溢れている。
窓の外では、水の元素娘たちが中庭の噴水を操り、炎の元素娘たちが温室で植物の成長を促している。
まるで一つの巨大な、生きた周期表のようだ。
教室の最前列では、担任のヘンリー・モーズリー先生が、板書された巨大な周期表を指差しながら熱弁をふるっていた。
先生は特殊元素材料学担当だが、今日のような基礎理論の授業も受け持っている。
見た目はごく普通の、どちらかといえば朴訥とした青年といった風情で、たまに元素娘たちの奔放さに振り回されては、どこか遠い目をして周期表を見つめている、というのが生徒たちの共通認識だった。
「…というわけで、元素の性質は原子番号によって一意に決まる。これは周期表の最も基本的な、そして最も重要な法則なんだ」
先生の声が、やや単調に響く。
その声を聞いているのは、どうやらクラスの半分にも満たないらしい。
ほとんどの生徒は内職をしているか、窓の外を眺めているか、あるいは居眠りを決め込んでいるかだ。
そんな中、ただ一人、最前列でキラキラと大きなスカイブルーの瞳を輝かせている少女がいた。
透き通るようなアクアブルーのショートヘアがぴょんぴょんと跳ねる。
頭頂部のアホ毛が、彼女の興奮を表しているかのようだ。
「わー、原子番号順に並んでるんだ! 綺麗!」
彼女こそ、周期表の第一番、水素ちゃん(H)だった。
宇宙で一番軽く、一番多く、全ての始まりとも言われる元素。
その性質そのままに、彼女は明るく元気いっぱいで、純粋な好奇心に満ちている。
じっとしているのが苦手で、授業中もお尻がむずむずしているようだが、周期表の話にはなぜかいつも熱心に耳を傾けている。
特に、宇宙や星に関わる話になると、瞳が二倍増しで輝き出すのだ。
一方で、教室の少し後ろの方では、対照的な態度をとっている少女がいた。
鮮やかなカッパーオレンジの華やかなウェーブヘア。
ダンサーのような露出度の高い服装に、首からヘッドフォンをぶら下げている。
「先生、それマジつまんないんですけど。もっとパリピな元素とかいないんすか? 例えば…えっと、アメリシウム先輩とか? めっちゃ光っててアガるらしいじゃないすか!」
彼女は周期表29番、銅ちゃん(Cu)。
導電性・熱伝導性に優れ、古くから人類の文明を支えてきた金属元素だ。
明るく社交的だが、流行に敏感で、ちょっぴりお調子者で見栄っ張り。
退屈な話はすぐに飽きてしまう。
今は、古いガラケー型だけど最新の魔法技術が詰まったスマホをいじっている。
画面には、最新の電飾ファッションの記事が表示されていた。
「あの、銅さん…授業中は携帯は仕舞ってください。それにアメリシウムは…ええと、特殊な事情で、あまり軽々しく…」
モーズリー先生が困ったように眉をひそめる。
銅ちゃんは軽く肩をすくめた。
「はぁい、分かってますってばー。でも、先生の話聞いてると眠くなるんすよ」
水素ちゃんが、そんな二人のやり取りを面白そうに見ていた。
銅ちゃんは、なんだかんだ言っても明るくて面白い。
自分とは全然違うタイプだけど、一緒にいるとワクワクする。
授業が終わり、休み時間になった。
水素ちゃんはしゅわーっと身軽に立ち上がり、銅ちゃんの席の方へ高速移動する。
「銅ちゃん、お話、つまらなかったの?」
「んー、だって周期表なんて、並んでるだけじゃん? もっとこう、ビビっとくる話が聞きたいわけ。例えば、私がどうやって電気を通すか、とか! 私のクールな特技についてとか!」
銅ちゃんは髪をかき上げ、アクセサリーの電線モチーフをちらつかせる。
その髪には、確かに微かな静電気がまとわりついている。
「あ、でも先生、原子番号によって性質が決まるって言ってたよ! 銅ちゃんは29番だから、銅ちゃんになるんだね!」
水素ちゃんは純粋な瞳で言い切る。
銅ちゃんは一瞬言葉に詰まった。
「…まあ、そうだけどさ。なんか、こう、運命! みたいな方がテンション上がるじゃん?」
銅ちゃんは話題を変えるように、スマホの画面を水素ちゃんに見せた。
「それより見てよ、これ! 今流行りの電飾ヘアアクセサリーだって! マジ、アガる!」
画面には、光ファイバーや小型LEDが編み込まれた、きらびやかなヘアアクセサリーの写真が映っていた。
銅ちゃんの瞳がエレクトリックブルーに輝く。
「これさ、私の髪にも付けたいんだけど、もっとピカピカに、もっと光らせたいんだよね。水素ちゃん、なんか良い方法ない?」
銅ちゃんはキラキラした目で水素ちゃんを見つめる。
水素ちゃんは少し首を傾げた。
「うーん…電気を流しやすくするのは、銅ちゃんの得意技じゃない? 私にできることかな?」
「いや、違うんだってば! 私の髪は金属じゃないから、限界があるの! でも、水素ちゃんって、物質を軽くしたり、電気を通しやすくしたりする魔法使えるんでしょ? 私のヘアアクセサリー、マジ軽い素材なんだって! それに魔法かけたら、もっと輝くと思わない?」
銅ちゃんは前のめりになって訴える。
水素ちゃんは「なるほどー!」と手を叩いた。
水素ちゃんは、他の元素と結合して新たな力を引き出す触媒的な能力を持っている。
直接電気を通すわけではないが、物質の性質を一時的に変えることはできる。
「えへへ、おまかせ! 私の魔法で軽くして、電気も通しやすくするね!」
水素ちゃんは、友達の頼みとなれば断れない。
そして、新しい実験に目を輝かせた。
「マジ神! 水素ちゃん、私のセンスにビビっときた?」
「しゅわーっとキラキラにしよう!」
二人は意気投合し、早速魔法を試すことにした。
銅ちゃんは髪に付けていたお気に入りの、電線モチーフのシンプルなヘアピンを取り出した。
「じゃあ、これに頼むわ! 私の髪の毛に魔法かけられる?」
「うん! やってみる!」
水素ちゃんは、銅ちゃんの鮮やかなカッパーオレンジの髪にそっと触れた。
指先から、微かなアクアブルーの光が広がる。
「軽量化! 電気伝導率アップ!」
水素ちゃんの口癖と共に、魔法の言葉が紡がれる。
銅ちゃんの髪が、まるで重力から解放されたかのようにふわりと浮き上がる。
そして、微かなパチパチという音と共に、髪の表面が淡く光り始めた。
「おーっ! すごい! マジ軽くなったし、光ってる!」
銅ちゃんは自分の髪を揺らし、喜んだ。
しかし、水素ちゃんの制御は、まだ幼い彼女には難しかった。
元素の根源的なエネルギーは、時に予測不能な暴走を見せる。
特に、エネルギー源として期待される水素の力は、その身軽さゆえに制御が難しいのだ。
水素ちゃんが電気伝導率を上げすぎたのか、あるいは銅ちゃんの電撃魔法の素質が共鳴したのか。
銅ちゃんの髪に集まった電気エネルギーが、想定以上に強くなってしまったのだ。
パチパチという音は、バチバチという音に変わる。
銅ちゃんの髪は、まるで静電気を極限まで溜め込んだかのように逆立ち始めた。
そして、周囲の金属製のものが、その髪に引き寄せられていく。
「えええ!? 何コレ!? 静電気パネェ!!!」
銅ちゃんが悲鳴を上げる。
モーズリー先生がかけていたメガネが、先生の顔からすっ飛んで銅ちゃんの髪に張り付いた。
黒板に立てかけられていたチョークが、磁石のように吸い寄せられてくっつく。
近くにいた生徒たちのヘアピンやバッジも、次々と銅ちゃんの髪めがけて飛んでいく。
銅ちゃんの髪は、もはや巨大なハリネズミ状態だ。
そして、その髪から、青白い電撃がスパークし始める。
「ああああ! 離してえええ! 熱いし痛いし怖い!」
銅ちゃんは髪を振り乱すが、逆立った髪は元に戻らない。
まるで雷神のように、電撃を撒き散らしている。
「あ…ちょっとエネルギー強すぎたかな?」
水素ちゃんは、自分が起こした事態にようやく気づき、少し顔を青くする。
しかし、彼女の純粋さは、この状況にある種の面白さを見出してしまう。
「でも、ちょっとカッコイイかも!」
無邪気に笑う水素ちゃんを見て、銅ちゃんはさらにパニックになった。
「やりすぎだって! 水素ちゃん!」
バチバチ! ガガガ! 銅ちゃんの頭から放たれる電撃が、教室中に飛び交う。
教室の照明が激しく点滅し、ついにショートして消えた。
一瞬の暗闇の後、非常灯がぼんやりと点灯する。
教室は騒然としていた。
生徒たちは悲鳴を上げ、机の下に隠れる。
モーズリー先生は、メガネを奪われ、呆然と立ち尽くしていた。
彼の顔には、メガネのフレームの跡だけがくっきりと残っている。
生徒たちのパニック、ショートした照明、電撃を放ち続ける銅ちゃん、そして悪びれずに笑う水素ちゃん。
このカオスな状況に、先生の心は完全に折れてしまったようだった。
「周期表に…」
先生は、周期表の壁を見つめながら、力なく呟いた。
「周期表に…立ち返るんだ…全てはそこに書かれているはずだ…」
その声は、まるで遠い宇宙から聞こえてくるかのようだった。
銅ちゃんは逆立った髪を抑えながら、悲鳴のような叫び声をあげる。
「モーズリー先生、何やってんすか! 早く何とかしてー!」
水素ちゃんは、そんな銅ちゃんの様子を見て、慌てて魔法を解こうとするが、一度暴走したエネルギーはすぐに収まらない。
二人の周りには、まだ微かな電撃が走り、吸い寄せられた金属片がカチャカチャと音を立てていた。
「うーん、どうやったら止まるかな?」
水素ちゃんが首を傾げていると、銅ちゃんの頭頂部にくっついていたモーズリー先生のメガネが、バチッと火花を散らし、完全に壊れてしまった。
「あ…先生のメガネ…」
水素ちゃんが青ざめた。
銅ちゃんは、自分の髪に貼り付いた金属片を無理やり引き剥がそうとしていた。
モーズリー先生は、壊れたメガネを見て、さらに脱力した。
「私の…お気に入りの…」
先生は、力なく床に膝をついた。
その背中からは、計り知れない疲労と絶望が漂っている。
「しゅわ…しゅわわ…」
水素ちゃんは小さく謝罪の言葉を呟きながら、銅ちゃんの周りを漂う電気エネルギーをそっと吸収しようとする。
銅ちゃんも、さすがに反省したのか、自分の電撃を抑えようと努める。
しばらくして、ようやく銅ちゃんの髪の逆立ちは収まり、電気も収まった。
貼り付いていた金属片がバラバラと床に落ちる。
教室は静寂を取り戻したが、ショートした照明はそのままだった。
銅ちゃんはペタンと椅子に座り込み、ぐったりしていた。
髪はチリチリになり、少し焦げ臭い。
「もう…電飾ヘアとか…しばらくいいや…」
水素ちゃんは、そんな銅ちゃんに恐る恐る近づいた。
「ごめんね、銅ちゃん…」
「…別に。ちょっとは面白かったけどさ…先生のメガネ弁償ね!」
銅ちゃんは不満そうに言ったが、その声にはどこか力がなかった。
モーズリー先生は、床に散らばった周期表の教科書を拾いながら、立ち上がった。
彼の顔は、疲労困憊といった表情だった。
「まあ…これも、元素の性質を理解する上での、貴重な…経験…だったのかもしれませんね…」
先生は力なく微笑み、壊れたメガネを拾い上げた。
「先生、大丈夫?」
水素ちゃんが心配そうに尋ねる。
「ええ…大丈夫です…多分…とにかく、今日の授業はここまでとしましょう。自習にしておきます…私は、少し休ませてもらいます…」
モーズリー先生は、足元がおぼつかない様子で教室を出て行った。
その後ろ姿は、まるで魂を抜かれたかのようだった。
教室に残された水素ちゃんと銅ちゃんは、顔を見合わせた。
銅ちゃんの髪はまだ少しチリチリしている。
「ねえ、銅ちゃん。でも、一瞬、すっごくキラキラ光ったよね!」
水素ちゃんは懲りずに言った。
「あれは光るっていうより、燃えてる感じだったんだけど?!」
銅ちゃんは反論する。
だが、先ほどの騒ぎで、二人の間には奇妙な連帯感が生まれていた。
それは、トラブルメーカーと、トラブルメーカーの引き起こしたトラブルの犠牲者、という連帯感だったが。
「でもさ…マジで焦ったわー。まさかあんなに電気溜まるなんて」
銅ちゃんは呟く。
「えへへ、私と合体(くっつこ)したら、どんなことも起こせるんだよ!」
水素ちゃんが胸を張る。
銅ちゃんは思わず苦笑した。
「…まあ、それは認めなくもないけどさ。次からはもっと優しくくっついてよね」
「うん!」
二人の間には、ショートした照明の代わりに、新しい友情の小さな火花が散っていた。
それは、まだ少し制御不能な、電撃のような友情の始まりだった。
窓の外では、水の元素娘たちが中庭の噴水を操り、炎の元素娘たちが温室で植物の成長を促している。
まるで一つの巨大な、生きた周期表のようだ。
教室の最前列では、担任のヘンリー・モーズリー先生が、板書された巨大な周期表を指差しながら熱弁をふるっていた。
先生は特殊元素材料学担当だが、今日のような基礎理論の授業も受け持っている。
見た目はごく普通の、どちらかといえば朴訥とした青年といった風情で、たまに元素娘たちの奔放さに振り回されては、どこか遠い目をして周期表を見つめている、というのが生徒たちの共通認識だった。
「…というわけで、元素の性質は原子番号によって一意に決まる。これは周期表の最も基本的な、そして最も重要な法則なんだ」
先生の声が、やや単調に響く。
その声を聞いているのは、どうやらクラスの半分にも満たないらしい。
ほとんどの生徒は内職をしているか、窓の外を眺めているか、あるいは居眠りを決め込んでいるかだ。
そんな中、ただ一人、最前列でキラキラと大きなスカイブルーの瞳を輝かせている少女がいた。
透き通るようなアクアブルーのショートヘアがぴょんぴょんと跳ねる。
頭頂部のアホ毛が、彼女の興奮を表しているかのようだ。
「わー、原子番号順に並んでるんだ! 綺麗!」
彼女こそ、周期表の第一番、水素ちゃん(H)だった。
宇宙で一番軽く、一番多く、全ての始まりとも言われる元素。
その性質そのままに、彼女は明るく元気いっぱいで、純粋な好奇心に満ちている。
じっとしているのが苦手で、授業中もお尻がむずむずしているようだが、周期表の話にはなぜかいつも熱心に耳を傾けている。
特に、宇宙や星に関わる話になると、瞳が二倍増しで輝き出すのだ。
一方で、教室の少し後ろの方では、対照的な態度をとっている少女がいた。
鮮やかなカッパーオレンジの華やかなウェーブヘア。
ダンサーのような露出度の高い服装に、首からヘッドフォンをぶら下げている。
「先生、それマジつまんないんですけど。もっとパリピな元素とかいないんすか? 例えば…えっと、アメリシウム先輩とか? めっちゃ光っててアガるらしいじゃないすか!」
彼女は周期表29番、銅ちゃん(Cu)。
導電性・熱伝導性に優れ、古くから人類の文明を支えてきた金属元素だ。
明るく社交的だが、流行に敏感で、ちょっぴりお調子者で見栄っ張り。
退屈な話はすぐに飽きてしまう。
今は、古いガラケー型だけど最新の魔法技術が詰まったスマホをいじっている。
画面には、最新の電飾ファッションの記事が表示されていた。
「あの、銅さん…授業中は携帯は仕舞ってください。それにアメリシウムは…ええと、特殊な事情で、あまり軽々しく…」
モーズリー先生が困ったように眉をひそめる。
銅ちゃんは軽く肩をすくめた。
「はぁい、分かってますってばー。でも、先生の話聞いてると眠くなるんすよ」
水素ちゃんが、そんな二人のやり取りを面白そうに見ていた。
銅ちゃんは、なんだかんだ言っても明るくて面白い。
自分とは全然違うタイプだけど、一緒にいるとワクワクする。
授業が終わり、休み時間になった。
水素ちゃんはしゅわーっと身軽に立ち上がり、銅ちゃんの席の方へ高速移動する。
「銅ちゃん、お話、つまらなかったの?」
「んー、だって周期表なんて、並んでるだけじゃん? もっとこう、ビビっとくる話が聞きたいわけ。例えば、私がどうやって電気を通すか、とか! 私のクールな特技についてとか!」
銅ちゃんは髪をかき上げ、アクセサリーの電線モチーフをちらつかせる。
その髪には、確かに微かな静電気がまとわりついている。
「あ、でも先生、原子番号によって性質が決まるって言ってたよ! 銅ちゃんは29番だから、銅ちゃんになるんだね!」
水素ちゃんは純粋な瞳で言い切る。
銅ちゃんは一瞬言葉に詰まった。
「…まあ、そうだけどさ。なんか、こう、運命! みたいな方がテンション上がるじゃん?」
銅ちゃんは話題を変えるように、スマホの画面を水素ちゃんに見せた。
「それより見てよ、これ! 今流行りの電飾ヘアアクセサリーだって! マジ、アガる!」
画面には、光ファイバーや小型LEDが編み込まれた、きらびやかなヘアアクセサリーの写真が映っていた。
銅ちゃんの瞳がエレクトリックブルーに輝く。
「これさ、私の髪にも付けたいんだけど、もっとピカピカに、もっと光らせたいんだよね。水素ちゃん、なんか良い方法ない?」
銅ちゃんはキラキラした目で水素ちゃんを見つめる。
水素ちゃんは少し首を傾げた。
「うーん…電気を流しやすくするのは、銅ちゃんの得意技じゃない? 私にできることかな?」
「いや、違うんだってば! 私の髪は金属じゃないから、限界があるの! でも、水素ちゃんって、物質を軽くしたり、電気を通しやすくしたりする魔法使えるんでしょ? 私のヘアアクセサリー、マジ軽い素材なんだって! それに魔法かけたら、もっと輝くと思わない?」
銅ちゃんは前のめりになって訴える。
水素ちゃんは「なるほどー!」と手を叩いた。
水素ちゃんは、他の元素と結合して新たな力を引き出す触媒的な能力を持っている。
直接電気を通すわけではないが、物質の性質を一時的に変えることはできる。
「えへへ、おまかせ! 私の魔法で軽くして、電気も通しやすくするね!」
水素ちゃんは、友達の頼みとなれば断れない。
そして、新しい実験に目を輝かせた。
「マジ神! 水素ちゃん、私のセンスにビビっときた?」
「しゅわーっとキラキラにしよう!」
二人は意気投合し、早速魔法を試すことにした。
銅ちゃんは髪に付けていたお気に入りの、電線モチーフのシンプルなヘアピンを取り出した。
「じゃあ、これに頼むわ! 私の髪の毛に魔法かけられる?」
「うん! やってみる!」
水素ちゃんは、銅ちゃんの鮮やかなカッパーオレンジの髪にそっと触れた。
指先から、微かなアクアブルーの光が広がる。
「軽量化! 電気伝導率アップ!」
水素ちゃんの口癖と共に、魔法の言葉が紡がれる。
銅ちゃんの髪が、まるで重力から解放されたかのようにふわりと浮き上がる。
そして、微かなパチパチという音と共に、髪の表面が淡く光り始めた。
「おーっ! すごい! マジ軽くなったし、光ってる!」
銅ちゃんは自分の髪を揺らし、喜んだ。
しかし、水素ちゃんの制御は、まだ幼い彼女には難しかった。
元素の根源的なエネルギーは、時に予測不能な暴走を見せる。
特に、エネルギー源として期待される水素の力は、その身軽さゆえに制御が難しいのだ。
水素ちゃんが電気伝導率を上げすぎたのか、あるいは銅ちゃんの電撃魔法の素質が共鳴したのか。
銅ちゃんの髪に集まった電気エネルギーが、想定以上に強くなってしまったのだ。
パチパチという音は、バチバチという音に変わる。
銅ちゃんの髪は、まるで静電気を極限まで溜め込んだかのように逆立ち始めた。
そして、周囲の金属製のものが、その髪に引き寄せられていく。
「えええ!? 何コレ!? 静電気パネェ!!!」
銅ちゃんが悲鳴を上げる。
モーズリー先生がかけていたメガネが、先生の顔からすっ飛んで銅ちゃんの髪に張り付いた。
黒板に立てかけられていたチョークが、磁石のように吸い寄せられてくっつく。
近くにいた生徒たちのヘアピンやバッジも、次々と銅ちゃんの髪めがけて飛んでいく。
銅ちゃんの髪は、もはや巨大なハリネズミ状態だ。
そして、その髪から、青白い電撃がスパークし始める。
「ああああ! 離してえええ! 熱いし痛いし怖い!」
銅ちゃんは髪を振り乱すが、逆立った髪は元に戻らない。
まるで雷神のように、電撃を撒き散らしている。
「あ…ちょっとエネルギー強すぎたかな?」
水素ちゃんは、自分が起こした事態にようやく気づき、少し顔を青くする。
しかし、彼女の純粋さは、この状況にある種の面白さを見出してしまう。
「でも、ちょっとカッコイイかも!」
無邪気に笑う水素ちゃんを見て、銅ちゃんはさらにパニックになった。
「やりすぎだって! 水素ちゃん!」
バチバチ! ガガガ! 銅ちゃんの頭から放たれる電撃が、教室中に飛び交う。
教室の照明が激しく点滅し、ついにショートして消えた。
一瞬の暗闇の後、非常灯がぼんやりと点灯する。
教室は騒然としていた。
生徒たちは悲鳴を上げ、机の下に隠れる。
モーズリー先生は、メガネを奪われ、呆然と立ち尽くしていた。
彼の顔には、メガネのフレームの跡だけがくっきりと残っている。
生徒たちのパニック、ショートした照明、電撃を放ち続ける銅ちゃん、そして悪びれずに笑う水素ちゃん。
このカオスな状況に、先生の心は完全に折れてしまったようだった。
「周期表に…」
先生は、周期表の壁を見つめながら、力なく呟いた。
「周期表に…立ち返るんだ…全てはそこに書かれているはずだ…」
その声は、まるで遠い宇宙から聞こえてくるかのようだった。
銅ちゃんは逆立った髪を抑えながら、悲鳴のような叫び声をあげる。
「モーズリー先生、何やってんすか! 早く何とかしてー!」
水素ちゃんは、そんな銅ちゃんの様子を見て、慌てて魔法を解こうとするが、一度暴走したエネルギーはすぐに収まらない。
二人の周りには、まだ微かな電撃が走り、吸い寄せられた金属片がカチャカチャと音を立てていた。
「うーん、どうやったら止まるかな?」
水素ちゃんが首を傾げていると、銅ちゃんの頭頂部にくっついていたモーズリー先生のメガネが、バチッと火花を散らし、完全に壊れてしまった。
「あ…先生のメガネ…」
水素ちゃんが青ざめた。
銅ちゃんは、自分の髪に貼り付いた金属片を無理やり引き剥がそうとしていた。
モーズリー先生は、壊れたメガネを見て、さらに脱力した。
「私の…お気に入りの…」
先生は、力なく床に膝をついた。
その背中からは、計り知れない疲労と絶望が漂っている。
「しゅわ…しゅわわ…」
水素ちゃんは小さく謝罪の言葉を呟きながら、銅ちゃんの周りを漂う電気エネルギーをそっと吸収しようとする。
銅ちゃんも、さすがに反省したのか、自分の電撃を抑えようと努める。
しばらくして、ようやく銅ちゃんの髪の逆立ちは収まり、電気も収まった。
貼り付いていた金属片がバラバラと床に落ちる。
教室は静寂を取り戻したが、ショートした照明はそのままだった。
銅ちゃんはペタンと椅子に座り込み、ぐったりしていた。
髪はチリチリになり、少し焦げ臭い。
「もう…電飾ヘアとか…しばらくいいや…」
水素ちゃんは、そんな銅ちゃんに恐る恐る近づいた。
「ごめんね、銅ちゃん…」
「…別に。ちょっとは面白かったけどさ…先生のメガネ弁償ね!」
銅ちゃんは不満そうに言ったが、その声にはどこか力がなかった。
モーズリー先生は、床に散らばった周期表の教科書を拾いながら、立ち上がった。
彼の顔は、疲労困憊といった表情だった。
「まあ…これも、元素の性質を理解する上での、貴重な…経験…だったのかもしれませんね…」
先生は力なく微笑み、壊れたメガネを拾い上げた。
「先生、大丈夫?」
水素ちゃんが心配そうに尋ねる。
「ええ…大丈夫です…多分…とにかく、今日の授業はここまでとしましょう。自習にしておきます…私は、少し休ませてもらいます…」
モーズリー先生は、足元がおぼつかない様子で教室を出て行った。
その後ろ姿は、まるで魂を抜かれたかのようだった。
教室に残された水素ちゃんと銅ちゃんは、顔を見合わせた。
銅ちゃんの髪はまだ少しチリチリしている。
「ねえ、銅ちゃん。でも、一瞬、すっごくキラキラ光ったよね!」
水素ちゃんは懲りずに言った。
「あれは光るっていうより、燃えてる感じだったんだけど?!」
銅ちゃんは反論する。
だが、先ほどの騒ぎで、二人の間には奇妙な連帯感が生まれていた。
それは、トラブルメーカーと、トラブルメーカーの引き起こしたトラブルの犠牲者、という連帯感だったが。
「でもさ…マジで焦ったわー。まさかあんなに電気溜まるなんて」
銅ちゃんは呟く。
「えへへ、私と合体(くっつこ)したら、どんなことも起こせるんだよ!」
水素ちゃんが胸を張る。
銅ちゃんは思わず苦笑した。
「…まあ、それは認めなくもないけどさ。次からはもっと優しくくっついてよね」
「うん!」
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だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
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