恋愛フラグと死亡フラグは紙一重。

我破破

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チェレンコフの青い炎

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 瑠璃がもうダメかと思って目を閉じた直後に、どこからともなく忍武の大きな声が響き渡る。その次の瞬間にはもう一瞬の動きで犯人の背後へと回った忍武が”デーモン・コア”の剣を振りかざしていた。

「笑わせんな…………この童貞野郎―――」

  忍武の剣は一撃で犯人の後頭部から脊髄にかけて切り裂いていた。たとえ死亡フラグの”青い炎”能力を使えなくても通常の剣攻撃としてなら普通に使える。ただその一撃で犯人を仕留める為には人体の運動を制御している脳幹をぶった斬る必要があった。これなら身体的には指一本たりとも動かせないハズだった。

「ゴボッ…………!!」

  血しぶきとともに手に持つ起爆スイッチを落としてしまう犯人の浜田。だが、予想に反して奴の身体が倒れることは無かった。

「勝った………………とでも思ったか?」

  この一撃に全てをかけて剣を振り下ろしていたがために、忍武には犯人の急激な姿勢変化に反応できなかった。

「!? ぐあッ!!」

  忍武が油断して姿勢を低く取っていたが為に、奴が反転してきた蹴りを正面から喰らって突き飛ばされてしまう。おまけにその時に剣まで落として遠くに転がっていってしまった。

「シノブ君!! キャアっ……」

  突然の事態に慌てて彼の名を呼んだ瑠璃は自らその身体でなんとか忍武を受け止める。

「ぐううッ…………!!!」

  彼はこの状況に混乱していた。どんな人間でも脳幹を斬られれば身体的には即死する。だが今回、それに失敗したのは斬る以前に瑠璃の”キューピッド”が奴の精神体へと無駄弾を撃ちまくって余計な干渉をしたからとしか考えられなかった。

「く…………やはり未成年相手に死亡フラグシステムの”青い炎”は作動してはくれないか………………。おまけに今の奴は通常攻撃まで効かないときた。…………つーかそれも、オメーが最初に一人で考えなしに突っ込んで余計なことばかりしてくれるからだろーが!!」

  にっちもさっちもいかない状況に、思わず忍武は目の前の瑠璃の顔に文句を言ってしまう。今度は忍武が瑠璃に覆いかぶさるかたちで恐ろしく近い距離に顔は近づいていた。

「な……何よ!」

  こんな状況にもかかわらずこの危険な距離に顔を真っ赤にして答えてしまう瑠璃。

「撃ち込まれた半端な恋愛フラグの精神弾のせいで、今のアイツは精神と肉体がズレたゾンビ状態だ! さらにドーピングや薬物で痛みすら感じなくさせている!!」

  忌々しげに答える忍武。どうやらトキメキを覚える暇も無く事態は最悪の状況へ陥ってしまったらしい。

「ちょっと待って…………、恋愛フラグも死亡フラグも効かないんじゃ一体どうやってヤツを……」

  もはや打つ手が残されていないことを知った瑠璃はすがるように忍武へと声を上げるが、もうヒソヒソとお喋りする猶予もなく犯人は倒れた二人へと近寄ってきた。

「やっと君たちにも分かったでしょ? この現代システムの弱点が……、僕はこの脆弱性を啓蒙するためにこの世界へと降臨したんだよ」

  忍武は内心くやしがるが、一方で意外にコイツの言うことにも一理あることは事実だった。こんなイレギュラーな未成年の少年犯罪に対処できるシステムはまだ今の現代社会には存在していない。まさにセキュリティーホールだった。

「ククク……それにしても、仲良さげだねぇ君たち…………。さしずめ、その姿は姫を守る騎士(ナイト)と言ったところか……………。今すぐこのリア充カップルを爆発させて肉片にしてやってもいいが、それだけじゃあ面白くない……」

  犯人の浜田は抱き合って倒れたままの二人を見てその関係を勘違いしたらしい。ゲスびたいやらしい目でこちらのようすを眺めながら揶揄している。

「せっかくギャラリーもいることだし、ここは皆に二人の愛の姿を存分に披露してもらおうじゃないか。そこの騎士(ナイト)くん、今すぐこの場でその娘の服を脱がすんだ――――。それが出来たのならば、君たちの命だけは保証してやるよ!」

  コートのポケットから新たに手榴弾を取り出して脅す犯人の浜田。突きつけた要求はトンでもないモノだった。

「くっ……! この下衆が…………!!」

  犯人からかけられたいやらしい声とその意味に青ざめる瑠璃。

「…………わかった、仕方ない……」

  一方でこういうことにはドライな忍武は、少しの沈黙の後に犯人の要求を飲むことを決断する。彼にとっては少しでも時間を稼ぐ以外に方法は無いのだ。

「立てるか? 瑠璃…………」

  犯人に監視されながらも、先に起き上がった忍武が瑠璃へと手を貸す。こんな状況でよく冷静になれるものだと彼女は思ったが、クールに装った彼のその仕草の裏にはどこか思いやりと優しさが根底にはあるように感じた。

「え……あ……、まさかアナタ本気で…………?」

  これからホントにこの彼に脱がされるということを自覚した瑠璃は最高潮に顔を赤くしだす。猛烈に恥ずかしかったが、このままでは犯人に殺されてしまうだけなので仕方無いと自分を納得させた瑠璃は高鳴る鼓動を抑えて目を閉じ、もうどうにでもなれといった感じで忍武へと身体を預ける。

「ふひひ……いいねぇ。新婚ストリップショーのはじまりだ…………」

  その光景を見て気持ちの悪い笑い声を漏らす犯人の浜田。さらにはそれを遠目に見守る人質たちまでもがざわめきだす。

「……………………俺の懐にはもう一本あの剣がある…………。そっちの冠婚課が二丁拳銃なように実はこっちも予備で2本持ってるのさ」

  瑠璃の衣服へとそっと手をかけ、一つ一つのボタンを確実に外しながら、忍武は会話を聴かれないように逆転への最後の策を彼女の耳元でささやく。

「だが、今のアイツはさっきみたいな普通の攻撃では倒せないだろう……。今度こそちゃんと死亡フラグを発動させて『チェレンコフの青い炎』で奴の細胞を残らずに焼き尽くすしかない。その為にはまずこの剣の”年齢制限”(リミッター)を外す以外に方法は無い――――」

  淡々と喋る忍武。しかし、瑠璃はそれが指し示す恐ろしい事実まで気付いてし
まった。

「……待って! それじゃあその剣を持ったそばで青い炎を操るアナタまで放射能を受けて死んじゃうじゃない!!」

  犯人に気づかれないように目いっぱい声を抑えながらも叫んでしまう瑠璃。そのわずかな声は動揺で震えていた。

「構わない」

  そんな彼女の迷いも断ち切るようにきっぱりと言い放つ忍武。

「ヤツの存在は歪んだこのシステムが生んだ化け物だ。したがって一端の俺にも責任がある……。たとえ、この命が燃え尽きようともヤツを葬り去るのが男としての俺の役割だ! その間、お前はヤツの気を引け!!」

  忍武のその言葉に瑠璃も覚悟を決める。どちらにしろもう後戻りは出来ない。

「人間とはやはり生まれたままの姿が一番だ。これが自然なんだ。すなわちその教えを布教して回っている俺はまさに正義の戦士!」

  犯人は自説に陶酔しながらぶつぶつと人質のギャラリーにも向かって説教を垂れ続けている。

「そろそろ準備は出来たかね? 騎士(ナイト)くん…………」

  なんだかんだと屁理屈を言いながらも結局はただ単に彼女の巨乳と肢体を見たいだけの犯人の浜田は忍武を急かしだす。

  それは奴の下心丸出しで正直な股間の肥大を見ていてもわかる。

「……ああ――」

  忍武が瑠璃のブラウスも短パンも脱がしてしまってもう時間稼ぎも尽きてきた頃に、彼は返事をすると、下着姿だけになってしまった彼女の背中をそっと押す。

 ―今よ! シノブ君!!―

  その合図に心の中で答えた瑠璃は自らブラジャーのフックへと手をかけて外し、ハラリと落ちて絶対領域が露わになる。

「!!!!!」

  それと同時に低い姿勢から剣を構えて彼女の後ろから弾丸のごとく飛び出した忍武は犯人に突撃する。

「デーモン・コア解放――――”閾値無し仮説”!!!」

  彼はその剣の最後の力を最大出力で解き放った。中性子吸収材となっていた鍔(つば)や柄を全て取り払って剝き出しの刃のまま素手で握ったのである。

『鬼火葬!!!!』
 
  刹那、犯人の身体を青い閃光が貫く。次の瞬間にはもう犯人の浜田の胴体は真っ二つに切断されて絶叫とともに青い炎の業火に焼かれた。後には灰塵と火葬された骸骨だけになって、それもやがて雲散霧消して消えていった。

「……瑠璃………………」

  超過した青い炎の急性放射線障害でボロボロに身体が黒ずんで崩れていく忍武が最後に呼んだのは、彼が守りたかった者の名前だった…………………………………。
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