1 / 42
〖序章〗
【Prologue】
しおりを挟む
いつまで経っても、気持ちを伝えられないでいる。
「卒業したらどうする?」
「……まだ、決めてないかな」
並んで歩く幼馴染の問いかけに、雅文は視線を逃して応えた。
雲を残した青空。1羽の小鳥が横切る。日常に溢れた光景のはずなのに、意味もなくじっと眺めている。
今日は卒業式だった。まだ蚊帳の外な1年生ではあるけれど、先輩の旅立ちを目の当たりにすればどうしても将来は意識してしまう。
「わたしはやっぱり進学かなぁ。やりたいこととかはないけど」
「やりたいことなんて、進学してから見つければいいでしょ」
「かな?」
チラリと視線を戻せば、まるで見計らったように微笑みかけられる。
村松美桜。雅文にとって10年以上もの付き合いになる幼馴染だ。
向かう視点は少しだけ低く、短く切られた髪と引き締まった体は昔からあまり印象が変わらない。快活な性格と言葉では表しにくい魅力で、周囲によく人を集めていた。
そんな彼女に、雅文は当然のように恋心を抱いている。
きっかけは明確には憶えていない。けれど気づけば、瞳を向けられるだけでどうしようもない胸の詰まりを感じてしまっていた。
その感情を雅文はいつも煩わしく思い、感じる度、彼女に対して踏み込まない言い訳を考えようとする。
「俺は進学しないだろうから、卒業したらもう関わらないかもね」
いっそのこと気づかぬ内に手が届かなくなって終わってしまえ。
なんて、情けない自分を侮蔑したつもりでも、それはただの不安でしかなくて。後になって、愚かしさばかりが目立っているとより一層の不快を知る。
しかしそんな自分とは対照的に、彼女は朗らかに告げるのだ。
「そんなことないよ」
いつものように手を引っ張るみたく、未来を輝かせて。
雅文はその光に何度も焦がれた。
でも、同じくらいに目を眇めている。
眩しくて。直視出来なくて。
だから自分は踏み出せない。
「………」
言葉を返せず。釣り合わないと理解しているのに、隣を離れられないでいる。
足を止めている間に彼女は数歩先に進んでいて。けれど少しすれば不思議な顔をして振り返る。
先を行く彼女。後ろから眺める自分。
たぶんきっと、いつまでもこのままなのだ。
気持ちを伝えられず。この距離を埋める事も出来ず。
その間に彼女は色んな事を成し遂げて。それでも自分を突き放す事はせず。
今の関係性が変わる事なくずっと。
ずっと、ずっと。
今までがそうだったから、このままが続いていく。
そう、思っていた。
車が、目の前で、民家の塀に衝突する。
一人の少女を巻き込んで。
「卒業したらどうする?」
「……まだ、決めてないかな」
並んで歩く幼馴染の問いかけに、雅文は視線を逃して応えた。
雲を残した青空。1羽の小鳥が横切る。日常に溢れた光景のはずなのに、意味もなくじっと眺めている。
今日は卒業式だった。まだ蚊帳の外な1年生ではあるけれど、先輩の旅立ちを目の当たりにすればどうしても将来は意識してしまう。
「わたしはやっぱり進学かなぁ。やりたいこととかはないけど」
「やりたいことなんて、進学してから見つければいいでしょ」
「かな?」
チラリと視線を戻せば、まるで見計らったように微笑みかけられる。
村松美桜。雅文にとって10年以上もの付き合いになる幼馴染だ。
向かう視点は少しだけ低く、短く切られた髪と引き締まった体は昔からあまり印象が変わらない。快活な性格と言葉では表しにくい魅力で、周囲によく人を集めていた。
そんな彼女に、雅文は当然のように恋心を抱いている。
きっかけは明確には憶えていない。けれど気づけば、瞳を向けられるだけでどうしようもない胸の詰まりを感じてしまっていた。
その感情を雅文はいつも煩わしく思い、感じる度、彼女に対して踏み込まない言い訳を考えようとする。
「俺は進学しないだろうから、卒業したらもう関わらないかもね」
いっそのこと気づかぬ内に手が届かなくなって終わってしまえ。
なんて、情けない自分を侮蔑したつもりでも、それはただの不安でしかなくて。後になって、愚かしさばかりが目立っているとより一層の不快を知る。
しかしそんな自分とは対照的に、彼女は朗らかに告げるのだ。
「そんなことないよ」
いつものように手を引っ張るみたく、未来を輝かせて。
雅文はその光に何度も焦がれた。
でも、同じくらいに目を眇めている。
眩しくて。直視出来なくて。
だから自分は踏み出せない。
「………」
言葉を返せず。釣り合わないと理解しているのに、隣を離れられないでいる。
足を止めている間に彼女は数歩先に進んでいて。けれど少しすれば不思議な顔をして振り返る。
先を行く彼女。後ろから眺める自分。
たぶんきっと、いつまでもこのままなのだ。
気持ちを伝えられず。この距離を埋める事も出来ず。
その間に彼女は色んな事を成し遂げて。それでも自分を突き放す事はせず。
今の関係性が変わる事なくずっと。
ずっと、ずっと。
今までがそうだったから、このままが続いていく。
そう、思っていた。
車が、目の前で、民家の塀に衝突する。
一人の少女を巻き込んで。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる