22 / 42
〖1章〗
【14話】‐13/99‐
しおりを挟む
時間割の内、体育祭に向けての準備時間が多く取られるようになっていた。
生徒達は所属する組毎に色で分けられ、3学年混合の6チームを形成している。
百人近い人数で活動するには場所に限りがあり、雨風を凌げてコンセントの使用も可能な体育館は比較的人気だ。その日、その空間を二つに分けて使っていたのは青組と、1年2組も振り分けられた緑組だった。
緑組の代表である3年男子が点呼をしていると、1年生に一人の欠員がある事を知る。
「休みか?」
その問いかけに事情を知る1年生は揃って視線を逸らす。ただし一人だけ、銀髪の少女は意に介した様子もなく答えてみせた。
「いいえ、教室に残っていました」
「はあ? サボりかよ」
その告発に3年男子は呆れるものの、わざわざ連行してこようとするほど勤勉ではない。欠員は無視をして練習を始めようとすると、後ろから共感を孕んだ声が投げられた。
「なんだ、そっちも一人サボってんの?」
「そっちもってお前んとこも?」
「そそ、急にどっか行っちゃってさぁ」
声をかけてきたのは同じ体育館内で練習している青組の3年生で、どうやら機材を忘れて借りに来たところだったようだ。
余っていたスピーカーを抱えながら、彼は冗談めかして笑う。
「全く、今年の1年、不良ばっかかよ」
◆◇◆◇◆
クラスメイト達が体育祭に向けての練習をしている中、雅文は自席で突っ伏していた。
教室にいる方が自宅よりも気が楽だ。仮面を被ってしまっているから、サボっている事に関しての良心の呵責もない。
それでも、ぐっすり眠れるという訳ではなかった。浅い眠りを何度も繰り返して、どうにかこうにか頭を休ませている。
そうして、何度目かに目を覚ました時だった。
「体調悪いの?」
聞きなじみのない声が降って来た。けれどそれは、よくよく思い出せば覚えがあって。
「……大宮、さん?」
顔を上げた先にいたのは小柄な女子生徒。150㎝目前の身長、青みがかったショートボブの髪型に丸顔と、全体的に幼い容姿ながらも瞳だけが大人びている。
大宮希李。
彼女は目を合わせると、薄っすらと笑みを浮かべた。
「久しぶり、加納君」
中学時代に何度か話した事はあるが、その程度。決して親交の深い相手ではなく、そもそも同じ高校に通っている事すら知らなかった。
不意に現れた姿に動揺してしまい言葉に詰まる。そんな雅文に、希李は少しだけ距離を詰めて語りかけてきた。
「なんか雰囲気変わったね。高校デビュー?」
「……いや」
同じクラスではないのだし雅文の現状を知らないのだろう。以前のように軽い調子で話しかけてくる希李だったが、雅文は応えられず視線を逸らす。
明らかに様子のおかしい彼に、しかし希李は追及しなかった。雅文から二つ離れた席——近くの空いている席に座った彼女は、雅文を真似するかのように机に突っ伏す。
居座る希李に居心地の悪さを覚え、雅文は思わず口を開いていた。
「大宮さんは、練習行かなくていいの?」
机にもたれかかった希李はものぐさに顔だけを見せて、下手な笑い方をする。
「へへっ、あたし悪い子だから」
照れくささと得意げな感情が混じったような言い回し。それが彼女の口癖であると、関わりがそう多くない雅文でも知っていた。
「体育祭とか昔から苦手なんだよねー。人となんか頑張るのが苦手でさ」
「……そうなんだ」
相槌を打つと希李は瞳を見つめてくる。それはなんだか、心の奥を見透かされている気分にさせた。
「暇だったら、話し相手になってよ」
どこか差し伸べるようなその誘いに、雅文はとっさに首を横に振っていた。
「いや……俺、行くよ」
「そっか。じゃあまたねー」
拒絶の理由に席を立つ。対して希李は気にした様子もなく雅文を送り出していた。
……彼女はなんで教室に現れたのだろう。いや、本当にただサボっただけで、たまたま巡り合っただけだ。それに1度目ではその姿を目にもしてないのだし。
過去を思い出そうとする頭を押さえつけて、雅文は学校から逃げ出した。
雅文が早退するのはよくある事だ。
殺される手段の中で、上手くいきそうにない時は早々に切り上げる。幸いな事に出席は、認識の誤魔化しによる副産物で朝礼の点呼にさえ応えていれば早退扱いもそうされなかった。ただし、点呼が必要な行事の際は例外である。
雅文は荒立つ胸の奥を殺して、急いで自宅へと向かう。
家の外では仮面を被っているとはいえ、ふとした時に崩れかかる時がある。雅文の精神は常に不安定で、未だに装いを全う出来ていないのだ。
しばらくしてアパートに着き、玄関の扉を開けた雅文は、そのまま靴も脱がずに玄関先でひざまずいた。
「はあっ……うっ」
堪えられず、声だけを漏らす。ほとんど食事も摂っていないのに、胃の中からは何かがせり上がろうとしていた。
1度目の波をどうにか抑え込み、取り敢えず立って靴を脱ごうと顔を上げた時。
不意に、背中に温もりを感じた。
「ねえ。やっぱ体調悪いんじゃない?」
落ち着いた声色。それは少し前にも聞いたもので。
ゆっくりと振り向いた先。そこにいたのは、脳裏に浮かべていた人物。
「ごめんね。つけて来ちゃった」
希李は申し訳なさそうに言って、優しく、雅文の背中をさすり続けていた。
——〖1章〗完——
生徒達は所属する組毎に色で分けられ、3学年混合の6チームを形成している。
百人近い人数で活動するには場所に限りがあり、雨風を凌げてコンセントの使用も可能な体育館は比較的人気だ。その日、その空間を二つに分けて使っていたのは青組と、1年2組も振り分けられた緑組だった。
緑組の代表である3年男子が点呼をしていると、1年生に一人の欠員がある事を知る。
「休みか?」
その問いかけに事情を知る1年生は揃って視線を逸らす。ただし一人だけ、銀髪の少女は意に介した様子もなく答えてみせた。
「いいえ、教室に残っていました」
「はあ? サボりかよ」
その告発に3年男子は呆れるものの、わざわざ連行してこようとするほど勤勉ではない。欠員は無視をして練習を始めようとすると、後ろから共感を孕んだ声が投げられた。
「なんだ、そっちも一人サボってんの?」
「そっちもってお前んとこも?」
「そそ、急にどっか行っちゃってさぁ」
声をかけてきたのは同じ体育館内で練習している青組の3年生で、どうやら機材を忘れて借りに来たところだったようだ。
余っていたスピーカーを抱えながら、彼は冗談めかして笑う。
「全く、今年の1年、不良ばっかかよ」
◆◇◆◇◆
クラスメイト達が体育祭に向けての練習をしている中、雅文は自席で突っ伏していた。
教室にいる方が自宅よりも気が楽だ。仮面を被ってしまっているから、サボっている事に関しての良心の呵責もない。
それでも、ぐっすり眠れるという訳ではなかった。浅い眠りを何度も繰り返して、どうにかこうにか頭を休ませている。
そうして、何度目かに目を覚ました時だった。
「体調悪いの?」
聞きなじみのない声が降って来た。けれどそれは、よくよく思い出せば覚えがあって。
「……大宮、さん?」
顔を上げた先にいたのは小柄な女子生徒。150㎝目前の身長、青みがかったショートボブの髪型に丸顔と、全体的に幼い容姿ながらも瞳だけが大人びている。
大宮希李。
彼女は目を合わせると、薄っすらと笑みを浮かべた。
「久しぶり、加納君」
中学時代に何度か話した事はあるが、その程度。決して親交の深い相手ではなく、そもそも同じ高校に通っている事すら知らなかった。
不意に現れた姿に動揺してしまい言葉に詰まる。そんな雅文に、希李は少しだけ距離を詰めて語りかけてきた。
「なんか雰囲気変わったね。高校デビュー?」
「……いや」
同じクラスではないのだし雅文の現状を知らないのだろう。以前のように軽い調子で話しかけてくる希李だったが、雅文は応えられず視線を逸らす。
明らかに様子のおかしい彼に、しかし希李は追及しなかった。雅文から二つ離れた席——近くの空いている席に座った彼女は、雅文を真似するかのように机に突っ伏す。
居座る希李に居心地の悪さを覚え、雅文は思わず口を開いていた。
「大宮さんは、練習行かなくていいの?」
机にもたれかかった希李はものぐさに顔だけを見せて、下手な笑い方をする。
「へへっ、あたし悪い子だから」
照れくささと得意げな感情が混じったような言い回し。それが彼女の口癖であると、関わりがそう多くない雅文でも知っていた。
「体育祭とか昔から苦手なんだよねー。人となんか頑張るのが苦手でさ」
「……そうなんだ」
相槌を打つと希李は瞳を見つめてくる。それはなんだか、心の奥を見透かされている気分にさせた。
「暇だったら、話し相手になってよ」
どこか差し伸べるようなその誘いに、雅文はとっさに首を横に振っていた。
「いや……俺、行くよ」
「そっか。じゃあまたねー」
拒絶の理由に席を立つ。対して希李は気にした様子もなく雅文を送り出していた。
……彼女はなんで教室に現れたのだろう。いや、本当にただサボっただけで、たまたま巡り合っただけだ。それに1度目ではその姿を目にもしてないのだし。
過去を思い出そうとする頭を押さえつけて、雅文は学校から逃げ出した。
雅文が早退するのはよくある事だ。
殺される手段の中で、上手くいきそうにない時は早々に切り上げる。幸いな事に出席は、認識の誤魔化しによる副産物で朝礼の点呼にさえ応えていれば早退扱いもそうされなかった。ただし、点呼が必要な行事の際は例外である。
雅文は荒立つ胸の奥を殺して、急いで自宅へと向かう。
家の外では仮面を被っているとはいえ、ふとした時に崩れかかる時がある。雅文の精神は常に不安定で、未だに装いを全う出来ていないのだ。
しばらくしてアパートに着き、玄関の扉を開けた雅文は、そのまま靴も脱がずに玄関先でひざまずいた。
「はあっ……うっ」
堪えられず、声だけを漏らす。ほとんど食事も摂っていないのに、胃の中からは何かがせり上がろうとしていた。
1度目の波をどうにか抑え込み、取り敢えず立って靴を脱ごうと顔を上げた時。
不意に、背中に温もりを感じた。
「ねえ。やっぱ体調悪いんじゃない?」
落ち着いた声色。それは少し前にも聞いたもので。
ゆっくりと振り向いた先。そこにいたのは、脳裏に浮かべていた人物。
「ごめんね。つけて来ちゃった」
希李は申し訳なさそうに言って、優しく、雅文の背中をさすり続けていた。
——〖1章〗完——
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる