Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~

落光ふたつ

文字の大きさ
16 / 63
第3話「猪皮蒼」

#1

しおりを挟む
『今日、早めに学校来れないかな? 話があるんだ』

 朝起きると一通のメールが届いていた。
 それは数少ない友人の蒼からで、昨日のこともあって俺はすぐに夜風を連想する。
 半ば強引に介抱を請け負った蒼だったが、彼女から何か聞き出せたのだろうか。わざわざ早い時間帯に会って話したいということは、複雑な事情がありそうだと予想出来る。
 心の準備はしておこう、と俺は気持ち丁寧に出発の支度を整えた。

「……そうだ。咲に言っとかねぇと」

 毎朝の登校は咲と一緒だ。
 下校も同じく、あの社長令嬢はわざわざ学校を通り過ぎて玄関先までやってくる。中学の初めの方は校門前で落ち合っていたのが、気づけば二度手間をするようになっていた。
 健気とも厄介とも取れる準幼馴染に呆れつつも、嫌な気分にはなれない。
 ケータイに『用事が出来て早めに出るから学校で』と文章を打ち込み、咲のアドレスに送る。
 そうして俺は、いつもより一時間早く家を出た。


「ごめんっ。急に呼び出して」
 校門の手前で蒼は待っていた。俺の姿を見つけるなり駆け寄って頭を下げてくる。

「別にいいけどよ。話って夜風のことか?」
「うんそう。さすがだね」

 そんな風に褒められるも、普通に考えれば至る推測だ。
 俺はチラリと蒼の背後に視線を向け、見える範囲に夜風がいないことを確認した。どうやら当事者でもある彼女は席を外しているようだ。
 昨日の様子を見るにだいぶ感情的だったし、妥当な判断かもしれない。とは言えどんな話が持ち出されるのか、若干の緊張を抱えていると、ふと蒼が眠そうに頭を上下に振りだした。

「えっとそれで、話、なんだけど……」
「なんだ? 眠いのか?」
「いやちゃんと、寝た、はず……」

 蒼は両目を擦って眠気を追い払おうとするが、どことなく口調も重たい。
 それから気を取り直して俺を見上げるが、やはりまだその瞼は下がり気味だった。

「……ごめん。それで、」
 と言いかけた時、聞き慣れた声が後ろから投げられる。

「あら。ご用事って蒼さんとの密会でしたの?」
 凛としたその問いかけに振り向くと、咲が車から降りてくるところだった。彼女はそのまま俺たちの元まで歩み寄ってくる。

「お前も早く来たのかよ」
「比良人さんと長い時間を過ごしたいですもの」

 昔は嘘くさかった笑顔も、今じゃ疑うだけこちらが恥ずかしい。
 これ以上構ってもバツが悪いと顔を逸らし、本題に戻そうと蒼に向き直る。
 するとその直後、彼の体が俺の胸元に倒れ込んできた。

「お、おいっ? 大丈夫か?」
「あ、蒼さんっ!? あなたまでも比良人さんをお狙いで!?」

 変な勘違いを起こした咲が悲鳴を上げる。しかしそんな意図があるはずもなく。
 両肩を支え、起こした蒼は目を閉じていて、意識を失っているようだった。
「すぅすぅ……」
 まるで、普通に眠っているかのような寝息。
 それほど寝不足だったのか。しかしさっきはちゃんと寝たと言っていたが……
 よく分からない事態に眉をしかめていると、途端、蒼が跳ね起きた。


「んはっ!?」


 カッと見開いた目が慌てたように辺りを見渡し、そして俺の顔を見据えて止まる。
 わなわなと。
 蒼の顔は動揺したみたく震えだして。

「あ、あっ、あ……!?」

 口をパクパクと開閉させる様子は、明らかにおかしい。
 何があったんだと顔を覗き込もうと近づくと、俺が近づいた分だけ距離を取る。

「?」
「……っ」
「おいどうし——」
 視線が交錯したまま固まり、たまりかねて俺が声を投げたその瞬間、


「っ‼」


 全力疾走で蒼は逃げ出した。
 たくましい脚力はあっという間に彼方へ飛んで、その姿は消え去ってしまう。

 唖然となった俺は、縋るように咲を見た。
「あいつ、どうしたんだ……?」
「わたくしの方が分かりませんわ」
 教えてくれと言う俺の訴えに、当然の答えが返ってくる。

 それからしばらくしても蒼は戻ってこず。
 謎が生まれるだけ生まれ放置されていく現状は、酷く心地が悪かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...