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婚礼
鉄壁の護り
しおりを挟む神殿内が揺れるほどの怒号と共に、クロエの腕を掴んでいたはずのロズワートは強い勢いで後ろへと吹き飛ばされる。
彼の体はアレッサよりも後ろに飛ばされ、アグナスよりも前の地面に叩き落とされた。
背中に広がる衝撃に顔を顰めつつ、ロズワートはクロエの方へと目を向ける。
クロエとゴトリルの周りには、白いモヤのようなものが立ち込めており、二人を包み込むように霧がかっている。
まるで壁のようなそれは、未だ二人の周りを旋回していた。
その中でクロエは、守られるようにゴトリルの後ろへと下げられている。彼女の肩を寄せて庇うように前へ出たゴトリルの顔を見た時、ロズワートは言葉を失った。
鬼のような顔をしたゴトリルが、ロズワートを睨んでいた。
「俺の嫁に手ェ出すんじゃねぇ!!死にてぇのか!?」
普段の笑う姿は何処へやら、怒りで顔を歪めたゴトリルはロズワートに怒鳴り散らす。その声は周りの空気を揺らすほどの轟音となってロズワートに襲いかかった。
ゴトリルの怒りを真っ向から受けたロズワートは、恐ろしさのあまり全身を震わせて狼狽えている。何かを言おうとした口はパクパクとしているだけで、音が発せられる様子は無い。完全に怯えていた。
一方クロエはというと、自分の周りに立ち込めるモヤに困惑していた。
先ほど、ロズワートに腕を掴まれた瞬間、このモヤが現れて彼を吹き飛ばしたのだ。そこまではしっかりと見届けていた。しかし、何故これが現れたのかは分からなかった。
オロオロしていると、それに気付いたゴトリルがいつもの顔をクロエに向けた。
「クロエ、大丈夫か?」
「は、はい、あの……この霧のようなものは?」
「ん?魔法だけど」
「まほう……」
クロエの問いをあっさり単調に答えたゴトリルに、近くで見ていたラゼイヤが溜息を漏らした。
「クロエ。ゴトリルの得意魔法は『防御』なんだ。大抵の攻撃や呪いは跳ね返せるんだよ」
ラゼイヤの言葉に、その時初めてゴトリルの魔法を知ったクロエは驚くも、納得した。
ロズワートが吹き飛んだ仕組みも説明がつく。
このモヤは、『防壁』なのだ。
クロエを守るための。
しかしながら、あそこまで吹き飛ばされるとは思っておらず、そんな彼を少し可哀想だとも思っていた。
「これが、ゴトリル様の魔法……」
クロエは、目の前の防壁にそう呟いた。
白い霧はゴトリルの体に入っている刺青と同じ模様が微かに見え、まるで彼自身に包み込まれているような感覚になる。
それが少し恥ずかしかった。
「あ、俺でも今日神殿に防壁張るの忘れちまったんだよな」
「……今回の侵入はお前が原因か」
ケロッと笑うゴトリルを、ラゼイヤはジト目で睨んでいる。だが、その視線もものともせずに、ゴトリルは笑いながらクロエの頭を撫でていた。
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