地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

文字の大きさ
15 / 116
第二章 不幸な師団長

第6話 演習と試験

しおりを挟む
 見た事のないほど広い草原に一木は立っていた。
 青臭い匂いの風の中、周囲にはΑ連隊を基幹としたアミ戦闘団が展開して、敵を待ち構えている。

 敵。
 惑星ガーナレスのサディ王国軍の六万人にも及ぶ大軍だ。

 一木がモノアイを最大望遠モードにすると、中国とヨーロッパの鎧を混ぜたようなデザインの、大層な金属鎧に身を包んだ将軍と思しき男が見えた。

(三国志のゲームに出てきそうだ…)

 ぼんやりと生身の頃の記憶に思いをはせる一木。
 すると、隣にいた小柄なアンドロイドが近づいてきた。

「狙撃しますか?」

「いや、いい」

 連隊長のアミ中佐が聞いてくるが、一木は止めた。

「それよりも戦闘団の車両を奴らの正面、もっと見えるように集結させるんだ。囮にする。歩兵は下車させて車両の左右で身を低くして待機。突撃兵は車載の機関銃を取り外して機関銃班に再編」

 指示を出しながら望遠モードを解くと、すでにアミ中佐は連隊への指示を終えていた。

 指揮官型、歩兵型を含むすべてのSSには、量子通信機能はなくとも高度な無線通信システムが内蔵されている。

 アミ中佐から出された通信は各大隊長へ、各大隊長から各中隊長と言った具合に、部隊全体に瞬時にリンクされ、同時に連隊参謀から上位の参謀へ、そして参謀から航宙戦力を含む機動艦隊全域へと瞬時にデータリンクされる。

 結果、師団長や艦隊司令の手元には常にシミュレーションゲームさながらの情報が提供されることになる。

 今も一木の下には、AからDまでの基幹連隊の配置と状態。
 軌道上の航宙艦、補給物資の量や集積場への到着時間まで、ありとあらゆる情報がリアルタイムで提供されていた。

 しかもわからない部分は各参謀を通じて問い合わせることで、即座に状況説明を得られる。
 下手なゲームより、よほど指揮しやすいと言える状況だった。

 そんな多数の情報の中から、一木は視界の隅に映るCGで作成された戦場のマッピングを見る。
 そして部隊が指示通りに動いている事を確認した。
 そろそろ現場視点での指示は切り上げるべきだろう。

 そこまで考えたころには、背後の戦車や歩兵戦闘車は、搭載されたSAによる機動で見事な隊列を組み、展開を終えていた。

 車両からは砲塔上部に搭載されたRM2重機関銃が取り外され、神輿の担ぎ棒のようなハンドルのついた三脚に取り付けられている。
 そして、機関銃班に配置された小柄なSSが二人がかりで素早く運搬していった。

 ふと、一木はあることに気が付いたが、ここでは触れなかった。
 あとで艦隊参謀の誰かに聞こう。
 一木は気持ちを切り替え、連隊長にこの後の指示を出す。

「この後使者が来て、開戦の儀式をするはずだ。連隊長はそれに適当に付き合え。開戦後は指示あるまでΑ連隊はここで待機」

「了解」

 ここでの指示は終わり、一木はこの場から引き上げることにした。

「VRモード解除、連隊参謀ご苦労」

 その言葉と共に、視界が元々いた場所。
 仮想空間演習室の指揮所に戻っていた。
 両脇には副官のマナ大尉と、作戦参謀のジーク大佐が佇んでいた。

 先程までの光景は全て仮想空間での演習の物であり、当然サディ王国軍もAIによる再現だった。
 本物の王国軍は二十年前に壊滅している。

 先ほどまで視界を借りていた連隊参謀の小さな身長はどうにも落ち着かず、強化機兵の視界に戻ると一木はホッとした。よもやこの体にここまで馴染むとは……。

「指揮官を狙撃しなかった理由は?」

 気を抜いた一木に、隣に控えていた作戦参謀のジークが問いかける。

 短く切りそろえた黒髪。
 少し日焼けしたような肌色の、歩兵型よりやや小さい150センチ程の小柄な参謀型だった。

 一見活発な少年のようだが、ダグラス首席参謀によると少女型らしい。
 パチリとした瞳がジッと一木を値踏みするように見ていた。

 突然の問いかけ。
 要は試験中、と言うわけだ。

 着任したあと、艦隊参謀達に師団の連中と馴染むのは演習が一番と言われ、翌日にはここに連れてこられていた。
 現在幹部以外はボディを輸送艦の格納庫にしまい込み、仮想空間で休眠中の四四師団。
 それを指揮しての演習。

 ダグラス首席参謀に馴染む、と言われたので、てっきりあいさつ代わりの軽めの訓練なのかと思いきや、演習内容は異世界派遣軍の過去の戦場の再現。
 しかも作戦参謀の厳しい質問が飛んでくる試験会場だっだ。
 結果、一木はキリキリしながら学校と実習の知識をフル動員して師団の指揮をしている。

 目の前にのんびり集結した敵軍の指揮官を狙撃しない理由……文化参謀からのレポートをタブレットに表示させながら、一木は答えた。

「ここで指揮官を狙撃することで、確かに眼前の敵集団を無力化、ないし弱体化させることが可能だと思われます。しかし王国軍の文化や指揮をする貴族階級の意識を考えるに、開戦の儀式前の攻撃は”卑怯”と見なされ、この戦闘が終了した後にも交戦を継続する意識を残すことにつながります。『敵の卑怯な攻撃で負けた。正々堂々やれば勝てる』といった具合いに。なので、敵の戦争習慣に可能な限り合わせた上で、適度に痛めつけます」

 一木は合っているか内心ひやひやしながら答えた。
 するとジーク大佐は相変わらずの無表情のまま評価を下した。

「そう、その通り。これは異世界派遣軍が戦う上で基本的な考えになる。つまりは敵の抵抗の意思をくじく。これを最優先にする」

 そういうとジークは目の前の空中投影モニターに様々な情報を映し出した。

「強硬派貴族の暗殺、移動中の軍勢を軌道上から砲撃、主要貴族の家族を人質にして脅す。戦闘前からして取れる手段は山ほどある」

「そうですね。この戦場にしても、こんな見える距離で、しかも遮蔽物の無い草原で向かい合ってるんです。アミ戦闘団の火力だけで容易に殲滅できるはず……ようはプロレスって事ですか」

「いい例えだ。もう少し近代的な文明だとまた違うし、敵の脅威度にもよる。けれども僕たち派遣軍の戦闘は基本的に相手に”分かるように勝つ”ことだ。軌道上からの砲撃や遠距離からの一方的な銃撃では”実感”がわかないんだよ。僕たちは分かり易く強くなければいけないんだ」

 強大な戦力で死力を尽くすような戦闘を、実習時の経験からも意識していた一木としては、拍子抜けする言葉だった。
 果たして部下達は”あいつら”と出会っても同じように戦えるだろうか。

「……けれども、自分たちへの対策を十分に練った相手や、”魔法”使い相手にはどうです?」

「ああ、君の実習先はあそこか……確かに僕らが不期遭遇戦に弱いことは否定しないよ。ただ、僕らはそもそもそういう存在さ。未知の脅威を身をもって探る、異世界派遣軍自体が地球文明の強行偵察部隊みたいなものだからね」

 異世界派遣軍の目的はあいまいだと言われて久しいが、異世界派遣の賛否にかかわらず陰で言われていることがあった。

 異世界派遣軍とは、地球の脅威に対しその力と存在を持って相手の力量を探るための存在だということだ。
 ジーク大佐の言う通り、”勝てる相手”に対応する装備を中心とすることからもそういった思想の下創設されたことは否めない。

 連邦宇宙軍が地球の総力をもって敵にあたる軍隊だといわれることを考えると、鬱屈とした思いを感じる派遣軍の軍人も多くいる。
 自分たちは捨て石なのだと。
 一木は実習先でそういった出来事の一端に出会った。

 そして一木自身が大きな存在を失ったのだ。

「俺のような……新米でもいつかこういった流れを変えられるでしょうか……」

 一木の呟きを聞くと、ジーク作戦参謀は笑みを浮かべた。

 笑うと意外とかわいい。

 その表情の可愛さは、思わずジークの反対側にたたずむマナに、モノアイがジークの顔を凝視する音が聞こえないか心配になるほどだった。

「君ならやれるさ。みんな君には期待しているんだよ。さあ、王国の将軍様が来たよ、次はどうする?」

 お喋りは終わり。
 一木は意識をモニターに移した。


「カタクラフト攻撃機上空待機、敵が突撃体制を見せたら射出式フェンスをジグザグに射出。フェンスに合わせて歩兵及び車両部隊は展開、敵を撃滅せよ」

 一木はいろいろな思いを吹っ切るように指示を出していく。
 これなら高評価間違いない。

 そう思ったとき、敵の三国志じみた将軍が、バイクで出て行ったアミ中佐に激昂して弓矢で射った。

 矢はかすりもしなかったものの、敵はいきり立って突撃体制をとった。

「あ……」

「アミ中佐よりも、強化機兵でも出した方がよかったね。彼らの文化だと、儀式に女子供を出したら怒り狂うよ。減点一点」

 一木弘和。
 一人前の指揮官への道は遠い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

処理中です...