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第二章 不幸な師団長
第12話―1 降下作戦開始
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あの出来事の後、グーシュリャリャポスティをメインの交渉相手とした上で担ぎ上げ、帝国の主流派にしていく事で意見は一致した。
とはいえ調べていく過程でグーシュリャリャポスティの性格や状況を知るにつれて、そこまで確度の高い案とは言えなくなったのも事実だった。
しかし、現在官僚や軍をまとめている派閥の主である、騎士団のイツシズという男は皇太子を担ぎ上げている。
皇帝自身は自ら議会から投票で選ばれるよう図らった程の改革派だが、イツシズは皇帝の権限を強く保とうとする守旧派の筆頭だ。その連中が帝国の中枢を固めている現状では、単純に交渉するだけではスムーズにいく可能性は低い。
そこで博打の要素は強いが、グーシュリャリャポスティと交渉をしたうえで、こちら側に引き込み、可能なら後ろ盾になる。
そして皇太子一派を悪者にする形で民衆にアピールしながら、グーシュリャリャポスティを次期皇帝になるように持っていく、これが大まかな作戦の流れだ。
一歩間違えば内乱になりかねない行為だが、どのみち今の状況で交渉しても皇太子一派の意見に押され、帝国対連邦の戦争は避けられない。
ならば、グーシュリャリャポスティにクーデターを起こさせた方が効率はいい。
うまくいけば内乱は小規模に終わり、民衆の支持は簡単に得られる。
悪くともグーシュ派対皇太子派の争いに持っていく事が出来る。連邦は善意の第三者として、民衆の事を第一に考えたグーシュ派を支援し、国民から妙な恨みをかう事無くこの地に足場を築くことが出来る。
「とはいえうまくいくものか」
あの鶏肉宿での一見から約一か月後、揚陸艦”ツキ”の艦橋で一木は呟いた。
現在一木と降下部隊の司令部はツキに座乗し、師団の他の部隊は揚陸艦”ルナ”、”ユエ”、”ムーン”に分散して軌道上で待機していた。あとはサーレハ司令からの指示を待つのみだ。
長々と話し合いをしたものの、不確定要素が多く緻密な作戦はついぞ構築できなかった。
一木の能力不足もあるが、どうにもあのグーシュリャリャポスティという皇女の行動と性格が読めなかったのだ。
突拍子もなく街や城の中を動き回り、脈絡なく人々と語り合う。兵士や庶民の心を一瞬でつかんだかと思うと、皇太子派の官僚を煽るような言動をとったり、忠告した官僚と口論する。
どうにも考えが読めず、交渉相手足り得るのか疑問視する意見も出たが、皇帝の弟をハニートラップで篭絡してこちら側に引き込んだことから、何とか今回の作戦にこぎつけたのだ。
「大丈夫ですよ、弘和くん」
不安に思っていると、マナ大尉が一木の手をギュッと握った。
このひと月の作業の末、マナ大尉の性格は完全にお姉さん気質になってしまった。
パートナーアンドロイドは所有者の好みに合わせた性格に変化していくと言われている。つまりは、そういうことだ。マナ大尉は一木の好みに合わせていたのだ。
その時、シキの場合は違ったな、と一木はふと思った。
あの娘は出会ったころからすでに一木にとって理想の女性だった。
会った時、こんな境遇になるのはこの娘に出会うための運命だと本気で思ったものだ。
そう考えると、マナ大尉がどんどんシキに似てくるのも仕方がないのかもしれない。仕方がないのだ。
一木はギュッとマナ大尉の手を握り返した。
その時、揚陸艦”ツキ”の艦橋にサーレハ司令の声が響き渡った。
「さあ、第四四師団の揚陸開始だ。揚陸戦隊各艦は出撃。護衛の各艦隊は警戒深度を2に引き上げ。大気圏内での航空機活動は目撃制限処置をかける。初期交渉終了までは原則飛行禁止、監視衛星で対応」
サーレハ司令の声に合わせ、打ち合わせ通り一木も号令をかけた。
「揚陸戦隊全艦発進! サーレハ司令の指示に従い護衛は最低限で行く。ツキ、個艦防空は頼んだぞ」
一木の指示に、高校生のように見える男性型SA、揚陸艦”ツキ”が応じる。
「了解、対空システム起動。戦隊及び護衛戦隊とのデータリンク開始」
こうして四隻の全長三百メートルにも及ぶ揚陸艦と、護衛戦隊の軽巡洋艦一隻と護衛艦八隻は軌道制空戦闘機メビウスの編隊に見送られながら、ポイント・ルニに向かって降下していった。
外の光景が赤みを帯びていく。
生身の頃、アニメでよく見た大気圏突入を、まさか自分がこうして実戦で体験するとは思わなかった。
訓練で何度も体験したし、生身の頃の宇宙船とは比較にならないほど現代の艦船は優れた性能を持っている。そう思っても、緊張感からマナ大尉の手を握る右手に力が入る。
そんな時不意に、艦隊のオープン回線から異世界派遣軍の軍歌が流れてきた。
異世界派遣軍軍歌。設立時にあれこれ作曲された結果、どの案もあちこちから物言いが付き、結局ある名作SF映画から曲を借用し作詞をネットでの公募から選んだという曰く付きの曲だ。
とはえ今ではすっかり受け入れられ、異世界派遣軍では出迎え、食事時、BGMにとありとあらゆるときに流される。武装や設備、組織は独自色を出そうと躍起になっているのに、軍歌や行進曲はほとんどが地球でもともと用いられていたものを使うことが多いのが、異世界派遣軍だった。
もっとも、これには単なるもめ事の末という理由以外にも、地球の文化を異世界に知らしめるという意味合いもあるそうだが。
演奏はおそらく福利課の楽団による生演奏だろう。
演奏される曲は「美しく碧きドナウ」。作詞は公募に応募したアメリカの学生、LilacG(ペンネーム。なお下記の歌詞は日本語版)。
宇宙の旅路を彩った音楽が、異世界攻略の門出を祝った。
銀色道行き
地球の艦は行く
自由の光で
異界の民を救うために
圧政に泣く子らを
笑顔にするため
血の刃折るために
銃火を撃ち続ける
圧政に泣く子らを
笑顔にするため
血の刃折るために
銃火を撃ち続ける
地球の光闇をも照らす
闇無き宇宙を光がつなげる
地球の光闇をも照らす
闇無き宇宙を光がつなげる
散々穏便な制圧作戦を考えていたのに、随分物騒な曲で送り出されるものだと、一木は心の中で笑った。
数分後、艦隊は予定通り大気圏内に降下完了し、空路ルニ子爵領を目指した。
とはいえ調べていく過程でグーシュリャリャポスティの性格や状況を知るにつれて、そこまで確度の高い案とは言えなくなったのも事実だった。
しかし、現在官僚や軍をまとめている派閥の主である、騎士団のイツシズという男は皇太子を担ぎ上げている。
皇帝自身は自ら議会から投票で選ばれるよう図らった程の改革派だが、イツシズは皇帝の権限を強く保とうとする守旧派の筆頭だ。その連中が帝国の中枢を固めている現状では、単純に交渉するだけではスムーズにいく可能性は低い。
そこで博打の要素は強いが、グーシュリャリャポスティと交渉をしたうえで、こちら側に引き込み、可能なら後ろ盾になる。
そして皇太子一派を悪者にする形で民衆にアピールしながら、グーシュリャリャポスティを次期皇帝になるように持っていく、これが大まかな作戦の流れだ。
一歩間違えば内乱になりかねない行為だが、どのみち今の状況で交渉しても皇太子一派の意見に押され、帝国対連邦の戦争は避けられない。
ならば、グーシュリャリャポスティにクーデターを起こさせた方が効率はいい。
うまくいけば内乱は小規模に終わり、民衆の支持は簡単に得られる。
悪くともグーシュ派対皇太子派の争いに持っていく事が出来る。連邦は善意の第三者として、民衆の事を第一に考えたグーシュ派を支援し、国民から妙な恨みをかう事無くこの地に足場を築くことが出来る。
「とはいえうまくいくものか」
あの鶏肉宿での一見から約一か月後、揚陸艦”ツキ”の艦橋で一木は呟いた。
現在一木と降下部隊の司令部はツキに座乗し、師団の他の部隊は揚陸艦”ルナ”、”ユエ”、”ムーン”に分散して軌道上で待機していた。あとはサーレハ司令からの指示を待つのみだ。
長々と話し合いをしたものの、不確定要素が多く緻密な作戦はついぞ構築できなかった。
一木の能力不足もあるが、どうにもあのグーシュリャリャポスティという皇女の行動と性格が読めなかったのだ。
突拍子もなく街や城の中を動き回り、脈絡なく人々と語り合う。兵士や庶民の心を一瞬でつかんだかと思うと、皇太子派の官僚を煽るような言動をとったり、忠告した官僚と口論する。
どうにも考えが読めず、交渉相手足り得るのか疑問視する意見も出たが、皇帝の弟をハニートラップで篭絡してこちら側に引き込んだことから、何とか今回の作戦にこぎつけたのだ。
「大丈夫ですよ、弘和くん」
不安に思っていると、マナ大尉が一木の手をギュッと握った。
このひと月の作業の末、マナ大尉の性格は完全にお姉さん気質になってしまった。
パートナーアンドロイドは所有者の好みに合わせた性格に変化していくと言われている。つまりは、そういうことだ。マナ大尉は一木の好みに合わせていたのだ。
その時、シキの場合は違ったな、と一木はふと思った。
あの娘は出会ったころからすでに一木にとって理想の女性だった。
会った時、こんな境遇になるのはこの娘に出会うための運命だと本気で思ったものだ。
そう考えると、マナ大尉がどんどんシキに似てくるのも仕方がないのかもしれない。仕方がないのだ。
一木はギュッとマナ大尉の手を握り返した。
その時、揚陸艦”ツキ”の艦橋にサーレハ司令の声が響き渡った。
「さあ、第四四師団の揚陸開始だ。揚陸戦隊各艦は出撃。護衛の各艦隊は警戒深度を2に引き上げ。大気圏内での航空機活動は目撃制限処置をかける。初期交渉終了までは原則飛行禁止、監視衛星で対応」
サーレハ司令の声に合わせ、打ち合わせ通り一木も号令をかけた。
「揚陸戦隊全艦発進! サーレハ司令の指示に従い護衛は最低限で行く。ツキ、個艦防空は頼んだぞ」
一木の指示に、高校生のように見える男性型SA、揚陸艦”ツキ”が応じる。
「了解、対空システム起動。戦隊及び護衛戦隊とのデータリンク開始」
こうして四隻の全長三百メートルにも及ぶ揚陸艦と、護衛戦隊の軽巡洋艦一隻と護衛艦八隻は軌道制空戦闘機メビウスの編隊に見送られながら、ポイント・ルニに向かって降下していった。
外の光景が赤みを帯びていく。
生身の頃、アニメでよく見た大気圏突入を、まさか自分がこうして実戦で体験するとは思わなかった。
訓練で何度も体験したし、生身の頃の宇宙船とは比較にならないほど現代の艦船は優れた性能を持っている。そう思っても、緊張感からマナ大尉の手を握る右手に力が入る。
そんな時不意に、艦隊のオープン回線から異世界派遣軍の軍歌が流れてきた。
異世界派遣軍軍歌。設立時にあれこれ作曲された結果、どの案もあちこちから物言いが付き、結局ある名作SF映画から曲を借用し作詞をネットでの公募から選んだという曰く付きの曲だ。
とはえ今ではすっかり受け入れられ、異世界派遣軍では出迎え、食事時、BGMにとありとあらゆるときに流される。武装や設備、組織は独自色を出そうと躍起になっているのに、軍歌や行進曲はほとんどが地球でもともと用いられていたものを使うことが多いのが、異世界派遣軍だった。
もっとも、これには単なるもめ事の末という理由以外にも、地球の文化を異世界に知らしめるという意味合いもあるそうだが。
演奏はおそらく福利課の楽団による生演奏だろう。
演奏される曲は「美しく碧きドナウ」。作詞は公募に応募したアメリカの学生、LilacG(ペンネーム。なお下記の歌詞は日本語版)。
宇宙の旅路を彩った音楽が、異世界攻略の門出を祝った。
銀色道行き
地球の艦は行く
自由の光で
異界の民を救うために
圧政に泣く子らを
笑顔にするため
血の刃折るために
銃火を撃ち続ける
圧政に泣く子らを
笑顔にするため
血の刃折るために
銃火を撃ち続ける
地球の光闇をも照らす
闇無き宇宙を光がつなげる
地球の光闇をも照らす
闇無き宇宙を光がつなげる
散々穏便な制圧作戦を考えていたのに、随分物騒な曲で送り出されるものだと、一木は心の中で笑った。
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