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渡良瀬健司
しおりを挟む俺の人生はかなり楽しい。
まず、可愛い嫁と子供がいる。嫁のほのかは、バイト先で一緒に働いていた。真面目によく働く子で、でもちょっと人見知り。俺以外にはあまり懐いてないところもなんか可愛かった。
だけど長い間、恋愛対象にはならなかった。いつも地味な装いをしていたし、その頃の俺ときたら人生一番のモテ期だったから、ほのかに手を出すなんて考えもしなかった。
だけど、そろそろ大学も卒業しようという頃。ふと、モテ期が終わった気がした。俺自身も、もう落ち着こうという思いがあったのかもしれない。
そんな時に、俺と話していたほのかの頬が赤く染まるのを見て……俺が探していたのはこいつだ、と思ったんだ。
その直感は間違いではなかった。ほのかはとてもいい子で、今まで遊んでいたチャラチャラした女たちとは全然違った。付き合い始めた当初から、俺の頭には『結婚』が視野に入っていたくらいだ。
まあ実際は、年収がある程度上がるまでと思っていて三年かかってしまったが、二十五で結婚した。
子供は大好きだからすぐに欲しかったが、なかなかできなかった。こればっかりは、どうしようもないことだ。病院も行ったが、お互い問題はなかった。不妊治療に進むか考えていた時、ほのかの妊娠がわかった。
「良かったな! おめでとう!」
ほのかは涙ぐんでいた。俺も、その顔を見ていると涙が出そうだった。
「うん、ありがと、健司……私、元気な赤ちゃんを産むね」
妊婦教室も毎回付き添った。勉強もちゃんとした。完璧な準備を整え、ほのかの里帰りの日を迎えた。
「ほのか、転んだりするなよ」
「うん。わかってる」
「でも適度に体を動かせよ」
「うん。わかってるって。それより、里帰り出産の間、羽伸ばして遊び歩かないでね」
その言葉にちょっとドキッとした。もちろん浮気なんてするつもりはないけど……その場になってみないとわからないよな?
そんなことは顔には出さず、俺はにこやかにほのかを見送った。
実は、結婚してからも何回か浮気をしているが、絶対にバレていない自信はある。それに、どれもただの火遊び。後腐れのない、その場限りの身体の関係だ。
ほのかのことは愛してる。だけど、出来るなら他の女ともやりたいのが男ってもんだろう。風俗でもいいんだ。出せればそれで満足。
そうは言っても、最近はそんなこともしなくなった。もう三十四のオッサンになった俺が、いったい誰と浮気すりゃいいんだ。
(やっぱ、風俗行ってくるか)
その時、まさにベストタイミングで俺のスマホが鳴った。
(『凪沙』? 誰だ、それ……)
凪沙というアカウントからのLIMEだ。全く記憶にないが、友達登録はしていたらしい。とにかく、開いてみる。
『お久しぶりです。渡良瀬さん、お元気ですか?』
トークを遡ってみて思い出した。確か、『時遊』に何度も通って来てた女子大生だ。鬱陶しいLIMEを送ってきてた覚えがある。
『私、結婚して地方に住んでいたのですが、今日は同窓会で久しぶりに東京へ来ました。もし良かったら、お会いできませんか? 今日は渋谷のセルリアンタワー西急ホテルに泊まっていますからいつでも声掛けてください』
(なんだこれ。絶対、誘ってるだろ)
そういえばこの子の友達とは一回寝たことがある。だけどこの子は、エッチはできないけどデートだけして下さいって言ってきたんだ。もちろん、丁重にお断りした。なんでそんなこと、ボランティアじゃあるまいし。
ま、ほのかと付き合い始めたばかりだったってのもあったけど。
あれから何年経ったっけ。もう十年以上か。顔も覚えてないが、会うだけ会ってみてもいいか。どうせ一人だし。飯食うだけでも良しとしよう。
LIMEに返信した俺はとりあえずシャワーを浴びて、渋谷へ向けて出発した。
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