眠れぬ夜の向こうに~求婚してきたイケメン王は元飼い犬⁈ 舞姫と王の身分差婚は前途多難です~

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
6 / 49

戴冠の儀

しおりを挟む
 ダグラスに呼ばれた神官ゼフィールは、慌てて祭礼用の衣服を着て現れ、神殿に火を灯して回った。

「花飾りも、供え物もありませぬ……」

「そんな物は必要ない。それに、アレスとの契約の儀式はもう済ませてある」

「なっ、なんですと? どこで済ませてしまわれたんですか? 儀式は神殿でと決まっておりまするに」 

「しょうがないだろう。魔力が発現したのが草原だったんだし」

 レイはふと草原で別れた鳶色の髪の少女のことを思い出したが、すぐに話に戻った。

「だから、後はお前に宣言してもらって書類にサインするだけだ。王冠を頭に被せるパフォーマンスも必要ないからな」

「そんな。レイ殿下の戴冠式は歴代王の中でも一番立派で豪奢なものにしたかったですのに……」
 
「それはお前の見栄のためだろう。いいから早く」

 ぶつくさ言いながらゼフィールは祭壇の前に立った。祭壇には、アレスの龍の姿を模した像が飾られている。そしてゼフィールの後ろにレイとアレスは並んでひざまづいた。

「自分の像に祈るアレスとはなかなかシュールなだな」

 レイは隣に座っているアレスにコソコソと耳打ちした。

「はい……私も気恥ずかしいのですが、儀式化した方が威厳が出ると五百年前の王が決めたものですから」 

 ゼフィールがコホンと咳払いをして杖の先で地面を二回叩き、高らかに声をあげた。

「龍の御前にて我等は宣言する。ここにいるロスラーン・レイ・アシュランは蒼龍アレストロンと契約を結びアルトゥーラ王国の神聖なる王の地位を継承したことを!」

 (ああ……我が一世一代の晴れの舞台よ……本来ならたくさんの閣僚・貴族・他国のトップ達が出席して、華やかな儀式になる筈だったのに…… )

「ゼフィール。心の声が口から出てるぞ」

「お、おっと、申し訳ございませぬ。ではこちらに、サインをばよろしくお願いいたします」

 サラサラとサインを済ませ、ここにロスラーン・レイ王子は第二十代アルトゥーラ王となった。

「よし、終わった。ダグラス、行くぞ」

「はい。レイ

「む、……なんだかこそばゆいな。しかも、お前が私に敬語を使うとは」

「立場はわきまえておりますから。もうあなたは幼馴染みのレイ殿下ではなくなりました。この国の、大切な王なのです」

(うーん、ちょっと寂しいが……慣れるしかないな)

「よし、執務室で話をしよう」

 神殿を後にした三人が執務室へ入ろうとした時、たくさんの侍女や護衛兵士達が集まってきた。

「陛下! ご即位おめでとうございます!!」

 そしてその中から、レイの乳母であり王宮の侍女頭を勤めるマーサが飛び出してきた。

「レイ陛下! よくぞ、よくぞご無事でいらっしゃいました……」

「マーサ! 帰ってきたぞ」

 両腕で抱きしめると、マーサはさらに号泣した。

「マーサ、つもる話もあるのだが、今はダグラスと話を詰めなければならん。何か、軽く食べられる物を作ってくれないか」

「承知致しました。すぐに持って参ります」

 マーサは泣きはらした赤い目ではあるが、すぐに仕事モードに切り替わり、台所へと走って行った。

 執務室のソファに三人は向かい合って座った。

「こんな柔らかいソファ久しぶりだな」

 レイは軽くお尻を弾ませて柔らかさを確認してみた。

「一体、どこでどんな暮らしをしていたんですか?忽然と姿を消してしまって」

「うむ。父の力なのだ」

「ゼン王の?」

「そうだ。父は魔力の大きさは歴代の王の中でも劣っていたのは知っているだろう?だが、魔力を利用して物の形を変えることには優れていた」

「そうだったんですか??   まったく存じ上げませんでした」

「誰にも見せていなかったからな。物の形が変えられても、アレスに与える魔力が弱いことは変わらん。意味のない力だと思っていたようだ」

「物の形を変える、というのは具体的にはどういう?」

「例えば、だ」

 レイはソファに置いてあるクッションを手に取って、呪文を唱えた。すると、クッションは犬のぬいぐるみに変わったのだ。

「ええっ?  こんなことが出来るんですね」

「ああ。父は私に呪文を教えてくれた。魔力が発現したらやってみるといい、と」

「ではまさか、さっき犬だったと言っていたのは……」

「そうだ。父が最期の力で、私を犬の姿に変えたんだ。しかも、王宮の外にまで瞬間移動させて」

「そうだったんですか。犬になっていたならば、いくら捜索しても見つからないわけですね。……それにしても、大胆な賭けでしたね。もしかしたら野犬に噛まれて死んでしまう可能性もあったでしょう」

「ああ。だが幸い、優しい人に拾われて、ずっと大切にされていた」

 この台詞セリフを聞きながらアレスは微笑んでいた。

「それは本当に良かった。アルトゥーラの大恩人ですね、その方は」

「そうだな」

 レイも、遠くを見るような顔をして微笑んだ。

 その時、ノックの音がして、マーサが夜食を持って入ってきた。

「さあさあ、まずは腹ごしらえをなさって下さいませ。大事なお話はそれからですよ」

「そうだな。ダグラス、お前も一緒に食べよう」

「はい。懐かしいですね、マーサの手作りパン」

「まだまだありますからね。たくさん召し上がって下さい」

 その夜は、ずっと今後の国の立て直しを話し合い、なんとか方向性が決まった時には夜が明けていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―

柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。 しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。 「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」 屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え―― 「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。 「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」 愛なき結婚、冷遇される王妃。 それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。 ――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。

処理中です...