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黒い龍 3
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アイナ達が王宮を飛び立ったちょうどその頃。
レイは、冷たい石床の上で目が覚めた。
「……まだ、クラクラする」
嗅がされた眠り薬が強かったのだろう。指先にまだ痺れが残っている。
「どのくらい時間が経ったのか……? アレスもいないな。ここは……カストール王宮か?」
小窓から外を見ると完全に夜になっていた。遠くの方に家々の灯りが見える。この部屋はどうやら高い場所にあるようだ。
「カストール王宮は子供の頃、父と一緒に訪問したことがある。確か北側に塔が建っていて、特別な罪人を入れる所だと言っていたな」
手を縛っていた石のついた鎖は外されており、身体の自由はある。しかし、魔力はまだ使えないようだ。
レイはドアを開けてみようとした。石で出来たドアは重く、ビクともしない。
「この石、鎖についていたものと同じだな。魔力を奪うか、あるいは使えなくする石か……。天井も床も壁も全て石造りだ」
アレスもおそらく同じような部屋に入れられているのだろう。
「黒龍はアレスを解放したいのだから、アレスに危害を加えることはないだろう。問題は私の方だな。……いつまで生かされるだろうか。バルディスは私を殺してアレスを手に入れるのが目的のはずだ」
その時、コツコツと足音が聞こえた。そしてこの部屋の少し手前で止まった。
「蒼龍、目覚めたか」
(黒龍だ。アレスは隣の部屋にいるのか)
「……黒龍。陛下をどうした」
「隣の石牢で寝ている。嗅がせた薬が強すぎたようだ」
「黒龍、ここから出してくれ。カストール王は陛下を殺す気だろう」
「だがアルトゥーラ王が死なないとお前を解放出来ないからな。私はお前を自由の身にしたいのだ」
「陛下を殺しただけで済むと思うか? カストール王は、龍を持つ陛下を羨ましがっていたんだぞ。おそらく、陛下を亡き者にした後、すぐさま私と契約するつもりだろう。私を解放する気などないぞ」
「大丈夫だ。そんな動きを見せたらすぐに、私がバルディスを闇に包んでやる」
「力を封じる石があるんだから、お前だって魔力を封印されているかもしれないだろう。ここから出せ、黒龍。陛下にもしものことがあったら、私はお前とカストール王を決して許さない」
「……何故お前はそんなにもあの王を慕う」
「あの方は私を救ってくれたガイアス王の血を引くただ一人のお方だ。千年もの間、アルトゥーラの王は皆優れた心の持ち主だった。私はずっと幸せに生きてきた。その中でもレイ陛下は、飛び抜けて素晴らしいお方だ。そして私のことを仲間だと……いい相棒だと言って尊重してくださるんだ。私も随分と長く生きてきたが、今が一番幸せだと言っても過言ではない。私から陛下を奪わないでくれ」
「……少し考えさせてくれ」
「待て、黒龍! 夜の間にここから出せ……!」
だが黒龍の足音は去って行った。
「アレス」
「陛下? 隣にいらしたのですか? ご無事ですか?」
「ああ、大丈夫だ。だがこの部屋、魔力が全く使えないな」
「はい。私もずっと龍のままです。部屋が狭いので、トグロを巻いてなんとか収まっています」
「ははっ、そうか」
レイは笑った。アレスもつられて笑った。
「アレス、今日のうちに殺されなかったのは幸いだ。バルディスの性格からすると、明るい時間に私を衆目の中で殺したいはずだ。派手好きの見栄っ張りだからな。その時がチャンスだろう。ダグラスもきっと潜入してきているはずだ」
「はい。陛下、私は絶対に陛下を死なせません。一緒にアルトゥーラに帰りましょう」
「そうだな。アイナとコウの待つ王宮へ、必ず帰ろう」
一方その頃、カストール王バルディスは、酔い潰れてイビキをかいて寝ていた。
龍を手に入れた祝い酒があまりにも旨く、ついつい飲み過ぎたのだ。
――彼の運が向いてきたのはニヶ月前の地震の時だ。
カストールは地震の多い国である。小さい地震はしょっちゅうで、国民も慣れて驚かなくなっている。しかしこの時はいつもより強い地震で、王宮の北にそびえるシグル山が少し崩れてしまったのだ。
どのくらいの崩れがあったのか調べに行った役人が、慌てて帰ってきて報告した。
「バルディス陛下! シグル山に龍が、龍がいました!」
「何? 龍だと?」
「はい。地震で崩れた山頂に穴が開いておりまして、覗き込むと黒い龍が横たわっていたのです!」
「よし、すぐに行くぞ! 私が契約するのだ。ついに私も龍を持つことが出来るぞ!」
バルディスはシグル山に急いだ。とは言っても急ぐのは彼の部下達である。馬車を走らせてシグル山に向かうと、険しい山道は部下の担ぐ籠に乗って登った。
(やっとあの忌々しいレイと同等になれる。先祖から伝わった龍を使えるというだけで大きな顔をしているアイツの鼻をあかしてやるわ)
バルディスはレイより二つ歳上である。隣国であるし、歳が近いこともあって幼い頃から知っている。だが利発なレイと高慢で怠惰なバルディスは相性が悪く、仲良くはなれなかった。
各国の王族子女が集まる席では、銀髪に青い瞳のレイは王女達の人気を一人占めにしてしまい、それを嫌がって王女達から逃げる様子がまたバルディスの癇に障った。
(アイツがクーデターで死んだと聞いた時は祝杯を挙げたもんだ。もうあの顔を見なくて済むと思っていたのに、まさか生きていたとはな)
戻ってきたレイは蒼龍を従えていて、たちまち、各国の王族の人気を攫ってしまった。
(私だとて去年ようやく王になったというのにアイツがいるせいでどこの王女とも婚姻の話が進まん。また豊かになったアルトゥーラにみんな嫁ぎたがっている。私だって、蒼龍さえ持っていればこの荒れたカストールを緑の大地に変えることが出来るはずなのに)
そんなことを考えているうちに山頂へ着いた。
「龍はどこだ?」
「こちらです、陛下」
案内された所には足元に大きな穴が開いていた。地面に広い空洞が出来ており、そこに黒い龍が横たわっていた。
バルディスは感動のあまり震えた。ついに、龍を我が手にすることが出来る。
「よし、梯子を下ろせ。下に降りる」
「大丈夫でしょうか? 食われたりしないんでしょうか……?」
「お前らのような魔力を持たない奴は怖いだろうが、私は魔力がある。逆らうならこの拳で叩きのめしてやるわ」
一度も拳など使ったことのないバルディスであるが、龍を見て気分が高揚していたのだろう。自分に酔いしれながら梯子を降りていった。
龍は、目を瞑っていた。近くに寄ってみると、意外に大きい。首には大きな石のついた首飾りをしていた。
「おい、龍よ。私はカストール王バルディスだ。私と契約し、私の下僕となれ」
龍は目を開けた。
「断る」
「なぜだ? 私は王だぞ?!」
「知らん。断ると言っている」
バルディスは腹が立った。名前をつけて強制的に契約をしてやろうと、手をかざして魔力を龍に当てようとした。ところが、
「うん? 魔力が出ない」
バルディスは空洞内を見回した。
「なるほど、ここはエルミナ石で出来ているのだな」
岩山の多いカストールではいろいろな石が採れる。中でもこのエルミナ石は魔力を使えなくするので希少価値があり、高く売れるのだ。
「龍に加えていい掘り出し物だ。エルミナ石はもう採れないと思っておったわ。これだけあればかなりの金額になる」
バルディスは上にいる兵士に叫んだ。
「この龍は今魔力が使えない。私もだ。お前たちでこの龍を地上に上げろ」
それから兵士達は総動員で、この大きな龍をゆっくりと、二日がかりで引っ張り上げた。
ようやく姿を現した龍に、早速魔力を与えて契約をしようとしたバルディスだったが、
「やめろ」
黒龍がそう言ったかと思うと辺りが闇に包まれ、部下達がバタバタと倒れていった。
「な、何だ? お前、何をした??」
「勝手に契約などするな。私は人間と契約など絶対にしない。お前も殺す」
「ま、待ってくれ。殺さないでくれ。どうして契約してくれないんだ? 青い龍は人間と契約しているのに!」
「青い龍だと? 蒼龍は、人間に服従させられているのか」
バルディスはピンときた。
「そうだぞ。アルトゥーラという国の王に、契約させられて働かされている。下僕としてな」
「何だと……?」
黒龍は怒りをあらわにした。バルディスは読みが当たった、と喜んでさらに畳み掛けた。
「しかも、千年前からずっと働かされているんだ。かわいそうに、尊厳など何もないぞ。アルトゥーラ王は酷い奴だからな。青い龍を助けたくないか?」
黒龍はしばらく黙っていたが、やがて姿を人型に変えた。
「本当に蒼龍は虐げられているのか」
「そうだとも。だから、アルトゥーラ王を殺そうではないか。そうすれば契約は終わるのだろう?それでお前は蒼龍を助けられるし、私はアルトゥーラの国民を暴君から救うことが出来る」
「……なる程。双方にメリットがあるという訳か。だが私は魔力が無いと動けん。今はこの石に残った魔力でなんとか動いているだけだ。……おい、お前。お前の魔力をこの首飾りに込めろ」
「何だ? この石は」
「魔力を受け渡し出来る石だ。つべこべ言わずに早くしろ」
恐る恐る、手で魔力を注ぎ込むと、いくらでも中に入っていく。こんな石は初めてだった。
かなりの量、魔力を注ぎ込んだのでヘトヘトになったバルディスは首飾りを黒龍に返した。
「では、アルトゥーラ王を殺すまでは協力しよう。あとは知らん」
「もちろんだ、それでいい。アルトゥーラ王を国境近くまで引っ張り出すから、王宮まで連れて来てくれ」
こうして、黒龍とバルディスの取引が交わされた。もちろん、バルディスは蒼龍を手放すつもりなどない。
(レイが死んだらすぐに蒼龍と契約して私の下僕にしよう。黒龍は得体が知れんし恐ろしいから、エルミナ石で封印して北の塔の石牢に押し込めばいい。黒い龍なぞ、不気味だからな)
それから、レイをおびき出す計画を練るのに時間がかかったが、ようやく黒龍が捕らえて我がカストール王宮に青い龍と共に連れて来たのだ。
「蒼龍は、明日には我が手の中に」
笑いが止まらないバルディスは、盛大な宴会を催し、最後には酔い潰れて寝てしまったのだ。
「……明日は、いい日になるぞ……レイめ、お前の涼しい顔を苦痛に歪ませてやるわ……」
バルディスは楽しい夢を見ながらぐっすりと眠っていた。
レイは、冷たい石床の上で目が覚めた。
「……まだ、クラクラする」
嗅がされた眠り薬が強かったのだろう。指先にまだ痺れが残っている。
「どのくらい時間が経ったのか……? アレスもいないな。ここは……カストール王宮か?」
小窓から外を見ると完全に夜になっていた。遠くの方に家々の灯りが見える。この部屋はどうやら高い場所にあるようだ。
「カストール王宮は子供の頃、父と一緒に訪問したことがある。確か北側に塔が建っていて、特別な罪人を入れる所だと言っていたな」
手を縛っていた石のついた鎖は外されており、身体の自由はある。しかし、魔力はまだ使えないようだ。
レイはドアを開けてみようとした。石で出来たドアは重く、ビクともしない。
「この石、鎖についていたものと同じだな。魔力を奪うか、あるいは使えなくする石か……。天井も床も壁も全て石造りだ」
アレスもおそらく同じような部屋に入れられているのだろう。
「黒龍はアレスを解放したいのだから、アレスに危害を加えることはないだろう。問題は私の方だな。……いつまで生かされるだろうか。バルディスは私を殺してアレスを手に入れるのが目的のはずだ」
その時、コツコツと足音が聞こえた。そしてこの部屋の少し手前で止まった。
「蒼龍、目覚めたか」
(黒龍だ。アレスは隣の部屋にいるのか)
「……黒龍。陛下をどうした」
「隣の石牢で寝ている。嗅がせた薬が強すぎたようだ」
「黒龍、ここから出してくれ。カストール王は陛下を殺す気だろう」
「だがアルトゥーラ王が死なないとお前を解放出来ないからな。私はお前を自由の身にしたいのだ」
「陛下を殺しただけで済むと思うか? カストール王は、龍を持つ陛下を羨ましがっていたんだぞ。おそらく、陛下を亡き者にした後、すぐさま私と契約するつもりだろう。私を解放する気などないぞ」
「大丈夫だ。そんな動きを見せたらすぐに、私がバルディスを闇に包んでやる」
「力を封じる石があるんだから、お前だって魔力を封印されているかもしれないだろう。ここから出せ、黒龍。陛下にもしものことがあったら、私はお前とカストール王を決して許さない」
「……何故お前はそんなにもあの王を慕う」
「あの方は私を救ってくれたガイアス王の血を引くただ一人のお方だ。千年もの間、アルトゥーラの王は皆優れた心の持ち主だった。私はずっと幸せに生きてきた。その中でもレイ陛下は、飛び抜けて素晴らしいお方だ。そして私のことを仲間だと……いい相棒だと言って尊重してくださるんだ。私も随分と長く生きてきたが、今が一番幸せだと言っても過言ではない。私から陛下を奪わないでくれ」
「……少し考えさせてくれ」
「待て、黒龍! 夜の間にここから出せ……!」
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「アレス」
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「ああ、大丈夫だ。だがこの部屋、魔力が全く使えないな」
「はい。私もずっと龍のままです。部屋が狭いので、トグロを巻いてなんとか収まっています」
「ははっ、そうか」
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「アレス、今日のうちに殺されなかったのは幸いだ。バルディスの性格からすると、明るい時間に私を衆目の中で殺したいはずだ。派手好きの見栄っ張りだからな。その時がチャンスだろう。ダグラスもきっと潜入してきているはずだ」
「はい。陛下、私は絶対に陛下を死なせません。一緒にアルトゥーラに帰りましょう」
「そうだな。アイナとコウの待つ王宮へ、必ず帰ろう」
一方その頃、カストール王バルディスは、酔い潰れてイビキをかいて寝ていた。
龍を手に入れた祝い酒があまりにも旨く、ついつい飲み過ぎたのだ。
――彼の運が向いてきたのはニヶ月前の地震の時だ。
カストールは地震の多い国である。小さい地震はしょっちゅうで、国民も慣れて驚かなくなっている。しかしこの時はいつもより強い地震で、王宮の北にそびえるシグル山が少し崩れてしまったのだ。
どのくらいの崩れがあったのか調べに行った役人が、慌てて帰ってきて報告した。
「バルディス陛下! シグル山に龍が、龍がいました!」
「何? 龍だと?」
「はい。地震で崩れた山頂に穴が開いておりまして、覗き込むと黒い龍が横たわっていたのです!」
「よし、すぐに行くぞ! 私が契約するのだ。ついに私も龍を持つことが出来るぞ!」
バルディスはシグル山に急いだ。とは言っても急ぐのは彼の部下達である。馬車を走らせてシグル山に向かうと、険しい山道は部下の担ぐ籠に乗って登った。
(やっとあの忌々しいレイと同等になれる。先祖から伝わった龍を使えるというだけで大きな顔をしているアイツの鼻をあかしてやるわ)
バルディスはレイより二つ歳上である。隣国であるし、歳が近いこともあって幼い頃から知っている。だが利発なレイと高慢で怠惰なバルディスは相性が悪く、仲良くはなれなかった。
各国の王族子女が集まる席では、銀髪に青い瞳のレイは王女達の人気を一人占めにしてしまい、それを嫌がって王女達から逃げる様子がまたバルディスの癇に障った。
(アイツがクーデターで死んだと聞いた時は祝杯を挙げたもんだ。もうあの顔を見なくて済むと思っていたのに、まさか生きていたとはな)
戻ってきたレイは蒼龍を従えていて、たちまち、各国の王族の人気を攫ってしまった。
(私だとて去年ようやく王になったというのにアイツがいるせいでどこの王女とも婚姻の話が進まん。また豊かになったアルトゥーラにみんな嫁ぎたがっている。私だって、蒼龍さえ持っていればこの荒れたカストールを緑の大地に変えることが出来るはずなのに)
そんなことを考えているうちに山頂へ着いた。
「龍はどこだ?」
「こちらです、陛下」
案内された所には足元に大きな穴が開いていた。地面に広い空洞が出来ており、そこに黒い龍が横たわっていた。
バルディスは感動のあまり震えた。ついに、龍を我が手にすることが出来る。
「よし、梯子を下ろせ。下に降りる」
「大丈夫でしょうか? 食われたりしないんでしょうか……?」
「お前らのような魔力を持たない奴は怖いだろうが、私は魔力がある。逆らうならこの拳で叩きのめしてやるわ」
一度も拳など使ったことのないバルディスであるが、龍を見て気分が高揚していたのだろう。自分に酔いしれながら梯子を降りていった。
龍は、目を瞑っていた。近くに寄ってみると、意外に大きい。首には大きな石のついた首飾りをしていた。
「おい、龍よ。私はカストール王バルディスだ。私と契約し、私の下僕となれ」
龍は目を開けた。
「断る」
「なぜだ? 私は王だぞ?!」
「知らん。断ると言っている」
バルディスは腹が立った。名前をつけて強制的に契約をしてやろうと、手をかざして魔力を龍に当てようとした。ところが、
「うん? 魔力が出ない」
バルディスは空洞内を見回した。
「なるほど、ここはエルミナ石で出来ているのだな」
岩山の多いカストールではいろいろな石が採れる。中でもこのエルミナ石は魔力を使えなくするので希少価値があり、高く売れるのだ。
「龍に加えていい掘り出し物だ。エルミナ石はもう採れないと思っておったわ。これだけあればかなりの金額になる」
バルディスは上にいる兵士に叫んだ。
「この龍は今魔力が使えない。私もだ。お前たちでこの龍を地上に上げろ」
それから兵士達は総動員で、この大きな龍をゆっくりと、二日がかりで引っ張り上げた。
ようやく姿を現した龍に、早速魔力を与えて契約をしようとしたバルディスだったが、
「やめろ」
黒龍がそう言ったかと思うと辺りが闇に包まれ、部下達がバタバタと倒れていった。
「な、何だ? お前、何をした??」
「勝手に契約などするな。私は人間と契約など絶対にしない。お前も殺す」
「ま、待ってくれ。殺さないでくれ。どうして契約してくれないんだ? 青い龍は人間と契約しているのに!」
「青い龍だと? 蒼龍は、人間に服従させられているのか」
バルディスはピンときた。
「そうだぞ。アルトゥーラという国の王に、契約させられて働かされている。下僕としてな」
「何だと……?」
黒龍は怒りをあらわにした。バルディスは読みが当たった、と喜んでさらに畳み掛けた。
「しかも、千年前からずっと働かされているんだ。かわいそうに、尊厳など何もないぞ。アルトゥーラ王は酷い奴だからな。青い龍を助けたくないか?」
黒龍はしばらく黙っていたが、やがて姿を人型に変えた。
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「……なる程。双方にメリットがあるという訳か。だが私は魔力が無いと動けん。今はこの石に残った魔力でなんとか動いているだけだ。……おい、お前。お前の魔力をこの首飾りに込めろ」
「何だ? この石は」
「魔力を受け渡し出来る石だ。つべこべ言わずに早くしろ」
恐る恐る、手で魔力を注ぎ込むと、いくらでも中に入っていく。こんな石は初めてだった。
かなりの量、魔力を注ぎ込んだのでヘトヘトになったバルディスは首飾りを黒龍に返した。
「では、アルトゥーラ王を殺すまでは協力しよう。あとは知らん」
「もちろんだ、それでいい。アルトゥーラ王を国境近くまで引っ張り出すから、王宮まで連れて来てくれ」
こうして、黒龍とバルディスの取引が交わされた。もちろん、バルディスは蒼龍を手放すつもりなどない。
(レイが死んだらすぐに蒼龍と契約して私の下僕にしよう。黒龍は得体が知れんし恐ろしいから、エルミナ石で封印して北の塔の石牢に押し込めばいい。黒い龍なぞ、不気味だからな)
それから、レイをおびき出す計画を練るのに時間がかかったが、ようやく黒龍が捕らえて我がカストール王宮に青い龍と共に連れて来たのだ。
「蒼龍は、明日には我が手の中に」
笑いが止まらないバルディスは、盛大な宴会を催し、最後には酔い潰れて寝てしまったのだ。
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