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しおりを挟む「エレナ。エレナが御者に襲われた時があっただろう? あの時も、エレナはやめて、と思っていたか」
「え? ええ、もちろん。怖かったしやめて欲しかったから」
「さっきの兵士たちにもやめて、と叫んでいたな」
頷くエレナ。何だろう、と不安を覚えた。
「実はあの御者を馬車の外に弾き出したのは俺ではない」
「えっ。じゃあイネス?」
「イネスでもない。俺が到着したと同時に男は馬車から飛び出て来た。まるで蹴り飛ばされたように勢いよく、背中から」
ウィルが何を言おうとしているのか、エレナにはわからなかった。
「さっきの兵士たちもエレナがやめてと叫んだ途端に動きを止め、地面に叩きつけられた。おそらくこれは……エレナの力だ」
「じゃあやっぱり私……魔女なの……?」
「その時に黒いオーラが見えたのは確かだ。だがその時だけ。エレナが自分や誰かの身を守ろうとした時だけなんだ。しかも、その後エレナは俺の怪我を治すために治癒魔法まで使ってくれた」
「本当ですか⁈ 帝国でも限られた人間しか使えない治癒魔法を?」
エミリオが信じられないといった顔で言う。
「本当よ、エミリオ。私もこの目で見たわ。一瞬でウィル様の酷い怪我を治したのよ」
「でもイネス、私は魔法なんて使えないわ。私がやったことではないんじゃない?」
さっきからエレナがウィルを治したことになっているが、エレナにはそんな覚えはないのだ。ただただ、ウィルの無事を願っただけ。
「いやあれはエレナに間違いない。だから魔女なのはきっとリアナだ。そしてリアナは何らかの原因で力が封印されているのだろう。でなければ、とっくにカレスティアは消え失せている」
「あの……魔女ってどんな力を持っているの? カレスティアが消えてしまうほどの力なの?」
「昔の文献によると、手を触れることなく人を吹き飛ばしたりひねり潰したり出来るらしい。水に毒を流して大量に人殺しをしたり、心を操って戦争をさせたり。ありとあらゆる手段を使って国中の人間を殺したということだ」
「そんな恐ろしいこと……リアナがそんなこと、するわけがないわ。魔女だなんてことも、私には信じられない」
自分かリアナ、どちらかが魔女だというのは間違いないのだろうか? どちらも魔女ではないという望みはないのだろうか……。
「残念ながらリアナ・ディアスは人間ではありません」
エミリオがきっぱりと言った。
「魔女かどうかまでは私にはわからない。ですがあれは人の形をした人ならざるモノです。彼女には人の心が無い。先日、リアナは実の両親も処刑しました。エレナを生み育てたことを罪として」
「な……!」
(お父様とお母様が処刑された……? しかもリアナの命で?)
「毎日多くの人が処刑され、処刑場は死体が山積みです。それでも誰も疑問に思わない。王都の民は異常な状況に置かれていることも気づいていないのです」
(お父様、お母様……ずっと愛してもらえなかったけれど、それでも十六年間共に暮らした家族。なのに、もうお会いできないなんて)
呆然とするエレナの肩を、ウィルがそっと抱き寄せた。ウィルの大きな手の温もりに、崩れそうな心が支えられかろうじて涙を堪えた。
「リアナを捕らえねばならん。魔女の災いはカレスティアだけに留まるとは思えない。いずれこの大陸全てを飲み込むことになるだろう。ここで奴を仕留めなければ」
「リアナを……殺すの?」
「捕らえることができるならコンテスティへ連れて行くつもりだ。大人しく捕まるとは思えないが」
ウィルはエレナの肩を優しく掴んで自分の方へ向かせ、顔を見ながら言った。
「エレナ。今から王都へ行きリアナと対峙するつもりだが、お前にも一緒に行ってもらいたい。リアナがエレナに執着している理由が知りたいのだ。もちろん、お前のことは俺が守る」
「ウィル……わかったわ。私も知りたい。どうしてリアナが私を殺そうとするのか……そして私たちの運命を見定めなければ。どちらが本当の魔女なのか」
エレナは自分の肩に置かれたウィルの手を取り、ぎゅっと握りしめた。
「そしてもし私が魔女だったらその時は……私を捕らえて」
「エレナ、それは」
「リアナは魔女かもしれない。でも私は双子の妹。私も同じ魔女だとしても不思議はないわ。心を無くし魔女になって人を殺すくらいなら、私を殺して欲しい」
エレナの瞳には強い光が見てとれた。最初はたじろいでいたウィルだが、エレナの真剣な思いに応えようと頷く。
「わかった。その時は俺がこの手で命を取ろう」
「ありがとう……ウィル」
エレナは微笑んだ。
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