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カフェ・フェリス
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だがそんなアンジェリカの願いをよそに、ヴィンセントは積極的だった。放課後になると真っ先にアンジェリカのところにやって来てこう言ったのだ。
「アンジェリカ、今から街に出掛けないか?」
怯えた目で見上げるアンジェリカに、教室の後ろを指差した。いつもの王太子付きの護衛達の横に、男女の軍人らしき二人が立っていた。
「大丈夫、僕の護衛も一緒だから二人きりじゃないよ。この街を案内してもらいたいんだ」
屈託ない笑顔で、しかし有無を言わせない感じだ。もちろん、隣国の王子の申し出を断るなどという無礼なことが出来ないのはアンジェリカにもわかっていた。
「承知いたしました。私でよければご案内いたします」
「ありがとう! じゃあ行こうか」
さりげなく手を出して立ち上がらせてくれるヴィンセントのスマートさはアンジェリカの胸を弾ませた。だがすぐに、これは王子の生来のものであり自分だけに向けられたものではないと自らを戒めた。こんな顔の自分をレディ扱いしてくれた人など今までいないのだから。
ヴィンセントの馬車では向かい合って座り、男女の護衛がそれぞれの横についた。
こんな近くでしかも正面に座るなど拷問に近いと、アンジェリカは完全に下を向いてしまった。
「どうしてそんなに俯くの? 僕は君の顔がもっと見たいのに」
アンジェリカの肩がピクッと跳ねる。
「恐れながら、王子殿下のお目を汚してしまいますので……」
「わからないなあ。こんなに美しい人がどうしてこんなに自分を卑下しているのか。なあニール、我が国とは美の観点が違うのだろうか?」
ニールと呼ばれた男の護衛に向かってヴィンセントは語り掛けたが、当然彼は何も言わない。
(正直に言える訳ないわ。王子の審美眼がおかしいだなんて……)
「まあいいさ。ライバルがいないなら僕が頑張ればいいだけだしね。ところでアンジェリカ、この街で素敵なカフェと言えばどこだい?」
アンジェリカは焦った。ウォルターに禁じられているのでお洒落なカフェなどは訪れたことがないのだ。
「申し訳ありません。私はカフェに行ったことがありませんので、実際の雰囲気はわからないのですが、クラスメイトが話しておりますには五番街の『カフェ・フェリス』が評判が良いようです」
「よし、じゃあそこへ行こう。君はカフェに行ったことが無いのかい? じゃあ、今から君の初カフェの瞬間に僕は立ち会えるわけだ。光栄だな」
ヴィンセントは悪戯っぽくウインクして笑った。思わず、アンジェリカも口許が緩んでしまった。
「微笑んでくれたね! 君は笑顔だとより美しいよ。もっと笑っていて欲しいな」
アンジェリカはしまったという顔をして唇に手を当てて隠した。笑うとますますロバのようだとウォルターに言われていたのをすっかり忘れていたのだ。
それからカフェに着くまではまたしても下を向いていたが、ヴィンセントは気にする様子もなくあれこれと話し掛けてくれていた。
カフェ・フェリスに着くとヴィンセントは先に降り、手を取ってエスコートしてくれた。一連のスムーズな動きにアンジェリカは感嘆し、今度は素直にレディ気分を楽しんだ。せっかくの夢のような時間なのだ。二度と無いとしても全て覚えておきたい。
カフェは天井が高く、自然光が差し込む店内はとても明るくて気持ちが良かった。観葉植物がたくさん置かれ、テーブル同士はさりげなく目隠しされている。これならば女生徒たちの秘密のお喋りや、恋人同士の会話なども周りに聞こえないだろう。人気があるのも頷ける。
「良いカフェだね。初めて来たのになんだか落ち着くよ」
「そうですね。寛いだ気分になります」
周りを見回しながら嬉しそうに微笑んでいるアンジェリカをヴィンセントは満足げに見つめていた。
「この店のお薦めは何だい?」
「ドリップ式のコーヒーと、クリーム添えのアップルパイでございます」
ウエイターが恭しく答えた。
「へえ、最新のドリップ式か。アステリアでも流行ってきているけれど、こちらでも流行りなんだね」
コーヒーを飲んだことのないアンジェリカは目を白黒させている。
「僕はお薦めのものにするよ。アンジェリカ、君はどうする?」
「あ……私、コーヒーは頂いたことがありませんの。だから紅茶にしておきます」
「そうだね、初めてだと苦くて飲めないかもしれないね。僕のコーヒーを見て興味が湧いたら次に来た時に挑戦してみるといいよ」
「はい、そうします」
「ケーキはどうする? 他にもいろいろあるけど」
「私もアップルパイにしますわ」
「じゃあそれで」
ヴィンセントはメニューを閉じてウエイターに手渡した。
アンジェリカにとってヴィンセントの無理強いしない態度はとても好ましかった。これが父だったらなぜ薦めたものを飲まない、と怒るだろうしウォルターなら最新のものなんて君には似合わないと言ってやめさせるだろう。
「アンジェリカ、今から街に出掛けないか?」
怯えた目で見上げるアンジェリカに、教室の後ろを指差した。いつもの王太子付きの護衛達の横に、男女の軍人らしき二人が立っていた。
「大丈夫、僕の護衛も一緒だから二人きりじゃないよ。この街を案内してもらいたいんだ」
屈託ない笑顔で、しかし有無を言わせない感じだ。もちろん、隣国の王子の申し出を断るなどという無礼なことが出来ないのはアンジェリカにもわかっていた。
「承知いたしました。私でよければご案内いたします」
「ありがとう! じゃあ行こうか」
さりげなく手を出して立ち上がらせてくれるヴィンセントのスマートさはアンジェリカの胸を弾ませた。だがすぐに、これは王子の生来のものであり自分だけに向けられたものではないと自らを戒めた。こんな顔の自分をレディ扱いしてくれた人など今までいないのだから。
ヴィンセントの馬車では向かい合って座り、男女の護衛がそれぞれの横についた。
こんな近くでしかも正面に座るなど拷問に近いと、アンジェリカは完全に下を向いてしまった。
「どうしてそんなに俯くの? 僕は君の顔がもっと見たいのに」
アンジェリカの肩がピクッと跳ねる。
「恐れながら、王子殿下のお目を汚してしまいますので……」
「わからないなあ。こんなに美しい人がどうしてこんなに自分を卑下しているのか。なあニール、我が国とは美の観点が違うのだろうか?」
ニールと呼ばれた男の護衛に向かってヴィンセントは語り掛けたが、当然彼は何も言わない。
(正直に言える訳ないわ。王子の審美眼がおかしいだなんて……)
「まあいいさ。ライバルがいないなら僕が頑張ればいいだけだしね。ところでアンジェリカ、この街で素敵なカフェと言えばどこだい?」
アンジェリカは焦った。ウォルターに禁じられているのでお洒落なカフェなどは訪れたことがないのだ。
「申し訳ありません。私はカフェに行ったことがありませんので、実際の雰囲気はわからないのですが、クラスメイトが話しておりますには五番街の『カフェ・フェリス』が評判が良いようです」
「よし、じゃあそこへ行こう。君はカフェに行ったことが無いのかい? じゃあ、今から君の初カフェの瞬間に僕は立ち会えるわけだ。光栄だな」
ヴィンセントは悪戯っぽくウインクして笑った。思わず、アンジェリカも口許が緩んでしまった。
「微笑んでくれたね! 君は笑顔だとより美しいよ。もっと笑っていて欲しいな」
アンジェリカはしまったという顔をして唇に手を当てて隠した。笑うとますますロバのようだとウォルターに言われていたのをすっかり忘れていたのだ。
それからカフェに着くまではまたしても下を向いていたが、ヴィンセントは気にする様子もなくあれこれと話し掛けてくれていた。
カフェ・フェリスに着くとヴィンセントは先に降り、手を取ってエスコートしてくれた。一連のスムーズな動きにアンジェリカは感嘆し、今度は素直にレディ気分を楽しんだ。せっかくの夢のような時間なのだ。二度と無いとしても全て覚えておきたい。
カフェは天井が高く、自然光が差し込む店内はとても明るくて気持ちが良かった。観葉植物がたくさん置かれ、テーブル同士はさりげなく目隠しされている。これならば女生徒たちの秘密のお喋りや、恋人同士の会話なども周りに聞こえないだろう。人気があるのも頷ける。
「良いカフェだね。初めて来たのになんだか落ち着くよ」
「そうですね。寛いだ気分になります」
周りを見回しながら嬉しそうに微笑んでいるアンジェリカをヴィンセントは満足げに見つめていた。
「この店のお薦めは何だい?」
「ドリップ式のコーヒーと、クリーム添えのアップルパイでございます」
ウエイターが恭しく答えた。
「へえ、最新のドリップ式か。アステリアでも流行ってきているけれど、こちらでも流行りなんだね」
コーヒーを飲んだことのないアンジェリカは目を白黒させている。
「僕はお薦めのものにするよ。アンジェリカ、君はどうする?」
「あ……私、コーヒーは頂いたことがありませんの。だから紅茶にしておきます」
「そうだね、初めてだと苦くて飲めないかもしれないね。僕のコーヒーを見て興味が湧いたら次に来た時に挑戦してみるといいよ」
「はい、そうします」
「ケーキはどうする? 他にもいろいろあるけど」
「私もアップルパイにしますわ」
「じゃあそれで」
ヴィンセントはメニューを閉じてウエイターに手渡した。
アンジェリカにとってヴィンセントの無理強いしない態度はとても好ましかった。これが父だったらなぜ薦めたものを飲まない、と怒るだろうしウォルターなら最新のものなんて君には似合わないと言ってやめさせるだろう。
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