23 / 26
ウォルターの契約
しおりを挟む
ゼインは、ウォルターの部屋に来ていた。カーテンが閉められ、部屋は暗い。ウォルターはベッドで眠っていた。顔に黒い影がかかっている。
(随分やつれてるな。もう立ち上がる事も出来ないか)
枕元に、一冊の古い本が置いてあった。
(……これだな)
まずは経緯を知ろうと、ゼインはウォルターの額に手を当てた。ウォルターの記憶が飛び込んでくる。
その中から重要な部分だけを選び取った。
まず最初は六歳の時。幼いアンジェリカへの恋心。
そして絶望。公爵令嬢と結婚など出来ないと知る。
(ふむ……彼は道端でこの本を拾うのか)
本に呼ばれ、恐る恐る拾い上げるウォルター。中を開くと、頭の中に声が響いた。
「私は魔法使い。あなたの願いを叶えてあげましょう」
「本当に? だったら、アンジェリカと結婚させて! 」
「これはまた、今すぐには出来ないお願いですねえ。まだあなた六歳でしょう」
「だって、アンジェリカはとても美しくて、ほっておいたら王太子のお妃に選ばれてしまうよ! それに、身分が違い過ぎて僕とは結婚出来ないんだ」
「では、彼女が美しくなければいい。彼女の姿を醜く変えてあげましょう。そうすれば誰も彼女を欲しがらない。彼女が行き遅れて困っているところをあなたが申し込めばいい。きっと喜んで受けてくれるでしょう」
「ええっ? 彼女を醜く? そんなの嫌だ!」
「大丈夫ですよ。本当に醜くする訳ではありません。醜く見える魔法をかけるのですよ。そして、彼女が十八歳の誕生日を迎える瞬間に、魔法は解けて美しい彼女に戻ります。ですから、あなたはそれまでに彼女の心を手に入れなければなりません」
「そうか! アンジェリカが誰にも求婚されないようにするんだね! わかったよ。お願いします!」
「承知しました。ただし、無料という訳にはいきません」
「お金? お金ならパパに言えばいくらでも……」
「お金ではありません。それに、魔法のことを家族にも誰にも言ってはいけませんよ。言ったらそれで魔法はお終いですからね」
「う、うん、わかった。じゃあ、何をあげればいいの?」
「あなたの生命力を」
「生命力? なあに、それ?」
「大した事ありませんよ。すこうしだけ、あなたの元気を分けてもらいたいのです。あなたは何もしなくていい。この本を枕元に置いてくれれば、私はあなたから少しずつ元気をもらいます」
「……痛くない?」
「痛みなんてありませんよ。ただ、少し疲れやすくなったり、少し成長が遅くなる程度です」
「そのくらいなら、いいよ。僕、元気だもの。平気さ」
「それと、もし彼女が十八歳になるまでに彼女の心を得る事が出来なかったら」
「出来なかったら?」
「あなたの命は失われます」
「……」
「どうします? 怖くなりましたか? やめておきますか」
「ううん、やる。やるよ! だって、僕がアンジェリカに好きになってもらえばいいんだよね。あと十二年もあるんだから、きっと出来るさ」
「それでは契約成立です。この本を枕元に置き、ここに書かれた呪文を唱えて下さい。それで彼女の姿は醜く変わります」
その夜、枕元に本を置いたウォルターは、言われた通り呪文を唱えた。すると本から黒い影が飛び出し、外へ飛んで行った。
(随分やつれてるな。もう立ち上がる事も出来ないか)
枕元に、一冊の古い本が置いてあった。
(……これだな)
まずは経緯を知ろうと、ゼインはウォルターの額に手を当てた。ウォルターの記憶が飛び込んでくる。
その中から重要な部分だけを選び取った。
まず最初は六歳の時。幼いアンジェリカへの恋心。
そして絶望。公爵令嬢と結婚など出来ないと知る。
(ふむ……彼は道端でこの本を拾うのか)
本に呼ばれ、恐る恐る拾い上げるウォルター。中を開くと、頭の中に声が響いた。
「私は魔法使い。あなたの願いを叶えてあげましょう」
「本当に? だったら、アンジェリカと結婚させて! 」
「これはまた、今すぐには出来ないお願いですねえ。まだあなた六歳でしょう」
「だって、アンジェリカはとても美しくて、ほっておいたら王太子のお妃に選ばれてしまうよ! それに、身分が違い過ぎて僕とは結婚出来ないんだ」
「では、彼女が美しくなければいい。彼女の姿を醜く変えてあげましょう。そうすれば誰も彼女を欲しがらない。彼女が行き遅れて困っているところをあなたが申し込めばいい。きっと喜んで受けてくれるでしょう」
「ええっ? 彼女を醜く? そんなの嫌だ!」
「大丈夫ですよ。本当に醜くする訳ではありません。醜く見える魔法をかけるのですよ。そして、彼女が十八歳の誕生日を迎える瞬間に、魔法は解けて美しい彼女に戻ります。ですから、あなたはそれまでに彼女の心を手に入れなければなりません」
「そうか! アンジェリカが誰にも求婚されないようにするんだね! わかったよ。お願いします!」
「承知しました。ただし、無料という訳にはいきません」
「お金? お金ならパパに言えばいくらでも……」
「お金ではありません。それに、魔法のことを家族にも誰にも言ってはいけませんよ。言ったらそれで魔法はお終いですからね」
「う、うん、わかった。じゃあ、何をあげればいいの?」
「あなたの生命力を」
「生命力? なあに、それ?」
「大した事ありませんよ。すこうしだけ、あなたの元気を分けてもらいたいのです。あなたは何もしなくていい。この本を枕元に置いてくれれば、私はあなたから少しずつ元気をもらいます」
「……痛くない?」
「痛みなんてありませんよ。ただ、少し疲れやすくなったり、少し成長が遅くなる程度です」
「そのくらいなら、いいよ。僕、元気だもの。平気さ」
「それと、もし彼女が十八歳になるまでに彼女の心を得る事が出来なかったら」
「出来なかったら?」
「あなたの命は失われます」
「……」
「どうします? 怖くなりましたか? やめておきますか」
「ううん、やる。やるよ! だって、僕がアンジェリカに好きになってもらえばいいんだよね。あと十二年もあるんだから、きっと出来るさ」
「それでは契約成立です。この本を枕元に置き、ここに書かれた呪文を唱えて下さい。それで彼女の姿は醜く変わります」
その夜、枕元に本を置いたウォルターは、言われた通り呪文を唱えた。すると本から黒い影が飛び出し、外へ飛んで行った。
60
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~
ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。
騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。
母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。
そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。
望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。
※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。
※表紙画像はAIで作成したものです
白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで
ふわふわ
恋愛
誰もが羨む、名門貴族との理想の結婚。
そう囁かれていたジェシカの結婚は、完璧な仮面で塗り固められた**「白い誓約」**だった。
愛のない夫。
見ないふりをする一族。
そして、妻として“正しく在ること”だけを求められる日々。
裏切りを知ったとき、ジェシカは泣き叫ぶことも、復讐を誓うこともしなかった。
彼女が選んだのは――沈黙と、準備。
名を問われず、理由も裁きもない。
ただ「何者でもなくいられる時間」が流れる、不思議な場所。
そこに人が集まり始めたとき、
秩序は静かに軋み、
制度は“裁けないもの”を前に立ち尽くす。
これは、声高な革命の物語ではない。
ざまぁを叫ぶ復讐譚でもない。
白い仮面を外したひとりの女性が、
名を持たずに立ち続けた結果、世界のほうが変わってしまった――
そんな、静かで確かな再生の物語。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。
ぽんぽこ狸
恋愛
レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。
その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。
ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。
しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。
それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。
彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。
真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています
綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」
公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。
「お前のような真面目くさった女はいらない!」
ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。
リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。
夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。
心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。
禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。
望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。
仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。
しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。
これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。
木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜
温故知新
恋愛
剣と魔法を王族や貴族が独占しているペトロート王国では、貴族出身の騎士たちが、国に蔓延る魔物ではなく、初級魔法1回分の魔力しか持たない平民に対して、剣を振ったり魔法を放ったりして、快楽を得ていた。
だが、そんな騎士たちから平民を守っていた木こりがいた。
騎士から疎まれ、平民からは尊敬されていた木こりは、平民でありながら貴族と同じ豊富な魔力を持ち、高価なために平民では持つことが出来ないレイピアを携えていた。
これは、不条理に全てを奪われて1人孤独に立ち向かっていた木こりが、親しかった人達と再会したことで全てを取り戻し、婚約者と再び恋に落ちるまでの物語である。
※他サイトでも公開中!
緑の指を持つ娘
Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。
ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・
俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。
第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。
ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。
疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?
【完結】クラーク伯爵令嬢は、卒業パーティーで婚約破棄されるらしい
根古川ゆい
恋愛
自分の婚約破棄が噂になるなんて。
幼い頃から大好きな婚約者マシューを信じたいけれど、素直に信じる事もできないリナティエラは、覚悟を決めてパーティー会場に向かいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる