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51 シャオリンとホアシャ
しおりを挟むケイカを流刑地に送った後、タイランはシャオリンを訪れた。泣き腫らしていたシャオリンは、タイランに怒りをぶつけた。
「お兄様を流刑地に送るなんて! あんなに、王のために働いていたお兄様を……!」
「辛い気持ちはわかる。だが、他の妃や子を殺してお前の子だけを優遇しようとしていたことは許せない。そうは思わないか」
「でも! 謹慎くらいにとどめてくれたらよいではありませんか! これでは、私のお腹の子は犯罪者の伯父を持つ子になってしまう……!」
「それは関係ない。子供に罪はないのだ。お前が安心して出産に臨めるよう、環境は整えるつもりだし、生まれた子も大切に扱う。だからきちんと食事を取り、身体を健康に保って欲しい」
「嫌です! 私は王を許さない。子供なんて生みたくない!」
シャオリンにこれ以上何を言っても興奮させるだけだと、タイランは退室した。実家からの仕送りもなくなってしまったシャオリンが不自由しないように手配だけはきちんとしてやっている。
(シャオリンの子は辛い思いをするかもしれない。母に愛されない子供として)
また、同じことを繰り返してしまうのか。だがその分私が愛してやろう。たくさんの愛を与えてやろう。子供は、愛されるために生まれてくるのだ。
(愛を与えてやれる存在は母だけではない。周りの人間が愛を示してやればそれだけで救われる)
昔、母の愛を求めていた時。タイランは父からも関心は持たれていないと感じていた。乳母も事務的であったし、誰からも愛をもらえないと思っていた。でももしかしたら父も、愛情表現が下手だっただけで、本当は愛してくれていたのではないかと最近になって思う。
やがて九月に入った。一ノ宮は落ち着きを取り戻していたが、四ノ宮はいまだに暗い雰囲気のままだ。
シャオリンは兄の不祥事が衝撃となりあれからほぼ伏せっている。タイランは昼に四ノ宮を訪れてみたが、会うことはできなかった。
四ノ宮を出たタイランは一ノ宮へ向かった。
「ホアシャ。身体はどうだ」
「タイラン様。おかげさまで、元気にしております」
ずいぶんと大きくなったお腹をさすりながらホアシャが答える。
「スイラン妃はもう産み月ですね。いつ生まれてもおかしくないのでは」
「そうだな。スイランも元気にしている。毎日庭を歩き回ってうっすら日焼けしているくらいだ」
「まあ。妃が日焼けとは。戻って来たら注意しておきますわ」
和やかに話すホアシャ。ケイカの事件があった後、タイランは彼女にはスイランのことを話しておいた。スイランのほうが先に生まれる可能性が高いのだから、黙っておくのは嘘をつかれたような気になるだろう。そう思ったのだ。
意外にもあっさりホアシャは受け入れた。
「あれだけ王が寵愛してらしたのですから、身籠もらないほうがおかしいですわ。悔しいですけど」
「男児が先に生まれたほうを正妃にするというのはここで明言しておこう」
「そのほうが公平ですわね。承知いたしました。たとえスイラン妃が正妃になろうとも、我が一族は王の忠実な臣下であることに変わりありません。ご安心くださいませ」
あれ以降、ホアシャの実家は全面的に王の味方となった。ケイカの一族が没落して官吏は実力主義となり、政務は上手く回っている。
(私は、もっと強くなる。強くなって必ず国を豊かにし民を幸せにする。平和な国、平和な世を必ず)
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