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そんなこんなで。
結局、おれ達の勝敗は流れる事になった。
笑い過ぎで使い物にならなくなったSSS級のお陰で、そういう雰囲気じゃなくなったのだ。
まあそれは良い。ドラゴンステーキが食えないのは残念だが、おれはこれ以上ケツを掘られるのは遠慮したい。
と、思っていたのだが。
次の日の土曜日。
おれの現所在地は以前にも入った事のある高級マンション最上階。
全面硝子張りから見える景色の素晴らしい寝室。
素肌に触れるシルクのシーツ。腰に回る腕。脚に絡み付く脚。
尻の違和感。腕枕。右手が触れる、胸板。
「―――おはよう、悠」
そして蕩ける、声と眼差しと、甘い微笑。
止めて頂きたい。切実に、止めて頂きたい。
おれは人が苦手なんだ。家族は全て亡くなって久しいし、友人と呼べる者もいない。
前世含めて恋人なんてものがいた試しもない。
恋愛なんて、高難易度が過ぎる。まだドラゴンに特攻仕掛けた方がマシだ。
だから手加減して欲しい。お付き合いとやらを始めるにしても、もっとゆっくり、距離を縮めて欲しいのだ。
ほら、最初は交換日記からとか。
あと、おれはこの先一生酒を口にしない。絶対にだ。
というか未成年に酒を飲ませるな。
「いや、間違えて俺のを飲んじゃったのは悠だろう?」
………訂正しよう。
酔った未成年に手を出すな。
「無理。だって好きな子が甘えてくるんだよ?据え膳食わぬは男の恥」
あああああ。
穴があったら入りたい。
そして埋まってしまいたい。
まさか今世、こんなに酒に弱いとは思ってもみなかった。
ひとくち。たった一口だぞ?
前世はザルどころかワクだったから余計にだ。
しかも如何して甘え上戸なんかになるんだ、おれ。
こんな事なら、詫びと称したドラゴンステーキの誘いになんて乗らなければ良かった。
いや美味かったけども。美味かったけども!!
今まで食べたどんな肉より美味かったけども!!
「そんな悲しい事言わないでよ、悠」
きゅ、と。柔く抱き締められる。
覗き込んでくる顔はまるで叱られたわんこの様で。
思わず。あ、かわいい、なんて。
って、可愛いって何だ。
この涼やかな美形の何処が可愛いんだ。
寧ろ氷。若しくは抜身の日本刀。
可愛いなんて要素、何処にもないだろう。
ない筈、なのに。
「悠?」
止めてくれ。本当に。
憧れのままでいて欲しい。ずっと遠くにいて欲しいんだ。
こんなに近いところになんて、いらない。画面の向こう側の存在で良い。
だって人は直ぐに死ぬ。
不慮の事故で、災害で、病で。
呆気なく、死ぬんだ。
祖父母の様に。両親の様に。
「………そっか。悠は、失くすのが怖いんだ?だから誰とも親しくならない?」
そんなんじゃ、ない。
ただ、苦手なんだ。
人間という生き物が。
複雑怪奇で、面倒で。
だから。
「往生際が悪いなあ」
ちゅ、とこめかみにキスされて、逃げる様に身を捩る。
けれど彼は静かに笑いながら、頬に額に眦にと、次々にキスを落としてくる。
「ね、悠。俺は大丈夫だよ?」
俺は君より強いから。
ずっとずっと、強いから。
「大丈夫。俺はずっと、君といられる」
耳に直接吹き込まれて、耳朶を食まれる。
背中を撫でた掌は大胆に、脇腹を伝い、太腿に滑り、尻を揉んでこようとして。
思わず半眼になって、その悪戯な手を叩き落とす。
けれど。
いた、と零す声が紡いだ、先程の言葉に。
心の何処かが、掬い上げられた様な気がしたのは。
彼には言えない、おれの事実だった。
結局、おれ達の勝敗は流れる事になった。
笑い過ぎで使い物にならなくなったSSS級のお陰で、そういう雰囲気じゃなくなったのだ。
まあそれは良い。ドラゴンステーキが食えないのは残念だが、おれはこれ以上ケツを掘られるのは遠慮したい。
と、思っていたのだが。
次の日の土曜日。
おれの現所在地は以前にも入った事のある高級マンション最上階。
全面硝子張りから見える景色の素晴らしい寝室。
素肌に触れるシルクのシーツ。腰に回る腕。脚に絡み付く脚。
尻の違和感。腕枕。右手が触れる、胸板。
「―――おはよう、悠」
そして蕩ける、声と眼差しと、甘い微笑。
止めて頂きたい。切実に、止めて頂きたい。
おれは人が苦手なんだ。家族は全て亡くなって久しいし、友人と呼べる者もいない。
前世含めて恋人なんてものがいた試しもない。
恋愛なんて、高難易度が過ぎる。まだドラゴンに特攻仕掛けた方がマシだ。
だから手加減して欲しい。お付き合いとやらを始めるにしても、もっとゆっくり、距離を縮めて欲しいのだ。
ほら、最初は交換日記からとか。
あと、おれはこの先一生酒を口にしない。絶対にだ。
というか未成年に酒を飲ませるな。
「いや、間違えて俺のを飲んじゃったのは悠だろう?」
………訂正しよう。
酔った未成年に手を出すな。
「無理。だって好きな子が甘えてくるんだよ?据え膳食わぬは男の恥」
あああああ。
穴があったら入りたい。
そして埋まってしまいたい。
まさか今世、こんなに酒に弱いとは思ってもみなかった。
ひとくち。たった一口だぞ?
前世はザルどころかワクだったから余計にだ。
しかも如何して甘え上戸なんかになるんだ、おれ。
こんな事なら、詫びと称したドラゴンステーキの誘いになんて乗らなければ良かった。
いや美味かったけども。美味かったけども!!
今まで食べたどんな肉より美味かったけども!!
「そんな悲しい事言わないでよ、悠」
きゅ、と。柔く抱き締められる。
覗き込んでくる顔はまるで叱られたわんこの様で。
思わず。あ、かわいい、なんて。
って、可愛いって何だ。
この涼やかな美形の何処が可愛いんだ。
寧ろ氷。若しくは抜身の日本刀。
可愛いなんて要素、何処にもないだろう。
ない筈、なのに。
「悠?」
止めてくれ。本当に。
憧れのままでいて欲しい。ずっと遠くにいて欲しいんだ。
こんなに近いところになんて、いらない。画面の向こう側の存在で良い。
だって人は直ぐに死ぬ。
不慮の事故で、災害で、病で。
呆気なく、死ぬんだ。
祖父母の様に。両親の様に。
「………そっか。悠は、失くすのが怖いんだ?だから誰とも親しくならない?」
そんなんじゃ、ない。
ただ、苦手なんだ。
人間という生き物が。
複雑怪奇で、面倒で。
だから。
「往生際が悪いなあ」
ちゅ、とこめかみにキスされて、逃げる様に身を捩る。
けれど彼は静かに笑いながら、頬に額に眦にと、次々にキスを落としてくる。
「ね、悠。俺は大丈夫だよ?」
俺は君より強いから。
ずっとずっと、強いから。
「大丈夫。俺はずっと、君といられる」
耳に直接吹き込まれて、耳朶を食まれる。
背中を撫でた掌は大胆に、脇腹を伝い、太腿に滑り、尻を揉んでこようとして。
思わず半眼になって、その悪戯な手を叩き落とす。
けれど。
いた、と零す声が紡いだ、先程の言葉に。
心の何処かが、掬い上げられた様な気がしたのは。
彼には言えない、おれの事実だった。
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