上 下
4 / 10

やってきました初めての街

しおりを挟む
どうにも締まらない出発を経て。
私達は一路、魔物の出現が少ない東側に向かってえっちらおっちら歩き続けた。
まあ夜は寝に岩山の家に帰ってたけど。
しかし15日掛けて辿り着いた森の最東端の先は、崖っぷちに海だった。

折角の海だったが、魚!!海鮮!!なんて浮かれるよりも地面が人の街に続いてなかった事に疲れ果て、テンションだだ下がりながらゲートで家に帰った。

次に北上してったら16日目でサバンナっぽい草原に出た。
更に2日北上して、やっと街が見えた。
ココまでで何と約ひと月。Lvとかアビリティとかアイテム袋とか、何よりゲートがなかったらマジで積んでた。
つか土竜斃してから魔物に喧嘩売られる事もなくなったんだし、飛んでけば良かった。そしたらもっと時間短縮出来た、ハズ。……過ぎた事を考えるのは止めよう、うん。

兎に角。

漸く見付けた人の生活圏。売れそうなモン売って金作って、欲しいモノ買ってー、観光なんかもできちゃったりしたら最高だな。
あと二次元の萌えも良いけど、三次元にも進出してみたい。妄想滾る子いるかしら。

「ちょっと待てソコの!鬼人、いや魔族、か……?」

……まあそんなトントン拍子に行くワケないとは思ってたけど。

防壁にあるでかい門の前。槍持った門番さんに声掛けられた。すんごいハテナマーク飛ばされながら。いや魔族て……あぁー、角?の本数?ソレなら、まあ。

「良く首捻られるんですけどねえ。コレでも一応、鬼人族です。多分。きっと。そうじゃないかなあ……そうであって欲しいなあ」
「いや最後なんで希望系」
「いやだって。こんな角生えてる生き物、自分以外に知らないですしおすし」
「ああ、俺も見た事ねえなあ」
「でしょ?まあ突然変異だとは思うんですけど。ウチの家系、普人族に鬼人族やら魔族やらエルフ族他にもいくつか、色々混じって種族ワケ解んなくなっちゃってるんで」
「すげえグローバルだな兄ちゃんの家系」

引き気味に感心された。いやあそれほどでも。

で。
門番さんが私を引き留めたワケは、何も私の種族が解らなかった、だけじゃなく。
どうにも来た方角が引っ掛かったらしい。私が歩いて来た方向の先は、大樹海、とか呼ばれるでっかい森しかないそうだ。

うん。私が住んでたトコだね。

しかもその大樹海、一度入ったら出られない、死の樹海、なんて別名があるらしく。
まさかそんなトコからやって来た?えっマジで?いやいや冗談だろ。え、冗談だよな?
てのが、門番さんの心境らしく。

「や。深層部は兎も角、浅いトコならそんな危険でもねえですよ?」
「いやいやいや。ソレでもソコソコ腕に覚えがねえと危ねえトコだぞ?」
「腕に覚えはねえですが氷の魔法は得意です」
「兄ちゃんマジで種族不詳だな」

鬼人族っつーから魔法はからきしだと思ってた、なんて呆れ気味に言われた。
あー、ね。鬼種は身体強化の肉弾戦特化だからね。
けど私あんな、ムッキムキやでえ、な体格してない。確かに脱いだらスゴイけど。

「トコロでココは何て街ですか」
「おいおい知らねえで来たんか兄ちゃん」
「誰も好き好んで危険な場所に行くワケじゃないんですよ察して下さい」
「つまり迷子になって大樹海に」
「察して下さいってのは態々声に出して言わないで下さいって事なんですよ解ります?」
「おう悪い悪い」

ちっとも悪かったって思ってねえみてえですが。

まあでも。こんな気の抜ける会話のお蔭で門番さんの警戒はどっかすっ飛んでった様だ。
ココはトゥーラスの街だ、と笑顔の門番さんに言われた。
ら、ココでようやくMAP発動。現在地が錬金の国アルガスト南部の辺境辺りと表示された。あと大樹海も。

「で、兄ちゃんよ。ソッチのちっこいのは、サーベルタイガの幼体か?それともケットシーの子供か?」
「にゃう?」
「この仔はちゃんとケットシーですね」
「にゃ!!」
「ほー。ケットシーが里を出て人種と一緒に旅してんのも珍しいな」
「何故か懐かれまして。……いやマジで置いてく気満々だったんですが……」
「にゃっ!?にう~、にう~~~~」
「……………………負けました」
「……ああ、そりゃあ、ご苦労さん」

その肩ポンがとっても身に染みます。
そしておチビよ。置いてかないから脚に張り付くの止めなさい。

「ま。色々変だが悪人じゃなさそうだ」
「誰が変人か」
「街、入るだろ?身分証提示してくれや」

スルーしやがったこの門番。
てゆーか、出たよ身分証。

「あー。ウチすっごいド田舎のしかもちっちゃい集落だったんで、実はギルド証作る為に出てきたんですよね」
「マジか。……あー、けど、確かに少数種族は引き篭もりが多いっつーからなあ」
「引き篭もりの何が悪い」
「いやいや悪くねえですよハイ。……んじゃ、入場料は1人5000ディラ、だけどよ。ちっちゃい集落、だったんだよな?」
「お察しの通り。物々交換が主で貨幣を使う機会どころかモノすらなかったです」
「あー、やっぱなー」
「と、いう事で」
「おん?」
「ココにアイテム鞄があります。迷子先げふごふんっ、樹海でぶっちぶっち引っこ抜いて来た薬草とかばっさばっさ狩って来た魔物とか。まあソレなりに入ってます」
「ヨシ今からギルド行くぞ着いて来い」
「はーい」「にゃーう」

くるん、と速攻で踵を返した門番さんに、私と仔虎はのほほんと返事を返した。


* * *


「ふぁーーーー!!樹海ウルフがまるまる一頭っ、樹海ボアまで!!しかも傷が!!ない!!」
「……ウワァ」
「あっポポル草もこんなに!!新鮮な状態で!!え?あいやまってコレ何!?もしかして半月草!?半月草混ざってる!?うそコッチは幻透花!?アナタ幻透花なの!?」
「…………ウワァ」
「ハッ!?フェアリーリーフ!?アイェエエエ!?なんでフェアリーリーフ!?はぁんっ、冬宙鈴蘭もいるぅう!!」
「………………ウワァ」

門番さん、もといガストさんに連れて来られたでっかい建物の中で。
いかついオッサンから妖艶なオネーサンから、色んな人に色んな目で見られていた私は、素材受け渡し窓口でくねくねハァハァするカワイ子ちゃんにドン引いていた。

うん、低い背丈に大きなくりくり碧のおめめ。ふわふわな金髪。まるで小動物みたいに可愛い子だ。
なのに素材を前に涎垂らしながら目を星にして……や、性癖なんて人それぞれなんだけどもさ。

因みに周りの人等は見向きもしない。精々、あーまたか、て顔をするだけ。ガストさんも苦笑い。日常茶飯事ですかそーですか。

「そ、それで。コレ売れます?」
「モチロンですとも!!もー色付けて買っちゃいます!!他には何かありますか!?ありますよね当然!?もっと出して下さって良いんですよさあさあさあ!!」
「いや他と言われても。……あ、トレントの実があります」
「実っ!?木じゃなくて実!?ミ!?」
「あと樹海ベア」
「…………ッシャオラア!!!!」

いやこんなトコでそんな肉食系みたいな食い付き見せんでも。
将来大丈夫かこの残念美少女。

そんな受付嬢さんのテンションの高さと素材の多さと希少性の所為でちょっと……ちょっと?時間が掛かりましたが。
無事に査定完了、買い取り金額はなんと脅威の700万ディラと相成りました。四角い小さなインゴットみたいなんが70枚。
相場良くしらんけど、熊が300万狼が200万、猪100万だった。あと、その他薬草類とかが全部ひっくるめて100万ね。
しかし700万……1ディラ=1円だから、この1回でかなり稼いだな。検問料10000なんて瞬殺じゃねえか。

「久し振りに見ました大樹海の素材……しかも全部こんなに状態が良いなんて……ホントありがとうございます大好きです愛してます……はぁあん、し・あ・わ・せ……」
「……はあ、どうも?」
「でもどうやってコレだけのモノを手に入れられたんです?大樹海は浅場でもAランクばりに危険ですし、樹海ベアなんて中層部の魔物ですよ?」
「あー、確かにまあまあ危ない処ではありましたね。1人ではもう絶対に行きません」
「1人で行ったんですか!?!?」
「あんなソフィアちゃん。この兄ちゃん、迷子の果てに樹海に突っ込んじまったんだと」
「迷子じゃないですちょっと道を間違えただけです」
「いや大樹海の周辺にゃ街道どころか獣道の1本すら通ってねえんだわ」

いや何でソコで、ウワア、って顔で引くの?
何で周りのみんなも、コイツはヤベえ、て顔で見てくるの?

……まあイイさ。コレで或る程度の牽制は出来ただろうから。
面倒事は嫌だし怖がられるのも本意じゃない、かといって嘗められるのも問題だからね。小悪人臭溢れるチンピラもどきに喧嘩売られる、なんて王道は御免被りたい。

「えー、では。コチラはアイネさんのカードになりますね」
「ありがとうございます」
「はい、コッチはテトちゃんのカードですよー」
「にゃ!」

差し出されたトレーの上に乗ってるのはカードサイズの茶色い板。万仕事斡旋所、通称ランカーギルドのギルド証。
テンプレの様に申込書に幾つか記入して針で指をプスッてして真っ黒なカードに血を垂らしたらあら不思議。茶色に早変わり。あまり時間が掛からなかった。

あ。因みに名前は前世(?)からの引継ぎです。
愛しい音と書いてアイネ。キラキラネームに憧れた両親が、しかし四十路五十路を超えて心(と書いてピュアと読む)や月(と書いてライトと読む)みたいな名前は……と土壇場で踏み止まった末に私に着けた名前だ。いやコレも中々にイタい名前だと思うんだが。
あと仔虎は某風の谷の姫姉様の肩に乗ってる小動物思い出して。いやだって色味が。

ソレはさて置き。

しかも嬉しい事に、この世界のギルドカードは漫画やアニメみたく高性能じゃない。名前・職業・依頼達成数は記録されるが最も懸念していたスキルは登録されない。
ソコまで高性能にするには教会の聖遺物の仕組みを流用しなければいけないが、ソレには聖遺物を解明する為の莫大な研究費用が掛かる。そしたら自然と発行金額もアホみたいに高くなるから、らしい。

因みにこの茶色カードはEランクなんだぞーだ。依頼達成数や達成率、ギルドへの貢献度とかでD、C、B、A、S、SS、SSSとランクアップしていくらしい。現在Aランクは世界で45人、Sは13人しかいないらしく。SSは4人でSSSに至ってはゼロだそうな。

てゆーか、ずっと冒険者ギルドだと思ってたんだけど、そう呼ばれてたのは500年くらい昔らしいね。傭兵ギルドと統合して今の呼び方になったらしい。ありゃま。貰った一般常識が微妙に古い事が判明したぞ。

けど在り方や活動内容はあんまり変わってないらしく。
ランカーギルドは国から独立してて、各国の主要の街には必ず支部がある。
ソコでソロ・パーティ・クランとして登録する事で、仕事の斡旋が受けられる様になるし国と国を自由に行き来できる。
依頼内容はおばあちゃんのお使いからドラゴン退治まで幅広く。戦争参加は任意なので受けたくなきゃ受けなくて良い。
但し数十年に1回の割合で起こる魔物の大繁殖時の討伐には強制参加。

うん、テンプレですな。

「でも、ホントに良いんですか?ランク昇格試験受けなくて。今ならCランクまで試験官いますけど」
「いやあ。今は特に必要性を感じてないですし。ソレに、確かに野宿や素材なんかの知識はありますし、腕に覚えもありますけど。ランカーとしては初心者なんでね、うん。……ま、正規の方法でゆっくりのんびり上げてきますよ」
「ああ、確かに。依頼にも色んな条件とかありますからねえ。残念です。……でもでもっ、何時でも素材持ち込んで頂いて良いんですからね!!ね!?」

高ランクや希少なモノなら更に大歓迎ですっていやソレ良いの?
私登録したてのEランクよ?
なんて首を傾げた私と仔虎の横で、ガストさんが苦笑い。

「あー、世の中にゃドルトの爺さんみてえなんもいるからな」
「いや誰ですかソレ?」
「騎士より強え猟師の爺さん。エトナ村にいるんだわ」

産まれた時から今までずっとエトナ村から出た事のない猟師なのに、王宮の近衛騎士でも苦戦するAランクの魔物を、鼻歌歌いながら狩るんだとか。すげえなその爺さん。

ソレはさて置き。

街に入る為の身分証は手に入れた。お金だってたんまりと。
ソレじゃあ、まあ。
先ずは、三次元萌え発掘げふごふんっ……ウインドウショッピング、と洒落込みますか。


* * *


ガストさんとソフィアちゃんに手頃な宿屋を教えてもらった。

ガストさんのおススメは『日溜りの陽気亭』。ギルドから程近く、一泊朝飯付きで4000ディラという懐にも優しい店だ。但し1階の食堂は酒場も兼用してるから夜煩いし、ガラが悪いし、セキュリティもそんなに良くはない。
まあそんな貴重なモンなんか持ってない駆け出しの新人ランカーをターゲットにした店だから、そんなモンでしょう。

ソフィアちゃんのおススメは『金の羊の寝床亭』。ギルドからは少し遠退くが、一泊10000ディラ、金貨1枚のまあまあセキュリティ高めな宿屋さん。2000追加で朝飯と洗顔用のお湯が付く。食堂も、ちょっとカジュアルなレストランって感じで、一般客も良く来店するとか。間違っても夜中にバカ騒ぎが許される居酒屋という雰囲気じゃない。
中級から上級のランカーが定宿にする様なので、私みたいな新人ランカーが泊まるにはちょっと敷居がお高めだと思うんだが、まあアイネさんなら大丈夫でしょう、て。軽ぅく進められた。

因みに私が貰った70枚は1枚10万ディラな角金貨。全部持ってるのはサスガに怖いんで、600万ほどギルドカードに振り込んで貰った。キャッシュカード兼用してるコレって実は凄い技術なんでは。

取り敢えず。教えて貰った宿は取り敢えず第一第二候補に挙げておいて。

……いやだって買い物にどんだけ金が飛ぶか解らんし。【いんたーねっつ】に振り込んでお気に入りの漫画読みたいし。
もうちょっとばかしグレード下げても私的にはモーマンタイ。だってセキュリティ甘くても結界張れるし持ち物は全部腕輪ん中だし。
カモフラ用のアイテム鞄だって、持ち主登録と認証を追加で刺繍してるから、盗まれても中身に手出し出来な……あっそうだ盗まれても良い様にGPSみたいな魔法陣今夜にでも組んで刺繍しとこ。コレおチビの首輪にも足した方が良いな。

そんな事を考えながらコッチへふらふら、アッチへふらふら。
因みにコンパスの差がヒデェのでおチビは私の肩に乗っかってる。

そうして歩いてると、やっぱり初見で角の本数に首を傾げられる事、多数。
ケットシー(仮)が肩に乗ってる事に2度見される事、多数。

まあ、おチビは解る。
ケットシーは、その見た目の愛くるしさと賢さから貴族のペットとしての需要が高まり、一時期は密猟で乱獲されて絶滅一歩手前までいった種族だ。
ソレはもう大分昔の事だけど、未だに猫の隠れ里から滅多に出て来ないくらいには傷が深い。
そんな珍しいおぬこ様が、おめめキラッキラさせてアレは何だコレは何だ、にゃーにゃー言ってんの。思わず見るよね。解る。

けど何で私?

アッチ、ガチでライカンスロープいるしリザードマンいるし、ソッチには頭と腰から蝙蝠みたいな羽生やしてる煽情的な服装のおねいさんいるし、コッチには魔夜族なんていう魔力の核が心臓の代わりしてるアンデット族いるじゃん?
今私の目の前にいるのなんか、二足歩行の熊さんだし?
けど私、確かに角は変だけど人型じゃん?
見た目からして完全人間じゃねえ!!ってのよりはまだ大人しい方でしょ?

「ヤ。兄サん混血だロ?しかモ成人シてる。そリゃ見るワ」

でっかい蜂蜜壺が良く似合うでっかい熊の店員さんは、呆れた様にそう言った。

この世界、混血はまあまあ珍しいらしい。
普人族は普人族と、エルフはエルフと。魔族は魔族と。獣人は獣人と。番うのは大体自分と同じ種族だからだ。

「兄サんはゴブリンの雌見て、惚れまシた結婚シてくレって言えルかイ?」
「ナルホド確かに」
「にゃ」

人間、外見より中身だ、なんて言葉もあるけど。愛があれば何とかなるさ、で解決出来る問題は結構少ないよな。

ソレに、混血は基本的に何らかの欠陥を持って生まれてくるのだそうだ。

血が合わない、というか何と言うか。
両親の特性が上手く受け継がれれば問題ない。
相殺し合った結果、一週回って逆にドッチの特性もない、ふっつーの人として生まれても、まあコレはコレで問題ない。

問題は、ドッチかがドッチかの特性を押し潰してしまったり、ふたつの特性が悪く作用してしまった場合。

魔族としての才能に恵まれたのに獣人の特性の所為で一切の魔法が使えない、魔族と獣人の混血がいた。
父親の血が強過ぎて、胎の中にいた頃から母体の生命力を吸収してしまい、結果的に母親を殺してしまった、竜人族と妖精族の混血がいた。
もっと酷い例では、受け継いでしまった膨大な魔力に耐え切れずに破裂してしまった、エルフと普人族の混血もいたそうな。

他にも色々、ホントに色々、悪い例は良い例を上回って余りある程に多く。
だから誰も殆ど、種族を超えて夫婦になって子供作る、なんて事はしない。
種族によっては、他種族と交わる事は禁忌だとされてるトコすらあるとか。

まあ確かに。そんな話を聞いたら、異種族で婚姻なんて容易に賛同出来ないよなあ。
自分だって相方だって大変だし、いや当人がソレでも良い、ってんなら別にならじゃあ良いんじゃね?と私は思うけど。

けど駄目だろう。ソコに子供を巻き込む事は。

子供とは天からの授かりもの。愛の結晶。子宝、なんて呼びもするが。
その子供を育てるには、とんでもないくらいの時間と金と愛情が掛かるモンだ。
まあ、子孫を残す事は生物としての本能だし、ソレが愛する相手の子供なら、そりゃあ欲しいだろうけども。

けど、じゃあ、逆に子供は?

大人はさ、子供を作ろうと思えば作れるし、親だからって理由で好きに教育出来んの。
けど子供はさ、親を選べないのよ?
何も知らないから親の言う事が正しいと思うし、親から教えられた事が当然と思う。当り前だし、言い方悪いが一種の洗脳だわな。
まあ、何にでも最初ってのはあるし、基準ってのは必要だ。ソレに人格形成って環境にも左右されるから、別にコレはコレで良いんだけど。

けどコレが、洗脳のまま教育にならなかったら。
実例なんて日本には掃いて捨てる程あった。きっとこの世界にも沢山ある。

私もさ。両親は多分きっとふっつーの親だったけど、ちょっと、いやかなりガッツリヲタク入ってて。そんな2人見て育った所為か、薔薇も百合も熟女も初老も何なら触手エロとかNTRとか18Gまで、耐性あるどころか寧ろもっとヤれ!!ってなくらい腐ったよね。うんコレは紛う事なき洗脳。私に素質があったワケじゃない。

因みに父は嘗てカメラ小僧だった。休みの日には何時も手にカメラがあった。そして母はコスプレイヤーだった。もひとつオマケに線の細い父を女装させるのも趣味だった。
今でもコスプレ衣装を手に父に迫る母がいるんじゃなかろうか。そして泣きながら女装して母と一緒に姉妹プレイする父がいるんじゃなかろうか。モチロン父が食われる方である。我が両親ながら、業が深い。

いや私のイタい両親の事は兎も角。
今はこの世界における混血児の事ですよ。

前例がある。しかも大量に。ならこの世界の大人は、親は、そのリスクを考えられるのだ。産む前から産んだ後に至るまで、全て。
ソレでも当人が望むなら、自己責任だ。勝手にすれば良い。

けどソレは本人のみで、責任能力が伴っている場合に限る。

親子だろうが何だろうか、子供だってひとつの個。親の分身でも人形でもねえんだから。
愛だか本能だか意地だかは知らんけど、自分達の我を通す為に他人を不幸に陥れるのはいかん。
まあ多分この辺、現代日本の一般的な論理感が残ってる私だからこその考えなんだろうけど。

だから子供を作る時。私は覚悟が必要だと思ってる。
時間を掛ける覚悟。金を掛ける覚悟。愛し抜く覚悟。
どんな子だろうが最後まで諦めず捨てず幸せになれと願いながら育て上げる覚悟が。
その覚悟も持てねえなら子供なんざ作んな、とすら豪語するわ。
他人に押し付ける気はないし異論も認めるけど、この考えはきっと変わらない。

あっ因みに父さん、母さん。私はアナタ達の娘に産まれて結構ソコソコ幸せだったよ。
リビングでエロゲしてても怒られないどころか一緒になって騒げる親だったから。

基準ソコなの!?とは言うなかれ。
趣味の不一致は、例え親子といえども人間関係に崩壊を齎しかねないくらいに恐ろしいモンなのである。
あと金の問題もな。簡単に信頼関係に罅入れてくっからな。
その点、うちの親は良い親だった。……娘よりはっちゃける時もある親だったが。

まあ、色々ごちゃごちゃ考えちゃいましたが。

そんなこんな色んな理由で。
全部が全部そうではないけど、混血は両親から受け継いだ特性の制御が難しく、力の暴走や事故で死んでしまう事があったり、そもそも虚弱だったりが多いらしい。
受け継いだ力が弱かったり出なかったりした子に関しても、寿命が親の半分だったり、ある日突然力が覚醒してそのままあぼんしたりと、真面に育つ方が少ないのだとか。

だからひと目で混血と解る多角なのに、元気にショッピングしてる私は驚きなんだという。

そしてそういう数少ない混血は大抵、血の特性も力も克服した、コイツはヤベえヤツ、ってのになるらしく。
どうヤベえのかは人それぞれ。強さだったり、頭だったり、性癖だったり、色々。ホントに色々。
いやー。貰った一般知識は表面のアッサリしたトコだけでこんな掘り下げた部分までは入ってないって事が侭あるから、勉強になるわ。

……え。でも、って事は。

「もしかして私も、ヤベえヤツ、だと思われてます?」
「そリゃな。兄さン目立ツし、ギルドに樹海の素材卸シたロ?噂にナってるヨ」
「はやっ」

数時間前のギルドでの遣り取りが、既に広まってる、だと?

「そりゃア、ソフィアチャンがあんな騒いダら、なあ。……兄さン、今度カらあノ子に希少素材見せチャいけネぇよ」
「あ。ソレはもう。骨身に染みて理解しました」
「にう」
「マ。もうロックオンされチまったろうから逃げラれねえだロうけどナ」

あ、上げて落とされた……!?

と、まあ。
ひとつ鑑定するたんびに手に入らなかった貴重な推しグッズを目の前に置かれるヲタクばりに騒いでたあの子のお蔭(?)で、私の噂とやらは結構な速度で回っているらしい。
樹海の素材を単身で持って来た混血は、混血の噂に違わぬヤベえヤツだ、と。

「まぁじですかー……あ、このシュミガも下さい。あとコッチのギョヤも。籠いっぱい」
「あいヨ、まイどあリ」

ソレにしても。
蜂蜜や生姜や大蒜が、薬草と並んで薬屋さんで売ってるのはビックリである。
しおりを挟む

処理中です...