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旧友編
調査任務
しおりを挟む生徒会から俺たちに回ってきた仕事は、素行調査のようなものだった。
県内のとある学校で新しい異能混じりが生まれた可能性があるから、該当の人物について調べること。そして、その人物にコンタクトを取って、異能についての説明と異能専科へ編入させること。
「学校は、『県立東高等学校』。ネコメより大地の方が詳しいんじゃない?」
「まあ、名前は知ってるけど」
県立東高等学校、通称ヒガコー。
学力は中の上、運動部の大会成績は中の下。どの地域にもありそうな、ごくごく平凡な県立高校だ。
「ヒガコーは特徴が無いのが特徴ってくらい普通の高校だろ?」
県立の普通科高校だし、受験の倍率は確か一・一、二倍くらい。テストで学年平均の点数をとっていれば、ほぼ間違いなく入れる学校だ。
ヒガコーに対する俺の見解に、諏訪先輩はふむ、と思案するように顎に手を当てた。
「私も忙しくて、学校の内情調査までは手が回ってないの。何か、異能と関係なくてもいいから、噂とか聞いたことない?」
異能と関係ない、噂か。
「……最近の話は知らないけど、ちょっと前に問題があったはずだ」
「問題、ですか?」
ずっと異能専科に通っていて他の学校の話に疎いネコメが首を傾げる。諏訪先輩もその辺は同じようで、俺の話に関心があるようだ。
「ああ。確か、二年前くらいだ」
二年前、俺が中学二年生の時のことだ。俺は一時期真面目に学校に通い、きちんと高校進学を考えていたことがあった。
その辺についてはあまり思い出したく無い記憶も付随するのだが、とにかくその時に提示された進学先にヒガコーがあったのだ。
「ヒガコーを受験するって生徒が、かなり減ったことがあったんだよ」
「どうして?」
「その年に不良が一人、ヒガコーに入学してたんだ」
無難な県立高校として有名だったヒガコーだが、その年のヒガコーには一人の問題児が入学していた。
大木トシノリという、名の通った不良だ。
「たった一人の不良が入っただけで、学校の志願者が減ったの?」
諏訪先輩の驚きはもっともだが、大木はその辺のチンピラとはわけが違ったのだ。
「アイツはその辺の不良とは違ったよ。なんて言うか、イカれてた」
大規模な不良グループのリーダーで、県内で少年犯罪が起これば、大抵の場合は大木が絡んでいた。
やっていない犯罪は殺人だけ。それも、表沙汰になっていないだけ、なんてまことしやかに囁かれていたくらいだ。
「随分と詳しいじゃない」
「……まあな」
見透かしたような目で見てくる諏訪先輩に、俺は曖昧に頷いた。
確かに大木と俺には、浅からぬ縁があった。
しかし、それは今回の件とは関係無いはずだ。
「二年前に新入生だったなら、今は三年生よね?」
「いや、大木は入学して一年で退学してる。たしか、強盗やって逮捕されたはずだ」
そのため翌年、つまり俺たちの世代ではヒガコーの受験者は例年通りに戻っていた。
確か俺の出身中学からも、少なくない数の生徒が進学していたと思う。
「……確かにそれなら、今回の異能混じりとは関係無いわね。不良が異能と混ざって事件を起こした、なんて単純な話じゃないもの」
そりゃそうだ。
大木のような輩が異能を扱えるようになっていれば、恐らくもう死人が出ている。
先輩はため息を吐きながら車椅子の背もたれに体を預け、デスクから取った資料の束を差し出してきた。
「先週行われた運動部の試合、全国大会の地区予選で異能が使用された可能性があるの」
「運動部の公式大会で、異能を……⁉」
瞠目するネコメに、先輩は神妙な面持ちで頷いた。
資料の一番上には地方新聞の小さな記事のコピーが印刷されており、そこには『県立東高校バスケ部 初の県大会進出』と書かれていた。
「ヒガコーの、バスケ部……⁉」
その記事の横に貼られた写真を見て、俺は目を見開いた。
「そう。弱小バスケ部の快進撃ってだけなら漫画みたいな話で済むんだけど、異能で勝ち進んでしまったとなると、これは大問題になるわ」
「そうですね。県大会出場を取り消しても、すでに地区予選を終えてしまっています……。その結果も、何らかの形で失効にしないと」
深刻な様子で二人は話し込むが、俺の耳にはまともに入ってこなかった。
記事の横の写真、異能混じりの疑惑がある人物の顔を、よく知っていたから。
「……違う」
「大地君、どうしたんですか?」
「こいつは異能を使ってズルなんかしない!」
突然声を荒げた俺に、ネコメと諏訪先輩は息を飲む。
「もしかして大地、この人知っているの?」
「……ああ」
百八十を超える長身と、筋肉質な広い肩幅。
刈り上げた頭に人の良さそうな笑みを浮かべるその人物は、三ヶ月前まで俺と同じクラスに席を置いていた。
「こいつは円堂悟志。俺の、友達だ」
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