異能専科の猫妖精

風見真中

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旧友編

友達の夢

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『そう。間違いないのね?』
「はい。直接会ってはっきり分かりました」
 朝練に行くトシを送った後、話があるからと昼休みに学外で会う約束を取り付け、俺たちは分かれた。
 俺とネコメは近所の公園のトイレで私服に着替え、ヒガコーの近くにあるカラオケボックスにフリータイムで入室した。トシにも、昼休みになったらここへ来るように言ってある。
 リルはスクールバッグの中が居心地良かったのか、丸まって寝てしまっている。店の人にバレたら大問題になりそうだし、このまま寝ててくれ。
『支部に連絡して学校には手を回しておくわ。多分、数日で適当な理由をつけて県大会への出場が取り消されると思う』
 ネコメのケータイからスピーカーで聞こえる諏訪先輩の言葉に、俺は歯噛みした。
 円堂悟志は、異能混じりである。
 さっき会って、それがはっきり分かった。
 トシは特に何かに気付いている様子はなかったので、恐らく未だに自覚がないのだろう。
 俺だって最初は、耳や尻尾が現れるまでは自覚なんてなかった。
(これで……トシの夢は……)
 トシの夢、バスケで全国に行くことは、永遠に叶わなくなってしまった。
「はい。それでは、失礼します」
『うん。大地、余計なお世話かもしれないけど……』
 ネコメの報告を受けた諏訪先輩が、俺に言葉を向ける。
「なんすか?」
『……他の誰かより、あなたが伝えるのがいいと思うわ』
「…………はい」
 その言葉を最後に、通話は切られた。
 カラオケの狭い室内に、思い沈黙が流れる。
 通話の邪魔だと消音にしたカラオケ画面の中では、名前も知らないアーティストグループが何か話している。おそらく自分たちの曲の宣伝だろう。
 メジャーデビューして、有名になってCDをミリオンヒットさせる。そんな夢を持ちながら楽曲を作っていたであろう彼等は、その夢の一端としてこうして画面の中にいる。
 夢への足掛かりを、着実に進んでいる。
 そんなことが、たまらなく腹立たしかった。
「大地君、何か頼みますか?」
 経費で落ちるから、とネコメはメニューを差し出してくる。
 冷凍のクリームにイチゴジャムを乗せただけの安っぽいパフェ、レンジで温めただけの揚げたこ焼き。相場より高いメニューはどれも、喉を通りそうになかった。
「いらない」
「……そうですか」
 俺はいいから気にせず頼めよ、と促すが、ネコメも何も頼もうとしなかった。
「せっかくですし、歌いますか?」
「いいよ、気分じゃない。歌いたいなら好きにしてくれ」
「私、あまり曲とか知らないので」
 作り笑いを浮かべるネコメだが、無理をして盛り上げようとしているのが見え見えだ。
 ドリンクバーの薄い飲み物で喉を潤しつつ、ただ時間が過ぎるのを待つ。
「八雲ちゃん……」
 しばらくそうしていると、ネコメが沈黙を破った。
「八雲ちゃん、カラオケ行くと全然マイク離さないんですよ。私が歌ってても、勝手に入ってきちゃうんです」
「あいつ、そういうことしそうだな」
 東雲八雲、今は少し遠くに行っている、俺たちの友達。
 あいつがこの場にいれば、もう少し空気が良かったかもな。なんて益体も無い事を考えてしまう。
「多分、私にとっての八雲ちゃんみたいな人なんですよね。大地君にとっての円堂さんって」
「……そうかも、しれない」
 初めてできた、気を許せる友達。
 一緒に飯を食って、くだらない話で盛り上がって。
 趣味が合わなくても、性格が全然違っても、なぜか一緒にいると心地よい。
 そんな、不思議な関係。
「だったら少しだけ、大地君の気持ちも分かる気がします」
 俯き、プラスチックのコップに入ったオレンジジュースに目を落とす。
「私たちはこれから、大地君のお友達の夢を、壊すんですよね……」
「ッ‼」
 そうだ。
 俺はこれから、トシの夢を壊す。
 友達の積み重ねてきた努力を踏みにじるんだ。
「……なんで」
 自分のことなら、簡単に諦めがついた。
 異能専科に編入することも、成り行きで霊官を目指すことになったときも、割とあっさり受け入れられていた。
 でも、友達のことは、受け入れられない。
「なんで……トシが……‼」
 目元を覆い、奥歯を噛み締める。
 時刻は、午後十二時二十五分。
 トシからカラオケに着いたというメッセージが、俺のケータイに届いた。
「大地君……」
 心配そうに声を漏らすネコメに「ああ」と頷き、俺は部屋を出てフロントに向かう。
 フロントにはトシがいて、受付の人に先に友人が来ているという旨を説明していた。
「トシ」
「おう、大地。なんだよ、昼休みにわざわざ呼び出したりして?」
「中で話すよ」
 俺はフロントに伝票を出し、トシの分のフリータイムを追記してもらう。
「何飲む?」
「んー、コーラ」
 追加してもらったコップにトシのドリンクを注ぎ、部屋へ向かう。
「お前、泣いてんのか?」
 部屋へ向かう道すがら、トシはそんな事を言ってきた。
「……そんなんじゃねぇよ」
 やはり、無自覚に人の心象を受信しているのだろう。
 サトリとは、そういう異能なんだ。
「この部屋だ」
 俺はネコメの待つ部屋のドアを開け、トシを中に促す。
「座れよ」
 俺はネコメの隣に、トシは俺の正面に、テーブルを挟んで座る。
「改めまして、私の名前は猫柳瞳と言います。大地君のクラスメイトです」
 ネコメが自己紹介しながら頭を下げ、次いでトシも頭を下げる。
「あ、えっと、円堂悟志です。大地とは、中学の友達で……って、クラスメイト⁉ 大地、お前学校行ってんの⁉」
 予想外のところでトシは目を丸くした。
「ああ。色々あってな……」
 俺の話をするより、異能についての説明をした方が話が早いだろう。そう思って俺はトシに向き直った。
「トシ、大事な話があるんだ」
「……その、猫柳さんが妊娠したから、出産費をカンパしてくれって話か?」
 こっちが真剣な話をしようというのにふざけた事を言う悟志君に、本気で殺意が湧いた。モロにセクハラな発言に、ネコメはきゅっと顔を赤くして俯いてしまっている。
「……トシ、真面目な話なんだ」
 俺は語気を強め、トシを睨むように視線を険しくする。
 トシはその様子にはぁ、とため息を吐き、テーブルに肘をついた。
「分かるよ、なんかマジな話なんだろ? 分かるさ」
「…………そうか」
 そうだ、分かるんだ。
 詳しい内容までは予想できなくても、トシにはきっと、俺たちが重大な話をしようとしていることが分かる。
 俺たちの心情が分かるんだ。
 そしてそれが、自分にとっての明るい話ではないことも。
 手に取るように、分かるのだろう。

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