42 / 103
旧友編
暴走の果て
しおりを挟む右腕を肘先から失った大木は、放心したように大人しくなった。
がっくりと膝を折り、床に顔を向けて何やら呻き声を漏らしている。
「生きてはいる、みたいだけど……」
顔や左腕は人間のものに戻っているが、砕けた右腕は枯れ木のままだし、頭の木も無くなっていない。
これが異能が暴走した結果なのだとしたら、あまりにも無残だ。
『ダイチ、こいつどうするんだ?』
俺と混じったままのリルが頭の中でそう問いかけてきた。
「どうするって、放っておく訳にもいかねえだろ……」
社会不適合者だが、大木だって人間だ。それに、俺の目的はこいつをトシの前に連れて行って土下座させることだしな。
とりあえずネコメに相談しようと思い、戸惑う。
「ネコメ……怒ってるかな……?」
あれだけの啖呵を切って病院を飛び出した手前、ネコメと話すのが気まずい。
まだ泣いてたらどうしようとか、メチャクチャ怒ってて電話に出てくれなかったらどうしようとか、頭の中でぐるぐると考えてしまう。
しかし、ひょっとしたら大木の状態は一刻を争うかもしれない。
意を決してポケットに手を突っ込み、ケータイを取り出す。
「…………」
バッキバキに割れた液晶画面から、ガラスの欠片がポロッと床に落ちた。
まあ、あれだけ無抵抗に殴られれば、ポケットの中のケータイなんてそりゃ壊れるよね。
「テメエ等……」
俺は未だに枯れ枝の籠から出られずにへたり込んでいるチンピラ共を睨みつける。
「ひぃ⁉」
「こ、殺さないでくれ……‼」
異能者同士の戦いを間近で見てしまったチンピラたちは、引くくらい怯えていた。
化け物を見るような目で俺を見て、涙目になっている者までいる。
文句の一つも言ってやろうと思ったのだが、こいつ等も考えようによっては被害者みたいなものだ。これ以上痛めつけることもないだろう。そもそも一般人は殴れないしな。
「いいか、お前等は今日、何にも見なかった。明日からは善良な一市民として、学校や仕事に真面目に行くんだ」
口止めのために工場中に響く声でそう言うと、チンピラ共はキョトンと目を丸くした。
「今日限りで不良をやめろ。酒もタバコもシンナーもやらない。頭を丸めて、派手な格好もしないでポロシャツとか着ろ。花とか動物とかが大好きないい人になるんだ。分かったか⁉」
次第に俺の言葉の意味を理解したらしく、チンピラ共は青ざめた顔でコクコクと頷く。
大人数の不良を更生させたことに満足した俺は、ふぅ、と息を吐いて腰に手を当てる。
「よし、問題解決」
「全然解決してませんッ‼」
「のわぁ⁉︎ ね、ネコメ⁉」
突然の声に振り返ると、俺がドアを蹴り破った工場の入り口に、異能を発現させたネコメがいた。
「ネコメ、何でここが⁉」
「発信……そんなことより一体この状況は何ですか⁉」
今ネコメさん、『発信機』って言いかけなかった?
え、俺実は発信機付けられてるの?
「なんかケータイのマップみたいなので探してたぜ。お前の今カノ、束縛キツいのな」
謎の恐怖を感じていると、ネコメに続いてトシがドアの無い入り口から姿を現した。
「トシ! 目ぇ覚めたのかよ⁉」
「あー、ついさっきな」
そう言って気まずそうに頰をかくトシは、やっぱり傷だらけだ。
顔にはガーゼに包帯、全身から痛み止めの塗り薬の臭いがする。
「酷えツラだな。ボッコボコじゃねぇか」
「オメーのツラも大概だよ。つーか血ぃ出てんじゃねえか」
まあ、角材やら鉄パイプでボコボコにされましたしね。
「ところでネコメ、俺発信機つけられてんの?」
「わ、私がやったんじゃないですよ⁉ 大地君はまだ一人で出歩かせることができないので、はぐれたら使いなさいって、会長が……」
やっぱりあいつか。
つーことは発信機は、このチョーカー、グレイプニールに仕込まれてるとかかな。
「……それにしても、この状況は……」
ネコメは工場内の惨状を見渡し、グッと眉間に皺を寄せた。
異能で作られたと思しき枯れ枝の籠に、何人もの怯えた一般人。
そして、異能の発現が消えていない大木。
「ネコメ、大木トシノリは、異能者だった。妖木の異能混じりだ。そんで……暴走した」
かいつまんで説明すると、ネコメは小さく頷いた。
「円堂さんから、大木トシノリが異能者であることは聞きました。異能で、攻撃されたと」
やっぱり。大木は異能を使ってトシを攻撃していたのか。致命傷になるような刺し傷が無かったし、左腕の丸太で殴ったってとこだろう。
「このチンピラ共は、どうするんだ? まさか、口封じに殺さなきゃいけないとか……」
「そ、そんなことする訳ないじゃないですか‼」
だよね、よかった。
せっかく巻き込まれないように気を使ったのに、死なれちゃ俺の苦労が水の泡だ。
「でも、このまま解放することはできません。異能者関連の事件になると思ったので、先ほど会長に応援を要請しました。しばらくすれば支部から護送用の車両と人員が派遣されるはずです。おそらく、支部で今夜の記憶を消されると思います」
準備がいいなネコメは。さすがプロの霊官だ。行き当たりばったりでこんなことになった俺とは違う。
「記憶を消すなんて、そんなことできるのか?」
「支部の幹部に一人、そういうことができる異能者がいるんです。私も会ったことはありませんけど」
人の記憶まで自由自在とは、さすが異能だ。恐れ入ったよ。
「しかし、支部の人たちが忙しいから俺みたいな下っ端まで仕事が回ってきたっていうのに、結局支部に後のこと任せちまうんだな」
俺は記憶を消すなんてできないし、プロに任せるのは仕方ないことなんだが、なんだか半端な仕事をしたみたいでモヤモヤする。
「私たちに回ってきた仕事は円堂さんが異能混じりになっているのか調べることです。その過程で異能犯罪者を逮捕できたんですから、大手柄ですよ」
「そうかな?」
ネコメにそう言ってもらえると、なんか安心する。
妖蟲退治とは違う、学校の外での初仕事は、まあ成功ってことでいいみたいだ。
「…………ぉご」
仕事を終えて気が緩んだ瞬間、不気味な声が響いた。
「あ?」
声のした方を見ると、そこでは大木が膝を折った姿勢のまま、痙攣を起こしていた。
「ごが、があぁぁぁぁ‼」
俯いていた大木が突然頭上を仰ぎ、喉の奥から潰れた声を上げる。
「な、何だよ! まだ何かあるのか⁉」
「こ、これは……⁉」
俺たちが動揺する中、大木の右腕から、枯れ枝の槍が弾けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。
剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。
彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。
「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。
これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。
【カクヨムでも掲載しています】
表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
半世紀の契約
篠原皐月
恋愛
それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。
一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる