異能専科の猫妖精

風見真中

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旧友編

闇夜の襲撃者

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 真っ暗な深夜の山道を、黒いワンボックスカーが走る。
 目的地は霊官の中部支部で、チンピラ集団の乗ったマイクロバスはすでに別の場所に到着している。
 中部支部所属の霊官、飯島がハンドルを握り、同じ所属の古川が後部座席に座る。
 古川の数珠だらけの片手には手錠が掛けられており、その鎖の先は呆然自失となった大木トシノリの左手に掛かっている。
「しかし、こいつの異能は何だったのかね」
 飯島が車のシガーライターで咥えたタバコに火をつけ、煙をふかしながらそうぼやく。
「針葉樹の妖木でしょ?」
 そう報告受けたじゃないですか、と古川は返答する。
「いや、そうじゃなくて、なんか変じゃなかったか?」
 窓の外に向けて煙を吐きながら、飯島は先ほどの光景を思い出す。
 木の枝だか根だかで編まれた巨大な籠に、暴走し、異能生物になりかけるほどの強力な異能。
 情報によればこの少年はほんの数日前に少年院から出てきたばかりだったはずだし、もし出所してから異能と混ざったのだとすれば、扱いに慣れ過ぎている。
 逆に院にいるときから異能を持っていたのだとすれば、扱いがお粗末すぎる。
「まるで、誰かに無理やり異能と混ぜられて、簡単な使い方だけを教わった、そんな風に見えたんだよな……」
 霊官として長い間前線に出ていた飯島は、奇妙な予感を感じ取っていた。
 普通の異能混じりとはどこか違う、異質な印象を大木から受けていた。
「異能混じりの量産って、戦時中じゃあるまいし……」
 そんなことを言いつつ、古川もまた嫌な予感を感じていた。
 数週間前に起こった、異能専科での前代未聞の事件。人工異能者を生産しようというバカげた計画を、あろうことか現職の霊官が行っていた。
「藤宮はムショの中だ。さすがに無関係だろ」
「そりゃそうですよねぇ……⁉」
 話の最中、車体が大きく跳ね、スリップを起こす。
 舗装の荒いアスファルトをタイヤが削り、静かな山道に耳障りな異音を響かせる。
「ちょっと飯島さん、ちゃんと運転してくださいよ⁉」
「やってるよ‼ タイヤがおかしいんだ‼」
 ハンドルを取られた飯島は慌ててブレーキをかけ、ワンボックスカーは舗装路からはみ出して動きを止めた。
 飯島がエンジンを切り、古川が車内灯を灯して周囲を伺うと、車は山道の壁に車体を大きく削られていた。
「飯島さん、大丈夫ですか?」
「俺やお前より、大木は大丈夫なのか? 何も証言取れないまま死なせんじゃねえぞ」
 頭を振りながら答える飯島と、手首の数珠を外す古川。
 二人はしばらく車内にこもり、何が起きたのかを考える。
「道路に何か落ちてたんですか?」
「俺がそんなヘマ踏むかよ。道には何もなかった」
「じゃあ、襲撃ですか?」
 古川の言葉に飯島は渋い顔をする。
 シートの上に落としてしまったタバコを拾い、灰皿の中に仕舞いながら首を横に振った。
「霊官二人が乗った車にか? どんな考え無しだ、そりゃ」
「ですよね」
 飯島は霊官として長い間現役を張っている歴戦の勇士だし、古川も歳の割にはいくつもの修羅場をくぐっている猛者だ。
 二人ともバリバリのプロの霊官で、荒事にも慣れている。
 そんな二人が同時に、自分たちに向けられた明確な敵意を感じ取っていた。
「ずっとここにいる訳にもいかないですよね……」
 しばらくして古川がケータイを開くが、画面には圏外の文字が表示された。
 山奥とはいえ、今の時代にこんな簡単にケータイが圏外になるとは思えない。何者かの妨害があると考える方が自然だ。
「……俺が見て来る」
 そういって飯島は眼帯を外し、その下の水色に光る瞳を露出させる。
 飯島の異能、魔眼。
 赤外線スコープのように暗闇でも視界を確保できるし、何より不可視化された異能さえ見通すことが出来る上級の異能術だ。
「……三十分して戻らなければ、車を降りてそいつを支部に連行しろ」
「ちょっと、飯島さん⁉」
 狼狽する古川を残し、飯島は車を降りて出て行ってしまう。
「もう、大丈夫かな一人で……」
 はあ、と溜め息を吐く古川は、そっと隣に座る大木の方を見る。
 呆然自失で、自動車事故にも何の反応も示さない大木。
「こんなのと二人きりとか、勘弁してほしいっすよ……」
 通信ができないので、念のためにケータイのメモ機能に現在の状況を書き残していると、
「……っがあ⁉」
「ッ⁉」
 外から、飯島の声が聞こえた。
「飯島さん⁉ 飯島さん⁉」
 ドアを開け、大木を伴いながら外に出る古川。
 数珠を前方に掲げ、飯島の名前を呼びながら古川は辺りを伺う。
 しかし、帰ってくる声は無く、辺りには不気味な静寂だけがあった。
「マジかよ、飯島さん……」
 飯島に何かあったのは明白で、このとき古川の覚悟は決まった。
 数珠の紐を千切り、宙に舞う無数の数珠の中から一つを選び摘み取る。
「『フロート』」
 古川がそう唱えると、摘んだ数珠球が砕け、残りの球が落下を止めて宙に漂う。
 古川の異能術、数珠術。
 異なるいくつもの異能術を数珠の球一つ一つに籠めた待機状態で固定し、発動のプロセスを無視して言葉一つで異能術を発動させる。
 宙に浮いた数珠球は、セーフティを外した銃口。
 周囲の気配に気を配り、古川は呼吸を止めて数珠球の一つを構える。
 ザッと、背後で何かが走る。
「『フレイム』‼」
 古川の命令に呼応し、数珠球の一つが燃え上がり、迸る。
 闇の中を走る一条の焔は大気を焦がし、辺りはその炎に僅かに明るくなる。
(黄色と、黒⁉)
 古川の目に特徴的な配色の何かが映る。
 跳び退いたその『何か』に向け、再び数珠球を向ける。
「『スパー……』⁉」
 再び古川が口を開いたとき、唐突にその言葉は遮られた。
 車内灯の僅かな灯に照らされながら、古川の影が藻掻き、のたうち回る。
 数分の後、やがて古川は動きを止めた。
「……霊官二人、まとめて来られたら、さすがに危なかったかな」
 その人物は大きく息を吐き、額に滲んだ汗を拭った。
 残された大木を見下ろし、その人物は苦々しく顔を歪める。
「一日に何度も使うな、そう言ったのに」
 動かなくなった古川の身体を足で退かし、呆然とする大木にその人物は声をかけた。
「あ……あん……た、は」
「処分するわ。この、失敗作」
 大木の言葉を遮り、その人物は腕を振るった。
 ドサッと、地面に大木の頭が落ち、分断された首から噴水のように血が噴き出す。
「さてと、回収回収……⁉」
 糸の切れた人形のように横たわる大木の身体に近づき、その切断された腕を見て息を飲む。
「ない……。まさか、回収されたの?」
 溜め息と共に立ち上がり、苛立ちを発散するように大木の頭をグシャリと踏み潰す。
「まったく、面倒なことになるわね……」
 そういってその人物は、闇夜に深紅の双眸を煌かせた。
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