39 / 54
第2章
第38話 Let's continue where we left off last time
しおりを挟む
交わる視線が離れた後、コート内の空気が一瞬にして変わった。佐野は15得点、6リバウンドと好成績を収め、87-62で佐野の所属する大学が逆転勝利した。
スポーツを観戦する習慣のない優心や俺でも、立ち上がって声を張り上げるほどに熱くなる試合だった。試合終了後、優心には先に駐車場に行ってもらい、アリーナ外で佐野が出て来るのを待つことにした。
少し経つと、ひとしずくの雨が頬を叩いた。暗い空から、いつもの冷たい雨が降り注ぐ。急いでエントランスの屋根の下に潜り込んだ。
暗闇を照らす細かな針のような雨を、じっと見つめて佐野を待つ。どんどん気温が下がってきて、ぬれた髪や肩から冷え込んできた。それでも、いつもの憂鬱さは1mmもない。
“Are you meeting someone?”
(誰かと待ち合わせ?)
振り返ると、コートで見かけたような大柄な男が立っていた。
“Well….”
(えっと……)
“He has met up with me”
(俺と待ち合わせしてるんだよ)
「佐野!」
返答に詰まっていると、会場の裏口から出てきたのか、目の前に佐野が現れた。気づいた時には走り出していて、佐野の胸に飛び込んでいた。
雨で少しぬれた、佐野のにおい。懐かしくて、温かい佐野の体温。俺の背中に回す手が大きくて、穏やかな呼吸が耳を刺激する。
雨の中、互いの体温を確認し合うだけで言葉が出てこない。言いたいことも聞きたいこともありすぎるのに、感情の大波が喉につかえて、ただ内部に蓄積されていくだけだ。
「わっ!や、やめろ佐野!」
「りょうだ!本物?本物だよね?」
両脇に手を入れ、佐野は軽々と俺を抱き上げた。見下ろす佐野の笑顔はあのときと変わらず、雨にぬれたひまわりのようだ。
俺を降ろすと、佐野は俺の後頭部に左手を回し、右手で肩を抱く。2度目の抱擁で実感した。一生無理だと思っていた、佐野との邂逅を果たしたのだ。
2人とも微かに震えている。寒いから、いやそうじゃない。雨粒に塩分が混じって、頬を伝う。雨が降っていて良かったと思う。
同じ空間に2人で立っている奇跡を、全身で感じる。
「りょうが来てくれたから、勝てたんだね」
雨と一緒に佐野の声が降り注いで、目を開けた。
「佐野が活躍したからだ」
「違うよ、りょうが居てくれたからだよ。もう絶対に、絶対に離さない」
しばらくこうして居たかったが、雨脚が強くなってきた。優心が待つ駐車場へ佐野を連れて行くと、優心は佐野が戸惑うほどにわんわんと泣いた。その姿を見ていると、俺と佐野は感傷的な気持ちが引っ込んで、破顔した。
当たり前のように、シアトルの自宅に佐野を連れて帰った。遅めの夕食を頬張りながら、武も混ざって全員が饒舌になった。沈黙なんて1秒もなく、離れていた2年間を埋め尽くすように話が途絶えることはなかった。
2人で寝室に移動しても、お喋りは結界したダムのように止まらない。離れていたのは、たったの2年間。けれど、一晩では語り尽くせないほどの2年間だった。
高校生のときは、会えばセックスして楽しんで、話すべきことを話していなかった。知るべきことを知ろうともしていなかった。
俺はド変態だ。佐野とセックスがしたいに決まっている。けれど、絶対に必要なわけじゃないことも分かっている。
俺はオメガで、佐野はアルファで、もしかしたら番になれるかもしれなかった。あの2年間、「佐野と番になっておけば良かった」と何度思ったことか。でも今はどちらでも構わないと思う。
なぜか分からないけれど、俺と佐野の関係は運命だと確信しているから。
「ねえ、もしかして、アメリカにもあの卑猥なグッズたちは持ってきてる?」
「ああ、当たり前だ」
「さすがすぎるな、りょう」
1人用のベッドに2人寝転んで、互いの瞳に映る自分を見つめた。出し尽くした感情の波が、静かに眠りについた。
「りょう、あのときの続きをしよう」
先ほどまで忙しなく動き回っていた互いの唇が、2年ぶりに交わった。
スポーツを観戦する習慣のない優心や俺でも、立ち上がって声を張り上げるほどに熱くなる試合だった。試合終了後、優心には先に駐車場に行ってもらい、アリーナ外で佐野が出て来るのを待つことにした。
少し経つと、ひとしずくの雨が頬を叩いた。暗い空から、いつもの冷たい雨が降り注ぐ。急いでエントランスの屋根の下に潜り込んだ。
暗闇を照らす細かな針のような雨を、じっと見つめて佐野を待つ。どんどん気温が下がってきて、ぬれた髪や肩から冷え込んできた。それでも、いつもの憂鬱さは1mmもない。
“Are you meeting someone?”
(誰かと待ち合わせ?)
振り返ると、コートで見かけたような大柄な男が立っていた。
“Well….”
(えっと……)
“He has met up with me”
(俺と待ち合わせしてるんだよ)
「佐野!」
返答に詰まっていると、会場の裏口から出てきたのか、目の前に佐野が現れた。気づいた時には走り出していて、佐野の胸に飛び込んでいた。
雨で少しぬれた、佐野のにおい。懐かしくて、温かい佐野の体温。俺の背中に回す手が大きくて、穏やかな呼吸が耳を刺激する。
雨の中、互いの体温を確認し合うだけで言葉が出てこない。言いたいことも聞きたいこともありすぎるのに、感情の大波が喉につかえて、ただ内部に蓄積されていくだけだ。
「わっ!や、やめろ佐野!」
「りょうだ!本物?本物だよね?」
両脇に手を入れ、佐野は軽々と俺を抱き上げた。見下ろす佐野の笑顔はあのときと変わらず、雨にぬれたひまわりのようだ。
俺を降ろすと、佐野は俺の後頭部に左手を回し、右手で肩を抱く。2度目の抱擁で実感した。一生無理だと思っていた、佐野との邂逅を果たしたのだ。
2人とも微かに震えている。寒いから、いやそうじゃない。雨粒に塩分が混じって、頬を伝う。雨が降っていて良かったと思う。
同じ空間に2人で立っている奇跡を、全身で感じる。
「りょうが来てくれたから、勝てたんだね」
雨と一緒に佐野の声が降り注いで、目を開けた。
「佐野が活躍したからだ」
「違うよ、りょうが居てくれたからだよ。もう絶対に、絶対に離さない」
しばらくこうして居たかったが、雨脚が強くなってきた。優心が待つ駐車場へ佐野を連れて行くと、優心は佐野が戸惑うほどにわんわんと泣いた。その姿を見ていると、俺と佐野は感傷的な気持ちが引っ込んで、破顔した。
当たり前のように、シアトルの自宅に佐野を連れて帰った。遅めの夕食を頬張りながら、武も混ざって全員が饒舌になった。沈黙なんて1秒もなく、離れていた2年間を埋め尽くすように話が途絶えることはなかった。
2人で寝室に移動しても、お喋りは結界したダムのように止まらない。離れていたのは、たったの2年間。けれど、一晩では語り尽くせないほどの2年間だった。
高校生のときは、会えばセックスして楽しんで、話すべきことを話していなかった。知るべきことを知ろうともしていなかった。
俺はド変態だ。佐野とセックスがしたいに決まっている。けれど、絶対に必要なわけじゃないことも分かっている。
俺はオメガで、佐野はアルファで、もしかしたら番になれるかもしれなかった。あの2年間、「佐野と番になっておけば良かった」と何度思ったことか。でも今はどちらでも構わないと思う。
なぜか分からないけれど、俺と佐野の関係は運命だと確信しているから。
「ねえ、もしかして、アメリカにもあの卑猥なグッズたちは持ってきてる?」
「ああ、当たり前だ」
「さすがすぎるな、りょう」
1人用のベッドに2人寝転んで、互いの瞳に映る自分を見つめた。出し尽くした感情の波が、静かに眠りについた。
「りょう、あのときの続きをしよう」
先ほどまで忙しなく動き回っていた互いの唇が、2年ぶりに交わった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる