black and white world

nico

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鮮やかな世界

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俺は飛び出した。
大好きな春を守る為に。
春は驚いていた。
それ以上に人間も驚いていた。
春の首には深い傷があった。
そこには黒い血が流れていた。
俺は人間に向かい威嚇した。
人間は怯えていたが逃げはしなかった。春の首から流れる血の量を見ると、もう助かりようがない事は俺にも分かっていた。
俺は春の傷口を舐めた。
春は笑顔で俺の頬にキスをして動かなくなった。
俺の中で何かが音を立てて崩れた。
人間の怯えた声が聞こえた。
それと同時に自分が人間の喉元を食い破っていた事に気がついた。
だがやめられ無かった。
鎌で刺されようが、斬りつけられようが俺はこいつら全員を殺す事しか考えられなかった。
逃げ惑う人間を切り裂き、食い破るその度に血が飛び散る。
赤黒い汚い色だ。
俺は春を殺した奴らを全員殺した。
冷たくなった春に近寄ると春は首から綺麗な赤い血を流していた。
周りを見ると木々は緑だった。
空は青かった。
だが俺の心の中はモノクロの世界のままだった。





どの話でもそうだ。
俺たちは人を殺し、家畜を襲い嘘をつく。
人間の作り話に登場する俺たちは悪者扱いだ。
お陰様で村人は俺たちを見ると怯えて逃げるか石を投げつけてくる。
だが俺は別に悲しい訳じゃない。
辛くもないし、怒りもしない。
何も思わないんだ。
胸に穴が空いてるかのように。
君が居なくなってから心が空虚なんだ...。 

君は言ったね。
私の住む世界は色鮮やかな世界。
身体を流れる血は赤色く、天に伸びる木々は緑で、どこまでも広がる空は青い素敵な世界だと。
君は笑顔で言っていた。
そして君は俺に問いかけた。
あなたの世界は?

俺の世界はモノクロだよ。
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