へぇ｡美的感覚が違うんですか｡なら私は結婚しなくてすみそうですね｡え？求婚ですか？ご遠慮します

本編

29

｢ここが安くて綺麗な宿だ｣
｢ふぇ…意外と大きいなぁ…｣
｢…治安…というか…うん｡お前はここやめろ｣
｢どうして？｣
お兄さんは無言で隣を指さした｡
…そこには…娼館があった｡
｢…なるほど｣
｢捕まったら商品にされるぞ｡よくこんなところを1人で歩こうとしてたな｣
｢……どうせなら率直に言ってよ｡無計画だったの!!｣
｢奴隷商もあるからな｡…国境沿いは危ないんだ｣
…私…ほんと無計画だと危ないな…
私達は近くの木陰まで来ると腰をおろした｡
｢…どこに行こうかな｡地図は持ってきたけど…｣
｢国内か？国外か？国外なら通行証が必要なんだが…持ってるか？｣
｢ううん？というかいることすら知らなかったよ？｣
｢ならちょうどいい｡発行しとけ｡ついでにカードも作った方がいいぞ｡身分証になるからな｣
｢へぇ…詳しいね｣
｢それなりにな｣
…冒険者って色んなこと知ってるんだなぁ
旅をしてきたからかな
私はインベントリからサンドイッチを出してお兄さんに渡した｡
｢情報料｣
｢どうも｡そういや名前言ってなかったな｡俺はカイン｡カイン･コースターチオ｡…よろしくな｡ティア嬢｣
｢なっ…!!｣
私はすぐに立ち上がった｡
なんで私の名前を…
いや…その前にコースターチオって…
公爵家の家名じゃなかったっけ！？
タマのところよりは劣るけど他の貴族よりは上回っている…
確か…現当主の息子が素晴らしい戦績をあげたとか…
…ん？
戦績？
成績じゃなくて？
｢その顔は気づいたみたいだな｡コースターチオ家次男カインだ｡ついでに王国騎士団特別部隊隊長でもある｣
｢特別部隊…？そんなものが出来てるんだ…｣
…知らないことだらけだなぁ
タマは…ダメだ
騎士団のところとか連れてっちゃダメだ
一瞬で腐る
｢しっかし驚いたな｡ストラグル家の令嬢が家を出て治癒師になるとはな｣
｢…カイン様だって冒険者してるくせに…｣
｢俺は冒険者じゃない｡隊長だ｡冒険者の仕事をしてるのは訓練のためだ｡あまり剣を振るわないでいると腕が鈍るからな｣
…訓練場でやれ
｢…肉を切る感覚に慣れた方がいいんだ｡実戦の時にその感覚が怖くて固まっては誰かを守ることも自らを守ることも出来ないからな｡俺ら騎士団員は国民を守るのが仕事だ｣
ほぇぇ…
｢…どうしようか｡ティアラリース嬢っていったら裏取引でかなりの金額で売れるらしいが…｣
｢公務員が裏のお金に手を出すなぁ!!｣
｢やらねぇよ｡…まぁ表でも捜索されてるからな｣
｢え…｣
｢お前何も連絡なしに出ただろ｡貴族が1人…しかも令嬢がいなくなったとなれば大騒ぎになる｡子爵や男爵でない限りな｡…ストラグルは伯爵だったか｡それでこの電報か…｣
お兄さんは1枚の紙を開いた｡
…マジか
留まってたら捕まるな…