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Day 3 あいつとララバイ ララバイってなんのこと?

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 ヤヨイ村に戻って、例のごとくユイの家に泊まらせてもらった、透と桜の二人は次の日、朝早くから慌ただしく、ナブラの街に向かう準備をしていた。

「透! これ難しいよ、ギアチェンジとかできないんですけどスクーターとかないの? パッソルとかタクトとか?」
「懐かしいな、オイ! いや凸凹な道しかないのにスクーター無理だろ、頑張って慣れろ、運動神経良いんだから!」

 二人は、バイクの練習をしていた。これから行くナブラまでは80キロ、歩いていくのも大変だからと透は、アリスにデュアルパーパスタイプのオートバイを出してもらっていた。CRF250は2000年代の最新バイクなのだが、桜にはモトクロスバイクとしかわかっていなかった。
 そんな桜だが持ち前の運動神経で午前中の間、ウイリーでジャンプができるほどになっていた。

「おい桜! おま変態か! 普通半日で乗れねーよ。教習所泣かせだな。」
「まあね! なんか楽しくなってきたわ。」
「まあ、これで半日もかからずつけるだろ。俺はユイを乗せるから、こいつで行くか。」

 そう言うと透は、400Xを出してもらう。

「あ、なんか大きい! ずるいな!」
「いやいや、あんたスクーターでいいていったよね!」

 そして、ユイ合流し、昼ごはんをいただくことになったのだが、ユイは二人のバイクに釘付けだった。

「なんです? これは何なんですか、乗り物ですか? 鉄の馬なのです?」

 もう興味津々である。

「まあまあ、ユイは、俺の後ろに乗ってくれな」

 そう言いながら昼食を頂いて、いざナブラへとエンジンをかける二人である。

「すごい音ですな、これは! さすがオカマチというところは進んでるんですなあ」
「これはこれで、燃料がなくなると動かない、ただの鉄の塊になっちゃうんで不便なんですけどね」

 ヤスケの話にそう答えながら透は桜とユイにスポーツゴーグルを手渡した。

「ヘルメットは周りが見にくくなるからなしで、目だけはこれで守ってくれ」
「わかったわ」
「はいです」

 二人は、ゴーグルを装着する。桜は耳にかけるタイプ、ユイはベルトがついているタイプだ。

「では行きますか!」

 二人はギアをニュートラルからローに落としクラッチを繋げる。スルスルとバイクは動き出した。

「ユイ、しっかりつかまってろよ!落ちるから!」
「はいです」

 ユイは、言われたとおり透の腰に廻した手に力を入れる。
 村の門を抜けると同時に、アクセルを開け、ギアを上げる。

「うひゃあああ、なのですーー!」

 急激な加速にユイが悲鳴を上げる。

「ユイちゃん! 大丈夫よ、透は、免許持ってるから」
「免許っていうのがわからないです。怖いです」
「まだ40キロぐらいだから大丈夫だよ。でも手は離すなよ」

 そう言いながら透は、平らに均されただけの林道を先頭になり走っていく。

『マスター、ユイちゃんをいじめないでくださいね! まだ小さいんですから』

「えー、いじめてないじゃん。走ってるだけじゃん。」

 理不尽な言いがかりに憤慨しながらバイクを走らせていく透であった。

 程なく1時間がたち。

「よし、休憩しよう。ユイ、この辺にいいところあるかい?」
「はいです、もう少しいくと泉があるです、キャラバンの人たちが休んでいるのです」
「んじゃそこで休むか」

 そう言うと二人は泉へと進路をとった。

 泉に着くと、二組のキャラバンが休んでいた。透たちも少し離れたところに、バイクを止めエンジンを切る。近づいて馬が暴れないように気を遣ったのだ。

「すごいです! もう半分なのです、馬車より全然早いのです」
「80キロぐらいならあっという間だな。まだまだ飛ばせるよ」

 興奮するユイとそんな話をしていると、物珍しさからかキャラバンの人たちが数人こちらによってきた。

 事前にアリスに頼んで作ってもらっていたペットボトルの水を飲んでいた桜は、斬鉄の鯉口を静かに切った。透はさも普通に、声をかける。

「こんにちは、何かありましたか?」
「いえ、珍しい乗り物だなと思いまして。なんですか?鉄でできているんですか?」
「さすが商人さんは違いますね。見た目怪しいのに好奇心が勝つとは」
「いや、面目ない」

 そして透は近くにいた商人の人たちと、これはオートバイと言って、透たちの街で開発された乗り物で、自分たちは作り方は知らないということとガソリンという燃料がないと走らないということを伝え、燃料がなければ持っていてもしょうがないということを教えた。

「そうですか、画期的なのに惜しいですね」「そうなんですよ。燃料がないんでラブラに行って戻ったら終わりですね。」
「え? これからラブラに行かれるのですか? やめたほうがいいですよ。我々はラブラから逃げてきたのです。ラブラの外壁の西側に魔力溜まりができて魔物が押し寄せているのです。スタンビート手前の状態です。」
「ああ、それを調査に行くんですよ。ギルドの依頼でね」
「冒険者のかたでしたか、気をつけてください。。とんでもない数ですから。」
「ありがとうございます。こちらも気を付けて行きますので。」

 そう言うとキャラバンの面々は自分たちの馬車に戻っていった。

「なんか相当やばい感じだな、早く見に行かないと」
「そうね。アリスちゃん、状況はどうなのかしら?」

『はい、魔力は700メートル程度まで圧縮され、徐々に周りの獣が暴れ出し始めている模様です。』

「いよいよもってまずいです。早く行って確かめないとです」

 そう言うと三人は水をバッグにしまい、バイクに跨る。すぐにエンジンをかけギアをローに落としスタートさせる、周りのキャラバンの人たちに挨拶代わりに手を振り、ラブラへと急ぐのであった。
 一時間ほどで、ラブラの外壁が見えるところまでやってくると、

『敵対生物です! 数15体 人間を追いかけているようです、前方1キロ、目視できます。』

 そうアリスから告げられると、目に砂煙のようなものが写った。

「こりゃ、偵察って訳にもいかないようだぜ」

 そう呟く透であった。

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