機械仕掛けの最終勇者

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第45章 不死公ガガ

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「……じゃあ、アルヴァーナって異世界を攻略したら、俺は日本に戻れるんだな?」
「そうよ。安心して」

 輝久の眼前。手元の書類を眺めながら、女神ティアが話す。

 ウユニ塩湖に似た幻想的な空間は、この世とあの世の狭間にあり『ヴァルハラ』と呼ばれるらしい。輝久は若くして不慮の事故で死んだが故に、最高神から恩赦を与えられた。つまり勇者となって異世界を救えば、元の世界に生き返ることが出来るとティアは言う。

「俺にスキルとかはあるのか?」
「言ったでしょ。私は光の女神。私に担当されるアナタは光の魔法が使えるようになるわ」

 ティアは輝久の疑問にすぐ答えてくれた。そればかりでなく、ティアは輝久が尋ねそうな疑問の答えを前もって言ってくれることすらあった。

「どうして勇者に女神が付いていくのか不思議に思うでしょう? 異世界の救済は人間主導で行うのが神界のルールなの。基本的に女神はサポートしか出来ないんだけど、それでもアナタを通じて私の力を具現化できるのよ」

 淡々と語るティアは少々事務的ではあったが、物事に説明や理由が欲しい輝久にとって、彼女の印象は悪くなかった。

「アルヴァーナに行ったら、まずは装備を揃えましょう。その後で仲間集めね。難度の低い異世界だからスポーン地点は何処でも良いけど……いきなり町中だと現地の人を驚かせちゃいそうだし――『ノクタン平原』、こういう場所が定石かしら」

 アルヴァーナの地図を広げ、ティアは考えながら喋っていた。見るからにティアはベテラン女神のようで、安心感があった。輝久はティアの提案に頷きつつ、少し気まずそうにその横顔を見る。

「ええっと、あの……何て呼んだら良い?」
「名前? ティアで良いわよ」
「ティアさん、か」
「呼び捨てで良いって。OK、テル?」
「あ、ああ」

 輝久のことを愛称で呼びつつ、ほんの僅かに口角を上げる。絵画のような美しい微笑に輝久の顔は熱くなった。

「どうしたの?」
「い、いや別に!」
「そう。なら行きましょうか。異世界アルヴァーナに」




 女神の力によって、ノクタン平原にスポーンした輝久とティアは、大木のそびえる小高い丘を下りて、ドレミノの町に向かう。

 道中、モンスターに出会うことはなく、辺りは平穏そのものだった。実際、もし仮にモンスターに遭遇したとしても、ティアいわくアルヴァーナは最低難度の異世界であり、命の危険は全く無いらしい。

 輝久はティアを信じて道を進み、難なくドレミノの町まで辿り着いた。

「……うわあ」

 中世の西洋風の町並に、輝久は目を奪われる。飾り気のない質素な服を着た老若男女が石畳の上を歩き、更に背後からは木製の馬車が駆けていく。ドレミノの町に着いて、より一層、輝久は自分が異世界に来たのだと実感した。

 歩みを止めた輝久をティアが窘める。

「テル。早く武器屋に行きましょう」
「っと。ごめん」
「チャッチャと攻略してパッパと帰りたいわ。テルだって、そう思うでしょ?」
「まぁね」

 早足で歩きながら武器屋の看板を見つけると、躊躇いもせずティアは中に入った。女性店員がティアに声を掛けてくる。

「綺麗な人だねえ! 何処かのお姫様かい?」

 ティアは肯定も否定もせず、微笑むと輝久に手を向ける。

「彼に装備を。お金は私が払います」
「お兄さんは見るからに新人冒険者だね! 良い武器、揃ってるよー!」

 ショートカットの茶髪に蝶の髪飾りを付けた、快活な女性だった。会釈した後、輝久は立てかけられている武器を見る。ひのきの棒に棍棒、銅の剣――素人の輝久の目からしても、弱そうな武器や防具が陳列されていた。

 輝久の落胆を見越したように、ティアが耳元で言う。

「アルヴァーナは難度Fの世界。生き死にの戦いになったりすることはないから、気楽に構えていれば良いの。適当に初期装備を揃えましょう」

 やや、やっつけ仕事な感じのするティアに言われるまま、輝久は銅の剣と皮の鎧を購入した。装備すると、陽気な女性店員がバンと輝久の背中を叩く。

「ふふ! 似合ってるよ!」
「ど、どうも」

 照れながら愛想笑いを輝久が返した、その時。不意に穏やかな雰囲気を壊すような金切り声が店外から聞こえた。それに続いて野太い男の叫び声も続く。

「何だ、今の声?」
「モンスターの襲来かしら」

 落ち着いた様子でティアは言った。

「え! 町の中でも敵が出るのかよ?」
「そりゃあ、そういうことだってあるでしょ。だとしても、どうせ弱っちい魔物よ。買った武器を試す良いチャンスじゃない」

 平然としたティアの様子と、最低難度の異世界だということを思い出して、輝久も肩の力を抜く。そして二人は外に出た。

 ……武器屋の外は、先程までの平穏な光景が嘘のようだった。石畳や、店々の軒先に、人々が血を流して倒れている。

「な、何か思ったより大変な感じだぞ?」

 一番近くで倒れている男性に近寄り――輝久は息を呑む。男性は体中が穴だらけになって激しく出血していた。ティアは跪いて男の首に手を当てると、神妙な顔で首を横に振る。

「死んでるわ。救世難度Fの世界で人が殺されたりするなんて……」
「ティア! アレ!」

 輝久が叫ぶ。輝久の視線の先、倒れた人の死体を踏みにじりながら、何者かが歩いてくる。

「ほほほ……見つけた。勇者に女神……」

 懐中時計のような物と輝久達を交互に見て、にやりと笑う。それは黒いドレスを着た背の高い女だった。ドレスと同じ色の、ぞろりとした長い髪が腰まで届いており、耳と唇にはピアスを付けている。黒い血が女の口から溢れて、地面にボタボタと落ちていた。

 なるべく平静を装いつつ、輝久はティアに尋ねる。

「て、敵だよな?」
「ええ。死臭が漂ってくる。アンデッド系ね」
「強そうな雰囲気はあるけど……」
「見かけ倒しよ。町の人達が殺されたのは驚いたけど……テルと私は異常に戦闘力が高いんでしょう。この世界ではね」
「ああ、なるほど。そういうことか」

 目前にいるのは町の人を容易に殺せる恐ろしいモンスター。だが、そのモンスターを軽く凌駕するステータスを勇者は既に持っている――無双系にありがちな異世界もののパターンだと、輝久はすぐに納得した。モンスターに町の人が殺されるという、思ったよりハードな世界観だったが、そういう展開なら安心だ。

 輝久とティアは数メートル先の女の動きを注視しつつ喋る。

「アンデッド系なら、火系の魔法が有効かな?」
「そうね。でも、もっと有効なのが、私の属性である光聖魔法よ。アンデッドに対して、火系魔法よりも効果が高いの」

 余裕の表情のティアを見て、輝久は大きく頷いた。最初のモンスターだけあって、光属性である自分達にとって格好の敵のようだ。案外、呆気なく勝負は付くかも知れない。

「テルが居た世界に無くて、この異世界にあるものが『魔力』よ。アルヴァーナに満ちている根源要素から光の要素を取り出して具現化できる……まぁ、難しい説明は抜きにして、実戦で学びましょう。敵に向けて手を伸ばし『ライト・ボール』と唱えてみて」
「こ、こうか? 『ライト・ボール』!」

 緊張しつつ、輝久は不気味な女に手を向けて、魔法を唱える。途端、輝久の掌から光の玉が出現。女に向けて射出されるや、胸元辺りに着弾した。ヒットの瞬間、眩い発光で周囲の景色が真っ白になる。

「ホントに出た! すっげえ!」

 そんな輝久の興奮と喜びは一瞬だった。攻撃を食らったのに、ニタリと笑ったまま屹立する女を見て、輝久は唖然とする。

「あれ? き、効いてない……?」
「緊張して外したんでしょ。最初だから仕方ないわよ」

 光の玉は女の胸部に直撃した――輝久は確かにそう思った。だが、目前の女は輝久の攻撃などまるで無かったかのように平然と、そして淡々と喋る。

「今日、私は機嫌が悪い。朝から髪のまとまりが悪くてね……」

 女は髪の毛を指でバリバリと掻いた。頭から黒い血が垂れ、髪の毛がぞろぞろと抜け落ちる。

「贄たる女神に贄たる勇者よ……地獄へ……ほほほ……ようこそ」

 弱い敵の筈――なのに輝久の心臓の鼓動は速くなる。敵の反撃に身構えるが、ティアは落ち着いた様子で輝久の隣で手を広げた。

「一応、念の為にサポートするわね。光聖魔法『ライト・ガード』!」

 途端、ティアの手から出た淡く暖かな光が輝久の全身を包む。自身の防御力が上がったことが不思議と実感できた。

「レベル23の光聖魔法よ。これで敵からダメージを受けることはない。安心して戦って」
「ありがとう、ティア!」

 すると、不気味な女は高らかに笑い声を上げた。

「ほほほほほほほ! そんな薄い魔法防御で耐えられるかしら?」

 そして女は人差し指をクイと上げる。輝久の周囲からボボボッと、くぐもった音が連続して聞こえた。

 次の瞬間、輝久は「え」と間の抜けた声を発してしまう。右手に構えていた筈の銅の剣が地面に落ちてしまっている。そして、剣の柄の部分には見慣れた何かが付いていた。

 それは――輝久の右手首だった。驚愕の為に忘れていた痛みが急速に輝久を襲う。

「あああああああ!? い、痛い、痛い、痛い!!」
「う、嘘……!! 攻撃がライト・ガードを突き破った!? しかも、」

 輝久には攻撃が全く視認できなかった。痛みと右手を失ったショックでパニック状態の輝久を、ティアが咄嗟に両手で押し飛ばす。

 再び、くぐもった音が響いた。ティアの肩越しから輝久が覗くと、先程まで立っていた地面に数個の穴が開いている。ティアが叫ぶ。

「攻撃は地中からよ!」
「ほほ……なかなか勘が良い。でも、分かったからと言って防ぎようがない」

 唇を長い舌でぺろりと舐める。ティアは苦しむ輝久の耳元、小声で言う。

「テル、目を瞑って!」

 そしてティアは右手を頭上にかざした。

「レベル35光聖魔法『ハルシネイション』!」

 途端、太陽のように眩い光がティアの右手から発生する。女が腕で目を覆う。

「目くらましか……小細工を……」
「一旦、退却よ! 建物に逃げ込みましょう!」

 ティアは輝久の左手を取って走る。外にいるのは危険と判断したのか、ティアは武器屋まで駆け戻ると中に飛び込んだ。

 輝久に武器を売ってくれた女性店員が、頭を下げるようにして椅子に腰掛けていた。陳列された武器の隣には道具棚があり、ティアはそこから包帯を手に取る。

「ごめん! お金は後で払うから!」

 ティアはそう語りかけた後、小さく唸って言葉を失った。輝久もティアの視線の先を窺う。女性店員は、頭半分が欠けた状態で絶命していた。

「こ、これじゃあ建物の中も、ヤベえってことじぇねえかよ!」
「くっ……!」

 激痛と恐怖でパニックの輝久を、ティアは武器屋の裏口から連れ出し、そのまま路地裏を走る。

「クソっ! 痛てえ! 腕が痛てえよ!」
「もう少しだけ我慢して!」

 何とか被害の無さそうな場所まで辿り着くと、ティアは走るのを止めた。そして、周囲を窺い、二人で物陰に潜んだ。とりあえずの安全を確保すると、ティアは光聖魔法を輝久の腕の切断面に施す。回復魔法ではないが、光の熱で止血するようだ。

 輝久は、皮膚を焼く痛みに歯を食い縛って耐える。その後、ティアは包帯を輝久の腕に巻いた。

 手当てされた感謝より、怒りの方が遥かに勝って、輝久はティアに叫ぶ。

「どうなってんだよ! 言ってた話と違うだろ!」
「わ、分からない! いきなりあんな強い敵と出くわすなんてありえない! あれじゃあ少なく見積もっても、難度Aクラスのモンスターだわ!」

 冷静だったティアは大きく息を乱していた。しかし輝久に叫んでから、ハッと気付いたように首を軽く振る。

「落ち着きましょう。敵の地中からの攻撃は、おそらく闇魔法。自身の体液を地面に落としてたでしょう? あれを魔弾に変化させて攻撃しているんだわ」
「魔弾……?」
「そうよ。けど、そんな高度な魔法を使えるモンスターがいるなんて、来る異世界を間違ったとしか思えない。神界に連絡するわ」

 ティアが人差し指を立てると、ポウッと淡い光が指先に宿った。そのままティアは地面に魔方陣を描こうとする。だが、魔方陣の幾何学模様は、描いた傍から消えていった。

「魔方陣が描けない!? どうして!?」
「て、ティア!」

 輝久が怯えた声で叫ぶ。細い路地の先に、不気味な女が笑みを浮かべて立っている。そして、古い懐中時計のようなアイテムを輝久達に向けて見せた。

「ほほほほほ。逃げても無駄よ。アナタ達のおおよその位置は掴めるもの……」

 ティアがごくりと生唾を飲む音が聞こえた。

「な、何者なの?」
「戴天王界……覇王……不死公ガガ……」

 輝久は意味が分からず、ティアの様子を窺う。

「覇王? もしかして、この世界の魔王ってことか?」
「さぁね。けど、間違いなくこれはイレギュラー! なら私も本気を出す!」

 ティアは輝久の背中に手を当てる。ティアの全身が眩く輝く。輝久にはティアがまるで光の化身となったように思えた。眩い光はティアの体を離れ、輝久の体を覆っている。

「こ、これは?」
「女神の力を勇者の力と掛け合わす――秘儀『人神一体』よ! 本来は難度Fの世界で使うものなんかじゃないし、そうでなくてもテルのレベルがもっと上がってから習得するものだけどね。でもこの状況じゃあ、チートだって許されるでしょ」

 ティアは輝久の背中に手を当てたまま、言う。

「さぁ、狙いを定めて!」

 輝久は左掌をガガに向ける。今、凄まじい光が輝久の左手に収束していた。ティアが背後から叫ぶ。

「消え去りなさい! レベル77光聖魔法『ハイアー・ライトマジック』!」

 輝久の左手から発せられた光線は、避けようともしないガガを直撃した。着弾の刹那、ガガのドレスが切り裂かれたように弾け飛び、発生したあまりの光量に輝久は目を細めた。

「ハイアー・ライトマジックは難度Bクラスの魔王だって、滅ぼすことが出来るんだから」

 自信ありげに背後から囁くティア。徐々に、光で眩んだ輝久の視界が戻る。

 輝久の眼前には、頭部が消失し、片足片腕となったガガがいた。大ダメージを与えたと、輝久達が歓喜したのはほんの僅かな時間。瞬く間に、ガガの首から這い出た蛆のような生物が頭部を再形成。無くした腕と足も同じように再生する。

「な……!?」

 絶句するティア。ガガが嗤う。

「ほほほ……何者も絶対に……私を殺すことは出来ない……」

 輝久の足は震え、自然とガガから後ずさった。

「あ、あんな状態から、さ、再生するなんて!」
「いえ、ダメージはあるわ! 腹部は再生出来ていない!」

 ティアの言った通り、ガガの腹は割かれたままで内臓が飛び出していた。だが、ガガのハラワタは蛇のように蠢いている。輝久の声が震える。

「ち、違う、ティア……! アレは……!」
「私の体液を攻撃に変換する遠隔魔神具『黒流魔弾』。そして、ほほほほほ……これが、近接魔神具『鏖の臓鎖』」

 意志を持つ蛇の如き臓物が、ガガの腹部から拡散するように広がった。くねくねと蠢く、粘液塗れの不気味な武器。その先端はいつしか鋭く尖っている。

「ひっ……!」

 怯える輝久の前にティアが立ち塞がった。

「もう、規則違反でも何でも良い! 私が戦うわ!」
「で、でも武器が!」

 武器屋で買った銅の剣は置いてきてしまった。だが、ティアは右拳を胸の前に伸ばす。

「レベル70光聖魔法『ライト・ソード』!」

 何も無かったティアの右拳から、左右に棒状の光が伸長する。無から光の剣を創造したティアは、襲い掛かる触手のようなガガの腸をひらりひらりと躱す。

 輝久はティアの動体視力と敏捷性に驚いていた。そして、タイミングを見切ったように、伸びきった一本の腸を、ティアは光の剣で切り落とした。

「やった!」

 輝久が歓喜の声を上げる。ティアは返す刀で、更に別の腸も切り落とす。ティアの攻撃に恐れをなしたように残りの腸は攻撃を止めて、ガガの腹部に戻った。

 ティアも輝久も、ガガの攻撃を凌いだと思った。だが、先程切り落とした腸の先端が意志を持っているかの如く、地面の上を素早く動き、ティアの足元に近付く。尖っていた先端がパカリと開くと、そこに無数の針の牙が並んでいる。

「ほほほほ! 『噛殺』!」

 腸の先端は、ガガの動向を注視していたティアの足首に食らいついた。

「うっ!?」

 ティアが叫んで、バランスを崩す。大蛇に噛まれたように、ティアの足首が簡単に噛み砕かれる。足から血を流して倒れるティアに、もう一つの腸の先端が忍び寄る。

「何よ……何なのよ、コレ……!」

 光の剣で切り裂くよりも速く、それはティアの腰を伝って首に到達する。

 ティアが輝久を一瞥する。その顔は絶望で満ちていた。

「テル……逃げて……! このモンスター……難度Sクラス……いえ……それ以上、」

 ティアの言葉は途中で終わる。話している途中、ティアの首が、ばくんと食いちぎられたからだ。ごとりとティアの首が落ち、噴水のような鮮血が周囲を真っ赤に染めた。

「う……うわああああああああああ!!」

 輝久は絶叫して、駆け出した。ティアに、逃げてと言われたからではない。恐怖と絶望に心を支配されて、輝久は本能的に無我夢中で走った。

「……また逃げるのね」

 ガガの声が聞こえた。逃げながら、輝久はちらりと背後を振り返る。ガガが黒い血に塗れた心臓を手に持っているのが見えた。

「追いかけっこは飽きた……この町ごと消えなさい……」

 一目散に走りながら、ふと、輝久は空が真っ赤に染まっていることに気付く。

 もう一度、背後を窺う。遠くに見えるガガの頭上――心臓が中空に浮遊して、血のような深紅の光を放っていた。

「ほほほほほ……爆殺魔神具『炎魔の心核』!」

 心臓がカッと空で爆裂した。想像も付かない熱量が小さな心臓から拡散する。

 それはまるで近代の大量破壊兵器。深紅の光が周囲の建物を包むと、爆弾が投下されたかのように、周囲の建造物は一瞬で粉々になった。

「こ、こんな……! ムチャクチャだ……!」

 とにかく一歩でも多くこの場から離れなければ、と輝久は必死で走っていた。なのに、いつしか上手く走れない。

 輝久は自分の体の異変に気付く。ガガの周囲の建物群だけではない。自分の指が、足の皮膚が、こそげ落ちている。見る見るうちに、肉が飛び散り、血液が蒸発し、骨となり、更にはその骨すら粉々になって――輝久の全身は消し飛んでいった。
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