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第六章 俺が守る その二
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『アニマコンシャスネス・アーカイブアクセス。分析を開始します』
赤く光る数字の羅列が、ジエンド眼部の遮光シールドを右から左へ流れる。
『13……507……743……4893……6930……9549……11857……22857……38938……41121……54393……66660』
かろうじて輝久が視認出来たのはこれだけであった。流れていった数字は、心なしかガガやボルベゾと戦った時より多いように輝久は感じた。
胸の女神のレリーフが、感情の欠落した声を発する。
『リミッターブレイク・インフィニティ』
ジエンドから発散された衝撃波が、空気を震わせ、地面を罅割れさせる。観客席に座っていた人々が「何だ、何だ?」と、ジエンドとサムルトーザのいる受付付近を眺めた。
(ジエンド。最初っから全力って訳か)
胸の女神もまた、サムルトーザが格上の存在だと認識しているに違いない。サムルトーザが、にやりと口元を邪悪に歪めた。
「仲間を守るとか抜かしやがったな? だったら守ってみろよ……」
サムルトーザが背の剣に手を掛ける。鞘から抜いた途端、強烈な風が発生して、遠巻きに眺めている者達の髪を揺らす。
サムルトーザは剣を地面に突き立てる。突き刺された剣の両サイドに、同じ剣が出現し、そのまた隣にも――。瞬く間に出現した無数の剣がサムルトーザを囲った。
「おっ! 大会が始まるみたいだぞ!」
「待ってました!」
魔術か奇術だと勘違いした観客席から、歓声と拍手が巻き起こる。サムルトーザが嗤いながら叫ぶ。
「邪技の壱!『飛追』!」
ふわり、と全ての剣が宙に浮いた。
「……逃げろ」
輝久は呻くように言う。朧気な悪夢の一場面が鮮烈に蘇った。輝久は観客席に向けて大声で叫ぶ。
「全体攻撃だ! 皆、今すぐ此処から離れろ!」
「ひはは! もう遅せえ! てめえも、仲間も! 此処にいる全てのクソカス共も! まとめて死んじまえよ!」
サムルトーザの言葉に呼応するかの如く、中空まで浮遊した無数の剣が観客席に降り注ぐ。
「け、剣が……」
「降ってくる……?」
「うわあああああああああああ!!」
絶叫する観客達。だが、その刹那、ジエンドの背中から機械音。筒状の突起が十数基、出現する。
『グレイテストライト・オールレンジ――ファイア』
胸の女神の声と同時にジエンドの後背部から、幾条もの光線が闘技場の空に射出された。
既にサムルトーザの放った剣は人々の頭上に迫っていた。輝久の視線の先、一人の女性を狙って剣が飛翔する。女性の頭部まで、あわや1メートルの所で、しかし、ジエンドの光線が迎撃。剣は音を立ててバラバラに粉砕された。
一本の剣を破壊した後も光線は威力が衰えない。軌道を変えて、そのまま数メートル先で浮遊する剣に向かい、それも粉砕する。
ジエンドの放った光線は、飛追による剣の飛翔速度を大幅に上回っていた。意志を持っているかのようなサムルトーザの剣は、光線から逃れようとして軌道を変えるが、それすら追尾してガラス細工のように簡単に打ち砕いていく。
「すげえ……!」
数百はあろうかという剣の破壊を目の当たりにして、輝久は思わず感嘆の声を漏らした。ガガ戦で初めて使用した技だったが、むしろ今日この時の為に編み出されたかのような――そんな気さえした。
しかも、ジエンドの攻撃は輝久の思惑を超えていた。全ての剣をほぼ同時に破壊した後、光線は一斉に軌道を変えてサムルトーザに向かう。まるで、発射から破壊までの時間が緻密に計算されていたかのように。
興奮と歓喜の入り交じったクローゼの声が、輝久の耳朶を打つ。
「行けえっ! そのまま蜂の巣にしちまえ!」
サムルトーザの四方をぐるりと囲み、迫る光線。だが、サムルトーザは背から、まだら色の剣を抜くと、全身を捻って回転しつつ、唸り声を上げる不気味な剣を振るった。全方位から迫っていた光線が忽然と消失する。
「ぜ、全部、消されてしまいましたです!」
ネィムが叫ぶ。サムルトーザは、平然とまだら色の剣を背の鞘に収める。
「魔剣ゼフュロイを全て破壊し、そのまま攻撃に転ずる――か。ちったぁ褒めてやるぜ」
まるでダメージのないサムルトーザを注視しつつ、輝久は仲間達に叫ぶ。
「ユアン、クローゼ、ネィム! 今のうちに観客を避難させてくれ!」
ユアンが頷き、クローゼもネィムと一緒に観客席に向かう。クローゼが、まだ現状が把握できていない観客に大声で叫ぶ。
「お前ら何、ボーッとしてんだよ! ありゃあ演技じゃねえ! アイツは本気でアタシらを殺すつもりだ!」
「皆、すぐに此処から逃げるんだ!」
町の顔である兄妹の警告を聞いて、観客達は闘技場から我先にと駆け出した。
「急いでくださいです! でも押さず慌てず、ゆっくりお願いしますです!」
すり鉢状の観覧席から、人々が東西にある二つの出口に向かって走って行く様子を眺めながら、輝久は小さく頷く。
「よし! 大方、脱出できたな!」
「そうか? まだ残ってんぞ? カスが三匹ほど」
サムルトーザの視線の先を追って、輝久は歯噛みする。
「お前……!」
「ひひはは! 勇者は守る者が多くて大変だな!」
サムルトーザが、ドッと音を立てて地を蹴った。凄まじい速度で輝久のパーティに迫りつつ、腰から双剣を抜く。
真っ先に狙われたのは、サムルトーザから一番距離の近い場所にいたネィムだった。サムルトーザが左手に持った細身の剣を大きく引く。
「邪技の弐!『破戒』!」
「ネィム!!」
叫ぶと同時に、輝久の視界が歪んだ。「へ?」と輝久が思った瞬間、自分の目前にサムルトーザが迫っている。更に、輝久の背後には怯えるネィム。
(お、俺、どうやって一瞬で距離を詰めたの!? いや、それはまぁ良いとして――)
「勇者様ぁっ!!」
今度はネィムが叫ぶ。細身の剣から繰り出される、目にも留まらぬ刺突がジエンドを襲う。金属と金属がかち合うような音が連続して闘技場に木霊した。
「バカが! 破戒の刺突、全て受けとめやがった!」
サムルトーザは、体中から煙を出すジエンドを見下ろして嘲笑った。ジエンドの全身には刺突による複数の罅割れが生じており、その部分がバチバチとショートするように爆ぜている。
「うぐ……」
輝久は唸る。痛みは感じないが、明らかにジエンドがダメージを負っていると分かる。自然と跪くような体勢となったジエンドに、ネィムが淡い光の宿った両手をかざす。
「今、治しますです!」
「ひははは! 邪技の弐は回復不能の刺突! 喰らっちまえば、それで終いだ!」
「そ、そんな……!」
ネィムが絶句する。体中の罅から煙を出し続けるジエンドとネィムの元に、クローゼとユアンが駆けつける。
サムルトーザは、輝久のパーティを見て、楽しそうに顔を歪めた。
「勇者ってえのは哀れだな! 背負い込んだ荷物のせいで、実力が発揮出来ねえ!」
「ぐっ!」と唸って大剣に手を伸ばすクローゼが、輝久の視界に入る。
「やめろ! 俺が守るって言ったろ!」
輝久が叫ぶと、ビクッと体を震わせて、クローゼは動きを止めた。バチバチと体をショートさせながら、輝久はサムルトーザを見上げて言う。
「覇王ってのは……こんな姑息な奴ばっかなのかよ……?」
「俺ァ、強さなんぞに興味はねえ。てめえの哀れな顔が拝めりゃあそれで良いんだ」
そして、サムルトーザは右手に持った黒い刀身の剣を後方に引いた。
「壊れていく様をじっくり楽しみてえが、てめえは覇王を二体殺してやがる。このまま確実に息の根を止めておく」
ジエンドは膝を突いたまま、サムルトーザの攻撃に対して、罅の入った右手をかざす。ジエンドの右掌から盾のような大きさの魔方陣が出現した。
「そんな魔法障壁で防げやしねえよ!」
サムルトーザは躊躇無く、黒き剣を魔方陣に突き立てた。瞬間、ジエンドの展開した魔方陣はドット化して雲散霧消する。
「砕け散れ! 邪技の惨『必絶殺』!」
魔方陣を砕いた黒き剣が、そのままジエンドの胸を貫通する。胸部と後背部から激しく火花が散ると同時に、ジエンドの体がドット化し、輝久は今にも全身が弾け飛んでしまいそうな感覚を味わう。
(こ、これは流石にマズい……!)
「テル!! 大丈夫!?」
「な、何も見えねえっ!!」
(え……?)
そんなユアンとクローゼの叫び声が聞こえて、輝久は周囲を窺う。いつしかジエンドの周りは白煙に包まれていた。仲間は勿論、サムルトーザの姿さえ見えぬ程の煙が辺りに立ちこめている。
輝久はその出所に気付く。破戒の刺突によって全身に出来た罅から、白煙が噴出していた。煙はジエンドを包むように濛々と広がり、輝久の視界をも遮っている。
あまりの煙に、輝久は攻撃されたことすら忘れて狼狽えた。やがて……煙が晴れる。
最初、輝久の視界に映ったのは、対面にいるサムルトーザだった。先程まで勝利を確信していたサムルトーザの顔は、不可解に満ちた表情へと変わっている。
「き、傷が全て治っていますです!」
歓喜に満ちたネィムの声が聞こえて、輝久はジエンドの体を窺う。まるで、邪技を喰らう前に時が戻ったかのように、ジエンドの鏡面ボディには傷一つない。
太陽光に美しく照らされた胸部の女神が囁くように言う。
『観測者不在に於いて揺蕩う真実……』
女神の言葉の後を追うように、輝久の口が自然と開かれ――。
「マキシマムライト・デコヒーレンス!」
いつものように、言ったことのない技の名前を叫んでしまう。
こめかみをヒクつかせながら、サムルトーザが輝久に問いかける。
「回復不能の刺突と、必死の斬撃を喰らってどうして生きてやがる……?」
「さぁね。でも、そんなに興味ないかな」
「あぁ?」
「お前は強さに興味ないんだろ? 俺だって、仲間を守れるなら何だって良いんだ」
赤く光る数字の羅列が、ジエンド眼部の遮光シールドを右から左へ流れる。
『13……507……743……4893……6930……9549……11857……22857……38938……41121……54393……66660』
かろうじて輝久が視認出来たのはこれだけであった。流れていった数字は、心なしかガガやボルベゾと戦った時より多いように輝久は感じた。
胸の女神のレリーフが、感情の欠落した声を発する。
『リミッターブレイク・インフィニティ』
ジエンドから発散された衝撃波が、空気を震わせ、地面を罅割れさせる。観客席に座っていた人々が「何だ、何だ?」と、ジエンドとサムルトーザのいる受付付近を眺めた。
(ジエンド。最初っから全力って訳か)
胸の女神もまた、サムルトーザが格上の存在だと認識しているに違いない。サムルトーザが、にやりと口元を邪悪に歪めた。
「仲間を守るとか抜かしやがったな? だったら守ってみろよ……」
サムルトーザが背の剣に手を掛ける。鞘から抜いた途端、強烈な風が発生して、遠巻きに眺めている者達の髪を揺らす。
サムルトーザは剣を地面に突き立てる。突き刺された剣の両サイドに、同じ剣が出現し、そのまた隣にも――。瞬く間に出現した無数の剣がサムルトーザを囲った。
「おっ! 大会が始まるみたいだぞ!」
「待ってました!」
魔術か奇術だと勘違いした観客席から、歓声と拍手が巻き起こる。サムルトーザが嗤いながら叫ぶ。
「邪技の壱!『飛追』!」
ふわり、と全ての剣が宙に浮いた。
「……逃げろ」
輝久は呻くように言う。朧気な悪夢の一場面が鮮烈に蘇った。輝久は観客席に向けて大声で叫ぶ。
「全体攻撃だ! 皆、今すぐ此処から離れろ!」
「ひはは! もう遅せえ! てめえも、仲間も! 此処にいる全てのクソカス共も! まとめて死んじまえよ!」
サムルトーザの言葉に呼応するかの如く、中空まで浮遊した無数の剣が観客席に降り注ぐ。
「け、剣が……」
「降ってくる……?」
「うわあああああああああああ!!」
絶叫する観客達。だが、その刹那、ジエンドの背中から機械音。筒状の突起が十数基、出現する。
『グレイテストライト・オールレンジ――ファイア』
胸の女神の声と同時にジエンドの後背部から、幾条もの光線が闘技場の空に射出された。
既にサムルトーザの放った剣は人々の頭上に迫っていた。輝久の視線の先、一人の女性を狙って剣が飛翔する。女性の頭部まで、あわや1メートルの所で、しかし、ジエンドの光線が迎撃。剣は音を立ててバラバラに粉砕された。
一本の剣を破壊した後も光線は威力が衰えない。軌道を変えて、そのまま数メートル先で浮遊する剣に向かい、それも粉砕する。
ジエンドの放った光線は、飛追による剣の飛翔速度を大幅に上回っていた。意志を持っているかのようなサムルトーザの剣は、光線から逃れようとして軌道を変えるが、それすら追尾してガラス細工のように簡単に打ち砕いていく。
「すげえ……!」
数百はあろうかという剣の破壊を目の当たりにして、輝久は思わず感嘆の声を漏らした。ガガ戦で初めて使用した技だったが、むしろ今日この時の為に編み出されたかのような――そんな気さえした。
しかも、ジエンドの攻撃は輝久の思惑を超えていた。全ての剣をほぼ同時に破壊した後、光線は一斉に軌道を変えてサムルトーザに向かう。まるで、発射から破壊までの時間が緻密に計算されていたかのように。
興奮と歓喜の入り交じったクローゼの声が、輝久の耳朶を打つ。
「行けえっ! そのまま蜂の巣にしちまえ!」
サムルトーザの四方をぐるりと囲み、迫る光線。だが、サムルトーザは背から、まだら色の剣を抜くと、全身を捻って回転しつつ、唸り声を上げる不気味な剣を振るった。全方位から迫っていた光線が忽然と消失する。
「ぜ、全部、消されてしまいましたです!」
ネィムが叫ぶ。サムルトーザは、平然とまだら色の剣を背の鞘に収める。
「魔剣ゼフュロイを全て破壊し、そのまま攻撃に転ずる――か。ちったぁ褒めてやるぜ」
まるでダメージのないサムルトーザを注視しつつ、輝久は仲間達に叫ぶ。
「ユアン、クローゼ、ネィム! 今のうちに観客を避難させてくれ!」
ユアンが頷き、クローゼもネィムと一緒に観客席に向かう。クローゼが、まだ現状が把握できていない観客に大声で叫ぶ。
「お前ら何、ボーッとしてんだよ! ありゃあ演技じゃねえ! アイツは本気でアタシらを殺すつもりだ!」
「皆、すぐに此処から逃げるんだ!」
町の顔である兄妹の警告を聞いて、観客達は闘技場から我先にと駆け出した。
「急いでくださいです! でも押さず慌てず、ゆっくりお願いしますです!」
すり鉢状の観覧席から、人々が東西にある二つの出口に向かって走って行く様子を眺めながら、輝久は小さく頷く。
「よし! 大方、脱出できたな!」
「そうか? まだ残ってんぞ? カスが三匹ほど」
サムルトーザの視線の先を追って、輝久は歯噛みする。
「お前……!」
「ひひはは! 勇者は守る者が多くて大変だな!」
サムルトーザが、ドッと音を立てて地を蹴った。凄まじい速度で輝久のパーティに迫りつつ、腰から双剣を抜く。
真っ先に狙われたのは、サムルトーザから一番距離の近い場所にいたネィムだった。サムルトーザが左手に持った細身の剣を大きく引く。
「邪技の弐!『破戒』!」
「ネィム!!」
叫ぶと同時に、輝久の視界が歪んだ。「へ?」と輝久が思った瞬間、自分の目前にサムルトーザが迫っている。更に、輝久の背後には怯えるネィム。
(お、俺、どうやって一瞬で距離を詰めたの!? いや、それはまぁ良いとして――)
「勇者様ぁっ!!」
今度はネィムが叫ぶ。細身の剣から繰り出される、目にも留まらぬ刺突がジエンドを襲う。金属と金属がかち合うような音が連続して闘技場に木霊した。
「バカが! 破戒の刺突、全て受けとめやがった!」
サムルトーザは、体中から煙を出すジエンドを見下ろして嘲笑った。ジエンドの全身には刺突による複数の罅割れが生じており、その部分がバチバチとショートするように爆ぜている。
「うぐ……」
輝久は唸る。痛みは感じないが、明らかにジエンドがダメージを負っていると分かる。自然と跪くような体勢となったジエンドに、ネィムが淡い光の宿った両手をかざす。
「今、治しますです!」
「ひははは! 邪技の弐は回復不能の刺突! 喰らっちまえば、それで終いだ!」
「そ、そんな……!」
ネィムが絶句する。体中の罅から煙を出し続けるジエンドとネィムの元に、クローゼとユアンが駆けつける。
サムルトーザは、輝久のパーティを見て、楽しそうに顔を歪めた。
「勇者ってえのは哀れだな! 背負い込んだ荷物のせいで、実力が発揮出来ねえ!」
「ぐっ!」と唸って大剣に手を伸ばすクローゼが、輝久の視界に入る。
「やめろ! 俺が守るって言ったろ!」
輝久が叫ぶと、ビクッと体を震わせて、クローゼは動きを止めた。バチバチと体をショートさせながら、輝久はサムルトーザを見上げて言う。
「覇王ってのは……こんな姑息な奴ばっかなのかよ……?」
「俺ァ、強さなんぞに興味はねえ。てめえの哀れな顔が拝めりゃあそれで良いんだ」
そして、サムルトーザは右手に持った黒い刀身の剣を後方に引いた。
「壊れていく様をじっくり楽しみてえが、てめえは覇王を二体殺してやがる。このまま確実に息の根を止めておく」
ジエンドは膝を突いたまま、サムルトーザの攻撃に対して、罅の入った右手をかざす。ジエンドの右掌から盾のような大きさの魔方陣が出現した。
「そんな魔法障壁で防げやしねえよ!」
サムルトーザは躊躇無く、黒き剣を魔方陣に突き立てた。瞬間、ジエンドの展開した魔方陣はドット化して雲散霧消する。
「砕け散れ! 邪技の惨『必絶殺』!」
魔方陣を砕いた黒き剣が、そのままジエンドの胸を貫通する。胸部と後背部から激しく火花が散ると同時に、ジエンドの体がドット化し、輝久は今にも全身が弾け飛んでしまいそうな感覚を味わう。
(こ、これは流石にマズい……!)
「テル!! 大丈夫!?」
「な、何も見えねえっ!!」
(え……?)
そんなユアンとクローゼの叫び声が聞こえて、輝久は周囲を窺う。いつしかジエンドの周りは白煙に包まれていた。仲間は勿論、サムルトーザの姿さえ見えぬ程の煙が辺りに立ちこめている。
輝久はその出所に気付く。破戒の刺突によって全身に出来た罅から、白煙が噴出していた。煙はジエンドを包むように濛々と広がり、輝久の視界をも遮っている。
あまりの煙に、輝久は攻撃されたことすら忘れて狼狽えた。やがて……煙が晴れる。
最初、輝久の視界に映ったのは、対面にいるサムルトーザだった。先程まで勝利を確信していたサムルトーザの顔は、不可解に満ちた表情へと変わっている。
「き、傷が全て治っていますです!」
歓喜に満ちたネィムの声が聞こえて、輝久はジエンドの体を窺う。まるで、邪技を喰らう前に時が戻ったかのように、ジエンドの鏡面ボディには傷一つない。
太陽光に美しく照らされた胸部の女神が囁くように言う。
『観測者不在に於いて揺蕩う真実……』
女神の言葉の後を追うように、輝久の口が自然と開かれ――。
「マキシマムライト・デコヒーレンス!」
いつものように、言ったことのない技の名前を叫んでしまう。
こめかみをヒクつかせながら、サムルトーザが輝久に問いかける。
「回復不能の刺突と、必死の斬撃を喰らってどうして生きてやがる……?」
「さぁね。でも、そんなに興味ないかな」
「あぁ?」
「お前は強さに興味ないんだろ? 俺だって、仲間を守れるなら何だって良いんだ」
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