それは麻薬のような愛だった

春夏冬

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一章

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いわゆる、セフレというやつなのだろう。


高校に入り、初のブレザーに身を包みながら雫はぼんやりと思った。

はっきりと伊澄から明言された訳ではない。だが、いつも伊澄から求められるのは交際相手の居ない時だった。

彼女がいる間は関わることなく、別れたら連絡がきて身体を重ね、また新しい彼女ができると一切の接点が失われる。


県内屈指の学力を誇る高校に入学しても、伊澄のモテっぷりは相変わらずだった。

黙っているだけで簡単に人が群がり、入学して以降にできた彼女の数は2年の中頃には雫が知る限りでも両手の指では足らなくなっていた。それも毎度、伊澄からではなく女生徒の方から告白をするというのだから、脱帽である。

雫の立場も変わらない。相変わらず誰からも気にかけられる事のない影の薄い存在で、部活も趣味が高じて手芸部を選ぶなどここに来て地味を極めている。

ただ周りと違うといえば、学内屈指のモテ男である伊澄の幼馴染であり、彼の暇つぶしの相手であるという事くらいだ。


性欲処理の道具として扱われているなという感覚はあった。けれど月日を重ねるにつれ、次第に雫の感覚も麻痺していった。

昨日体を重ねたのに、翌日になると何事もなかったように隣に彼女を連れて歩く伊澄の姿を何度も目にしていくうち、いつしか「ああ、またか」と、当たり前のように受け入れるようになってしまっていた。



いつのまにか高校生活も2年目が半分以上過ぎ、季節は冬。

冬休みを目前に期末テストを無事に終えたクラスの面々は、クリスマス前という事もあって浮き足立っていた。

「伊澄~!うちらこの後打ち上げにカラオケ行くんだけど、伊澄も来ない?」

2年で文理に別れ、伊澄と同じクラスとなった雫は、教材を片付けながら離れた場所にいるのに勝手に聞こえてくる声につい反応してしまった。

そっと視線を向けると、スカートの長さを限界まで短くした他クラスの女生徒が、わざわざ伊澄を呼びにクラスまでやってきていた。

「行かね。眠ィ」

「え~行こうよ!伊澄がいないとつまんない!」

猫撫で声を発するキラキラ女子を足蹴にしながら、伊澄は懐に手を入れ椅子に体を預ける。

あからさまに鬱陶しがられているにも関わらず、胸元のボタンをギリギリまで開いた女生徒は身を乗り出しながらぴょんぴょんと跳ね、なおも食らいついている。

それを見ながら、雫は本当に眠そうだなと他人事のように思っていた。

来年度には受験を控え、選抜クラス入りがほぼ確定している伊澄は毎度成績は上位から落ちたことはない。

そんな伊澄でもテスト前はきちんと勉強をしているのか眠そうにしているが、今回はまた一段と気怠気な雰囲気を放っている。


「ったく煩えな。気が向いたら行くから他の奴らにもそう言っとけ」

「!分かった!絶対に来てよ!」

そう言って溌剌と出ていく女生徒を見送る。そして入れ替わりに、今度は制服を規定通りに着用した女子生徒が入ってきた。

「あ、いたいた。雫!」

彼女はこちらに真っ直ぐに向かってくると、目の前に立ち紙袋を机に置く。

「まだ残ってて良かった。今作ってるやつなんだけど、模様の付け方が分からなくて、教えて欲しいの」

「部活の課題のやつ?」

「ううん。彼氏のプレゼントの方。クリスマスまでもうあんまり日にちが無いでしょ?ようやくテストが終わったから一気に進めたいのに、行き詰まっちゃって」

そう言って彼女は編みかけである手袋とかぎ針を出してくる。スマホを取り出し動画を再生しながら「ここがよく分からなくて……」と画面を指差す。

雫はスマホを借りて少しだけ見ると、おそらくこういうことだろうとかぎ針を毛糸に挿して説明した。それにつれ眉を下げていた少女の顔が晴れ、「なるほど!」と嬉々とした声を上げる。

「さっすが雫!ありがとう!これで進められそうだよ。正直、先輩達に聞くより雫に聞いた方がわかりやすいんだよねぇ」

「まあ手芸部っていっても同好会みたいなものだしね。クリスマスまで頑張って」

「うん。そういえば雫もなんか課題ですごいの作ってなかったっけ?」

「そんな大層なものじゃないよ。ただのセーターだから」

小学生の頃からビーズや編み物といった細かい作業が好きだった雫の腕前は長年の積み重ねにより上級者と呼んでも過言でないものになっており、こうして部活でもそれなりに重宝されている。

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