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1 聖女開眼
18 「父」との食事
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「お綺麗ですよ、お嬢様」
侍女のマーシャさんが、少し弾んだ声で褒めてくれる。
不安でいっぱいの私とは対照的に、マーシャさんは嬉しそう。
きっと、やっと父と話せることを喜んでくれてるんだよね。
今から「父」との初めて夕食を一緒にとるため、屋敷へ行くのだ。
新しく誂えてもらった水色のワンピースを着た私は、前回の貫頭衣のようなワンピースを着ていた私とはまるで別人に見えた。
プラチナブロンドの髪も整えられ、ハーフアップをワンピースと同色のリボンでまとめている。
綺麗にしてもらえて、嬉しいような不安なような。
でもやっぱり女の子として気分が上がる。
屋敷に着くと、ダイニングルームに案内された。
メインじゃなくて、家族用の小さなダイニングルームがあるんだって。
少しこじんまりしたその部屋に通されて、しばらくすると、すぐに「父」が入ってきた。
立ち上がって迎える私を見ると「父」は目を軽く見開いた。
一瞬、彼の中の何かが動いたのがわかった。
ただ、それが何かを見定められないほどの、微かな動きだったけれども。
「こんばんは。お招きいただきまして、ありがとうございます。男爵様」
私が挨拶すると、「父」は微かに頷いた。
食事が始まると、お互いにぎこちないながらも、ポツポツと会話が始まった。
「だいぶ、生活には慣れたか?」
「お陰様で。皆さんによくしていただいています」
「そうか」
「‥‥‥」
微妙に会話が続かない。
「まだ、小屋で生活したいのか」
「‥‥‥そうですね、もう少し」
「そうか」
「‥‥‥」
く、空気が‥‥‥
「父」は気まずい空気の中、それを気にも留めずに淡々と話を進める。
「あと3年経ち13歳になったら貴族の子弟が通う学園に入学することになる。それまでに、家庭教師について学びなさい。お前の義弟にあたるセオドアと一緒に受ける授業もあるだろう。これから忙しくなると思いなさい」
「はい‥‥‥」
やっと、自分の年齢がわかった。10歳だったんだ。
まだ色々と思い出せていないことが沢山あるけど、最近過去を思い出す機会もほとんどなくなっていて、ちょっと不安になっていたんだよね。
貼り付けた笑顔が固まってしまう前にやっと気まずい夕食が終わった。
もう、ワンプレートでお願いします!って言いたくなるぐらい、長い時間がかかったような気がしたよ。
やっと解放されると思ったら、書斎に来るように言われ、正直辛い。
(小屋に帰りたい‥‥‥)
あの小屋を懐かしく思う日が来るとは思わなかったよ。
もう、私の神経は伸びきったゴムみたいにヘロヘロだ。
「父」はそんな私の様子に全く気づかない。何たって、「虚無」だもんね。
書斎で出されたハーブティーを気まずい気分で口に運んでいると、「父」が書斎のテーブルから何を取り出した。
油紙に包まれた小さな包みをまるで宝物でも扱うように大切に、そっと私の手のひらに乗せた。
「お前が屋敷に来ることを決めた時に、これを渡そうと思っていた」
「‥‥‥?」
何もない「父」の感情のはずなのに、なぜか優しさのかけらがその包みを覆っているような気がする。
内容はわからないが、長いこととても大切に扱われてきたものであることはわかった。
「開けてみてもいいですか?」
「うむ」
カサカサと音を立てて、油紙を開くと、中から小さな姿絵が出てきた。
プラチナブロンドの輝く髪。
懐かしい、大好きな人がこちらをみて微笑んでいた。
「お母さん‥‥‥!!!」
涙が溢れ出す。
私の記憶より少し若い母が、幸せそうに笑ってる。
「アレの姿絵は持っていないだろうと思ってな。それは、お前が持っていなさい」
なぜか、これまでのような痛みもなく、奔流のように記憶が流れ込んでくる。
(お母さん、お母さん‥‥‥!!!)
涙が止まらない。
優しく微笑む母。
私を抱きしめた腕の温もり。
楽しそうな笑い声。
一緒にいるだけで、嬉しくて楽しかった大切な人。
決して豊かではない二人暮らしの中、いつも工夫して私に不自由を感じさせないでくれた。
いつも私を愛で包んでくれた。
お母さん。
でも、辛い時もあった。
病気になった時の苦しそうな顔。
お父様に知らせないように、とほとんど息も出来ないのに必死で訴えていた。
私の中の奥底にいた小さな女の子が勢いよく浮かび上がって来る。
どんどん、どんどん、私の中に流れ込んでくる。
女の子の記憶。感情。心。
それは私ん中に流れ込み、いつしか私と一つの存在に変化していった。
ふと、記憶が掠める。
あれは誰だった?
幼い頃の記憶。
私を抱き上げた腕。
頭を撫でた大きな手。
「私のスー」と言いながら優しく頬にキスしてくれた。
私に安心をくれた人。
心から大好きだった。
母と抱き合い、笑い合い、幸せを運んでくれた人。
いつしか、近くで話すことができなくなってしまった。
側に近付こうとすると、そっと母が首を横に振った。
母の悲しそうな瞳。
遠くから私を見つめる姿に、気づかないふりをしながら笑って見せたあの人は。
藍色の瞳。
私と同じ、藍色の瞳の男の人。
濃い茶色の髪を持つ綺麗な男の人。
あの人は‥‥‥
顔を上げて「父」を見る。
「とうさま?」
私は目の前にいるこの「父」が、記憶に残る「とうさま」であったことに、その時、初めて気がついたのだ。
その時、「虚無」しか感じられなかった彼の中で、何かが動き出したような、気がした。
侍女のマーシャさんが、少し弾んだ声で褒めてくれる。
不安でいっぱいの私とは対照的に、マーシャさんは嬉しそう。
きっと、やっと父と話せることを喜んでくれてるんだよね。
今から「父」との初めて夕食を一緒にとるため、屋敷へ行くのだ。
新しく誂えてもらった水色のワンピースを着た私は、前回の貫頭衣のようなワンピースを着ていた私とはまるで別人に見えた。
プラチナブロンドの髪も整えられ、ハーフアップをワンピースと同色のリボンでまとめている。
綺麗にしてもらえて、嬉しいような不安なような。
でもやっぱり女の子として気分が上がる。
屋敷に着くと、ダイニングルームに案内された。
メインじゃなくて、家族用の小さなダイニングルームがあるんだって。
少しこじんまりしたその部屋に通されて、しばらくすると、すぐに「父」が入ってきた。
立ち上がって迎える私を見ると「父」は目を軽く見開いた。
一瞬、彼の中の何かが動いたのがわかった。
ただ、それが何かを見定められないほどの、微かな動きだったけれども。
「こんばんは。お招きいただきまして、ありがとうございます。男爵様」
私が挨拶すると、「父」は微かに頷いた。
食事が始まると、お互いにぎこちないながらも、ポツポツと会話が始まった。
「だいぶ、生活には慣れたか?」
「お陰様で。皆さんによくしていただいています」
「そうか」
「‥‥‥」
微妙に会話が続かない。
「まだ、小屋で生活したいのか」
「‥‥‥そうですね、もう少し」
「そうか」
「‥‥‥」
く、空気が‥‥‥
「父」は気まずい空気の中、それを気にも留めずに淡々と話を進める。
「あと3年経ち13歳になったら貴族の子弟が通う学園に入学することになる。それまでに、家庭教師について学びなさい。お前の義弟にあたるセオドアと一緒に受ける授業もあるだろう。これから忙しくなると思いなさい」
「はい‥‥‥」
やっと、自分の年齢がわかった。10歳だったんだ。
まだ色々と思い出せていないことが沢山あるけど、最近過去を思い出す機会もほとんどなくなっていて、ちょっと不安になっていたんだよね。
貼り付けた笑顔が固まってしまう前にやっと気まずい夕食が終わった。
もう、ワンプレートでお願いします!って言いたくなるぐらい、長い時間がかかったような気がしたよ。
やっと解放されると思ったら、書斎に来るように言われ、正直辛い。
(小屋に帰りたい‥‥‥)
あの小屋を懐かしく思う日が来るとは思わなかったよ。
もう、私の神経は伸びきったゴムみたいにヘロヘロだ。
「父」はそんな私の様子に全く気づかない。何たって、「虚無」だもんね。
書斎で出されたハーブティーを気まずい気分で口に運んでいると、「父」が書斎のテーブルから何を取り出した。
油紙に包まれた小さな包みをまるで宝物でも扱うように大切に、そっと私の手のひらに乗せた。
「お前が屋敷に来ることを決めた時に、これを渡そうと思っていた」
「‥‥‥?」
何もない「父」の感情のはずなのに、なぜか優しさのかけらがその包みを覆っているような気がする。
内容はわからないが、長いこととても大切に扱われてきたものであることはわかった。
「開けてみてもいいですか?」
「うむ」
カサカサと音を立てて、油紙を開くと、中から小さな姿絵が出てきた。
プラチナブロンドの輝く髪。
懐かしい、大好きな人がこちらをみて微笑んでいた。
「お母さん‥‥‥!!!」
涙が溢れ出す。
私の記憶より少し若い母が、幸せそうに笑ってる。
「アレの姿絵は持っていないだろうと思ってな。それは、お前が持っていなさい」
なぜか、これまでのような痛みもなく、奔流のように記憶が流れ込んでくる。
(お母さん、お母さん‥‥‥!!!)
涙が止まらない。
優しく微笑む母。
私を抱きしめた腕の温もり。
楽しそうな笑い声。
一緒にいるだけで、嬉しくて楽しかった大切な人。
決して豊かではない二人暮らしの中、いつも工夫して私に不自由を感じさせないでくれた。
いつも私を愛で包んでくれた。
お母さん。
でも、辛い時もあった。
病気になった時の苦しそうな顔。
お父様に知らせないように、とほとんど息も出来ないのに必死で訴えていた。
私の中の奥底にいた小さな女の子が勢いよく浮かび上がって来る。
どんどん、どんどん、私の中に流れ込んでくる。
女の子の記憶。感情。心。
それは私ん中に流れ込み、いつしか私と一つの存在に変化していった。
ふと、記憶が掠める。
あれは誰だった?
幼い頃の記憶。
私を抱き上げた腕。
頭を撫でた大きな手。
「私のスー」と言いながら優しく頬にキスしてくれた。
私に安心をくれた人。
心から大好きだった。
母と抱き合い、笑い合い、幸せを運んでくれた人。
いつしか、近くで話すことができなくなってしまった。
側に近付こうとすると、そっと母が首を横に振った。
母の悲しそうな瞳。
遠くから私を見つめる姿に、気づかないふりをしながら笑って見せたあの人は。
藍色の瞳。
私と同じ、藍色の瞳の男の人。
濃い茶色の髪を持つ綺麗な男の人。
あの人は‥‥‥
顔を上げて「父」を見る。
「とうさま?」
私は目の前にいるこの「父」が、記憶に残る「とうさま」であったことに、その時、初めて気がついたのだ。
その時、「虚無」しか感じられなかった彼の中で、何かが動き出したような、気がした。
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