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2 学園編
93 シラー産の紙
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「お前は、ステラに嫌がらせの手紙がきていたことを把握していなかったのか」
ハルヴァートは若干イライラしながらも、冷静にステラにつけたメイドこと護衛のアナを問い詰めた。
目の前のアナは一見普通の女性にしか見えないが、服の下には鋼の肉体が隠れている。
最も得意とするのは短剣を使用した接近戦だが、剣でも弓でもなんでもこなす優秀な騎士だ。
諜報活動も得意とするが、ステラのプライベートを尊重しようと、敢えてステラの行動を探ることを禁止していたのだ。
「申し訳ありません。ただ、ステラ様に届いたお手紙については、全て開封せずにお渡しする様に殿下から直接命令を受けておりましたので。」
「む、確かに‥‥‥」
ハルヴァートは考え込んだ。
ステラの気分を害さずに、ステラに来ている嫌がらせの手紙について探るためにはどうしたらいいのか?
「許可をいただければ、すぐに結果をお出しします」
「やむを得ん許可する」
「承りました」
アナはすっと部屋から退出すると、すぐに小さな箱を小脇に抱えて戻ってきた。
「ステラ様が部屋にいらしゃる時に、いつもこの箱を目に入れない様にしていらっしゃるのが気にかかっていました。先ほど中身を確認したところ、やはりこちらで間違いありません」
そういうと、アナは小さな箱をハルヴァートの書斎机の上に置いた。
箱の蓋を開けた瞬間、ハルヴァートには犯人が分かった。
むしろ、分かってしまった。
「こいつか。」
消去法からいって、こいつだろう、とは思っていたが。
ルシアナ・アドランテ。
美貌の公爵令嬢。
ただし、ハルヴァートの母は現在のフォーク公爵ロバート・アドランテ公の従姉妹であり、ハルヴァートとルシアナははとこの関係にあった。幼い頃から顔を合わせる機会もあり、ハルヴァートの頭には親族の子供としてインプットされてしまっていたため、婚約者候補、つまり将来の配偶者としては考えることができなかった。
国内のパワーバランスを考えても、2代続けての王太子妃を輩出することは望ましくないない。
ハルヴァートはそう考えていたが、周りは違い、本人を将来の王妃として大切に扱っているとは聞いていた。
そして、本人も自分こそが婚約者として選ばれると思っている、とも。
がっかりする、とはこういうことを言うのか。
ハルヴァートはため息を漏らした。
感情というのは一筋縄ではいかないらしい。
ただ、ステラのために、釘を刺しておく必要がある。
不穏分子は排除しておかなければならない。
「クロード、ルシアナを茶会に招待しよう。準備を」
おそらく、ルシアナなら、意図を理解するに違いない。
ハルヴァートはルシアナ宛に招待状を認めながらそう考えた。
****************************************
「お久しゅうございます。ハルヴァート様」
ルシアナは完璧なカーテシーで挨拶した。
流れる様に美しい所作にルシアナの受けた高度な教育がにじみ出る。
ルシアナは、ハルヴァートに呼び出され、ソワソワしていた。
(やっと、ハルヴァート様に目を覚ましていただけたのかしら‥‥)
ハルヴァートは手のひらの動きで椅子に座るように促した。
すかさず、クロードとアナがテーブルの上にセットされた茶器に紅茶を注ぐ。
目の前にいるルシアナは頬を染め、はにかんでいる様にも見える。
「アドランテ家の領地の一つには紙の名産地があったな?地名はそう、なんといったか‥‥‥」
「シラーでございます」
「そう、そうであった。シラー。そこで作られる紙は特別だとか‥‥」
「ありがとうございます。殿下。そのようにお褒めいただけるとは光栄の至りです。我が領地のシラーでは職人たちが長年研究を続け、薄く、破れにくく、そして描きやすくさらに発色のいい紙を生産しております。」
「そうか。素晴らしいことだな」
「全て殿下や両陛下の庇護の賜物でございます。」
「うむ」
ルシアナは、この話がどこに向かっているのか、疑問に思い始めていた。
王家が材質のいいシラー産の高級な紙を認知しているのは喜ばしいことだが、なぜわざわざ呼び出してまで、そんな話をしているのだろうか?
今日はとうとうステラに愛想をつかして、ルシアナに愛を囁いてくれるのでは無いかと密かに期待していたのだが。
そうでなくても、年頃の男女が二人きりで過ごすなんて、どんな噂がたってもおかしく無いとワクワクしていた。
それなのに?
「シラー産の紙のうち特に高級な紙は市場に出回っていないと聞くが?」
「その通りでございます。高級とされている紙は薄く、発色が良いため美しく、しかもインクのノリが良いため書きやすいのですが、それを作れる職人が少ないことと工程数が多く手間がかかるため、大量生産ができません。そのため、お譲りする方が限られてしまっております」
「そうか。品質の良いものはそう簡単には作れないからな」
ハルヴァートは納得したように相槌を打った。
こんなに話しやすいハルヴァートは初めてかもしれない、ルシアナはそう思った。
(いつまで紙の話をなさるのかしら?殿下は新しい紙をお探しなのかしら?
そんな時もあるかと思って空色に染めた紙をこっそりと準備していたけど、お持ちした方が良かったのかしら。)
「それほど、国内にも出回っていないのだろうな」
「そうですね。限られた方にしかお分けできていないので、そうかと思いますが」
「うむ」
そう言うとハルヴァートは紅茶を口に含んだ。
「不思議なことに、最近シラー産の紙を見たような気がするのだが、本来使われるような用途ではなく」
ハルヴァートはルシアナをアイスブルーの瞳でじっと見つめた。
「どう思う?」
その瞬間、ルシアナがカップを持つ手がカタカタと震え出し、カップを取り落としそうになるところを必死にソーサーに戻した。
(今日のお呼び出しの理由は‥‥‥)
ハルヴァートは若干イライラしながらも、冷静にステラにつけたメイドこと護衛のアナを問い詰めた。
目の前のアナは一見普通の女性にしか見えないが、服の下には鋼の肉体が隠れている。
最も得意とするのは短剣を使用した接近戦だが、剣でも弓でもなんでもこなす優秀な騎士だ。
諜報活動も得意とするが、ステラのプライベートを尊重しようと、敢えてステラの行動を探ることを禁止していたのだ。
「申し訳ありません。ただ、ステラ様に届いたお手紙については、全て開封せずにお渡しする様に殿下から直接命令を受けておりましたので。」
「む、確かに‥‥‥」
ハルヴァートは考え込んだ。
ステラの気分を害さずに、ステラに来ている嫌がらせの手紙について探るためにはどうしたらいいのか?
「許可をいただければ、すぐに結果をお出しします」
「やむを得ん許可する」
「承りました」
アナはすっと部屋から退出すると、すぐに小さな箱を小脇に抱えて戻ってきた。
「ステラ様が部屋にいらしゃる時に、いつもこの箱を目に入れない様にしていらっしゃるのが気にかかっていました。先ほど中身を確認したところ、やはりこちらで間違いありません」
そういうと、アナは小さな箱をハルヴァートの書斎机の上に置いた。
箱の蓋を開けた瞬間、ハルヴァートには犯人が分かった。
むしろ、分かってしまった。
「こいつか。」
消去法からいって、こいつだろう、とは思っていたが。
ルシアナ・アドランテ。
美貌の公爵令嬢。
ただし、ハルヴァートの母は現在のフォーク公爵ロバート・アドランテ公の従姉妹であり、ハルヴァートとルシアナははとこの関係にあった。幼い頃から顔を合わせる機会もあり、ハルヴァートの頭には親族の子供としてインプットされてしまっていたため、婚約者候補、つまり将来の配偶者としては考えることができなかった。
国内のパワーバランスを考えても、2代続けての王太子妃を輩出することは望ましくないない。
ハルヴァートはそう考えていたが、周りは違い、本人を将来の王妃として大切に扱っているとは聞いていた。
そして、本人も自分こそが婚約者として選ばれると思っている、とも。
がっかりする、とはこういうことを言うのか。
ハルヴァートはため息を漏らした。
感情というのは一筋縄ではいかないらしい。
ただ、ステラのために、釘を刺しておく必要がある。
不穏分子は排除しておかなければならない。
「クロード、ルシアナを茶会に招待しよう。準備を」
おそらく、ルシアナなら、意図を理解するに違いない。
ハルヴァートはルシアナ宛に招待状を認めながらそう考えた。
****************************************
「お久しゅうございます。ハルヴァート様」
ルシアナは完璧なカーテシーで挨拶した。
流れる様に美しい所作にルシアナの受けた高度な教育がにじみ出る。
ルシアナは、ハルヴァートに呼び出され、ソワソワしていた。
(やっと、ハルヴァート様に目を覚ましていただけたのかしら‥‥)
ハルヴァートは手のひらの動きで椅子に座るように促した。
すかさず、クロードとアナがテーブルの上にセットされた茶器に紅茶を注ぐ。
目の前にいるルシアナは頬を染め、はにかんでいる様にも見える。
「アドランテ家の領地の一つには紙の名産地があったな?地名はそう、なんといったか‥‥‥」
「シラーでございます」
「そう、そうであった。シラー。そこで作られる紙は特別だとか‥‥」
「ありがとうございます。殿下。そのようにお褒めいただけるとは光栄の至りです。我が領地のシラーでは職人たちが長年研究を続け、薄く、破れにくく、そして描きやすくさらに発色のいい紙を生産しております。」
「そうか。素晴らしいことだな」
「全て殿下や両陛下の庇護の賜物でございます。」
「うむ」
ルシアナは、この話がどこに向かっているのか、疑問に思い始めていた。
王家が材質のいいシラー産の高級な紙を認知しているのは喜ばしいことだが、なぜわざわざ呼び出してまで、そんな話をしているのだろうか?
今日はとうとうステラに愛想をつかして、ルシアナに愛を囁いてくれるのでは無いかと密かに期待していたのだが。
そうでなくても、年頃の男女が二人きりで過ごすなんて、どんな噂がたってもおかしく無いとワクワクしていた。
それなのに?
「シラー産の紙のうち特に高級な紙は市場に出回っていないと聞くが?」
「その通りでございます。高級とされている紙は薄く、発色が良いため美しく、しかもインクのノリが良いため書きやすいのですが、それを作れる職人が少ないことと工程数が多く手間がかかるため、大量生産ができません。そのため、お譲りする方が限られてしまっております」
「そうか。品質の良いものはそう簡単には作れないからな」
ハルヴァートは納得したように相槌を打った。
こんなに話しやすいハルヴァートは初めてかもしれない、ルシアナはそう思った。
(いつまで紙の話をなさるのかしら?殿下は新しい紙をお探しなのかしら?
そんな時もあるかと思って空色に染めた紙をこっそりと準備していたけど、お持ちした方が良かったのかしら。)
「それほど、国内にも出回っていないのだろうな」
「そうですね。限られた方にしかお分けできていないので、そうかと思いますが」
「うむ」
そう言うとハルヴァートは紅茶を口に含んだ。
「不思議なことに、最近シラー産の紙を見たような気がするのだが、本来使われるような用途ではなく」
ハルヴァートはルシアナをアイスブルーの瞳でじっと見つめた。
「どう思う?」
その瞬間、ルシアナがカップを持つ手がカタカタと震え出し、カップを取り落としそうになるところを必死にソーサーに戻した。
(今日のお呼び出しの理由は‥‥‥)
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