そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

文字の大きさ
94 / 247
2 学園編

93 シラー産の紙

しおりを挟む
「お前は、ステラに嫌がらせの手紙がきていたことを把握していなかったのか」
ハルヴァートは若干イライラしながらも、冷静にステラにつけたメイドこと護衛のアナを問い詰めた。

目の前のアナは一見普通の女性にしか見えないが、服の下には鋼の肉体が隠れている。
最も得意とするのは短剣を使用した接近戦だが、剣でも弓でもなんでもこなす優秀な騎士だ。
諜報活動も得意とするが、ステラのプライベートを尊重しようと、敢えてステラの行動を探ることを禁止していたのだ。

「申し訳ありません。ただ、ステラ様に届いたお手紙については、全て開封せずにお渡しする様に殿下から直接命令を受けておりましたので。」
「む、確かに‥‥‥」
ハルヴァートは考え込んだ。
ステラの気分を害さずに、ステラに来ている嫌がらせの手紙について探るためにはどうしたらいいのか?
「許可をいただければ、すぐに結果をお出しします」
「やむを得ん許可する」
「承りました」
アナはすっと部屋から退出すると、すぐに小さな箱を小脇に抱えて戻ってきた。

「ステラ様が部屋にいらしゃる時に、いつもこの箱を目に入れない様にしていらっしゃるのが気にかかっていました。先ほど中身を確認したところ、やはりこちらで間違いありません」
そういうと、アナは小さな箱をハルヴァートの書斎机の上に置いた。

箱の蓋を開けた瞬間、ハルヴァートには犯人が分かった。
むしろ、分かってしまった。
「こいつか。」
消去法からいって、こいつだろう、とは思っていたが。

ルシアナ・アドランテ。
美貌の公爵令嬢。
ただし、ハルヴァートの母は現在のフォーク公爵ロバート・アドランテ公の従姉妹であり、ハルヴァートとルシアナははとこの関係にあった。幼い頃から顔を合わせる機会もあり、ハルヴァートの頭には親族の子供としてインプットされてしまっていたため、婚約者候補、つまり将来の配偶者としては考えることができなかった。
国内のパワーバランスを考えても、2代続けての王太子妃を輩出することは望ましくないない。
ハルヴァートはそう考えていたが、周りは違い、本人を将来の王妃として大切に扱っているとは聞いていた。
そして、本人も自分こそが婚約者として選ばれると思っている、とも。

がっかりする、とはこういうことを言うのか。
ハルヴァートはため息を漏らした。
感情というのは一筋縄ではいかないらしい。

ただ、ステラのために、釘を刺しておく必要がある。
不穏分子は排除しておかなければならない。
「クロード、ルシアナを茶会に招待しよう。準備を」
おそらく、ルシアナなら、意図を理解するに違いない。
ハルヴァートはルシアナ宛に招待状をしたためながらそう考えた。

****************************************

「お久しゅうございます。ハルヴァート様」
ルシアナは完璧なカーテシーで挨拶した。
流れる様に美しい所作にルシアナの受けた高度な教育がにじみ出る。

ルシアナは、ハルヴァートに呼び出され、ソワソワしていた。
(やっと、ハルヴァート様に目を覚ましていただけたのかしら‥‥)

ハルヴァートは手のひらの動きで椅子に座るように促した。
すかさず、クロードとアナがテーブルの上にセットされた茶器に紅茶を注ぐ。
目の前にいるルシアナは頬を染め、はにかんでいる様にも見える。

「アドランテ家の領地の一つには紙の名産地があったな?地名はそう、なんといったか‥‥‥」
「シラーでございます」
「そう、そうであった。シラー。そこで作られる紙は特別だとか‥‥」
「ありがとうございます。殿下。そのようにお褒めいただけるとは光栄の至りです。我が領地のシラーでは職人たちが長年研究を続け、薄く、破れにくく、そして描きやすくさらに発色のいい紙を生産しております。」
「そうか。素晴らしいことだな」
「全て殿下や両陛下の庇護の賜物でございます。」
「うむ」
ルシアナは、この話がどこに向かっているのか、疑問に思い始めていた。
王家が材質のいいシラー産の高級な紙を認知しているのは喜ばしいことだが、なぜわざわざ呼び出してまで、そんな話をしているのだろうか?
今日はとうとうステラに愛想をつかして、ルシアナに愛を囁いてくれるのでは無いかと密かに期待していたのだが。
そうでなくても、年頃の男女が二人きりで過ごすなんて、どんな噂がたってもおかしく無いとワクワクしていた。
それなのに?

「シラー産の紙のうち特に高級な紙は市場に出回っていないと聞くが?」
「その通りでございます。高級とされている紙は薄く、発色が良いため美しく、しかもインクのノリが良いため書きやすいのですが、それを作れる職人が少ないことと工程数が多く手間がかかるため、大量生産ができません。そのため、お譲りする方が限られてしまっております」
「そうか。品質の良いものはそう簡単には作れないからな」
ハルヴァートは納得したように相槌を打った。
こんなに話しやすいハルヴァートは初めてかもしれない、ルシアナはそう思った。
(いつまで紙の話をなさるのかしら?殿下は新しい紙をお探しなのかしら?
そんな時もあるかと思って空色に染めた紙をこっそりと準備していたけど、お持ちした方が良かったのかしら。)

「それほど、国内にも出回っていないのだろうな」
「そうですね。限られた方にしかお分けできていないので、そうかと思いますが」
「うむ」
そう言うとハルヴァートは紅茶を口に含んだ。
「不思議なことに、最近シラー産の紙を見たような気がするのだが、本来使われるような用途ではなく」
ハルヴァートはルシアナをアイスブルーの瞳でじっと見つめた。
「どう思う?」

その瞬間、ルシアナがカップを持つ手がカタカタと震え出し、カップを取り落としそうになるところを必死にソーサーに戻した。

(今日のお呼び出しの理由は‥‥‥)

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...