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3 ヒロインへの道
106 友達との再会
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久しぶりにお母さんとたくさん話をした後、ダニエル爺さんの家に鍵を返しに行った。
お爺ちゃんは私のまじまじと顔を見ると、何かに納得したようにうなずいた。
「うん、いい顔になっちょる」
「え?そんなに違いますか?」
「さっきとは全然違うぞ。きっとお母さんとしっかり話ができたんだろう。大切な人との会話はいつでも心に平穏をもたらしてくれるからな。」
さすが、お爺ちゃん。年の功。
お爺ちゃんも連れ合いの婆ちゃんがなくなるまでは、いつも仲良くおしゃべりしてたもんね。
もしかして、今でもお婆ちゃんとお話ししてるのかな。
「ありがとう、お爺ちゃん。また来ます」
「またおいで。そう間を開けずにな。お母さんも喜ぶだろう。そういえば」
お爺ちゃんは玄関脇にある物入れの引き出しに鍵をしまうと、別の引き出しを開けた。
「お前さんの幼馴染から手紙を預かっておった。家に来たら渡してくれとな」
友達からの手紙には、私たち共通の友人である3つ年上のジャックと結婚したこと。ジャックは町の中心部にある広場でパン屋を営んでいること。顔が見たいからいつでも会いにきて欲しいこと、が書いてあった。
久しぶりに町まで走って友達に会いに行く。
石畳のまっすぐな道。ところどころ誰かが植えた花が群れ咲いている。
早く、会いたい。懐かしい友達。
広場は、昔住んでいた家から15分ほど離れたところにある。
町の中心部にある円形の広場の周りはぎっしりと店が取り囲み、町の人たちは、そこで買い物をしたり、ちょっとつまむものを買っておしゃべりを楽しんだりするんだ。
「ナタリー!!!」
「ステラ!会いたかった!」
石畳が敷き詰められた広場は昔とちっとも変わらない。
広場を囲む店の他にも、ちょっとしたアクセサリーやキラキラしたゼリーを店先に並べる露天が所狭しと軒を連ねていて、売り子たちの掛け声や買い物を楽しむ人たちの活気であふれていた。
ナタリーは私の幼馴染。
なんと、3ヶ月前に3つ年上のジャックと結婚して、今やお腹に赤ちゃんがいるんだって!!
同い年なのにもう、お母さんになるなんて、すごい。
この世界では特別早いってわけじゃないけど、まあ、少し早めかな?ぐらい。
ジャックはパン屋さんだから食べるに困らないって結婚を決めたんだって。現実的!!
でも、ほんとはそれだけじゃないよね?子供の頃からジャックを見ると顔がプラムみたいに真っ赤になってたの知ってるよ?
数年ぶりに会うナタリーはすっかり大人になっていた。
私の手を引き、お茶を出す露天の椅子に座らせる。
そして慣れた調子で柑橘系のジュースを頼んだ。
相変わらず、酸っぱいものが好きなんだね。それとも妊婦だから?
私はにっこりと微笑んだ。
ナタリーは待ちきれない、というように早口で話し始めた。
「もう、どうしてたのよ、ステラ。男爵家に引き取られてから全然町に遊びに来なくなっちゃったし」
「ごめんごめん、色々と忙しくしてたのよ」
本当は、私の中にいた小さな女の子がどうしても町には来たくないって頑張ってたみたい。
町に行こうとすると、どうしても足が動かなくなっちゃったんだ。
多分、お母さんがいない町に行きたくなかったんだよね。
お悔やみを言われたくなかったのかもしれない。
思いやりからお悔やみを言ってくれるのはありがたいことだけど、きっとお母さんの死を認めることができなかったんだよね。
「でさ、ステラ!聞いてるの?」
「あ、ごめん、ぼんやりしちゃった」
「ほら、エミリっていたでしょ?赤毛の子。宿屋のガイに首ったけなんだって」
「へーそうなんだ。」
「それからね‥‥‥」
たわいもない話が続く。ナタリーは町の情報通。昔から顔が広くてなんでも知ってるんだよね。
「ところでさ、気になる話を聞いたんだけど。私は本人に聞くまでは信じないって決めてたのよ」
「うん?」
「ねえ、ステラが聖女って本当?」
「え?」
「教団の人たちが男爵家に押しかけてきて、大騒ぎしたって噂になってたよ?男爵家に最近引き取られた娘が聖女だからだって。それってステラのことだよね?」
お爺ちゃんは私のまじまじと顔を見ると、何かに納得したようにうなずいた。
「うん、いい顔になっちょる」
「え?そんなに違いますか?」
「さっきとは全然違うぞ。きっとお母さんとしっかり話ができたんだろう。大切な人との会話はいつでも心に平穏をもたらしてくれるからな。」
さすが、お爺ちゃん。年の功。
お爺ちゃんも連れ合いの婆ちゃんがなくなるまでは、いつも仲良くおしゃべりしてたもんね。
もしかして、今でもお婆ちゃんとお話ししてるのかな。
「ありがとう、お爺ちゃん。また来ます」
「またおいで。そう間を開けずにな。お母さんも喜ぶだろう。そういえば」
お爺ちゃんは玄関脇にある物入れの引き出しに鍵をしまうと、別の引き出しを開けた。
「お前さんの幼馴染から手紙を預かっておった。家に来たら渡してくれとな」
友達からの手紙には、私たち共通の友人である3つ年上のジャックと結婚したこと。ジャックは町の中心部にある広場でパン屋を営んでいること。顔が見たいからいつでも会いにきて欲しいこと、が書いてあった。
久しぶりに町まで走って友達に会いに行く。
石畳のまっすぐな道。ところどころ誰かが植えた花が群れ咲いている。
早く、会いたい。懐かしい友達。
広場は、昔住んでいた家から15分ほど離れたところにある。
町の中心部にある円形の広場の周りはぎっしりと店が取り囲み、町の人たちは、そこで買い物をしたり、ちょっとつまむものを買っておしゃべりを楽しんだりするんだ。
「ナタリー!!!」
「ステラ!会いたかった!」
石畳が敷き詰められた広場は昔とちっとも変わらない。
広場を囲む店の他にも、ちょっとしたアクセサリーやキラキラしたゼリーを店先に並べる露天が所狭しと軒を連ねていて、売り子たちの掛け声や買い物を楽しむ人たちの活気であふれていた。
ナタリーは私の幼馴染。
なんと、3ヶ月前に3つ年上のジャックと結婚して、今やお腹に赤ちゃんがいるんだって!!
同い年なのにもう、お母さんになるなんて、すごい。
この世界では特別早いってわけじゃないけど、まあ、少し早めかな?ぐらい。
ジャックはパン屋さんだから食べるに困らないって結婚を決めたんだって。現実的!!
でも、ほんとはそれだけじゃないよね?子供の頃からジャックを見ると顔がプラムみたいに真っ赤になってたの知ってるよ?
数年ぶりに会うナタリーはすっかり大人になっていた。
私の手を引き、お茶を出す露天の椅子に座らせる。
そして慣れた調子で柑橘系のジュースを頼んだ。
相変わらず、酸っぱいものが好きなんだね。それとも妊婦だから?
私はにっこりと微笑んだ。
ナタリーは待ちきれない、というように早口で話し始めた。
「もう、どうしてたのよ、ステラ。男爵家に引き取られてから全然町に遊びに来なくなっちゃったし」
「ごめんごめん、色々と忙しくしてたのよ」
本当は、私の中にいた小さな女の子がどうしても町には来たくないって頑張ってたみたい。
町に行こうとすると、どうしても足が動かなくなっちゃったんだ。
多分、お母さんがいない町に行きたくなかったんだよね。
お悔やみを言われたくなかったのかもしれない。
思いやりからお悔やみを言ってくれるのはありがたいことだけど、きっとお母さんの死を認めることができなかったんだよね。
「でさ、ステラ!聞いてるの?」
「あ、ごめん、ぼんやりしちゃった」
「ほら、エミリっていたでしょ?赤毛の子。宿屋のガイに首ったけなんだって」
「へーそうなんだ。」
「それからね‥‥‥」
たわいもない話が続く。ナタリーは町の情報通。昔から顔が広くてなんでも知ってるんだよね。
「ところでさ、気になる話を聞いたんだけど。私は本人に聞くまでは信じないって決めてたのよ」
「うん?」
「ねえ、ステラが聖女って本当?」
「え?」
「教団の人たちが男爵家に押しかけてきて、大騒ぎしたって噂になってたよ?男爵家に最近引き取られた娘が聖女だからだって。それってステラのことだよね?」
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