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3 ヒロインへの道
125 聖女の意見
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「みなさん」
声が裏返った。
き、緊張しすぎ!でも、こんな大勢の大人を前に意見を言うなんて緊張する!
「私は聖女候補とされていますが、特別な力は持っておりません」
私の声が、聖堂の中に響き渡った。
「え?」
「聖女様はご存知ない?」
「力がない?」
神官たちがざわついた。私が力のない聖女だって、気がついていなかったのかな。申し訳ない。
でもあとからわかるより、正面突破した方が、いいよね。
「皆さん、お静かに。今は聖女様のお言葉を拝聴しましょう」
ヴィダル先生が声をかけ、そして私に頷いてみせた。
ざわついていた神官たちは、しんと静まり返り私を見た。
「ごめんなさい。特別な力はありません。癒しの力とか、植物を育てる力もありません。ですが、私を聖女と考えてくださるこの国の人々の助けになれればと望んでいます。ある時、気がつきました。私を聖女として迎えてくださった皆さんは歓迎の歌を歌ってくださったけど、この世界‥‥‥じゃなくて、街には音楽がないことに。音楽は人の心を癒し、支える力があります。教会の外で音楽を奏で楽しむことを許していただきたいのです」
「他国では、音楽が堕落を生んだ先例があります」
ファン神官が大きな声で反論した。
「それは音楽の問題でしょうか。違うと思います。音楽を使用した人の問題です。包丁がなければ料理には不便ですが、人を傷つける凶器として使用することだってできます。でもそうはしないんです。家族のため、誰かのために美味しい食事を用意するために使う人がほとんどです。まれな例を基準に物事を測っては、進歩できません」
「確かに‥‥‥」
「いやでも‥‥‥」
「やっぱり‥‥‥」
「聖女様のお考えが‥‥‥」
あちこちから声が聞こえてくる。
同意してくれる人、そうでない人、様々。
よし、予定通り。
「皆さんが不安に思われるお気持ちもわかります」
私は声を上げた。
「最初から全て解放するのは難しいでしょう。そこで、ご提案があります」
全員の視線が私に集中する。心臓が大きく鳴り、耳がガンガンする。
でも、やり抜かなきゃ。
「良い目的に限定します」
「良い目的とは?」
神官から声が上がった。
「例えば、先日子供に正しい生活習慣を身につけるための歌を歌ってあげたところ、それまで話してもなかなか身につかなかったのに、あっという間に生活習慣を身につけることができました。
他にも、教団の教義を広めるために歌を使ってはどうでしょう。
このような良い目的であれば、使用を許可してはいかがでしょうか」
「反対する理由がないのでは?」
「確かに‥‥‥」
「そううまくいくものだろうか」
神官たちの雰囲気がだいぶ好意的に変わってきた。
ヴィダル先生がニコニコしながら見守ってくれている。口には出さないけど、応援している気持ちが伝わってくる。
「ご心配はごもっともです。そこで、実験のための場所を作ることを提案します」
「実験とは、なんですか」
ベリ神官長が食い気味に聞いてきた。
「子供達を集めて、学習させる場所を作りましょう。まずは字と簡単な算数を教えましょう。少しでも字を学べば生活は激変するはずです。教団の中にあっても重要なことは全て記録しているではありませんか。『神聖聖女録』は、文字で書かれていますよね。当たり前のことですが。将来、教義を教える際にも必ず役立つはずです」
子供の頃、一緒に遊んだ子供達は字を学んでいなかった。
なぜって、学習する機会がないから。親も教えられない。
商売をやってる家の子は簡単な算数を学ぶけど、それ以上を学ぶ機会はほとんどない。
よっぽどの幸運がなければ平民がなにかを学ぶなんて不可能なんだ。
「そして、学習の中に歌を取り入れるのです。良い目的に音楽を使うことを教え、また学習にも役立てれば、必ずいい意味で音楽は広まり、人の心を支えることができるはずです。正しい道を教え、人の心を支えること、それこそが教団の存在意義ではありませんか?」
言い切った。私はもう一度胸元を抑えた。
指先が指輪に触れる。
(ハル様、私、頑張りました)
心の中で、ハル様に話しかける。
またあった時に、褒めてくれるかな。
聖堂の中は水を打ったように静まり返っていた。
ベリ神官長が膝をついた。
「聖女様、私が浅はかでございました。どうか、お導きください」
そういうと、深く頭を垂れ、額づいた。
神官長の周りの人たちも皆波が広がるように額づいた。
よかった!わかってもらえたんだ。
「ファン神官長」
私は反対派の神官長に声をかけた。
「うっ、なんでございますか」
ファン神官長は困ったような顔をしている。
「いかがでしょうか」
「私は、別に、最初から反対はしていませんから。ただ、心配していただけで」
へえ、そう?
反対してないんだ。ふーん。
じゃ、責任取ってくれるのかな。なにか起こったら。
「ご心配ありがとうございます」
私はにっこりとファン神官長に笑いかけた。
声が裏返った。
き、緊張しすぎ!でも、こんな大勢の大人を前に意見を言うなんて緊張する!
「私は聖女候補とされていますが、特別な力は持っておりません」
私の声が、聖堂の中に響き渡った。
「え?」
「聖女様はご存知ない?」
「力がない?」
神官たちがざわついた。私が力のない聖女だって、気がついていなかったのかな。申し訳ない。
でもあとからわかるより、正面突破した方が、いいよね。
「皆さん、お静かに。今は聖女様のお言葉を拝聴しましょう」
ヴィダル先生が声をかけ、そして私に頷いてみせた。
ざわついていた神官たちは、しんと静まり返り私を見た。
「ごめんなさい。特別な力はありません。癒しの力とか、植物を育てる力もありません。ですが、私を聖女と考えてくださるこの国の人々の助けになれればと望んでいます。ある時、気がつきました。私を聖女として迎えてくださった皆さんは歓迎の歌を歌ってくださったけど、この世界‥‥‥じゃなくて、街には音楽がないことに。音楽は人の心を癒し、支える力があります。教会の外で音楽を奏で楽しむことを許していただきたいのです」
「他国では、音楽が堕落を生んだ先例があります」
ファン神官が大きな声で反論した。
「それは音楽の問題でしょうか。違うと思います。音楽を使用した人の問題です。包丁がなければ料理には不便ですが、人を傷つける凶器として使用することだってできます。でもそうはしないんです。家族のため、誰かのために美味しい食事を用意するために使う人がほとんどです。まれな例を基準に物事を測っては、進歩できません」
「確かに‥‥‥」
「いやでも‥‥‥」
「やっぱり‥‥‥」
「聖女様のお考えが‥‥‥」
あちこちから声が聞こえてくる。
同意してくれる人、そうでない人、様々。
よし、予定通り。
「皆さんが不安に思われるお気持ちもわかります」
私は声を上げた。
「最初から全て解放するのは難しいでしょう。そこで、ご提案があります」
全員の視線が私に集中する。心臓が大きく鳴り、耳がガンガンする。
でも、やり抜かなきゃ。
「良い目的に限定します」
「良い目的とは?」
神官から声が上がった。
「例えば、先日子供に正しい生活習慣を身につけるための歌を歌ってあげたところ、それまで話してもなかなか身につかなかったのに、あっという間に生活習慣を身につけることができました。
他にも、教団の教義を広めるために歌を使ってはどうでしょう。
このような良い目的であれば、使用を許可してはいかがでしょうか」
「反対する理由がないのでは?」
「確かに‥‥‥」
「そううまくいくものだろうか」
神官たちの雰囲気がだいぶ好意的に変わってきた。
ヴィダル先生がニコニコしながら見守ってくれている。口には出さないけど、応援している気持ちが伝わってくる。
「ご心配はごもっともです。そこで、実験のための場所を作ることを提案します」
「実験とは、なんですか」
ベリ神官長が食い気味に聞いてきた。
「子供達を集めて、学習させる場所を作りましょう。まずは字と簡単な算数を教えましょう。少しでも字を学べば生活は激変するはずです。教団の中にあっても重要なことは全て記録しているではありませんか。『神聖聖女録』は、文字で書かれていますよね。当たり前のことですが。将来、教義を教える際にも必ず役立つはずです」
子供の頃、一緒に遊んだ子供達は字を学んでいなかった。
なぜって、学習する機会がないから。親も教えられない。
商売をやってる家の子は簡単な算数を学ぶけど、それ以上を学ぶ機会はほとんどない。
よっぽどの幸運がなければ平民がなにかを学ぶなんて不可能なんだ。
「そして、学習の中に歌を取り入れるのです。良い目的に音楽を使うことを教え、また学習にも役立てれば、必ずいい意味で音楽は広まり、人の心を支えることができるはずです。正しい道を教え、人の心を支えること、それこそが教団の存在意義ではありませんか?」
言い切った。私はもう一度胸元を抑えた。
指先が指輪に触れる。
(ハル様、私、頑張りました)
心の中で、ハル様に話しかける。
またあった時に、褒めてくれるかな。
聖堂の中は水を打ったように静まり返っていた。
ベリ神官長が膝をついた。
「聖女様、私が浅はかでございました。どうか、お導きください」
そういうと、深く頭を垂れ、額づいた。
神官長の周りの人たちも皆波が広がるように額づいた。
よかった!わかってもらえたんだ。
「ファン神官長」
私は反対派の神官長に声をかけた。
「うっ、なんでございますか」
ファン神官長は困ったような顔をしている。
「いかがでしょうか」
「私は、別に、最初から反対はしていませんから。ただ、心配していただけで」
へえ、そう?
反対してないんだ。ふーん。
じゃ、責任取ってくれるのかな。なにか起こったら。
「ご心配ありがとうございます」
私はにっこりとファン神官長に笑いかけた。
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