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3 ヒロインへの道
166 青空の下で 2 (王太子ハルヴァート 7)
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王太子ハルヴァートは魅了を受けた疑いを受け、軟禁されていた。
魅了は呪いの一種とはされているが、一種の薬物による中毒症状であるといわれている。
一度では効果がないが、回数を重ねるごとにだんだんと依存を重ね、思考を失っていく。
中毒症状が進行すると、まず、薬物を摂取した時にそばにいた者がいないと焦燥や不安を感じるようになる。最初はゆっくりと進行していくが、繰り返し摂取を重ね症状が進むと、相手が常にそばにいないと不安になる。愛にも似た感情で、そばにいた者に執着をみせるようになる。
あくまでも「そばにいた者」への執着なので、投薬する時には慎重に、しかも明確な意図を持たないと術を成功させることはできない。
最終的に、症状はどんどん強まり、最後は相手に依存し、いいなりになってしまう。
もし、術に抗えば、投薬された者は感情をなくし、生きた屍となってしまう。
人の自由意志を奪う危険薬物として、国内での流通は禁止されているが、もともと山間地に自生している植物の種を生成して作る薬であることから、時折この薬を使用した事件が起きることがあった。
また、生の種子には軽い媚薬効果や体を温める効果があり、精製されていなければそれほど危険な薬物ではないことから、庶民の間では冬季にミルクに混ぜて一粒摂取する慣習がまだ残っていた。
種とは言っても、山間地まで取りに行くのに危険が伴うことから、それなりに高額なものであり、庶民の懐にはいたいため、大量に摂取して中毒症状を起こすなどの事件はこれまで起こったことがない。
これまで、中毒による事件がなく、庶民の生活に少しの潤いを与えるものとして黙認されてきた経緯があった。
ただし、この種を精製すると全く違ったものとなる。
人の思考力を失わせ、人生を破壊するものとして厳しく取り締まり、見つかった場合は使用者のみならず、精製した者、流通した者、全て死罪と厳しい罰が定められていた。
ましてや、国の未来を担う王太子が魅了を受けるなど言語道断であった。
思考を操られた王太子は将来の危険を孕むため、廃嫡、幽閉の未来は必ずしもないとは限らない。
ハルヴァートは窓のそばに立ち、青空を見上げていた。
早朝のこの時間、部屋の前のバルコニー付近には人がいない。
兵たちの引きつぎのため、ほんの少しの時間だけ誰もいない時間を楽しむことができる。
朝の空気を楽しむ王太子をたしなめるものもいない。
軟禁中であっても、この程度の楽しみは黙認されていた。
石造りのバルコニーの端から三番目の柵に手をつきながらスッと手すりの下に左手をくぐらせる。
影からの報告がしたためられたメモを手の中にひそめ、何食わぬ顔をして部屋に戻る。
「S→G、○」
(無事、ガウデン候の庇護下に入ったか)
ハルヴァートはほっと息をつくと、紙切れを細かく破き、トイレに流した。
しばらくは、ステラの身を案じる必要はないだろう。
(いくらステラでも2~3日はおとなしくしているだろうからな)
「朝食でございます」
ノックの音とともにクロードが入ってくる。
軟禁中のため、全ては部屋の中で行われる。食事、風呂、排泄、全てが部屋の中で行われ、外出は許されない。
学校どころか全ての社交は禁止。
食事は事前に複数の人間があらためたものをとる。
飲み物に至っても好きなものを好きなだけ、とはいかず、水と安全を確認されたお茶のみが最小限許されていた。
部屋でおとなしく本を読み、思索に耽る。
(まあ、自分で選んではいないとはいえ、休暇とはこういうものなのだな)
ハルヴァートは人生で初めての休暇を取っていた。
これまでは休日という休日はなく、来る日も勉強または執務、公務の繰り返し。
食事すら社交を兼ねていた。
その中で唯一の息抜きがステラとの朝食だった。
当面は安全だろうが、やはりステラのことは気にかかる。
寂しがってはいないか、不安に思ってはいないか、ひとりで泣いているのではないか。
まさか、楽しんでいるのではあるまいな。
それは面白くない。
どこかの男に言い寄られてはいないだろうか。
あのジョセフは信用に足る男だが、しかし万が一ということもある・・・
「殿下。お考え中のところ申し訳ありませんが」クロードが少しも申し訳なくなさそうな顔で言う。
「本日は、先日受けた診断の結果が出る日でございます。お支度もありますので、お食事はお早めに」
相変わらずの慇懃無礼な口調だが、ここのところの騒ぎを一応心配しているのは知っていた。
「全く、聖女様が殿下に魅了をかけるなどあり得ませんよ。むしろ、薬を盛ろうとしたのは殿下の方だと言うのに」
「おい」
ハルヴァートはクロードをジロリとにらみつけた。
「せっかくご用意したのに、ビビって使えなかったのは知ってますから」
一度はステラに惚れ薬を飲ませようかと思ったが、結局ステラの笑顔を前にしたら何もできなくなってしまった。
憮然としながら朝食をかきこむハルヴァートを、クロードはニヤニヤしながらも、どこか温かい目で見つめていた。
魅了は呪いの一種とはされているが、一種の薬物による中毒症状であるといわれている。
一度では効果がないが、回数を重ねるごとにだんだんと依存を重ね、思考を失っていく。
中毒症状が進行すると、まず、薬物を摂取した時にそばにいた者がいないと焦燥や不安を感じるようになる。最初はゆっくりと進行していくが、繰り返し摂取を重ね症状が進むと、相手が常にそばにいないと不安になる。愛にも似た感情で、そばにいた者に執着をみせるようになる。
あくまでも「そばにいた者」への執着なので、投薬する時には慎重に、しかも明確な意図を持たないと術を成功させることはできない。
最終的に、症状はどんどん強まり、最後は相手に依存し、いいなりになってしまう。
もし、術に抗えば、投薬された者は感情をなくし、生きた屍となってしまう。
人の自由意志を奪う危険薬物として、国内での流通は禁止されているが、もともと山間地に自生している植物の種を生成して作る薬であることから、時折この薬を使用した事件が起きることがあった。
また、生の種子には軽い媚薬効果や体を温める効果があり、精製されていなければそれほど危険な薬物ではないことから、庶民の間では冬季にミルクに混ぜて一粒摂取する慣習がまだ残っていた。
種とは言っても、山間地まで取りに行くのに危険が伴うことから、それなりに高額なものであり、庶民の懐にはいたいため、大量に摂取して中毒症状を起こすなどの事件はこれまで起こったことがない。
これまで、中毒による事件がなく、庶民の生活に少しの潤いを与えるものとして黙認されてきた経緯があった。
ただし、この種を精製すると全く違ったものとなる。
人の思考力を失わせ、人生を破壊するものとして厳しく取り締まり、見つかった場合は使用者のみならず、精製した者、流通した者、全て死罪と厳しい罰が定められていた。
ましてや、国の未来を担う王太子が魅了を受けるなど言語道断であった。
思考を操られた王太子は将来の危険を孕むため、廃嫡、幽閉の未来は必ずしもないとは限らない。
ハルヴァートは窓のそばに立ち、青空を見上げていた。
早朝のこの時間、部屋の前のバルコニー付近には人がいない。
兵たちの引きつぎのため、ほんの少しの時間だけ誰もいない時間を楽しむことができる。
朝の空気を楽しむ王太子をたしなめるものもいない。
軟禁中であっても、この程度の楽しみは黙認されていた。
石造りのバルコニーの端から三番目の柵に手をつきながらスッと手すりの下に左手をくぐらせる。
影からの報告がしたためられたメモを手の中にひそめ、何食わぬ顔をして部屋に戻る。
「S→G、○」
(無事、ガウデン候の庇護下に入ったか)
ハルヴァートはほっと息をつくと、紙切れを細かく破き、トイレに流した。
しばらくは、ステラの身を案じる必要はないだろう。
(いくらステラでも2~3日はおとなしくしているだろうからな)
「朝食でございます」
ノックの音とともにクロードが入ってくる。
軟禁中のため、全ては部屋の中で行われる。食事、風呂、排泄、全てが部屋の中で行われ、外出は許されない。
学校どころか全ての社交は禁止。
食事は事前に複数の人間があらためたものをとる。
飲み物に至っても好きなものを好きなだけ、とはいかず、水と安全を確認されたお茶のみが最小限許されていた。
部屋でおとなしく本を読み、思索に耽る。
(まあ、自分で選んではいないとはいえ、休暇とはこういうものなのだな)
ハルヴァートは人生で初めての休暇を取っていた。
これまでは休日という休日はなく、来る日も勉強または執務、公務の繰り返し。
食事すら社交を兼ねていた。
その中で唯一の息抜きがステラとの朝食だった。
当面は安全だろうが、やはりステラのことは気にかかる。
寂しがってはいないか、不安に思ってはいないか、ひとりで泣いているのではないか。
まさか、楽しんでいるのではあるまいな。
それは面白くない。
どこかの男に言い寄られてはいないだろうか。
あのジョセフは信用に足る男だが、しかし万が一ということもある・・・
「殿下。お考え中のところ申し訳ありませんが」クロードが少しも申し訳なくなさそうな顔で言う。
「本日は、先日受けた診断の結果が出る日でございます。お支度もありますので、お食事はお早めに」
相変わらずの慇懃無礼な口調だが、ここのところの騒ぎを一応心配しているのは知っていた。
「全く、聖女様が殿下に魅了をかけるなどあり得ませんよ。むしろ、薬を盛ろうとしたのは殿下の方だと言うのに」
「おい」
ハルヴァートはクロードをジロリとにらみつけた。
「せっかくご用意したのに、ビビって使えなかったのは知ってますから」
一度はステラに惚れ薬を飲ませようかと思ったが、結局ステラの笑顔を前にしたら何もできなくなってしまった。
憮然としながら朝食をかきこむハルヴァートを、クロードはニヤニヤしながらも、どこか温かい目で見つめていた。
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