190 / 247
4 決戦
186 石を投げられました・・・
しおりを挟む
川を渡ると、そこは別世界だった。連行される聖女を一目見たいと集まっていた人々がまとう気配は、今までの好意的な空気とは違う。悪意や敵意に満ちていた。
あまりに違いすぎるその空気に戸惑っていると、突然石を投げられた。
びしっ。カン!
どこかから石が飛んできた石をすかさずジョセフが鞘で弾く。
「何者だ!」
ケイレブが一喝する。
「悪女!聖女のふりをするなんて、なんて悪いやつだ!」
叫んでいたのは4歳くらいの子供だった。
「こらっ」
河原に集まっていた人垣の中に逃げようとした子供の首根っこを近くにいた騎士がすかさず捕まえた。
「ひい、騎士様。善悪のわからない子供のしたことです。お許しください」
古ぼけた服を着た農夫が走り寄った。
「お前の子か」ケイレブがギロリと睨む。
「は、はい。申し訳ありません。どうかお許しを」
「お前運がいいな?」そう言ったケイレブの顔は震えがくるほど恐ろしかった。
「ひっ」
「我がコンラッド家は聖女様に忠誠を誓う身。聖女様に石を投げるってことは、我ら辺境軍に石を投げたってことなんだよ。楽に死ねるぞ?」ケイレブが剣に手を掛ける。
「お許しを」農夫が小さく小さく体を縮める。
その横で子供は恐怖で気を失わんばかりだった。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
「待って!待ってください」
私は慌ててはーちゃんから降りて、子供とケイレブの間に駆け寄った。
「子供のしたことです。許してあげて」
「聖女様・・・最初が肝心なんです。舐められちゃいけません」
「軍ではそうかもしれません。でも私は軍人じゃありません。その子だってきっとそこまで深く考えていたわけではないでしょう」
私は子供に向き直った。
「ぼく。人に向かって石を投げちゃダメよ。危険だからね。約束して?もう2度としないって約束してくれたら許してあげる」
「ひ、ひ、ひいい。に、にどと、し、しま・・・せ・・・ん」
子供は泣きながらつっかえつっかえ約束してくれた。
「お前たち!2度はないぞ。覚えとけ。俺たちは聖女様みたいに優しくないからな!」
ケイレブが大音声で、近くに集まった人たちに言い放つ。
その声の恐ろしさに、腰を抜かす人が続出した。
「ひい、おっかねえ。ありゃあ、コンラッド家の若殿か。どうりで・・・」
「おっかねえなあ」
「戦場じゃ鬼神のようだと聞いてるが、すごい迫力だな」
人々が恐々と囁いている。
「お前たち!今日あったことを100人の人間に伝えろ!聖女は血を好まない!しかし、後ろ盾には武のコンラッドが付いている。聖女に無礼をはたらくものには容赦しない、地の果てまで追いかけるから覚悟しろとな!」
「あの・・・」
優しそうな年上の女の人が口を開いた。
「数日前に来た余所者の男が、聖女様がたくさんの男の人をはべらせて遊んでいるって言いふらしていったんですけど。本当のことですか?私たちも何を信じていいのか・・・」
「そんなことあるわけありませんよ!聖女研究の第一人者であるこのリカルドが保証します!」
リカルドがどこからか湧いて出た。
「そもそも、聖女様とは・・・」
「あー、長くなるからいい」ケイレブがリカルドを腕で制した。
「あの・・・皆さん。私、男遊びとかしていません。全部嘘です。無責任な噂ではなく、自分の目で見たことを信じてください」
思わず私が口を挟んでしまう。だって、ひどい。こんな見ず知らずの人たちを惑わすような嘘を広めるなんて。
「聖女様~~」なぜか、横でリカルドの腰が砕けていた。うん、ほっとこう。
「聖女様・・・私、聖女様を信じます。うちの娘と同じくらいの子だけど、そんな風な子には見えませんよ」
さっきの優しそうな女の人が言う。
「そうだよ、いい子じゃないか」別の男の人も声を上げてくれた。
「そうだよ、誰だよ、聖女様が悪女だっていったやつ」
「ほらあいつだよ、あの灰色い服をきたずるそうな男!」
指の先には人垣の中からこそこそと逃げ出す灰色の服を着た男の背中。
びしゅっ。
騎士の一人が弓を射ると、その男が肩からかけた荷物の紐が切れて、地面に落ちた。一瞬立ちすくんだ男をすかさず別の騎士が取り押さえた。
あざやか~!!!さすが、辺境を守る男たち!レベルが違う!
「お、俺は何も知らない!ただ金をもらって頼まれただけなんだ。聖女が悪い女だっていいふらせって。勘弁してくれよ!」
「ほう」ケイレブがニヤリと笑う。その場の空気が凍りつくほどおっかない。
「ビル。」
「お任せを」
簡単に言葉を交わすと、ケイレブは私に向き直り、「聖女様、急ぎましょう」とだけ言うと、右手を挙げた。ビルともう一人の騎士だけを残して、騎士たちで私の周りを固める。
「ここからは、飛ばします。ついてこられないものは後から来い」
馬に鞭を当て、全速力で走り出した。
「はーちゃん、お願い」はーちゃんのたてがみをそっと撫でると、「ヒヒン」と答えたはーちゃんはものすごい勢いで走り出した。
うわっ。こ、これが馬力ってやつね。
まさに風のように駆け抜けていく。
「ま、まちなさーい。使者を置いていく人がいますかーーーこらーーーー」
遠くの方では、どっかの男爵が叫び声を挙げていた。ごめんなさーい。
あまりに違いすぎるその空気に戸惑っていると、突然石を投げられた。
びしっ。カン!
どこかから石が飛んできた石をすかさずジョセフが鞘で弾く。
「何者だ!」
ケイレブが一喝する。
「悪女!聖女のふりをするなんて、なんて悪いやつだ!」
叫んでいたのは4歳くらいの子供だった。
「こらっ」
河原に集まっていた人垣の中に逃げようとした子供の首根っこを近くにいた騎士がすかさず捕まえた。
「ひい、騎士様。善悪のわからない子供のしたことです。お許しください」
古ぼけた服を着た農夫が走り寄った。
「お前の子か」ケイレブがギロリと睨む。
「は、はい。申し訳ありません。どうかお許しを」
「お前運がいいな?」そう言ったケイレブの顔は震えがくるほど恐ろしかった。
「ひっ」
「我がコンラッド家は聖女様に忠誠を誓う身。聖女様に石を投げるってことは、我ら辺境軍に石を投げたってことなんだよ。楽に死ねるぞ?」ケイレブが剣に手を掛ける。
「お許しを」農夫が小さく小さく体を縮める。
その横で子供は恐怖で気を失わんばかりだった。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
「待って!待ってください」
私は慌ててはーちゃんから降りて、子供とケイレブの間に駆け寄った。
「子供のしたことです。許してあげて」
「聖女様・・・最初が肝心なんです。舐められちゃいけません」
「軍ではそうかもしれません。でも私は軍人じゃありません。その子だってきっとそこまで深く考えていたわけではないでしょう」
私は子供に向き直った。
「ぼく。人に向かって石を投げちゃダメよ。危険だからね。約束して?もう2度としないって約束してくれたら許してあげる」
「ひ、ひ、ひいい。に、にどと、し、しま・・・せ・・・ん」
子供は泣きながらつっかえつっかえ約束してくれた。
「お前たち!2度はないぞ。覚えとけ。俺たちは聖女様みたいに優しくないからな!」
ケイレブが大音声で、近くに集まった人たちに言い放つ。
その声の恐ろしさに、腰を抜かす人が続出した。
「ひい、おっかねえ。ありゃあ、コンラッド家の若殿か。どうりで・・・」
「おっかねえなあ」
「戦場じゃ鬼神のようだと聞いてるが、すごい迫力だな」
人々が恐々と囁いている。
「お前たち!今日あったことを100人の人間に伝えろ!聖女は血を好まない!しかし、後ろ盾には武のコンラッドが付いている。聖女に無礼をはたらくものには容赦しない、地の果てまで追いかけるから覚悟しろとな!」
「あの・・・」
優しそうな年上の女の人が口を開いた。
「数日前に来た余所者の男が、聖女様がたくさんの男の人をはべらせて遊んでいるって言いふらしていったんですけど。本当のことですか?私たちも何を信じていいのか・・・」
「そんなことあるわけありませんよ!聖女研究の第一人者であるこのリカルドが保証します!」
リカルドがどこからか湧いて出た。
「そもそも、聖女様とは・・・」
「あー、長くなるからいい」ケイレブがリカルドを腕で制した。
「あの・・・皆さん。私、男遊びとかしていません。全部嘘です。無責任な噂ではなく、自分の目で見たことを信じてください」
思わず私が口を挟んでしまう。だって、ひどい。こんな見ず知らずの人たちを惑わすような嘘を広めるなんて。
「聖女様~~」なぜか、横でリカルドの腰が砕けていた。うん、ほっとこう。
「聖女様・・・私、聖女様を信じます。うちの娘と同じくらいの子だけど、そんな風な子には見えませんよ」
さっきの優しそうな女の人が言う。
「そうだよ、いい子じゃないか」別の男の人も声を上げてくれた。
「そうだよ、誰だよ、聖女様が悪女だっていったやつ」
「ほらあいつだよ、あの灰色い服をきたずるそうな男!」
指の先には人垣の中からこそこそと逃げ出す灰色の服を着た男の背中。
びしゅっ。
騎士の一人が弓を射ると、その男が肩からかけた荷物の紐が切れて、地面に落ちた。一瞬立ちすくんだ男をすかさず別の騎士が取り押さえた。
あざやか~!!!さすが、辺境を守る男たち!レベルが違う!
「お、俺は何も知らない!ただ金をもらって頼まれただけなんだ。聖女が悪い女だっていいふらせって。勘弁してくれよ!」
「ほう」ケイレブがニヤリと笑う。その場の空気が凍りつくほどおっかない。
「ビル。」
「お任せを」
簡単に言葉を交わすと、ケイレブは私に向き直り、「聖女様、急ぎましょう」とだけ言うと、右手を挙げた。ビルともう一人の騎士だけを残して、騎士たちで私の周りを固める。
「ここからは、飛ばします。ついてこられないものは後から来い」
馬に鞭を当て、全速力で走り出した。
「はーちゃん、お願い」はーちゃんのたてがみをそっと撫でると、「ヒヒン」と答えたはーちゃんはものすごい勢いで走り出した。
うわっ。こ、これが馬力ってやつね。
まさに風のように駆け抜けていく。
「ま、まちなさーい。使者を置いていく人がいますかーーーこらーーーー」
遠くの方では、どっかの男爵が叫び声を挙げていた。ごめんなさーい。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる