そうです。私がヒロインです。羨ましいですか?

藍音

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4 決戦

186 石を投げられました・・・

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川を渡ると、そこは別世界だった。連行される聖女を一目見たいと集まっていた人々がまとう気配は、今までの好意的な空気とは違う。悪意や敵意に満ちていた。
あまりに違いすぎるその空気に戸惑っていると、突然石を投げられた。

びしっ。カン!

どこかから石が飛んできた石をすかさずジョセフが鞘で弾く。

「何者だ!」
ケイレブが一喝する。
「悪女!聖女のふりをするなんて、なんて悪いやつだ!」
叫んでいたのは4歳くらいの子供だった。
「こらっ」
河原に集まっていた人垣の中に逃げようとした子供の首根っこを近くにいた騎士がすかさず捕まえた。

「ひい、騎士様。善悪のわからない子供のしたことです。お許しください」
古ぼけた服を着た農夫が走り寄った。
「お前の子か」ケイレブがギロリと睨む。
「は、はい。申し訳ありません。どうかお許しを」
「お前運がいいな?」そう言ったケイレブの顔は震えがくるほど恐ろしかった。
「ひっ」
「我がコンラッド家は聖女様に忠誠を誓う身。聖女様に石を投げるってことは、我ら辺境軍に石を投げたってことなんだよ。楽に死ねるぞ?」ケイレブが剣に手を掛ける。
「お許しを」農夫が小さく小さく体を縮める。
その横で子供は恐怖で気を失わんばかりだった。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。

「待って!待ってください」
私は慌ててはーちゃんから降りて、子供とケイレブの間に駆け寄った。
「子供のしたことです。許してあげて」
「聖女様・・・最初が肝心なんです。舐められちゃいけません」
「軍ではそうかもしれません。でも私は軍人じゃありません。その子だってきっとそこまで深く考えていたわけではないでしょう」

私は子供に向き直った。
「ぼく。人に向かって石を投げちゃダメよ。危険だからね。約束して?もう2度としないって約束してくれたら許してあげる」
「ひ、ひ、ひいい。に、にどと、し、しま・・・せ・・・ん」
子供は泣きながらつっかえつっかえ約束してくれた。

「お前たち!2度はないぞ。覚えとけ。俺たちは聖女様みたいに優しくないからな!」
ケイレブが大音声で、近くに集まった人たちに言い放つ。
その声の恐ろしさに、腰を抜かす人が続出した。

「ひい、おっかねえ。ありゃあ、コンラッド家の若殿か。どうりで・・・」
「おっかねえなあ」
「戦場じゃ鬼神のようだと聞いてるが、すごい迫力だな」

人々が恐々と囁いている。

「お前たち!今日あったことを100人の人間に伝えろ!聖女は血を好まない!しかし、後ろ盾には武のコンラッドが付いている。聖女に無礼をはたらくものには容赦しない、地の果てまで追いかけるから覚悟しろとな!」

「あの・・・」
優しそうな年上の女の人が口を開いた。
「数日前に来た余所者の男が、聖女様がたくさんの男の人をはべらせて遊んでいるって言いふらしていったんですけど。本当のことですか?私たちも何を信じていいのか・・・」
「そんなことあるわけありませんよ!聖女研究の第一人者であるこのリカルドが保証します!」
リカルドがどこからか湧いて出た。
「そもそも、聖女様とは・・・」
「あー、長くなるからいい」ケイレブがリカルドを腕で制した。
「あの・・・皆さん。私、男遊びとかしていません。全部嘘です。
思わず私が口を挟んでしまう。だって、ひどい。こんな見ず知らずの人たちを惑わすような嘘を広めるなんて。

「聖女様~~」なぜか、横でリカルドの腰が砕けていた。うん、ほっとこう。

「聖女様・・・私、聖女様を信じます。うちの娘と同じくらいの子だけど、そんな風な子には見えませんよ」
さっきの優しそうな女の人が言う。
「そうだよ、いい子じゃないか」別の男の人も声を上げてくれた。
「そうだよ、誰だよ、聖女様が悪女だっていったやつ」
「ほらあいつだよ、あの灰色い服をきたずるそうな男!」
指の先には人垣の中からこそこそと逃げ出す灰色の服を着た男の背中。
びしゅっ。
騎士の一人が弓を射ると、その男が肩からかけた荷物の紐が切れて、地面に落ちた。一瞬立ちすくんだ男をすかさず別の騎士が取り押さえた。
あざやか~!!!さすが、辺境を守る男たち!レベルが違う!

「お、俺は何も知らない!ただ金をもらって頼まれただけなんだ。聖女が悪い女だっていいふらせって。勘弁してくれよ!」
「ほう」ケイレブがニヤリと笑う。その場の空気が凍りつくほどおっかない。
「ビル。」
「お任せを」
簡単に言葉を交わすと、ケイレブは私に向き直り、「聖女様、急ぎましょう」とだけ言うと、右手を挙げた。ビルともう一人の騎士だけを残して、騎士たちで私の周りを固める。

「ここからは、飛ばします。ついてこられないものは後から来い」
馬に鞭を当て、全速力で走り出した。
「はーちゃん、お願い」はーちゃんのたてがみをそっと撫でると、「ヒヒン」と答えたはーちゃんはものすごい勢いで走り出した。
うわっ。こ、これが馬力ってやつね。
まさに風のように駆け抜けていく。

「ま、まちなさーい。使者を置いていく人がいますかーーーこらーーーー」

遠くの方では、どっかの男爵が叫び声を挙げていた。ごめんなさーい。


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