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後日譚〜あれから〜
14 【リュカ】酒場
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「おかわり!」
叩きつけるようにジョッキをカウンターに置くと、酒場の店主は肩をすくめ、新しいエールを差し出した。
「飲み過ぎじゃないか?」
馴染みの店主が心配そうに言う。
「いいんだ。今日は飲ませてくれよ」
「わかったよ。レオンがいなくなって、さみしいんだろう?ひとりの家がつらいなら、しばらく宿に泊まるか?」
さみしい理由はそれだけじゃない。俺は無言のままエールをあおった。
この酒場の二階は宿屋になっていて、昔は酔っ払って何度も泊まった。だが、レオンを引き取ってからは、息抜きにエールを一杯飲んでは、あわてて帰っていた。今日からはもう、急いで帰る必要はない。
俺は、城から自分の部屋に帰ったときの、寒々しい気持ちを思い出した。
小さなレオンがいないだけなのに、からっぽの部屋は妙に広すぎて、いままでレオンが使っていた引き出しを見ただけで、胸の奥に冷たい水が満ちるような気持ちになった。
「それもいいかもな。この宿だったらいつもガヤガヤしてるし」
つぶやきながら、エールを勢いよくのどに流し込む。
俺は、今まで、兄さんにいつか会えたらと願っていた。
その時は、正直に俺の気持ちを話すことができると、思っていた。
(なんて、ばかだったんだ・・・!!)
俺はエールを一気飲みすると、またジョッキをカウンターにどんと置いた。「おかわり!」
正直に俺の気持ちを話せたら、何だって言うんだよ。俺の気持ちを聞いたら、兄さんがどう反応すると思ってたんだ?迷惑そうにされなかっただけでも、まだましだ。
「おい、おかわりはまだか!?」
「ちょっとまってくれ、今持っていくから」なだめるような店主の声にむしろ苛立ちがつのる。
「あらあら、ご機嫌斜めなのね」娼婦が俺の横の椅子に座って、胸の谷間を見せつけるようにして体を寄せた。汗と香水が混じり合った体臭が鼻をくすぐる。
「そんなに飲んじゃ、役に立たなくなっちゃうんじゃない?」
「ほっとけ」
俺はぷいっと横を向いた。
「おい!店主!はやくおかわりを持って来い!」
「はいはい」
呆れた声の店主が、エールをなみなみと注いだジョッキをカウンターに滑らせた。
「おっと!」
ジョッキが落ちないように受け止め、ごくごくと喉を鳴らして飲み干す。
「ねえったら」
娼婦が俺の腕に手をからめた。
「よそに行けよ」
俺が冷たく手をはらうと、女は真っ赤になって目を怒らせ、椅子を蹴って立ち上がった。
「ふん!そんなに飲んでちゃ、どうせ役立たずでしょ!大事なところがいざって時におねんねしてたら、どうしようもないよ!」
捨て台詞を無視して、店主に空のジョッキを振って見せた。店主は呆れたようにエールを俺の目の前に置いた。
「今日はもうこれで終わりだ。金払っても、なにも出さないぞ」
「なんだよ、くそっ!」
「おい、おい、リュカ。なんで今日はそんなに荒れてんだ?レオンがいなくなってさみしいからか?娼婦でも買ってベッドを温めてもらえ。さっきのカリナは一番人気だぞ?断るにしたって、もっとうまくやれよ。お前らしくもない」
「俺は、香水臭い女は嫌いだ」
「香水の匂いがしない娼婦なんて、いるわけないだろ」店主は笑って俺の肩を叩いた。
とりなすように、別の男が横から口をはさんだ。
「まあ、そう言うなよ。可愛がってた息子がいなくなって、さみしいんだろ?リュカ」娼婦のかわりに俺の隣に座ったのは、同業者のポールだ。
こいつは以前から俺に色目をつかっていた。いつも気が付かないふりでやり過ごしていたが、俺の肩に手を回し、なれなれしく二の腕をもまれると、うんざりした。
「なあ、もう一杯飲ませてやってくれ。俺のおごりだ。俺が責任持って送り届けるからさ」
店主は、信用ならないとポールを見返したが、今日は引くことにしたらしい。
「あと、一杯だけだぞ。それに、リュカはうちの宿に泊まる」
ポールが目を輝かせると、店主は「ひとりで、だ!」と念を押し、エールを取りに戻った。
「ふう。こわ。アイツと寝たことあるのかよ。ずいぶん、お熱いんじゃないか?リュカのファンはあっちこっちにいて、競争が激しいね」
俺がそっぽを向くと、ポールはさり気なくおれの膝に触れてきた。
「さっきからリュカを見てる男が他にも何人もいたの分かってる?娼婦よりも、お前のほうがいいって男は何人もいるんだよ」
「なにくだらないこと言ってるんだ」
「ほら、あの壁のそばにいる男を見ろよ、それと少し離れて柱の側にいる男。あのふたりはお前をチラチラ見ていたぞ?知り合いか?」
ぼんやりと壁際にいる男たちをながめたが、視界がゆがんでいてよくわからない。
ひとりは黒っぽいチュニックに焦げ茶色の髪の男。もうひとりは、どうやら兵士上がりらしい。右肩の筋肉が左肩よりも大きく盛り上がっている。どこかで似た人を見たような気がするが・・・気のせいだろう。
「知るか」
小さくつぶやくと、目の前に置かれていたエールを、一息に飲み干した。
「いける口だね。もっと飲むか?飲みっぷりが良くて気持ちがいいな」
なんで、こいつ?なんで今俺の横にいるのはポールなんだよ。
世の中でたったひとり取り残されたような、心細さを感じる。
(兄さん・・・)
両肘をついて、カウンターにもたれかかる。
(兄さん、おれ・・・さみしいよ)
「リュカ?おーい、リュカ」
楽しそうなポールの声が遠くから聞こえてくる。
顔をあげると、ポールの顔が2つに見える。
なんでだ?そう思ったとき、体からぐにゃりと力が抜けた。目の前にあるのは・・・天井?
「大丈夫かぁ?」
ポールの声が遠くに聞こえたが、まばたきをすると、目の前が真っ暗になった。
叩きつけるようにジョッキをカウンターに置くと、酒場の店主は肩をすくめ、新しいエールを差し出した。
「飲み過ぎじゃないか?」
馴染みの店主が心配そうに言う。
「いいんだ。今日は飲ませてくれよ」
「わかったよ。レオンがいなくなって、さみしいんだろう?ひとりの家がつらいなら、しばらく宿に泊まるか?」
さみしい理由はそれだけじゃない。俺は無言のままエールをあおった。
この酒場の二階は宿屋になっていて、昔は酔っ払って何度も泊まった。だが、レオンを引き取ってからは、息抜きにエールを一杯飲んでは、あわてて帰っていた。今日からはもう、急いで帰る必要はない。
俺は、城から自分の部屋に帰ったときの、寒々しい気持ちを思い出した。
小さなレオンがいないだけなのに、からっぽの部屋は妙に広すぎて、いままでレオンが使っていた引き出しを見ただけで、胸の奥に冷たい水が満ちるような気持ちになった。
「それもいいかもな。この宿だったらいつもガヤガヤしてるし」
つぶやきながら、エールを勢いよくのどに流し込む。
俺は、今まで、兄さんにいつか会えたらと願っていた。
その時は、正直に俺の気持ちを話すことができると、思っていた。
(なんて、ばかだったんだ・・・!!)
俺はエールを一気飲みすると、またジョッキをカウンターにどんと置いた。「おかわり!」
正直に俺の気持ちを話せたら、何だって言うんだよ。俺の気持ちを聞いたら、兄さんがどう反応すると思ってたんだ?迷惑そうにされなかっただけでも、まだましだ。
「おい、おかわりはまだか!?」
「ちょっとまってくれ、今持っていくから」なだめるような店主の声にむしろ苛立ちがつのる。
「あらあら、ご機嫌斜めなのね」娼婦が俺の横の椅子に座って、胸の谷間を見せつけるようにして体を寄せた。汗と香水が混じり合った体臭が鼻をくすぐる。
「そんなに飲んじゃ、役に立たなくなっちゃうんじゃない?」
「ほっとけ」
俺はぷいっと横を向いた。
「おい!店主!はやくおかわりを持って来い!」
「はいはい」
呆れた声の店主が、エールをなみなみと注いだジョッキをカウンターに滑らせた。
「おっと!」
ジョッキが落ちないように受け止め、ごくごくと喉を鳴らして飲み干す。
「ねえったら」
娼婦が俺の腕に手をからめた。
「よそに行けよ」
俺が冷たく手をはらうと、女は真っ赤になって目を怒らせ、椅子を蹴って立ち上がった。
「ふん!そんなに飲んでちゃ、どうせ役立たずでしょ!大事なところがいざって時におねんねしてたら、どうしようもないよ!」
捨て台詞を無視して、店主に空のジョッキを振って見せた。店主は呆れたようにエールを俺の目の前に置いた。
「今日はもうこれで終わりだ。金払っても、なにも出さないぞ」
「なんだよ、くそっ!」
「おい、おい、リュカ。なんで今日はそんなに荒れてんだ?レオンがいなくなってさみしいからか?娼婦でも買ってベッドを温めてもらえ。さっきのカリナは一番人気だぞ?断るにしたって、もっとうまくやれよ。お前らしくもない」
「俺は、香水臭い女は嫌いだ」
「香水の匂いがしない娼婦なんて、いるわけないだろ」店主は笑って俺の肩を叩いた。
とりなすように、別の男が横から口をはさんだ。
「まあ、そう言うなよ。可愛がってた息子がいなくなって、さみしいんだろ?リュカ」娼婦のかわりに俺の隣に座ったのは、同業者のポールだ。
こいつは以前から俺に色目をつかっていた。いつも気が付かないふりでやり過ごしていたが、俺の肩に手を回し、なれなれしく二の腕をもまれると、うんざりした。
「なあ、もう一杯飲ませてやってくれ。俺のおごりだ。俺が責任持って送り届けるからさ」
店主は、信用ならないとポールを見返したが、今日は引くことにしたらしい。
「あと、一杯だけだぞ。それに、リュカはうちの宿に泊まる」
ポールが目を輝かせると、店主は「ひとりで、だ!」と念を押し、エールを取りに戻った。
「ふう。こわ。アイツと寝たことあるのかよ。ずいぶん、お熱いんじゃないか?リュカのファンはあっちこっちにいて、競争が激しいね」
俺がそっぽを向くと、ポールはさり気なくおれの膝に触れてきた。
「さっきからリュカを見てる男が他にも何人もいたの分かってる?娼婦よりも、お前のほうがいいって男は何人もいるんだよ」
「なにくだらないこと言ってるんだ」
「ほら、あの壁のそばにいる男を見ろよ、それと少し離れて柱の側にいる男。あのふたりはお前をチラチラ見ていたぞ?知り合いか?」
ぼんやりと壁際にいる男たちをながめたが、視界がゆがんでいてよくわからない。
ひとりは黒っぽいチュニックに焦げ茶色の髪の男。もうひとりは、どうやら兵士上がりらしい。右肩の筋肉が左肩よりも大きく盛り上がっている。どこかで似た人を見たような気がするが・・・気のせいだろう。
「知るか」
小さくつぶやくと、目の前に置かれていたエールを、一息に飲み干した。
「いける口だね。もっと飲むか?飲みっぷりが良くて気持ちがいいな」
なんで、こいつ?なんで今俺の横にいるのはポールなんだよ。
世の中でたったひとり取り残されたような、心細さを感じる。
(兄さん・・・)
両肘をついて、カウンターにもたれかかる。
(兄さん、おれ・・・さみしいよ)
「リュカ?おーい、リュカ」
楽しそうなポールの声が遠くから聞こえてくる。
顔をあげると、ポールの顔が2つに見える。
なんでだ?そう思ったとき、体からぐにゃりと力が抜けた。目の前にあるのは・・・天井?
「大丈夫かぁ?」
ポールの声が遠くに聞こえたが、まばたきをすると、目の前が真っ暗になった。
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