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第1章
第4話 "きつい"の正体
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三枝コーチが来てから、
練習の雰囲気ははっきり変わった。
声は大きくない。
怒鳴ることもない。
でも、止まらない。
「はい、次」
「今のもう一回」
「そこ、見てない」
テンポが、異様に速い。
一年生と二年生は、
基礎打ちだけで息が上がるようになった。
今までと同じ練習のはずなのに、
体のきつさが、まるで違う。
「休憩いらないよね?」
三枝コーチは笑顔で言う。
誰も返事をしない。
「だよね」
即決だった。
佐藤 優真(さとう ゆうま)は、
太ももがじんじんするのを感じながら、ラリーを続けていた。
返す。
拾う。
戻る。
ただそれだけなのに、
頭が追いつかなくなってくる。
「今、何考えてた?」
突然、声が飛んできた。
三枝コーチだった。
「え……」
言葉が出ない。
「考えてないでしょ」
にこっと笑う。
「それがダメ」
胸が、きゅっとなる。
「疲れてくるとね、
人は“楽なほう”を選ぶ」
優真のラケットを、軽く指で叩く。
「当てるだけ。
逃げるだけ」
何も言い返せない。
確かに、そうだった。
「真面目なのはいい」
三枝コーチは続ける。
「でも、真面目に逃げてる」
優真は、ラケットを握り直した。
隣の台では、
田村 蓮(たむら れん)が必死にサーブ練習をしている。
一球、一球、確認するように。
ミスしても、すぐ次。
顔は真っ赤だが、
目は死んでいない。
佐伯 仁(さえき じん)は、
前で速いテンポのラリーを続けている。
三枝コーチが、何度も声をかける。
「いいね」
「今の入り、好き」
「もっと前」
明らかに、反応が違う。
岡崎 拓也(おかざき たくや)は、
黙ってカットを続けていた。
派手さはないが、
ラリーが切れない。
三枝コーチが、ふと足を止める。
「カットマン、いいね」
それだけ言って、次に行く。
特別扱いではない。
でも、ちゃんと見ている。
練習の後半。
優真の足は、もう言うことをきかなくなっていた。
ラリーが切れる。
ミスが増える。
「止まらない」
三枝コーチの声。
「止まったら、そこまで」
笑顔のまま。
優真は、歯を食いしばって動いた。
終わったとき、
床に座り込みそうになる。
でも、誰も座らない。
座る空気じゃなかった。
片付けが終わる頃、
山下 登(やました のぼる)先生が、近くに来た。
「大丈夫ですか」
優真の顔を見て、言う。
「きついですね」
正直に答える。
山下先生は、少しだけうなずいた。
「きつい、には二種類あります」
優真は、顔を上げる。
「意味が分からなくてきついのと、
意味は分かるけど、体がついてこないきつさです」
一呼吸置いて、続ける。
「今は、後者です」
それだけで、少し救われた気がした。
帰り道。
足は重い。
腕もだるい。
でも、不思議と、
嫌じゃなかった。
ただし、楽でもない。
これが、本気でやる、
ということなのかもしれない。
優真は思った。
この“きつさ”から逃げたら、
たぶん、ずっと同じままだ。
体育館の灯りが、
少し遠くに見えた。
練習の雰囲気ははっきり変わった。
声は大きくない。
怒鳴ることもない。
でも、止まらない。
「はい、次」
「今のもう一回」
「そこ、見てない」
テンポが、異様に速い。
一年生と二年生は、
基礎打ちだけで息が上がるようになった。
今までと同じ練習のはずなのに、
体のきつさが、まるで違う。
「休憩いらないよね?」
三枝コーチは笑顔で言う。
誰も返事をしない。
「だよね」
即決だった。
佐藤 優真(さとう ゆうま)は、
太ももがじんじんするのを感じながら、ラリーを続けていた。
返す。
拾う。
戻る。
ただそれだけなのに、
頭が追いつかなくなってくる。
「今、何考えてた?」
突然、声が飛んできた。
三枝コーチだった。
「え……」
言葉が出ない。
「考えてないでしょ」
にこっと笑う。
「それがダメ」
胸が、きゅっとなる。
「疲れてくるとね、
人は“楽なほう”を選ぶ」
優真のラケットを、軽く指で叩く。
「当てるだけ。
逃げるだけ」
何も言い返せない。
確かに、そうだった。
「真面目なのはいい」
三枝コーチは続ける。
「でも、真面目に逃げてる」
優真は、ラケットを握り直した。
隣の台では、
田村 蓮(たむら れん)が必死にサーブ練習をしている。
一球、一球、確認するように。
ミスしても、すぐ次。
顔は真っ赤だが、
目は死んでいない。
佐伯 仁(さえき じん)は、
前で速いテンポのラリーを続けている。
三枝コーチが、何度も声をかける。
「いいね」
「今の入り、好き」
「もっと前」
明らかに、反応が違う。
岡崎 拓也(おかざき たくや)は、
黙ってカットを続けていた。
派手さはないが、
ラリーが切れない。
三枝コーチが、ふと足を止める。
「カットマン、いいね」
それだけ言って、次に行く。
特別扱いではない。
でも、ちゃんと見ている。
練習の後半。
優真の足は、もう言うことをきかなくなっていた。
ラリーが切れる。
ミスが増える。
「止まらない」
三枝コーチの声。
「止まったら、そこまで」
笑顔のまま。
優真は、歯を食いしばって動いた。
終わったとき、
床に座り込みそうになる。
でも、誰も座らない。
座る空気じゃなかった。
片付けが終わる頃、
山下 登(やました のぼる)先生が、近くに来た。
「大丈夫ですか」
優真の顔を見て、言う。
「きついですね」
正直に答える。
山下先生は、少しだけうなずいた。
「きつい、には二種類あります」
優真は、顔を上げる。
「意味が分からなくてきついのと、
意味は分かるけど、体がついてこないきつさです」
一呼吸置いて、続ける。
「今は、後者です」
それだけで、少し救われた気がした。
帰り道。
足は重い。
腕もだるい。
でも、不思議と、
嫌じゃなかった。
ただし、楽でもない。
これが、本気でやる、
ということなのかもしれない。
優真は思った。
この“きつさ”から逃げたら、
たぶん、ずっと同じままだ。
体育館の灯りが、
少し遠くに見えた。
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